第261話 旅立ち
8月7日、晴天。
精霊石探しの途中、遭遇した魔物には敢えて接近を試みる。近距離で隠密を行使すれば訓練効果が高いと予想したからだ。魔物の息づかいを感じるほどギリギリを攻める。やはりこの緊張感は手応えあるぞ。
ならば最も危険な魔物で訓練だ。
クエレブレの縄張りへ向かい巨体に近づく。全長60m、改めて見ると本当にデカいな。流石は魔物種の頂点に君臨するAランクだ。加えてこの個体はサラマンダーなどを打ち倒し、よりその力を増している。もう手が付けられないレベルだろう。
『クエレブレ
レベル33
発現:42年2カ月15日
装備:有り』
レベル33、Aランク中位だな。ほう生まれてから42年が過ぎていると。はは、俺の精神年齢は41歳だぞ。本当に兄貴だったのか。
グルルル……。
クエレブレは頭を上げて首を振る。違和感を覚えたらしい。隠密に集中しろ。この距離で見つかったら尻尾の攻撃範囲だ。俺の命も危ない。
むっ、手応えを感じた。スキルを確認すると隠密がレベル32に上がっている。おー、よし、後は人物鑑定だ。
洞窟へ戻り鑑定訓練を開始する。
そして昼前には成果となって現れた。
『鑑定偽装32』
やったぜ! さあ改ざんグループは増えたか。
……。
3グループ追加だ。目標達成じゃないか!
「うひょーっ!」
これで個人情報2グループ11項目、そしてスキル群全てに当たる4グループ22項目を改ざんできる!
あー、やっと終わった。成果が見えてヤル気が継続するとは言え、連日の集中的な訓練はかなりの疲労とストレスを生み出していた。遂にその重圧から解放されたのだ。もうしばらくは何もしたくない。
洞窟内でダラダラと過ごし夕食を終えて砂地に寝転ぶ。さあいよいよ下山の準備だ。まずはスキル群の改ざんだが、その前に記録した鑑定結果と照らし合わせながら成長の確認しよう。
保有148
出力 25
魔力は変わらず。
火属性6
継続6(新規)
拡散6(新規)
放射6(新規)
撃性具現6(新規)
火は派生を4つ習得。継続と拡散は川原での調理で大活躍だ。放射は攻撃手段だが今のところ使い道がない。撃性具現は魔法行使に必須。火の矢は成功したので、杖を使えばFランク魔物には通用するはず。
水属性10(+6)
拡散9(新規)
噴射8(新規)
噴霧6(新規)
水は基本が上がり派生を3つ覚えた。テマラ基地の浴場の壁には精霊石を固定する器具が設置されており、用途不明だったが拡散を習得して分かった。あれはシャワーだ。使える人は限られるけどね。
風属性2
土属性9
固結6(新規)
風は変わらず。土は派生を覚えたが今のところ使い道は無い。
斬撃18
剣技18
衝撃2
打撃1
射撃19
弓技18
魔法射撃11
操具11
剣術11
弓術9
銛術3
4撃性、操具共に前回と同じ。
測算22(+4)
温度22(+5)
重量18(+3)
距離22(+4)
速度15
時間16(+5)
測算はまんべんなく上がっている。温度は湯の抽出訓練が影響したのだろう。
治癒 16
自己 16
治療 12
完治時間11
治癒は前と同じ。
結界 28(+4)
虫よけ 15(+2)
日焼け止め 16(+2)
音漏れ防止 23(+2)
清涼 17(新規)
保温 28(+4)
防水 21(+2)
風圧減少 19(+2)
粉塵 20(+2)
臭い漏れ防止28(+4)
消臭 28(+4)
結界解除 21
結界は常時複数を行使しているので順調に上がっている。効果時間も6時間まで延びた。そして知らない間に効果範囲の可変を習得していた。球体だけではなく直方体や円柱状にも設定できるのだ。状況によっては使えるね。
鑑定 32(+6)
定着品 17
製品 14
魔物 31(新規)
魔物素材26(+1)
