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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
267/321

第265話 ワリド(地図画像あり)

 冒険者宿舎バーズ2号館。その2階の一室で協力者候補へ接触を試みた。しかし脅迫は通じずミスリル譲渡にも乗って来ない。剣士ワリド24歳。この男は諦めて他を探すか。


「分かった。俺は出て行く。これ以上のやり取りはお互い疲れるだけ」

「待て」

「何だ?」

「オークの魔石と牙、まだ持っていると言ったな」

「もちろんだ。気が変わったか?」

「明日午前、俺たちアマーニ班はギルド職員と共に大通りへ出る。その前にミスリル精霊石とオーク素材を進路へ置いてくれ」


 ああ、そう言うことか。


「お安い御用だ。ギルド職員自ら拾えばキミたちの疑いは晴れる」

「すまんな。報酬は食事の提供だ」

「では今から行けるか」

「行ける」

「ただ子供連れでは怪しまれるだろう」

「高級料理店には完全個室がある。姿を消して付いて来い」


 宿舎を出て通りを歩く。


(本当にいるのか?)


 呟くワリドの服を少し引っ張ると彼は小さく頷いた。


 宿泊施設の通りに面した料理店へ入る。


「いらっしゃいませ」

「2階の個室は空いているか」

「はい……お一人ですか?」

「別の店にする」

「失礼しました。ご案内します」


 2階へ上がると広い廊下に扉が並んでいた。出てくる客は身なりがいい。個室は4人掛け。ワリドは座る前に窓のカーテンを閉めた。


「食事はデザート含めて一度に持って来い」

「……承知しました」


 店員はやや首を傾げながら返事をして姿を消す。


「いるか?」

「うん」

「音漏れ防止結界を頼む」

「いいけど、何故できると知ってるの」

「ギルド支部長室では結界が解除された。あれはお前の仕業だろう」

「まあね」

「解除持ちなら結界レベル21以上。音漏れ防止なぞ通過点だ」

「そっか」


 個室の形に沿った直方体の範囲を4時間で施す。


「やったよ」

「出る時には解除しろ。結界が残っていたら詮索される」

「慎重だね。でも高級店なら依頼できるでしょ」

「1人で何を話すのか」

「ああ、そうか。でも1人の時点で既に怪しいよ」

「……俺は近日中にドラルガを離れる。最後に現地の高級料理を楽しんだ。これでいい」

「なるほど」


 ほどなく料理が運ばれてくる。本来はコースだが、ワリドの注文通り前菜からデザートまでテーブルに広げられた。


「全体を少しずつ摘まむ。それが俺の食し方でな」

「そうでしたか」

「終わったら勝手に勘定へ行く」

「承知しました。ごゆっくり」


 店員は去った。


「さあ食べろ」

「ワリドは?」

「俺は満腹だ。気にするな」


 まずはメインの肉料理を頬張る。ああ、久々の味だ。美味い。一通り手を付けたがゼイルディクと大差ない調理法と味付けだった。デザートもバニラアイスっぽい。


「いい食べっぷりだな。そんなに腹が減っていたか」

「まあね……ところで孤児院ってある?」

「ある。場所はマクゼン中央区、大通りに面した護授堂の隣りだ」

「護授堂ってザラーム教?」

「もちろんだ。孤児院経営もザラーム教ギルドが関わっている」


 ほう。宗教面が色濃いのか。


「ザファル王国にクレア教の施設はある?」

「は? あるワケないだろ。お前は帝国出身か」

「帝国はあるの?」

「マルズーク帝国は15年前にクレア教を国教と定めた。それが発端となってザファル王国は独立し、ザラーム教を国教としたのだ。子供でも知っている常識だぞ」


 ほほう。国内にクレア教の施設は無いのか。俺が町中に入っても神の魔物が襲ってこないところを見ると、やはりクレア教が操る力に大きく関係してそうだね。


「もしかして戦争の相手は帝国?」

「本当にお前は何も知らんな」

「子供だから」

「……敵国はもちろんマルズーク帝国だ。戦場はここから遥か北西の国境。1年ほど前に突然攻め入って来た。元々クレア教の土地だから返せだとよ」

「そうなの?」

「詳しい歴史は知らんが、結局のところ戦争を始める理由が欲しかっただけ。奴らはザラーム教が気に入らないんだよ。ただの侵略行為さ」


 クレア教の支配域を力ずくで広げる目的か。


「ザファル王国は心配ないの?」

「兵数は及ばないが装備で勝っている。こっちにはミスリル武器があるからだ。特に弓矢と魔法は速度と射程に優れていて、ミスリル後衛部隊なら一方的な展開もあるらしい」

「へー」

「ここドラルガは国内最大のミスリル産出地だ。しかし見ての通り魔物によって壊滅した。帝国が侵略に踏み切った理由もそこだろう。戦況が長引けばミスリル武器の定着期間が次々と終わる。しかし供給は滞ったままだ」


