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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
286/321

第284話 王の剣

 9月19日、晴天。朝食は昨日集めたキノコ類だ。基地内の屋外通路に調理器具を据えて炙る。


「今日はいよいよ亜人種を観察できるのね」

「発現が継続している保証は無いよ」

「必ずいるわ。むしろ増えている可能性が高い」

「どうして?」

「私の婚約者シュクリから聞いたの。このドラルガ奥地は亜人種が発現する周期に入ったそうよ」


 シュクリは魔物研究者だったね。発現周期はザラームも言っていたから合っているのだろう。


「魔物の大移動についてはどんな見解だ? 亜人種が扇動しているらしいが」

「彼は否定的だわ。現に亜人種が確認されていない時代でも大発生は起きているでしょ」

「まあそうか」

「直接的な原因は魔素の流れよ」

「何だそりゃ」

「魔物はその場に突然現れる。これは地下深くから上って来た高密度の魔素が魔物へと姿を変えているからなの」

「ほーう、初めて聞いたな」


 魔素の柱だ。アマーニはよく知っているね。


「魔素は次々と地表へ上がるけど、魔物が一定範囲に存在すれば空気中に飛散する。そしていずれ地中へ戻っていくの」

「それがまた地上へ上がるのか」

「ええ、魔素の循環ね。でもこの流れが稀に滞るのよ。そしたら地表に魔素が溜まり続けてしまう。そして飽和状態に達した時、一斉に魔物となって大発生を引き起こすの」


 局地的に増えていたのか。


「他にも地表近くに魔素溜まりが出来て一気に噴き出す説もあるわ。いずれにしろ爆発的な増加よ。もし亜人種が山地中から魔物を集めたって、街を壊滅させるほどの数にはならないでしょう」


