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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
27/321

第27話 魔物と統一暦

 西区へ戻り昼食。精霊石の売却で遅くなり食堂に人は少ない。


「すっかり片付いたな。机と椅子も人数分ありそうだ、屋根は無いが」


 食堂の床は半分ほどが撤去され基礎がむき出しになってる。その基礎も何カ所か駄目になったようだ、ワイバーンの足が降りたところか。屋根も傷んだ個所は全て取り除かれている。


 机と椅子は床が無傷のところと食堂脇の地面に並べられている。これだけあれば全員座っても足りるな。ただ外の机と椅子は雨が降ったら屋根付き通路へ移動しなくてはならない。


「町から運んできたのだろう」

「ありがたいぜ!」


 カウンターでトレーを受け取り近くの席についた。


「なあクラウス、今日の稼ぎはいい方だったな」

「そうだなメル、やはりベア2体が大きい」

「いつもはそうじゃないの?」

「いざ森に入ると案外遭わないのさ。いつもわらわら出て来るくせによ」

「今日も朝飯前は結局川の近くまで行ったぞ」

「へー森って魔物がいっぱいかと思ってた」


 ふーん。まあひしめき合ってるほどじゃなくても割とポツポツといるかと思った。


「魔物も移動している。多い日なら森に入って直ぐを何往復もするぞ」

「おお、何カ月か前は1日でかなり稼いだぞ」

「すごいねー」

「いない時は川まで行って、それで川沿いに上がって、やっとウルフ2体とかな」

「でもそういう時は精霊石を多く拾えるから案外楽に稼げたりするもんよ」


 魔物の位置が分かるスキルがあれば便利なのにね。もしくは魔導具でも。ありそうなもんだけどなー。


「魔物のいる場所を知る方法ないの?」

「魔導具がある、アホみたいに高いがな!」

「あれは訓練所や騎士団が使うもんだ。個人で買うやつはいない」


 ほーもっとコストダウンすれば冒険者でも使えていいのにね。


「あれは性能イマイチだった」

「ぶっ!」

「うはっ!」


 フリッツだ。たまに登場が唐突だな


「すまんな食事中。リオンに伝えることがある」

「はい、先生」

「明日ウチが見張り当番だ。ワシは食事と風呂を除き上にいる。同伴を希望していたな」

「はい!」


 そうだった、明日か。


「いつ来る」

「えーっと、朝からいいですか?」

「城壁の扉が開く前からか」

「はい」

「いいだろう。では明朝、城壁へ上がる前にノルデン家を訪ねる。北の見張り台はお前の家が近いからな」

「お願いします」


 話の展開が読めない上に魔物が襲来すれば中断する。なるべく多くの時間を確保するなら朝一からだ。


「それからクラウスとランメルトも関係ある風呂だ。今日は女性と子供が15時から東区、男性は16時から北区だ」

「今日は北区か」

「16時か、まだ時間がたっぷりあるな」


 ほう、昨日と場所が逆なのね。


「それとリオン、歴史の話が途中だったな。この後でいいなら続きをどうか。カスペルとエドには確認してある」

「はい、お願いします!」

「では13時30分からウチへ来い。風呂までには終わる」

「分かりました!」

「以上だ、食事中じゃましたな」


 そう言えばワイバーン襲来でお流れになっていた。確かローゼンブルフに100万人あたりまで進んだな。そう、統一暦の少し前までだ。どんな流れで統一暦の運用が始まったか興味はある。


「おいリオン、フリッツと明日1日中見張り台って何か弱みでも握られたのか」

「違うよおっちゃん! 俺が話をしたいだけだよ」

「そうか、まぁ経験豊富だからな、ためにはなるだろうが1日は勘弁だな」

「父さん、先に決めちゃったけどいいかな」

「構わんぞ、むしろしっかり聞いて来い」

「うん!」


 よし、ついに来たな。話す段取りを明日朝までに考えないと。


「ふー食った!」

「よし片付けるか」


 13時30分、まだ30分近くあるな。そうだ!


