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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
295/321

第293話 精霊結晶

 サビク川がゲルミン川へ合流する地点から南へ25km、多くの魔物がひしめく森の一画では魔素の柱が絶え間なく上がり続けていた。その現象を英雄の記憶ではハイマの泉と呼んでいる。


 ハイマと言えば強化共鳴を使ったトランサイト生産に必要不可欠だった。この一帯のハイマ値は高いのだろうか。まあ計測器もトランサス合金も手元に無いため検証は出来ないが。


 それは別としても非常に興味深い地域だ。英雄の記憶に度々出てきた精霊結晶と魔力結晶。これらを作り出す手掛かりがきっとある。


(何をする気だユニス)

(発現地点の真下へ行きたい)

(はあ? 大型魔物が何体も見えるぞ。いくらお前でも危険だ)

(隠密があるから心配ない)

(私たちは?)

(……木の上で待って欲しい)

(こんなに魔物がいるのよ。隠密効果が無ければ直ぐに発見されるわ)


 確かに1体でも気づかれたら連動して襲って来る。川岸へ追い込まれたら逃げ場もない。


(じゃあ一緒に行こう)

(お前の隠密スキルは優秀だが少し不安だな)

(見つかったら全力で退避する)

(そこまでして何故行くの?)

(直感だよ。あそこには何かある)

(何だそりゃ)

(いいじゃない。付き合いましょう)


 隠密を共有したまま大木から跳び下りる。2人の手を握り空中浮遊でハイマの泉を目指した。直線距離で約500m、魔物ひしめく森の中を慎重に進む。


 ほどなく森が開けて草原が広がった。そこには多数の大型魔物が闊歩している。半径300mにAランクは3体。ヒュドラ、ケルベロス、不明1体だ。Bランクも複数体が確認できる。


 精霊石の反応も多い。この狭い区域に1,000個以上はあるか。特に密集している地点は先ほど魔物が発現した真下に当たる。泉の中心と見ていいだろう。


 ワイバーンの首をくぐり、巨鳥の足元をすり抜ける。こいつはコカトリスか。正面の魔物はライオンの頭だがマンティコアでは無い。背中に山羊の頭、尻尾は蛇、恐らくキマイラだ。


 中心付近の精霊石に幾つか違和感を覚える。これは……複数属性? そんなことあり得るのか。


 謎の精霊石へ辿り着く。その大部分は透明の鉱物に覆われていた。鉱物層の厚さは1ミリほど。卵の殻の様に一部が割れて精霊石の表面が露出している。遠目には赤に見えたが近づくと青や緑へ変わった。角度によって色見が違うらしい。


 よし鑑定だ。


『精霊結晶

 定着:26年10ヶ月4日

 含有:火 34,011

    水 43,920

    風 28,905

    土 57,021

 出力:127

 感度:114

 成分:浄水 反応水 中和水 治療水

    コンポスト    7%

    シリカ     13%

    白殻粉     15%

    真珠灰      5%

    コランダム    2%

    ヘマタイト   11%

    マグネタイト   9%

    マグネサイト   8%

    キャティシライト 3%

    ガレナ      2%

    スファレライト  2%

    カルコサイト   1%

    キュプライト   1%

    クロム      1%

    チタン      1%

    コバルト     1%

    ジルコニウム   1%

    シルバー     1%

    ゴールド     1%

    アルムサイト   1%

    ミネルシウム   1%

    オーアサイト   1%

    アダマンタイト  1%

    ベリサルダ    1%

    クシュラプラ   1%

    ベスティウム   1%

    フォーゲライト  1%

    モディフィカ   1%

    ミスリル     1%

    イシュタル    1%

    ミストルティン  1%

    鑑定不能     1%』


 おおっ! これが精霊結晶なのか! なんと4属性が全て入っている。その含有も桁が違うぞ。通常の10倍ほどだ。出力も10前後をよく見掛けるが127とこれも10倍以上。感度は50前後が平均なので114はかなり高い数値と言える。


 鉱物も明らかに多い。加えて希少なモディフィカやミスリル、レア度4のイシュタルとミストルティン、更にはレア度5と思われる鑑定不能まで並んでいる。


 表記は1%だが流石に含有57,000がそのまま対象ではないか。実際は1%未満で0.0001%かもしれない。それは別にしても単純に土属性が10個分と考えれば希少鉱物の種類は多めと言えるだろう。


 この傾向は精霊結晶特有なのか。付近には他にも2つ反応があった。いずれも透明の鉱物層に覆われ一部が欠けている。鑑定するとやはり似たような構成で、希少鉱物も多く含まれていた。


 精霊結晶らしき反応はまだ幾つか確認できる。ただここは高ランク魔物の密集地帯だ。長居してワリドとアマーニに危険が及んではいけない。ひとまずの成果としては十分だろう。