 確かに数万だからね。


「亜人種自らが大量に押し寄せた記録もあるのよ」

「ほう、それは知らなかった。必ずしも扇動に特化していないのだな。いやしかし亜人種の大群なんて普通の魔物より厄介じゃないか」

「かなりの脅威よ。今回私が奥地へ来た目的は、亜人種の分布をシュクリに伝えて、今後の動きを予想してもらうためでもあるの」


 ただの好奇心じゃなく調査も兼ねていたのね。


「ところでアマーニはちゃんと動ける? あの様子だと夜遅くまで楽しんだでしょ」

「……ワリドに治してもらったから」

「心配するな。朝には完治している」


 本当に便利なスキルだね。


「まずはテマラ基地へ行くよ。ここからは9km先だね」

「ユニス、ちょっと気になったことがあるの」

「何?」

「あなた昨日、後ろから付いて来てたけど、頻繁に何かを拾っていたわよね。一体何処に持っているの?」

「それはその、リュックに……」

「確認したけど何も入ってなかったわ」


 まあバレるよね。これは伝えるしかない。


「実は……ほら」

「え!? 精霊石!」

「おい! 今、手のひらに現れたぞ!」

「俺は時空スキルの派生、次元収納を覚えている」

「次元収納!」

「知っているのか、アマーニ」

「文献で読んだけど創作だと思ってた。まさか実在するなんて」


 へぇ、記録は残っているのか。


「どんな性能だ?」

「スキル所持者専用の収納袋よ。周りからは見えないし触ることも出来ない。もちろん何が入っているかも分からない」

「うは……凄いな」

「取得条件は専門スキル全10種の所持らしいけど、ユニスは満たしているの?」

「うん」

「信じられない……」

「お前、契約は無いって言ってなかったか」

「最近覚えた」

「そ、そうか、祝福をせずとも専門スキルって覚えられるんだな」

「いや普通は無理でしょ」


 亜人種の肉を食べる方法もあるけど。


「何がどれだけ入るの?」

「それは……」


 まあ教えてもいいか。逆に俺が聞きたいくらいだ。


 精霊石

 土 1:シンクルニウム

 火 6

 水 9

 風 5

 土12

 計33


 精霊石は最初から持っていたシンクルニウム含有の1つに加えて、ミデルト基地までの道沿いで拾った32個。


 魔石

 Dランク

 レッドベア    2

 エビルバッファロー1

 サーベルタイガー 6

 ビリジアンホーク 3


 Eランク

 ガルウルフ    9

 テラーコヨーテ 14

 キラーホーク   2

 ブラッドジャガー 7


 Fランク

 ヘルラビット   4

 エビルヘロン   2

 マスタードリザード2

 エルグリンクス  2


 計       54


 魔石はワリドとアマーニが倒した魔物から回収した。


「精霊石33個、魔石54個だよ。魔物素材やワリドに貰ったブーツは入らなかった。ミデルト基地の設備も色々と試したけど全て受け付けない」

「レベルは?」

「時空、次元収納共に12だよ」

「文献の通りね。レベル11で習得して精霊石と魔石が収納可能だから」

「じゃあレベルが上がれば他も入るの?」

「レベル16で魔物装備、21で魔物素材、26で定着物と記されていたわ」

「おおー」


 なるほど5区切りで増えるのか。


「実は数の上限が分からない。まさか無限?」

「それを決める要素は、確か……個人の資質、魂の器など、曖昧な表現だったわ」

「ふーん」


 魂の器か。俺は100万の魂が集まっているから相当な数が入ると見ていい。


「収納物の時間は止まる?」

「止まる」

「記録通りね」

「時空の派生は他に何があるの?」

「重力操作、物体通過、召喚よ。重力操作は落下方向の制御ね。例えば横を下にすれば壁を歩けるってこと。物体通過は壁や天井をすり抜けられるの。召喚はちょっと分からない」

「ありがとう」


 召喚はザラームの言っていた邪界からの念体召喚かな。


「そろそろ行こうか」


 ミデルト基地を出発してサビク川沿いに西へ向かう。2kmほど続いていた石畳はナビド舟舎から途切れていた。ここから先は道が無い。領兵は舟を使っていたので俺たちも水上を移動する。


 ワリドに乗り空中浮遊を続けていると、後ろのアマーニが腰を振り出した。


「何やってるの」

「だって、この姿勢……興奮する」

「はあ?」


 ワリドは呼応するかのように腰を上下に動かす。アマーニの息づかいはどんどん荒くなった。


「集中できないから止めて」


 両者の動きが止まる。やれやれ。


 1時間後テマラ基地へ到着。


「少し休もう」


 そう言いながら振り返ると、アマーニはワリドに跨ったまま腰を振っていた。上半身は脱がされてワリドの両手がおっぱいを揉んでいる。


「キミたち馬鹿なの?」


 今まで抑えていた分、反動が大きいのか。だからって所かまわず盛られては調子が狂う。移動を促すとアマーニは服を正して立ち上がりワリドの腕に抱きつく。2人は見つめ合いながら歩いた。


 基地内へ荷物を運び込み椅子に座る。そう言えばトランサイトで蒸着飛剣を試していなかった。ここで検証しておくか。


「ちょっと外に行って来る」

「分かった」


 イチャつく2人を放置して城壁外へ。


 魔素飛剣は5m×共鳴率+剣身だ。剣身50cmで共鳴率100%なら5m50cmとなる。一方、魔素伸剣は共鳴率×10倍が剣身に追加されるので、剣身50cmで共鳴率100%なら50cm×10で5mが剣身に追加される。


 つまりトランサイトにシンクライトを蒸着して共鳴率100%で飛剣を放てば、飛剣計算式の剣身が5m50cmとなるので、5m+5m50cmで10m50cmの飛剣が生成されるはずだ。


 飛剣の射程は共鳴率×100m、試しにサビク川対岸の草原を狙ってみよう。


 トランサイト合金にシンクルニウムを蒸着。


 シュン


 変化共鳴でシンクライトへ。


 ギュイイイィィィーーーン


 すぐさま強化共鳴100%で振り抜く!


 スパパパン


「おおっ!」


 幅10mに渡って草が刈り取られたぞ。成功だ。


 共鳴率200%なら飛剣は20m50cmまで拡張できるはず。加えて射程は200mだ。魔物との位置関係によっては初手での討伐も見込める。ただ疲労度も大きいから使いどころは考えないと。まあ1回試しておくか。


 蒸着、そして変化、更に強化!


 ギュイイイィィィーーーン


 まだまだぁ!


 ギュイイイイィィィィィーーーーーン


 200%到達!