「父さん剣の訓練見てよ!」

「いいぞ」

「ほー、リオンは剣振ってるのか。俺も見ていいか?」

「うん、おっちゃんも来て」


 朝はフリッツに見てもらったから幾らか緊張した。


 剣を持って納屋の前に行く。


「おー、いい訓練用の剣じゃないか」

「まずは身体強化だ」

「うん!」


 構えて集中……よし!


「はっ! ふっ! ああっ!」


 ちょっと振りを速くしてみた。


「おいリオン! いつ強化したんだ?」

「構えてからだよ」

「うはーっ! すげぇな、こりゃ逸材だ」

「そうだろう」


 クラウスがちょっと自慢気だ。


 それから振りと休憩を3セット行う。


「はー、疲れた!」

「ここまでだな。振りを速くした分、魔力消費も多くなったな」

「うん」


 クラウス気づいてたんだ。


 パチパチパチ……。


「いやー、凄いぞリオン! もう大人と変わらないじゃないか」

「魔力操作はな、だが魔力量が少ない」

「まー確かに、それはちょっとずつだもんな」


 やっぱ急には増えないか。ならば効率を上げるしかない。


「じゃ先生のとこに行ってくる!」


 筆記用具を持ってレーンデルス家へ。


「こんにちは!」

「来たか」

「いらっしゃい」


 俺はエドヴァルドとカスペルの間に座った。


「カスペルは昨日の話をリオンから聞いていたそうだな」

「うん、駆け足で話した」

「よう分かったよ、早く続きが知りたいのう」

「はっ! よく言う。ならばしっかり聞けよ」


 ふっ、カスペルとフリッツは正反対の性格だけどいいコンビだな。


「前回は今から2800年前まで進んだ。現在の王都ローゼンブルフに人口が100万の頃だ」

「当時の王都プルメルエントから東側に開発を続けたんですよね」

「そうだ。他国の争いには関与せず国境のクレスリンを維持し東側の森を開拓し続けた。この頃、我が国の人口は5000万となった」

「多いですねー、都市ごとの人口はどうでした?」

「王都プルメルエント500万、アルメール100万、クレスリン100万、ウィルム200万だ」

「おおーウィルム多いですね」

「この頃ウィルムは王都に次ぐ都市となっていた」


 侵略の被害が少なかったのか。


「第3国の侵攻を受けた際に王都は甚大な被害を被った。従って無傷のウィルムを王都として復興する話も出ていた」

「あーやっぱり、王都より内陸ですからね」

「ただ北側の森から大規模な魔物襲来があればウィルムがまず大きな被害を受ける。ウィルムは森と王都の間に位置するため、その後も盾となる役目を続けた」


 そっか、魔物の心配も必要だ。


「それから200年後、今から2600年前、我が国の人口は6000万となった。更に100年後に7000万、そして100年後に6000万となる」

「あれ? 100年で1000万減ってる、何があったんですか」

「魔物大発生だの」

「そうだ。この100年間に国のあちこちで魔物が溢れた。大規模なもので6回。それは100万人都市が1日で壊滅するほどの魔物の量だ」

「ええー!」


 やっぱり魔物のいる世界はいつどうなるか分からない。


「40年前のゼイルディク壊滅ほど、いやそれ以上か。ワシも色々と話は聞いたな」

「この国にはいくつもの大都市があるが必ず1度は大規模な魔物襲撃を経験している」

「人が増えれば魔物も増える、人が動けば魔物も動く。そしてある日、大量になだれ込んで来る。まるで行き場を失ったかの様にな」


 なんだろう魔物って。食べず、寝ず、ただ人間を見れば襲う、まるでそれが魔物の存在意義のように。やはり神が創ったのだろうか。もちろん何か目的があって。


 増え過ぎた人間を減らすため? 山や森を過度に開発するのを防ぐため?


