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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
261/321

第259話 鑑定偽装

 7月26日、朝から精霊石探しに勤しむ。精霊石で思い出したが、塞き止められたテマラ川の底から大量に回収したままだった。森の中に放置しているので洞窟へ運び込む。その作業に何度も往復を繰り返した。


 土砂ダムは一部が決壊して滝を作り出していた。テマラ川の水量は3分の1ほどに回復している。このまま自然地形となるか完全崩壊して元の流れに戻るかは天候次第だな。


 集めた精霊石を鑑定していると人物鑑定レベルが26へ上昇した。鑑定偽装を期待したが覚えてはいない。次の区切りであるレベル31に期待しよう。


 人物鑑定には表示される項目が増えた。


 婚姻:無し

 嫡子:無し

 異母:無し

 養子:無し


 婚姻は配偶者の有無だな。もちろん俺は独身だ。嫡子は妻との子、異母は愛人や前妻の子、養子はそのどちらでもない子か。この4項目はつまり扶養家族ってことだね。


 婚約:無し

 離婚:無し

 犯歴:無し

 刑期:無し


 婚約の項目に若干の違和感を覚える。この世界では婚姻や離婚と同列の扱いらしい。まあこの方が安心するしトラブル防止にもなるか。


 そして犯歴。ミーナが神の刺客となって俺を襲ったが、叙爵の身分を使って揉み消した。本来は犯歴に残る案件らしい。この世界は8歳でも容赦ないな。まあ傍目には殺すと言いながら剪定バサミを刺そうとしたから殺人未遂ではある。


 主従:無し

 保証:無し

 借入:無し

 貸付:無し

 賃貸:無し


 主従は恐らく奴隷関係だろう。この項目が異世界らしいね。まあミランダの話を聞く限り、俺が思っている奴隷制度とは随分違うみたいだ。多いのは借金奴隷で、犯罪者に墜ちる前のセーフティネットみたいな役割かな。


 保証は連帯保証人かな。保険みたいな意味合いもありそうだ。借入と貸付は物や金の貸し借り。

賃貸は住居だね。ゼイルディクでは借家や寮が一般的だったけど国によっては違うのかな。


 以上、前回表示された内容と合わせて28項目。マースカントの鑑定結果と同じだ。これで人物鑑定はスキル群含めて全ての表示を習得したと見ていい。


 そう言えばコルホル村のオリアン商会シャルロッテ、彼女は精霊石成分とスキルを鑑定していた。恐らく精霊石と人物ともにレベル25辺りかな。優秀だね。


 さあ訓練を続けよう。これまで集めた精霊石は約2,000個。属性の内訳は火300、水600、風400、土700だ。この辺りは水と土が出やすいのか、元々の割合がこうなのかは知らない。


 土700のうちミスリル含有は24、鑑定不能は3つだった。多いのか少ないのかは分からない。ともあれ鑑定不能は訓練効果が高い。できればもっと確保したいところ。



 ◇



 翌日、7月27日。朝から精霊石探しを開始する。一度拾ったところにもポツポツと発現していた。フリッツの話では一定の範囲内で発現の上限数があるらしい。発現する頻度もまちまちだそうだ。


 出たら拾って再度出たら拾う。もしくはある程度溜めてから一気に拾う。うーん、後者の方が効率は良さそう。まあ他に拾う人はいないのだから慌てる必要は無い。精霊石探知を試していない地域も多いから、そっちを優先しよう。


 日が暮れるまでひたすら回収を続ける。約1,000個が集まったが鑑定不能は無かった。


 翌日もその翌日も一心不乱に集め続ける。もう何かに獲り付かれている様だ。



 ◇



 7月30日、昼前に雨が降りだす。精霊石探しは中断だ。


 精霊石の数は5,000個近くまで膨れ上がっていた。内訳は火700、水1,500、風1,000、土1,800だ。ミスリル含有は62、鑑定不能は5つである。


 さあ、ひたすら鑑定を続けるぞ。


 その日の就寝前には鑑定レベル29に達していた。



 ◇



 翌日、8月1日。外は朝から嵐である。この高地が海からどれだけ離れているかは知らないが、風速30m以上、最大瞬間風速50mを超えるこの悪天候は正に猛烈な台風だった。