 魔物襲撃は3年前、侵略開始は1年前か。確かに連動性を感じる。何よりクレア教を国教とするマルズーク帝国が、ザラーム教を国教とするザファル王国へ攻め入った。もう神の意志が入っているとしか思えないぞ。


「お前が本当にミスリル精霊石を大量に所持しているなら、ドラルガ緋爵へ直接売却しろ。高額で買い取られ身の安全も保証される。肉だって毎日好きなだけ食えるぞ」

「そりゃあね」

「……加えてその隠密スキルなら戦場で高い諜報力を発揮する。精霊石含めて、国の窮地を救ってはくれないか」

「随分と勝手を言うね。協力者は断ったのに」

「それは……すまない」


 ワリドの言うことが本当なら肩入れする勢力は明確だ。むしろザファル王国を焚きつけてマルズーク帝国へ逆侵略を仕掛けさせる。クレア教が国教なんて身の危険しか感じない。将来の不安を減らすためにも叩ける時に叩いておくのだ。


 なんてね。何も知らない帝国民はたまったものではないな。とは言え、クレア教の拡大は阻止したい。どうやって関与するべきか。


「ところで得体の知れない子供の質問に丁寧に答えるんだね」

「優しいだろ」

「うん。アマーニは男を見る目が無い」

「おまっ! ……ああ、そうだな」

「ご馳走様!」

「では勘定へ行く。寝る場所はあるか?」

「……無い」

「では部屋まで付いて来い」

「一緒のベッド?」

「嫌なら床で寝ろ」


 宿舎の部屋へ戻る。


「ねえ地図は持ってる?」

「持っていない。国の独立後、流通も所持も大きく制限された。開戦後は特に厳しい」

「あー」

「それでも王族や貴族、それから国軍関係、他に一部の建設商会や運送商会は使っているはず」

「一般人は不便だね」

「まあ仕方がない。俺は地図を見るのが好きで学生時代に色々と見て覚えた。今はそれが役に立っている」

「へー」


 地図が好きか。俺と一緒だね。


「じゃあ机の上に指でなぞって教えて。帝国や王国の大きさや位置関係は分かるかな」

「分かるぞ」


 ワリドは指先を動かして地形や国境を示す。それを何度も繰り返し、俺の頭に叩き込んだ。


「ありがとう。よく分かったよ」

「はは、西に行くほど海岸線の形は怪しいがな」


挿絵(By みてみん)


 かなりの情報が手に入った。ここドラルガ緋爵領は王国の南山地の東端だ。ゲルミン川の最上流部に当たる。そのゲルミン川は途中から西へ下り、300kmほど先で海へ注いでいる。


 そう海があるのだ。地形では内海が多く決して大海ではない。それでも海産物の恵みは十分に享受できる。船や港はどんな感じか。海の魔物も興味がある。


 それにしてもクレスリンの方角はどっちだろう。クエレブレが北寄りに飛行したなら着地点はプルメルエント西の山中だが、ここは東側に山脈があるため地形的に合わない。と言うことは西寄りの飛行ルートか。つまりクレスリンは東南東の可能性が高い。