 そのうち神は俺に接触してくると宇宙の声は言っていた。魔物のことも聞いてみるか。


「無論、我が国も魔物に対する備えはしていた。だがそれを上回る規模では対応できない。それでも開発を止めることもできない。人口は増加する一方なのだ」

「どうしたらいいのでしょう」

「当時の国王は考え抜いた末、他国を頼る決断を下した。装備品の向上、魔物の知識、有効な戦術、優秀な人材など、好条件で迎い入れ、あるいは高く買い取った」

「そんなに他国は進んでいたのですか」

「それほど差は無かった。しかしよりよい環境を生み出すためには変化が必要と判断したのだ。それは相手国も同じだった」


 へー、柔軟な考えだな。いや手詰まりしたから何でもやってみたか。


「その頃、国境より南の地域は1つの大国となっていた。人口は当時の我が国の10倍以上。以前より国交は続いていたが対魔物の交易強化を契機に暦を合わせる運びとなる。それが統一暦だ」

「ここで登場ですか。それはこちらが向こうで使われていた暦に合わせる感じで?」

「いや全く新しい暦だ。国を越えて魔物に立ち向かう結託元年という意味だな」

「並々ならぬ思いを感じます」


 言わば人類共通の敵、魔物。それに関係するならお互い協力を惜しまないと。凄いな、国同士でそこまで至るなんて。あんまり手の内を晒したくないだろうに。その大国の指導者は英断だったな。


「統一暦0001年。出入国制限の大幅な緩和、多品目における関税の撤廃。クレスリンの町を中心にこれまで以上に人と物の行き来が盛んになった。この時、我が国の人口は7000万。王都プルメルエント800万、ローゼンブルフ600万、クレスリン200万ほどだった」

「何だか当時の賑わいが伝わってきますね」


 しかし思い切った方針転換だな。そしてもう後戻りはできない。


「結果、当初の思惑通りに魔物に対する環境は向上した。もちろんその間も魔物の大規模発生は続き、その都度町は破壊された」

「あれ? 対抗できる様になったのでは?」

「以前に比べてだ。それを超える魔物の前には無力だった」

「限界があるのですね。そもそも今でも魔物との戦いは続いてるのだし」

「多少はマシになった程度だろう。それでも良くなったことには変わりないぞ」


 そうそう革新的な対抗策は出て来ないか。それこそ英雄でも出現しないと。


「対魔物もそうだが同時に復興の技術が向上した。南の地域は大国に統一されるまでは長きに渡り戦乱が続き、町が壊されても作り直す技術が我が国より進んでいたのだ」

「なるほど! もう魔物に破壊されるのは前提で、いかに原状復帰を早めるかに重きを置いたのですね」

「その通りだ」

「この村の作りも幾らか影響しているのでしょうか」

「少なからずあるだろう」


 ふーん、やっぱり他国のやり方は参考になったか。この国はクレスリンのみが国境だが、南の地域は国が乱立した時期も長くて、戦争で所属がどんどん変わって、それはもう大変な思いをしただろう。


「そして統一暦0537年、南の大国が我が国へ侵攻してきた」

「え!? また戦争ですか! ほんとにもう……」

「懲りないな」


 せっかく魔物に立ち向かう結束を固めたのに。その象徴の統一暦なのに。台無しだよ。


「無論、我が国も想定はしていた。クレスリンには巨大な城壁を築いたのもそのためだ」

「じゃあ跳ね返したのですね」

「いや突破された」

「え!?」

「敵国の操る魔物が城壁を破壊したと記録されている」

「魔物が! 人間の言うことを聞くのですか?」


 或いは何か利用して誘導したか。


「それは今でも謎とされとるの」

「その魔物は破壊した城壁からクレスリンへ侵入し忽然と姿を消した」

「消えた?」

「そう消えた。それも謎だの」

「信じがたいが目撃者も多い。クレスリンには先代より受け継いだその手の話が数多く存在すると聞く」


 何だろう。んー、強大な魔物がすぐ消える。あー、召喚魔法?


「城壁破壊はゴーレムとの説もあるが苦しいな」

「どうしてですか? ゴーレムならやれそうですけど」

「ゴーレムの動力源たる魔石が露出しているからだ。リオンも見ただろう」

「はい去年見ました。お腹の辺りに何も無くて、黒い石が浮いているだけ、あれが魔石ですか」


 ゴーレムは上半身と下半身が離れている。あれはファンタジーだ。


「その魔石が外れるとゴーレムは崩れ落ちる。城壁へゴーレムが侵攻しようとも魔石を狙えば即座に無力化できるのだ。城壁には腕利きの弓士や魔導士が常駐している、容易い作業だ」