 台風か……前世の記憶はそれが最後だ。


 俺が死後直ぐに転生したのなら子供たちは高校生か。顔も名前も思い出せない大切な我が子。今は注ぎ込んだ愛情の感覚だけが心に残っている。ちゃんと立派に育っているかなぁ。


 残した家族は地球の神が見守っている。それを聞いて安心したが、よく考えるとおかしい。見守るって何だ。俺は気にかけて世話をすると解釈したが、本当に眺めているだけではないのか。


 この世界の神は立場の割に制限が多い。世界が違えば権限もまた違うのか。いや、そもそも地球の神の言葉もザラームの伝言だ。あれを鵜呑みにしていいのか。


 まあ考えても仕方ない。もう俺はこの世界の人間だ。


 訓練を始めよう。



 ◇



 21時……眠い。


 もう少し頑張ったら明日にするか。


「おっ!」


 今かなりの手応えを感じた。間違いなく何か習得したぞ。


 深く息を吸って吐く。人物鑑定を試みると隠密の派生スキルには「鑑定偽装31」と表示されていた。何度も確認したが間違いない。


「うひょーっ!」


 やった……やったぞ。思った通りレベル31が条件だった。恐らくは隠密レベル31と人物鑑定31だ。この2つを達成すれば鑑定偽装が習得される。はは、もうこれで人物鑑定は恐くないぞ。


 さあ、どうやって改ざんするのかな。


 おっ! 目の前に表示されている鑑定枠の隣りに全く同じ内容の枠が浮かび上がった。えっと……ほうほう、なるほど。こっちが人物鑑定を受けた時に表示される内容か。


 つまりいじれる。


 試しに名前の項目に意識を集中して書き換える指示を送った。


『名前:うんこ』


 これは酷い。生きていけないぞ。


『住所:洞窟』


 まあ間違ってはいない。


 スキルもいじろう。


『火:99

 水:99

 風:99

 土:99』


 ぬっへっへ。チートだ。


 ああ、いかん。小学生かよ。


 きっと眠いせいだ。


 ……寝よう。



 ◇



 8月1日、昨日の嵐が嘘のように晴天だった。台風一過だね。


 人物鑑定を見て苦笑いする。まあ1カ月以上風呂に入っていないから排泄物と言われても仕方ないか。ふざけて設定した割には合っているじゃないか。いやしかし変えられるのはいいが何にすれば良いのか。


 おー、そうだ。ミデルト基地には書類も沢山残っていた。あの中からそれっぽい人名や地名を拝借すればいい。まあ調査されたら困るけどその時はその時だ。


 生誕は王国暦7年かな。8歳になる計算でいい。洗礼は終わっていないと礼拝堂、いや護授堂に連行される恐れがある。祝福はまだでいいな。


 両親や兄弟もミデルト基地の資料を参考にしよう。他は全部無しでいい。


 次にスキル群だ。まず俺の最初の魔力鑑定は保有30、出力1だったね。そのままでいいか。スキルレベルは洗礼後に最低でも1つはレベル3以上があるらしい。うーん、属性にするか。もし調整を間違っても気づかれにくい風が良さそう。


 よく見たら俺の風属性は現在レベル2じゃないか。下山までにレベル3に上げておけば丁度いいね。


 レベル3以上も2つか3つあるのが普通らしいから、もう1つレベル3、いや4にしておくか。まあ斬撃でいいな。斬撃レベル4、派生スキル無しっと。後は全部レベル1で専門スキルは無しだ。


 ん? あれ? 途中から変更出来ないぞ。何故だ。もしかしていじれる項目数に上限があるのか。


 試しに個人情報を元に戻すとスキルをいじれた。それでも全てを変更できない。ぐぬぬ、何と中途半端な。


 あれこれ試すと項目でのカウントではなく複数の項目が連動しているらしい。


 個人情報は28項目が6グループに分かれていた。単純に上から5つ、6つ、4つ、4つ、4つ、5つで区切っている。


 スキル群は22項目が4グループだった。保有魔力と出力、4属性で区切り、4撃性と操具測算で区切り、治癒、結界、鑑定、錬成で区切り、最後は探知、感知、隠密だ。どうやら専門スキルは習得の希少度で分かれている。