 ワリドの手を俺の左腕に回して握って貰う。これで隠密を共有しながら俺の右腕は自由になった。手のひらを精霊結晶に向けて次元収納へ……むむ、入らない。そうか、この透明の鉱物は自然由来なのだ。指で力を入れると少し崩れたので何とか取り除ける。


 グルルル……


 ケルベロスが近寄って来た。3つの頭で地表付近を注意深く嗅ぎまわっている。作業は中止だ。ひとまずポケットに収めよう。ついでに手の届く範囲の土の精霊石を次元収納へ回収した。


 ワリドの手を握り直し空中浮遊を行使する。ゆっくりとケルベロスから離れ、来た道を引き返した。森を経由してゲルミン川へ。川原で手早くワリドに跨り水上飛行へ移る。


「ぷはーっ! 生きた心地がしなかったぜ!」

「恐ろしいほどの魔物の質と数だったわ」

「ありゃ3年前の大発生に関係しているな」

「ええ間違いない。当時はあの何十倍も一度に発現したでしょう。行き場を失った魔物たちはゲルミン川を下り、街を壊滅させたのよ」

「渓谷も密度を高める要因か」

「その通り。両岸へ分散できないから」


 文字通り魔物の川だな。


「それでユニス。あの虹色の物体は何?」

「えっ……何のこと?」

「とぼけないで。ポケットに3つ入っているでしょ。最初からあれの回収が目的だったのね」

「いやー、何か分からないけど珍しそうだから拾った」

「嘘だわ。正直に吐きなさい」


 背後のアマーニはおっぱいで俺の頭を挟む。透過で見えないが柔らかい感触で顔が包まれた。そんなことをしても言わないぞ。絶対に欲しがるからな。


「もしかして精霊結晶?」

「えっ!? 知ってるの!」

「やっぱり! 実在したのね」

「詳しく教えて」

「その代わり3つ全部ちょうだい」

「何で!」

「じゃあ教えない。とっても大事な情報だけど」

「俺はおとぎ話で聞いたな」

「こらワリド、黙って」

「多くの人が知っているのに隠す意味なんて無いだろ。話してやれ」

「……分かったわ」


 やった。


「精霊結晶はザラーム教の神話に登場するの。4属性を有した虹色の精霊石ってね。これがとんでもない代物で、あらゆる能力が精霊石の10倍なのよ」

「へー」

「含有も出力も、ひいては抽出した魔素にまで影響を及ぼすの。つまり例えば、石畳の定着期間は長くて30年でしょ。それが300年! 武器向けの鉱物だって3年が30年なのよ!」

「うわ!」


 おいおい、ぶっ壊れじゃないか。


「開発者はアウレオ・パラケル。もちろんザラームの使徒よ」


 この名前、身近に感じる。


 ……ワシだ。


 やっぱり、あんたか。


「彼は魔力結晶も作り出した。飛空船の動力源ね。空を飛ぶ船のことよ。移動時間が劇的に短縮された上、クレア教国家との戦争では圧倒的な戦力差を産み出したわ」


 なんと! 航空機まで作っていたのか。


 ……あれはやり過ぎた感もある。


 当然だ。何もかもひっくり返ってしまう。あーこれ、絶対クレアシオンが嫌がるやつだ。


「パラケルは好色家として伝わっているわ。まあ女狂いね。数々の功績達成は50代後半だったにも関わらず、死去するまでの数年間で1万人もの子供を残したそうよ」

「凄い! でも年の割によく精力が続いたね」

「オークの素材を摂取したの。あれには精力増強の効果があるから」

「へぇー!」

「ワリドも使う?」

「俺にはまだ早い」


 だからオーク素材であんなに騒いでいたのか。パラケルは体がついて行かず早死にしたのだろう。それでも晩年は大満足の人生だったね。そうか分かったぞ。俺の性欲はこの人物が大きく影響している。