「ゴーレムってもろいんですね。じゃあ魔石を隠せばどうですか」

「それでは操石士が動かせない」

「あらら」

「ゴーレムを侵略に使うなど誰でも思いつくこと。だが戦場では役に立たん、動きも遅いしな」


 まあ建設用の重機だもんね。


「実際にクレスリンには何度もゴーレムが仕向けられたが、ただの的に過ぎなかった」

「じゃあ城壁を壊したのはゴーレムではなさそうですね」

「そうなるの、だが消える魔物なんて信じられんの」

「どういう外見ですか? どんな方法で城壁を破壊したのですか?」

「ワイバーンの様な外見でとんでもなく大きい。そして口から光を放って城壁を吹き飛ばしたそうだ」

「ええ!?」


 召喚魔法でありそうな感じ。もちろん地球の記憶だけど。うーん、この世界にもあるのかな。


「ワイバーンなら飛び去ったのでは?」

「いや消えた。目の前で霧のように消えたと。まあ飛び去るのも消えると言えるが、どうも残っている証言からは飛んだという表現は無い。みんながみんな消えたと言ってるのは本当に消えたのだろう。信じられんがな」


 大きな町なら目撃者は多い。もし召喚魔法なら説明がつくが、違うなら謎だな。


「侵攻を受けた我が国はクレスリンが壊滅。人口の半分が犠牲になったと記録されている」

「それって相当の人数では」

「当時クレスリンは200万人ほど。つまり100万人が命を失ったのだ」

「うわ……なんて酷い」

「その多くは城壁を破壊した魔物の光によって跡形もなく消し飛んだという」

「破滅の閃光なんて呼ばれとるの」


 これは……とんでもない破壊兵器だ。


「敵軍は山を越えアルメールへ侵攻。ここでも激しい戦闘が繰り広げられた」

「山は魔物がいるのに簡単に抜けられるのですか」

「我が国がしっかり管理をしていた。道幅も拡張し、魔物も街道沿いはほとんどいなかった」

「ああ、そんな、頑張って通りやすくしてるのが裏目に。あ、もしや!」

「そう、最初からそれが目的で、あの時代にクレスリンまで国境を許した可能性もある。まあ流石にそこからでも1000年以上前の話だ、かなり無理がある」


 確かに。1000年後の侵略計画を立てるなんて、結果的にそうなったとしか。


「アルメールでの戦いは続き、遂には王都プルメルエントまで幾らか突破された。なにせ敵国の人口は我が国の10倍。兵力も圧倒的な差があった」

「厳しいですね。あの城壁を壊した魔物は出なかったのですか」

「うむ。あの魔物は記録の残る限りでは城壁破壊の1度だけだ」

「ほっ、この上その破滅の閃光を放たれたら王都は壊滅ですからね」


 ただ戦局は長引くほど不利だな。向こうは物量で勝る。


「そして遂にアルメールは陥落し、王都に敵軍がなだれ込んできた」

「ああ……」

「そこに現れたのが大魔導士ベアトリス・レイカールトだ」

「え! もしかして英雄ですか!」

「そうだ。彼女は高レベルの複数属性を使いこなす天才だった。幾度も好待遇の王国騎士団への誘いを断り、遠くローゼンブルフ郊外にて開拓事業の最前線で働いていた。ところが他国の侵略を聞きつけ、多くの仲間と共に王都へ入ったのだ」