 この全50項目、10グループのうち3グループまでしか改ざんできない。まあレベルによる制限だろう。俺は個人情報2グループとスキル群4グループ全部が改ざん対象だ。従ってあと3グループ必要である。


 レベル1つ上がる毎に1グループ追加だと鑑定偽装レベル34が目標か。まあやるしかない。そのためには鑑定不能を1つでも多く発見したいね。この訓練効果はかなり高い。


『土属性

 定着:2年5カ月12日

 含有:4,687

 出力:15

 感度:17

 成分:シリカ  54%

    コランダム 7%

    白殻粉  36%

    イシュタル 3%』


 えっ? あれれ? 間違えたかな。確かこれが鑑定不能だったはず。


『土属性

 定着:4年6カ月24日

 含有:4,122

 出力:14

 感度:16

 成分:シリカ    30%

    白殻粉    62%

    チタン     3%

    ミストルティン 5%』


 ええ? おっかしいな。避けておいたはずなのに混ざったか。おー、鑑定不能だ。良かった。あるじゃないか。でも1つしかない。


 いや待てよ。このイシュタルとミストルティンは文字色が黄色だ。俺の鑑定枠は青色の背景に白い文字が浮かび上がる。そう言えば任意に変更できるらしいから、何かの拍子に変えてしまったか。


 試しに文字色変更を念じると成功した。しかし黄色の鉱物名は変わらない。


 思い出した! カスペルの話に出てきたレア度4の鉱物。名前がイシュタルとミストルティンだったぞ。と言うことは……。


「おおーっ!」


 念願のレア度4鑑定を習得した! やったぜ!


 え? でも1つは鑑定不能のままだぞ。


 もしかして……レア度5なのか。うん、そうだよな。レア度4を鑑定できる俺が鑑定できないならレア度5で間違いない。うへー、御伽噺と聞いたが、やっぱり実在するのね。どうりでこの鑑定不能だけは訓練効率が特にいいワケだ。


 精霊石鑑定レベルが31に上がっている。これがレア度4鑑定の条件と見ていいね。じゃあ次の区切りであるレベル36でレア度5を鑑定できるはずだ。うひょー、楽しみ。


 手元のレア度4はイシュタル2つとミストルティン2つだ。ミスリルは1%ばかりだったけど、この4つは3~5%と希少度の割に高い気がする。単に幸運だったか。或いはレア度4はこういう傾向なのか。


 いずれにしろ極めて高い価値である。とんでもない買い取り金額が期待できるぞ。あっ、でもコルホル村では鑑定不能の買い取りは一律30万だった。中身が分からないから値段の付けようがないそうだが。


 うーむ。ザファル王国も同じ運用ならば大損だぞ。こりゃ取り扱いをよく考えないとね。


 朝食を終えて備蓄食材の採取を始める。昨日の嵐で森の中は枝葉が散乱していた。根元から折れた木も見かける。いやはや強風の力は本当に凄まじい。


 おや、レッドベア1体とテラーコヨーテ2体か。進路を予想するに身を潜めてやり過ごす方がいいな。かなり接近するが見つかりはしない。


 もう1カ月以上魔物と共に過ごしている。お陰で幾らかはその生態を知ることが出来た。魔物は獣系、虫系、鳥系、トカゲ系、そして亜人種と分類されるが、主にF~Dランクは行動を共にする傾向があるらしい。


 例えばテラーコヨーテなら2~3体をよく見掛ける。たまにレッドベアも一緒だ。本来、魔物は縄張りがあるため他の魔物の接近を嫌がるが、Cランク以上の大型に限る様だ。Dランク以下は同じ魔物種や系統と仲良しっぽいね。