「ザファル王国東側の山地はどこまで続いているの?」

「知らん。遥か先には別の国があるとも聞いたが、とても越えられる山地ではない。夏でも雪が溶けない高さだ」


 ゼイルディクの西側の山地。その遥か先には別の国、そして海もあるらしい。クラウスが言っていたその場所こそが、このザファル王国かもしれない。


 外で見掛けた感じでは7000m級の山々が連なっていた。魔物はスキルで凌げるとしても、その他の要素が不安ばかり。特に食料が厳しい。山越えは無理だな。


 となると地続きに南西へ向かうルートか。


「ガルダイア王国の南西端は国境だよね?」

「ああ、そうだ。国の名は忘れたがな」

「国土の形状は?」

「聞いた話では東へ広がっているらしい」

「その先は?」

「さあ……別の国があるんじゃないか。おお、思い出した! 砂漠がある」

「砂漠!」

「見渡す限り砂ばかりだと。魔物もまた違った種類が出るらしい」

「ふーん」


 クレスリンまで地続きかな。まあそれも現地で聞けば分かるか。よし、ひとまず大まかな行き先はガルダイア王国の南西端にしよう。


「国ごとの人口は分かる?」

「大体はな。ザファル王国5,000万、ガルダイア王国5,000万、ソロン王国5,000万、マルズーク帝国2億だ」

「かなり大雑把だね。他に特徴とかは?」

「国教だな。ザファル王国とガルダイア王国がザラーム教、マルズーク帝国とソロン王国がクレア教だ」

「へー、隣りのガルダイアもザラームなの」


 なら移動中も神の魔物は襲って来ないか。


「元々3つの王国はマルズーク帝国の一部だった。しかし15年前にザファルとガルダイアが独立して、その5年後にソロンが独立した」

「ガルダイアはザラームだから分かるけどソロンは?」

「詳しくは知らん」


 まあ島国だから独特の考え方があるかも。


 それにしてもマルズーク帝国は、次々と独立されてもなお広大な国土を有しているね。距離目安からカイゼル王国の大きさも分かるから並べてみよう。


挿絵(By みてみん)


 ワリドは北側の山地だけ示して他は省いた。だから実際はそれなりに山が点在するはず。カイゼル王国も王国城壁の外まで国土が続いているから、それらを踏まえると両国は同等かもね。


「おい、ガルダイアへ行くのか」

「うーん、そうかも。一緒に行く?」

「断る」

「あちこち回ってるなら旅が好きなんでしょ?」

「国内の話だ。他国まで冒険したいとは思わん。親兄弟に何かあったら駆け付けられないだろう」

「へー、意外と家族思いなんだね」

「さあもう遅い時間だ。ベッドへ入るぞ」


 ワリドと共にベッドへ寝そべる。


「俺はこの図体だからベッドも大き目だ。子供1人が加わっても余裕あるだろ」

「うん。ワリドは風呂に入りそびれちゃったね」

「1日くらい構わん」

「あっそうだ! 養子について聞きたい。どうやったらなれるの?」

「知人が孤児を引き受けたと聞いたな。兄弟の子だとか」


 やっぱり身内か。


「ただ身分によっては不特定多数から受け入れる。まあ貴族家や大手商会を経営する金持ちだ。お前は食事中に孤児院の所在を聞いていたな。正にあそこから優れたスキル持ちなんかを選出するらしい」

「ドラルガで魔物被害の大きかった地域はどこ?」

「ベレチドだ。今はカルキノスの縄張りになっちまったがな。多くの孤児が出たと聞いた」


 やはり人口密集地だったか。


「架空の住所、つまり人物鑑定証明書を偽造するのか」

「まあそうだね。借金持ちの鑑定士にミスリル渡せばやってくれるでしょ」


 実際は鑑定偽装だけど。


「運良く孤児院に潜り込めたとしても3年間をどう説明する?」

「あー、そうか!」

「……組織から抜け出したとでもするか」

「組織?」

「3年前の魔物襲撃以降、孤児を中心に子供の行方不明が相次いだらしい。噂では犯罪組織が攫って将来の手駒用に教育するんだとよ」

「うわー、酷い」

「お前も初めは逃げ出した子供かと思った。だが身元がハッキリしているなら、まず憲兵に助けを求めるだろ。つまりお前は組織とは無関係のワケありだ」

「うっ、まあそうだね」

「数カ月前に冒険者仲間が連れ去り現場を目撃した。ウェザン要塞方面へ向かったらしい。あの辺りに組織のアジトがあるって話だぜ」

「ウェザン要塞!」

「どうした? 心当たりがあるのか」

「いや、ちょっとね」


 フェズ基地に向かった馬車。言われてみれば荷台の人影は小柄だったかもしれない。


「城壁の向こうは完全放棄なの?」

「ああそうだ。ヒュドラが棲み付いているから接近は固く禁止されている。上流方面もAランク魔物が複数いるらしい」


 やっぱりあれがヒュドラか。


「そろそろ寝るぞ」


 ワリドは魔力を照明に送り消灯した。


「すまんが明日の朝食は世話できない」

「いいよ。自分で何とかする。どの道、仕込むために先回りしないとね」

「なあ、お前は何者だ?」

「……8歳の子供」

「何処で育った?」

「……遠いところ」

「その高度な教育は貴族家か?」

「……平民だよ」

「俺は小心者だから直接協力は出来ないが、何とかミスリルだけでも貴族へ回してくれ」

「臆病者が生き残る。ワリドの選択は間違っていないよ。ミスリルはまあ展開次第だね」

「期待しているぞ。じゃあお休み」

「お休み」


 ワリド、初めは突っぱねてたけど世話好きなのね。あれこれ教えてくれて助かったよ。

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