「うわ、かっこいい!」


 でも1人でどこまでやれるのか。多くの仲間を引き連れたとしても相手は人数が桁違いだ。


「彼女は最前線を駆け抜け次々と相手の部隊を無力化していった」

「え、相手の、部隊?」

「広範囲の強力な魔法が使えた。この国でただ1人、雷を自在に操ったそうだ」

「おお、雷! そんな属性あるんですね!」


 へー! 4属性だけじゃないんだ。でも1人だけって。


「ベアトリスの活躍により我が軍はアルメールを奪還。ほどなくクレスリンをも取り返すことに成功した」

「凄い! たった1人で戦況が変わったんですね! まさに英雄だ!」

「流石に大袈裟だの。いくら強いとはいえ1人の人間だ」

「まあそうだな、伝承の過程で誇大解釈が進んだと思われる。それでも雷の魔法は敵国に使い手が居なかったため対策も無い。大きな混乱を生めばそれだけでも成果だ」

「騎士団に属さなかったのが逆によかったのだろう。遠く東の僻地にそんな者がおるなど知るよしもない」


 確かに。見たことない攻撃されたら慌てるわな。雷魔法の使い手、ベアトリス・レイカールトか。覚えておこう。


「彼女はしばらくクレスリンに留まり城壁再建を見届けて王族に加わった。その後第171代女王となり、国の復興に尽力した」

「へー、最後は女王に」

「ローゼンブルフの貧しい農家の生まれだと聞くの。洗礼後から爆発的に力を伸ばし、何度も村を魔物から守ったとされている。女王となった後には両親兄弟を王都に住まわせ、今でもそのレイカールト家はプルメルエントにあるそうだ」

「じいちゃん詳しいね!」

「昔友人がその家系と知り合いでの、自慢気に何度も聞かされたぞい」


 そりゃ自慢したくなるな。国を救った英雄の末裔なんだから。しかしそんな凄い人物が先代にいたら、ちょっと過度な期待をされて暮らし辛そう。それでも英雄の子孫か! なんて煽られたりね。ああ、ありそう。ベアトリスが泣くぞ! なんてね。


 いやでも家系としては魅力あるから嫁ぎたい人は多いかもね。そうだよな、英雄の血統に入るなんてそうそうない。まあでも統一暦537年のことだろ? 今から1700年以上前か。流石に血が薄すぎやしないか。


「それからのレイカールト家は代々騎士の家系だ」

「へー、英雄の血筋なのかな」

「どうかは知らんが小さいころから鍛え上げるそうだ」


 あーやっぱり。その家に生まれた子はちょっと気の毒だな。まあその道が好きなら丁度いい環境だけど。そもそも遺伝は半分、後は転生枠。遺伝部分も英雄の後は英雄はまず生まれない。まあブランドみたいなものだから名を汚さない程度にそこそこ強ければいい。


 しかし英雄クラスは転入枠に避けてるのでは。約1700年前って人類の歴史から見れば最近だろう。避けるのも完璧じゃなかったのか。それとも神基準の英雄とはもっと上の人を指すのだろうか。


「先生、英雄と呼ばれる人って他にいましたか」

「この先の歴史に何人も出てくるしベアトリス以前にも多くいた」

「あれ、そうでしたっけ」

「ワシの話には登場していない。それを1人1人話していたら時間が掛かり過ぎるし、ほとんどが記録の信憑性が薄い」

「なるほど」

「リオンよ。この国で英雄と言えば初代国王ただ1人だ。それを超える存在はいない」

「え、でも」

「王族の威厳を保つため学校ではそう教えられる」


 まあ分からんでもない。王族より力のある家系はあってはならない、もしいたら取り込むまで、ベアトリスのように。そうやって求心力を維持して国をまとめてきたのだろう。


「王族ではない英雄の存在は皆知っている。それでも王族が一番なのだ、分かるなリオン」

「はい。誰かにこの国の英雄はと問われたら、初代国王と答えます」

「はっは、それでいいんだ。それで丸く収まる」

「エドもいいな」

「はい」


 まあ建国の人だし、初代は立派な英雄だよ。だからか、カイゼル島に大きい神殿作って国民に向かわせてるのは。ある種の信仰対象にしてしまおうと、それが愛国心に繋がると。


「実際のところそこまで気を使う必要は無い。現に今ベアトリスの話をした」

「分かりました」


 今なお国が発展しているなら王族のやり方は間違っていないのだろう。その感謝を込めて王族が一番とするか。


「そろそろ風呂の準備だ。やはり歴史の話は脱線が多くて前に進まん」

「はっは、構わんだろう。歴史とはそういうものだ。なあリオン」

「うん、史実の考察や、現代のと繋がりを見つけるのは楽しいね」

「僕も聞いてて面白かったです」

「続きはいつかの?」

「明日はウチが見張り当番の日だ。ワシはほとんど上にいるから明後日以降だ」

「そうか」


 うん、いよいよ明日だ。フリッツと長時間1対1だね。

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