「以上が神話の概要だけど10倍の定着期間や空飛ぶ乗り物なんていかにも創作っぽいでしょ」

「夢があるね」

「でも空想じゃなかった。あなたのポケットに3つ入っているから」

「……」

「ねぇ欲しいの。お話、役に立ったでしょ。ねぇったらぁ~」


 やれやれ仕方がない。拒否してもしつこいし。


「分かった。1つあげる」

「3つ」

「だから何で全部なの!」

「あなたは好きな時にまた拾えるでしょ。でも私たちはあんな危険なところまで入れない」

「もう行かない」

「嘘よ。別の地域で必ず入るわ。どうせ魔力結晶も見つけるの。そしたら飛空船を作って大儲け。自分ばっかりズルい。ズルい。ズルい……」


 念仏の様に耳元で囁き続ける。


「おい! 背中が水面に触れているぞ! 高度を上げろ!」

「だってアマーニのせいで気が散る」

「そもそも私が上流調査を提案したのよ。つまり私の手柄も同然! なのに報酬が1個だけなんておかしいわ! 欲しい、欲しい、欲しい……」


 俺の股間に手を伸ばし撫でまわす。


「傾いているぞ! 戻せ!」


 ぐぬぬ。集中できない。


「分かった! もう1つあげるから大人しくして!」

「きゃー! ユニス大好き!」


 後ろから強く抱きしめられる。


「3つ目も欲しい」

「ダメ」

「おいアマーニ! いい加減にしろ!」

「……ちぇ」


 ふー、諦めたか。


「あのさアマーニ。こんな強引なやり方を続けていたら、いつか手痛いしっぺ返しを喰らうよ」

「私、嫌われちゃった?」

「好かれていると思ったか」

「……ご忠告ありがとう。でも心配しないで。ちゃんと相手を見て態度を変えてるから」

「つまり俺は舐められている」

「ユニスは優しいから好きよ」


 うむむ。やっぱり若い女性が相手だと対応が甘くなりがちか。


 渓谷を抜けてヤルダト基地跡地へ辿り着く。リャナンシーはあの1体だけとは限らない。念のため周りを警戒しよう。


 さて精霊結晶を次元収納へ入れるため鉱物の層を取り除くか。


 力を入れると亀裂が入りぽろぽろと崩れ落ちた。この自然由来の鉱物は精霊結晶の生成に深く関わっていると見て間違いないな。見た感じはシリカだけど、そんなありふれた鉱物が条件とは思えないのだが。


 こういう時こそ鑑定スキルが役立つのに魔素由来だけが対象だなんて。いや待てよ、高レベルならどうか。おおそうだ。基礎レベル36なら覚えてもおかしくない。


『鑑定36』


 いつの間にか基礎レベルは36に到達していた。35止まりなら可能性はあったのだが残念。


『開示36』


 おや。派生スキルが増えている。基礎レベル36で追加されたらしい。しかし開示とは何ぞや。おー、きっとステータスオープンだ。


「アマーニ、ちょっと失礼」

「なあに?」


 人物鑑定して情報開示だ。絶対驚くぞ。


 ……ありゃ?


「どうしたの?」

「うーん」

「何かの検証か。アマーニでうまくいかないなら俺で試してみろ」


 ワリドもダメだった。ひょっとしてレベル制限で人物鑑定は無効なのか。では手元の武器はどうか。うーん、ダメっぽい。次元収納から精霊石を出して鑑定開示と念じる。


「うおっ!」

「まあっ!」

「あっ、見えるの?」

「もちろんだ! これは凄いな!」

「鑑定結果を空中に出せるのね!」


 まあ元から空中に浮かんでいるけど。


「さっきは人物鑑定を試していたのか」

「うん。でも無理だった」


 他にも検証を行った結果、開示対象は精霊石と魔石のみだった。これはレベルを上げれば増えるだろう。


「鑑定士になった気分だわ」

「ああ、正にその通りだ」


 2人は鑑定情報を眺めて目を輝かせている。手を伸ばして突き抜けると子供の様にはしゃいだ。俺は文字の大きさや色、枠背景の透明度なども変更可能だと実演する。


「あはははっ!」

「こりゃ面白い!」


 何だか鑑定スキルの習得時を思い出す。対象はトランサイト合金の弓だったな。文字が空中に見えた時、どんなに嬉しかったか。フローラもかなり驚いていたなぁ。


 開示スキルの用途は何だろう。未所持者に見せて優越感に浸るためか。ああ、いちいち内容を読上げなくていいから楽だね。それに嘘をついていない証にもなる。


「他の属性も見せて」

「いいよ」


 火、水、風、土と順々に披露する。ついでに成分1%の具体的な量を聞いたが2人は知らなかった。目安としてミスリル1%含有の精霊石が2つあれば武器を1本作れるらしい。


「鉱物毎に文字色を変更できるの?」

「一番下のイリアステルだね。これはレア度4だから元々黄色なんだよ。任意に変更は出来ない」

「ふーん」

「初めて聞く鉱物だな」

「そうね。少なくとも武器には使っていない」


 じゃあ何だろう。この精霊石はハイマの泉で回収した土属性だったな。


 あっ、もしかして。


 ……イリアステルは精霊結晶の生成に不可欠だ。


 やっぱり! じゃあその製法は?


 ……忘れた。


 何だってー! エロ爺さんしっかりしろ!


 ……女を抱けば思い出すかもしれん。


 どうしてそうなる。


 あっ魔力結晶もイリアステル?


 ……違う。だが思い出せん。


 そうか、残念。


「もう正午過ぎね。昼食にしましょう」

「俺とアマーニはキノコを集めるからユニスは魚を頼む」

「分かった」


 まあ精霊結晶も魔力結晶も今すぐ必要ではない。記憶が呼び覚まされる時をのんびり待つか。

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