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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
260/321

第258話 トレジャーハンター

 7月24日、朝食を終えて洞窟に籠り訓練に勤しむ。昨日はスキル鑑定を覚えて有頂天になったが、直面する課題は解決していない。魔物装備の定着延長だ。


 最も定着期限の近い魔物装備はデスマンティス。そう、この山岳地帯に降り立ったあの日あの時、クエレブレが最初に倒した魔物である。運良く魔物装備を残してはくれたが、あと1日と7時間で消えてしまう。


 装備は指輪が2つ、風レベル2と範囲5%だ。範囲5%は右手の人差し指に装備している。あれからの検証で探知と結界の全効果範囲拡大が確認された。


 元の範囲が大きければ恩恵も大きい。魔物探知なら70mが73.5mである。その3mの差で発見が遅れる魔物もいると考えれば現状を維持したいところ。


 定着スキルは変わらずレベル19だ。昨日はオーク素材のお陰で様々なスキルが爆上がりしたが、もうその効果は薄れてきている。やはり亜人種とは言えEランクか。


 さてどうしよう。オーク素材も新たに手に入れば効果を期待できるはず。再びクエレブレを仕向けて回収するか。もしくは東の山のサラマンダー素材を使うか。ただ訓練を開始すると何故だか飛行系に見つかり易いんだよな。


 よし、オークだ。まずは縄張りを調査して個体数を確認しよう。かなり数が減ってしまったが、昨日、洞窟近くに3体は現れた。きっと他にも増えている。


 南の山の麓に到着。いるぞ。1、2……5体か。槍が3と棍棒2だな。少し範囲を広げると更に6体を発見する。槍3と棍棒2、そして剣1だ。合わせて11体か。一昨日は全滅に近かったのに、そこそこ発現しているね。


 フゴッ


 えっ!? 剣持ちがこちらに気づいた。隠密と結界は施しているのに何故。……いや気のせいか。でも一瞬、明らかな敵意を感じた。


 まあいいか。クエレブレの縄張りへ引き返そう。前回は俺も危なかったからクエレブレの行動には細心の注意を払わないと。


 クエレブレを引っ張りオークの縄張りへ走る。突然のAランク襲来にオークたちは散り散りに逃げるが、低空飛行で距離を詰めて確実に仕留めていく。長い尻尾は赤く染まっていた。


 11体全てを討伐しクエレブレは去る。素材と魔石は2往復で全て回収できた。魔物武器は今回も見当たらない。


 洞窟で一息つく。


 再びオークたちの蹂躙を目にして心が痛むかと思ったが案外平気だった。それよりもクエレブレへ対する恐怖心が甦る。兄貴と呼んで勝手に親近感を覚えていたが、あれは間違いなく凶悪な魔物だ。決して俺の味方ではない。


 個体は違うがメルキースの城壁を破壊し多くの騎士の命を奪った。クレスリンでもかなりの数の防衛部隊や警備を殺している。オークが死にゆく姿にその時の情景が重なり、改めて人間と魔物の距離を強く感じた。


 まだ覚えていないが基礎スキルには使役がある。御者や酪農、操石士に必要と聞くが、高レベルなら魔物を操れるかもしれない。もし実現したらペットの様な感覚だろうか。いやー、愛情を傾けるほどの存在とは思えないなぁ。


 さあ、そんなことより訓練だ。


「ありゃ?」


 スキルレベルを確認すると変化に気づく。探知の派生に「逆探知レベル21」、隠密の派生に「探知無効レベル21」が加わっていた。おー、そう言うことか! 先ほどのオーク討伐で抱いた違和感はこれだ。


 まずオークの剣持ちには探知スキルが備わっていた。対象は人物だろう。トシュテンの話では人物探知に気配消去は無効である。つまり俺の隠密を突破して存在を認識したのだ。しかし気配消去はレベル30なのに凄いな。