「おりゃあっ!」


 スパパパン パキパキ ズウウゥゥン


「ハァハァ……」


 一瞬で対岸の草を幅20mに渡って刈り取り、その先の木も何本か切り倒した。大きく魔力を使ったが思ったほどではない。流石に連発は厳しいけど少し休めば十分放てるね。


 基地へ戻るとワリドとアマーニの反応は寝室へ移っていた。やはり始めてしまったか。扉を開けてベッドで抱き合う2人に声を掛ける。


「亜人種は明日にする?」

「……いや行く」

「……でもまだ私」

「早く終わらせてね」


 玄関横に腰を下ろし外壁にもたれる。アマーニの喘ぎ声は激しさを増す一方だ。普段の落ち着きからは想像できない乱れっぷり。これが本性なのね。


 あっそう言えば、ワリドと集めた精霊石が基地内に沢山残っていた。次元収納の上限を調べる上で丁度いいね。西棟の事務所へ移動して積み上げた精霊石をどんどん収納する。


 精霊石

 土   1:シンクルニウム

 火 724

 水1257

 風1093

 土1718

 計4793


 ……全部入ったぞ。きっとまだまだいける。洞窟に残した数千個の精霊石も試してみるか。


 事務所を出るとワリドとアマーニが東棟から姿を現す。


「すまねぇ待たせたな」

「満足した?」

「……ええ」


 アマーニは恍惚とした表情で小さく呟く。それにしてもワリドは体力あるね。まあ好きな女に求められたら全力で応えるしかない。


 予定より遅れたのでテマラ基地からも川を飛行して距離を稼ぐ。1時間後に洞窟の北東800m地点へ到着した。


「昼にはまだ時間があるけど食事にしよう」


 焼き魚で腹を満たす。


「ここから3km南が目指す場所だけど、その前に洞窟内の精霊石を回収する」

「おお、次元収納か。でもかなりの数だろ?」

「だから上限を調べる上で丁度いい」

「なるほど」

「ただ洞窟近くにはデスマンティスが発現している。俺が倒したら合流して」

「分かった」


 姿を消して距離50mまで近づく。せっかくなので蒸着飛剣を試してみるか。


 ギュイイイィィィーーーン


 シャーッ


 変化共鳴を施すと魔物はこちらに気づいた。両腕を水平に広げて斬撃波を放つ体勢に入る。


 させるか!