 別系統と出会った時に、一緒に蹴散らす仲間として群れているのだろう。まあこれも個体差があってテラーコヨーテを追い払うレッドベアもいる。多分、自信があるんだね。


 真横2mを魔物が通り過ぎる。


 いつぞや雨の日に冷たい雫で声を出して見つかってしまったが、あの時は音漏れ防止結界を施していた。単純にその範囲内まで魔物が入ってしまったのね。あの場合は範囲を狭くするべきだった。


 至近距離の魔物を眺めていると情報が出た。


『テラーコヨーテ

 レベル15

 発現:12日5時間43分

 装備:無し』


 ほほう、これは鑑定か。スキルを確認すると鑑定の派生に「魔物31」が追加されている。そのまんま魔物鑑定だね。どうやら基礎レベル31が習得条件らしい。


 もう1体のテラーコヨーテも鑑定を試みるが反応が無い。むむ。かなり効果範囲は狭いな。3mくらいか。


 レベルとは何のレベルだろう。攻撃力とかのステータスを指していないので分からないな。魔物そのもののレベルか。まあでも大体は想像はつくけどね。


 カイゼル王国の冒険者ランクはスキルレベルを元にしている。11~15がE、16~21がD、26~30がBなどだ。それは魔物に対峙する上でも1つの指標である。


 テラーコヨーテはEランク上位。スキルレベルに落とし込めば15だ。鑑定でもまんま15だね。うーん、これを知って何になるのか。


 発現とは地中から昇って来た魔素の柱が魔物に変わった瞬間だね。そこから12日経過していると。つまり誕生日は7月19日か。何とも微妙な情報だ。


 装備は魔物装備かな。無しと言うことは持っていない。へー、倒す前から分かるんだ。じゃあもし装備持ちがいたら、やり過ごさずにクエレブレまで引っ張ればいい。でも滅多にいないだろうね。


 んー、魔物鑑定か。見えるのはレベルと発現と装備だけで行使距離も短い。レベル31で覚えるにしては物足りない性能だ。レベルが上がれば役立つ情報があると信じよう。


 日が暮れて洞窟へ戻る。700個ほどの精霊石が集まった。残念ながらレア度4以上は無い。まあそうポンポン見つかったら全然レアじゃないよね。


 さて、鑑定偽装のために鑑定訓練も必要だが、他にも取り組むべき課題はある。1つはサラマンダーの指輪の定着期間延長だ。ただ14日以上残っているため急ぐ必要はない。もう1つは風呂だ。やはり体の痒みを抑えるためには洗うしかないのだ。


 従ってしばらくは湯量を確保するための水属性強化を優先する。湯温はサラマンダーの指輪があるから問題ないはず。試しに今一度に出せる最大水量4Lをお湯にして抽出する。


「あちっ!」


 熱湯が出た。盛大に体にかかって悶えたじゃないか。


 じゃあ42℃だ。


「あちっ!」


 まだ熱湯だ。一気に下げてみるか。


 ……ぬるい。30℃だな。


 じゃあちょっと上げよう。


「熱いって!」


 また熱湯だ。元が400℃だけに微調整が難しい。まあこの辺は水量増加と同時に慣れるしかないな。


 湯量の目標は20Lくらいか。何度も出せるから現在の4Lでも問題なさそうだが、定着時間が3分と短く、風呂に浸かりながらゆっくりできない。錬成の定着は水に効果が無いため、水属性スキルだけで残す時間を増やすしかないのだ。


 テマラ基地には浴場もあるが、浴槽は400Lなので広過ぎる。従って厨房の流し台を浴槽代わりに使う。深さが20cmしか無いが子供の身体なら何とか浸かれる。満タンにしても80Lほどなので、足し湯もそれほど忙しくないはず。


 洞窟は100mと長いのでお湯を出しては少しずつ進み、昇華する頃に開始地点に戻って進むを繰り返した。洞窟内は狭いので湯気が充満してサウナ状態だ。


 洞窟内70℃、湿度100%、このままでは整うを通り越して意識を失うぞ。


 ……マズい。一旦外に出るか。


 清涼結界。


「おっ!」


 急に涼しくなった。保温結界と同時展開で寒すぎることもない。なんと便利な組み合わせか。


 就寝の頃には湯量8Lまで増えた。明日1日頑張れば目標まで届きそうだ。

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