魔石 25(+1)
魔物装備24(+1)
鉱物粉 12
精霊石 32(+7)
人物 32(+9)
盗視 21
記憶 21
鑑定は精霊石と人物が大きく伸びて魔物を習得した。精霊石は数千個という数、そして鑑定不能の存在が高い訓練効果を生み出している。そう考えると人物の伸びが説明できないな。何せ俺1人だぞ。
……いや、中身は鑑定不能レベルかもしれない。封印されているとは言え伸びしろはレア度5以上だもんな。となると手応えを敏感に感じ取る鑑定士には注意が必要だ。具体的な対策は思い付かないけど。
錬成 23(+4)
定着 23(+4)
昇華 12(+5)
鉱物抽出17
接合延長19
錬成は主に魔物装備の定着延長に注力した。そう言えばミランダの話では蒸着の取得条件が21以上だったな。将来Sランクとの対峙を想定すれば20mの飛剣は大きな武器となる。機会があれば習得しておきたい。
探知 32(+2)
地形 31(+1)
透過 17(+1)
建物 26
人物波長16
逆探知 21(新規)
魔物 32(+2)
魔石 23
魔物装備28
精霊石 32(新規)
オーク戦で逆探知を覚えたが何と言っても精霊石だ。鑑定訓練が大きく捗った要因もここにある。一部探知スキルについては効果範囲が大幅に拡大していた。地形は半径120m、魔物と精霊石は半径150mだ。走れば3割減、静止で3割増となる。
感知 31
鑑定 06
波長記憶06
結界 31
消去 16
偽装 21
擬態 26
魔物 31
感知は全く同じ。町に出れば人との関りも増える。身の安全を考えれば頼りになるスキルだ。クラリーサの話では、敵意などを感じ取る「標的感知」、視界外からの攻撃を回避する「傷害感知」も派生に存在する。是非とも覚えたいところ。
隠密 32(+2)
波長記憶16
足音消去32(+2)
気配消去32(+2)
影消去 32(+1)
探知無効23(+2)
色彩偽装30
鑑定偽装32(+1)
擬態 32(+2)
隠密は全体的に微増だ。とは言え、鑑定偽装のレベル32到達が全てである。これで堂々と人間社会に入っていけるね。フッ、何だよ堂々って。別に後ろめたいワケでもないんだけどな。
よし、改ざんするか。以前考えた内容を反映させよう。でも派生が何も無いと逆に不自然かも。剣技3くらい追加しておくか。魔力関係もちょっとだけ増やそう。
保有31
出力2
火属性1
水属性1
風属性3
土属性1
斬撃4:剣技3
衝撃1
打撃1
射撃1
操具1
測算1
生まれつき持っている4属性と、洗礼で必ず覚える4撃性と操具と測算。そして専門スキルは無し。うむ。いたって平凡な8歳児である。警戒する要素は1つもない。
さあ鑑定対策は出来た。次に荷物だ。
入れ物は革製のリュックと肩掛けカバンが手元にある。入れ物自体はミデルト基地にまだ幾つか残っているが、あまり荷物が多くなると重いし動き辛い。ドラルガの町まで推定60kmの行程だ。必要最小限を運ぶならこの2つで十分だろう。
次に入れる物品だ。網、トング、串、調味料、コップ、歯ブラシ、フェイスタオル。これらは食事などに使うため外せない。火元の精霊石は現地調達すればいい。
続いて換金目当ての品。
土属性の精霊石
鑑定不能 1個
イシュタル 2個
ミストルティン 2個
この5つは持って行こう。ミスリル含有は84個だがひとまず30個ほどにするか。
続いて未帰属の魔物装備。
指輪
サラマンダー 共鳴率11%
レッドベア 火2%
ガルウルフ 風2%
ヘルラビット 土1%
エルグリンクス 感度1%
腕輪
ドリルエレファント 銛術18%
レッドベア 斧技6%
サーベルタイガー 槍技5%
指輪5と腕輪3だ。運搬の負担にはならないから全部持って行こう。