 スパアアアァァン


 高い音が響き、魔物は動きを止めた。上半身がゆっくりと崩れ落ちる。それを見てワリドとアマーニが近寄って来た。


「おいユニス! 今のは裂空か?」

「違うよ」

「じゃあ何だ?」

「内緒」

「相手はBランクの大型よ。それをたった1撃で仕留めるなんて」

「これで分かったでしょ。ゲルミン川沿いのAランクなんて俺の敵じゃない」

「本当にとんでもない戦闘力だわ」


 先制攻撃、且つ1体が相手に限るけどね。


「ワリド、洞窟の入り口を頼む」

「任せろ!」


 塞いでいる石や砂を素手で取り除くと怪我の恐れがある。ワリドは魔物装備の手袋があるので平気だ。洞窟に潜り込み、手早く精霊石を収納する。


 精霊石

 土    1:シンクルニウム

 火 2568

 水 4403

 風 3721

 土 5846

 計16539


 ……全部入った。重さにして1.6トンだぞ。他にも定着訓練に使ったD~Fランクの魔石を回収する。うちオークは18個だ。


 むむ、次元収納のレベルが一気に15まで上がった。もしや数を入れたから? 魔石の種類も影響したか。まあとにかく入るものは何でも入れていこう。


 洞窟を出て2人と合流する。


「お待たせ。ここから南側は地面に大きな亀裂があるから渡れない。川まで戻って南東へ進み、支流沿いを南下しよう」

「分かった」


 クエレブレの縄張りに近づくと異変を感じた。この魔物反応は何だ? 数も多いぞ。


「おい、ありゃまさか」

「亜人種ね。身長1m、緑色の肌、武器らしき携行品。特徴から判断するとゴブリンの可能性が高いわ」

「ゴブリン? いやあの辺はクエレブレの縄張りだから魔物は近づけないはず」

「じゃあクエレブレは倒されたか移動したか」

「討伐はあり得ない。あの個体は普通のAランクよりもずっと強いんだ」

「では移動ね。恐らくより魔素濃度の高い地域を見つけて新たな縄張りとしたのよ」


 なるほど。


「その跡地にはゴブリンが発現した」

「あー、42年前からここに居座っているからね。ずっと亜人種の発現を抑えていたのか」

「どうして42年と分かるの?」

「俺は魔物鑑定が出来る」

「……そう」

「元々ここがゴブリン生息地で後からクエレブレが降り立った可能性もあるぞ」

「いずれにしても新たな高ランク魔物が縄張りとしない限り、ゴブリンの支配域は広がり続けるでしょう」


 そう言えばオークの発現地帯もサラマンダーの縄張りだったね。高ランクが討伐されたり移動したりすると何が湧いて来るか分からないな。


「さて、どうする? ユニスの隠密共有なら気づかれずに奥へ進めるが」

「もちろん倒すわ。数は多くても所詮Fランクよ」

「だな」

「でもゴブリンアーチャーやゴブリンメイジがいるかもしれない。狙いを付けられない様に常に動いて」

「分かった」


 2人共ヤル気だ。


「いいわね、ユニス」

「うん。じゃあ俺がまず切り込むよ。群れの中心に入ってなるべく注意を惹き付けるから」

「流石のあなたでも四方を囲まれると危険よ」

「背後から撃たれても絶対に当たらない。俺には傷害感知があるんだ」

「……そう」

「じゃあ行くよ!」


 姿を消してゴブリンの中へ。かなりの数だな。ざっと300体か。クエレブレの居座っていた辺りの密度が最も高い。おや何体か大き目の個体がいるぞ。


『ゴブリンキング

 レベル17

 発現:10日12時間

 装備:有り

 特殊:使役』


 レベル17はDランク中位、レッドベアと同等だな。装備有りなので魔物武器が確定じゃないか。そして特殊に使役だと。これはスキルか。なるほど! こいつの肉を食えば使役を覚えられる可能性があるのね。


 グギギ……


 でも見るからにマズそうだ。


「やあ」


 グギャ!?


 スパアアアン


 ギャアアッ グギグギッ ギャガーッ


 周りのゴブリンたちの注目が一斉に俺へと集まる。それは直ぐに殺意へと変わり四方八方から降り注いだ。


 スパアアアァン


 魔素伸剣を振り回しわらわらと寄って来るゴブリンを真っ二つにする。


 シュン


 !? 今、矢が背後から飛んできた。しかし俺は無意識に身体を動かしてギリギリで回避する。傷害感知は凄いな。もうこれ無敵だろう。


 一方的な蹂躙は数分続いた。周りにはゴブリンの骨だけが積み重なっていく。


 ……。


 半径300mに魔物反応無し。討伐完了だ。


「おーい! ユニス!」


 ワリドとアマーニが駆け寄って来る。


「2人共、怪我は無い?」

「トランサイトを握っててやられるワケないだろ」

「私は遠くから背中に魔法を当てるだけよ」

「そっか」

「いやしかし、凄い数だな」

「魔石の探知範囲には300個以上あるね」


 おや?


「魔物武器だ……ゴブリンブレードか」

「適性は!?」

「剣技80」

「じゃあ剣技16で使えるわね!」

「うわっ、剣技成長200%だよ」

「何ですって!」

「おい、オークスピアが50%で1.5倍だろ。200%が加算なら3倍か?」

「そうなるわね。これ、とんでもない価値だわ」


 流石はキングだね。


「ところで今回の討伐で得た素材は俺が貰っていいんだよね」

「持て余すでしょ。私が預かるわ」

「実は次元収納のレベルが上がって15になった。アマーニは16から魔物装備が入るって言ってたよね」

「ま、魔物武器は分からない」

「もし入ったら俺が貰うよ」

「……ええ、仕方ないわね」


 まあ報酬に拘りは無いけど、アマーニばかりが得をするのも釈然としない。収納に入れば時間が止まるんだし、将来何かの役に立つはずだ。


 いや待てよ、俺自身が使えばいいか。剣技レベルが上がり易いってことは斬撃レベルも一緒に上がる。つまり近いうちに拡張や裂空も覚えられるのでは。


 蒸着飛剣を拡張したら一体どれほどの大きさになるのだろう。ちょっと楽しみが増えたかも。

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