続いて魔石。
サラマンダー 2400万
デスマンティス 75万
ドリルエレファント 16万
Dランク 3000~10000
Eランク 500~3000
Fランク 300~500
含有で考えれば上の3つとDランク以下は大きな差がある。魔物から必ず1つ手に入るので希少性も低い。もうDランク以下は持って行く必要は無いだろう。
と言うのもオークの魔石があるからだ。含有は2500~3000とEランク上位相当だが、その希少性は計り知れない。現在手元に38個。ここから20個を持ち出そう。
次に魔物素材。
高ランクなら価値はあるが大きいため運べない。低ランクの牙などは小さいが価値は低い。従って基本的に全て置いて行く。オークの牙を6本でいいか。
以上、精霊石35個、魔石23個、魔物装備8個、牙6本。そして地図。ほとんど頭に入っているが念のため持って行こう。後は照明の魔導具もあった方がいいな。これで調理関係含めてリュックは一杯になる。
肩掛けバッグはキノコなどの食材専用にしよう。詰め込めば2食分は入る。
続いて身につける物品。帰属済みの魔物装備だ。
指輪
サラマンダー 火レベル5
温度400℃
エビルバッファロー 水3%
サーベルタイガー 出力2%
ブラッドジャガー 感度3%
手袋
レッドベア 腕力12%
ブーツ
エビルバッファロー 走力10%
跳躍3%
全て定着延長しているのでまだまだ使える。しかし問題は町に出てからだ。俺をどういった境遇の男児に設定するかによるが、魔物装備はそれなりに値が張る品だ。いくつも身につけていれば必ず入手先を問われる。
町にある程度近づいたらリュックやカバンと合わせて隠しておくべきだな。いや何も履かずに靴下だけでは不自然か。あー、あのクレスリンから履いてきた靴は何処へ行ったか。服と一緒に川に流れたんだっけ。
そう考えると上半身裸も不自然だ。ミデルト基地で小柄な隊員の服でも探してみるか。
最後に手持ち品。片手は銛だな。無くても漁はできるが手ごろな枝探しも面倒だ。持って行こう。そして木の上で身体を固定するロープ。ミデルト基地で確保して肩に掛ければいい。
よーし、準備完了。明日の天候に問題なければ出発しよう。
この砂地で眠るのも最後かと思うと感慨深い。
◇
8月8日。晴天。
山地に降り立って44日目である。いや洞窟を寝床にしてからは38日目か。フッ、よく最初はあんな崖の穴で過ごしていたな。濁流で悲惨な目に遭った日も懐かしく感じるよ。
この洞窟は安息の場所であると共に、鍛錬に集中できる環境でもあった。折を見て精霊石などを回収に戻るつもりだが、展開によっては難しいかもしれない。
昨日まとめた荷物を外に出す。洞窟の入り口は石で塞ぎ砂をかけた。
「世話になったな」
小さく呟いて川原へ向かう。
朝食を終えて西600m先の白い鱗を眺める。
お前のお陰でクレスリン公爵宮殿から脱出できた。まあ結果こんなところに連れて来られたが、今となっては悪くない環境と言える。俺が大きな成長を遂げられたのはクエレブレの存在があってこそ。本当に頼もしい兄貴だったよ。
「じゃあな!」
クエレブレは頭を上げて周りを見渡したが直ぐに突っ伏す。再び神に操られて俺を襲う時、戦える力があれば容赦なく切り裂く。人間と魔物はそれが宿命だ。
10時過ぎににテマラ基地へ到着し、風呂と昼食を済ませてミデルト基地へ向かう。日が暮れる頃に辿り着き、夕食を終えてひと息ついた。
さて、物色するか。
個室を中心に探したところXSサイズの半袖肌着が見つかった。持ち主は小柄な女性隊員だろう。俺が着ると裾が余るが動きに支障はない。拝借しよう。
木に結ぶロープも確保。
さあ、明日はいよいよゲルミン川を下る。俺の行く手には何が待っているのか。