 すぐさま俺は逆探知を習得し、人物探知を行使している相手を特定した。同時に探知無効を習得して再び存在を消したのだ。レベル21の探知無効が有効ならオークの探知レベルは21未満と思われる。


 探知無効は任意にオンオフするパッシブスキルらしい。この環境ではオンにしておこう。町に出て探知無効を悟られると面倒な展開になりそうなので、その時はオフにするか。


 訓練を開始する。


 新たに入手したオーク素材は期待通りの効率を生み出す。やはり数を揃えて正解だった。昼前には定着レベル20となり、Dランク魔物装備の定着延長に成功する。期間は6カ月だ。


 残り2日だったエビルバッファローのブーツ(走力10%跳躍3%)そして残り3日だったレッドベアの手袋(腕力12%)も半年猶予が延びた。この2つを失うとかなり辛かったので助かった。ついでに他のDランク魔物装備も半年延長する。


 昼食後にはCランクも3カ月延長できた。手持ちでは未装備のドリルエレファントの腕輪(銛術18%)のみだ。これも残り3日だったが消えずに済む。町に出れば少しでも金になるだろう。


 さあ次はBランク、デスマンティスだ。


 しかしオーク素材の手応えは無くなり訓練効率が落ちる。それでもやり続ければ上がるだろうが、問題は明日に間に合うかだ。もし厳しいなら再びオークを狩って追い込みを駆けるしかない。


 ただ昼食に川原へ出た時には雲が多かった。明日、外に出られる天候とは限らない。今日のうちに確保したいが数時間でオークは発現しているのか。


 直ぐにオークの縄張りへ向かい調査するが魔物の姿は無かった。まだ時間が掛かるらしい。ならば東の山のサラマンダーだ。もうあれに頼るしかない。


 サラマンダー素材で定着訓練を試みる。うん流石はAランクだ。まだまだ手応えを感じるぞ。


 ギャアアース


 ちっ、またビリジアンホークか。訓練中断だ。しかし何故、隠密と結界が通じないのか。


 ……あー、もしかして。


 定着訓練は対象の魔物に成りきることで高い効果が得られる。現状はサラマンダーだ。あいつはもう何度と対峙したのでよく知っている。故にとても手応えがあった。


 隠密と結界は使用者に対して効果がある。つまり人間だ。俺がサラマンダーに成りきることで、そのスキル効果に綻びが生じていたら……。うん、可能性があるとしたらこれだ。思い返せば屋外での定着訓練時にのみ魔物は反応している。


 じゃあ仕方がない。面倒だがビリジアンホークをクエレブレまで引っ張るか。


 やや時間は掛かったがクエレブレは空中戦を展開して役割を果たす。しかしもう夕暮れだ。地形探知で暗闇でも動けるが流石に斜面はちょっと恐い。


 小雨が降りだした。


 ああ、この流れだと明日は雨だ。もう素材を運ぶしかないな。短めの牙なら何とかなる。歯根含めて長さ1mの牙を両肩に担ぐ。重いな。1本にするか。いやいや1本で足りなかったら終わりだ。


 慎重に斜面を降りて何とか洞窟まで辿り着いた。初めからこうすれば良かった気もする。まあいいや。今日は眠くなるまでひたすらサラマンダーの牙と向き合うぞ。


 22時過ぎ。眠気が限界だ。明日にしよう。



 ◇



 7月25日、この山地に来てから丁度1カ月だ。外は雨。あと8時間でデスマンティスの指輪は消えてしまう。洞窟に確保した素材訓練だけで何としても定着延長を成し遂げるぞ。


 とは言え正直もうサラマンダーの牙は見たくない。成りきりも雑になって来た。気分を変えてデスマンティス、ドリルエレファント、そしてオークと色々と試す。


 昼過ぎ。遂にその時は来た。右手人差し指にハマった黒く厳つい指輪は、僅かな光を放ちながら魔素に戻っていく。


 ……間に合わなかった。残念。


 まあ努力はしたのだ。仕方がない。それに魔石は何とか間に合った。これだけでも十分な成果だ。


『デスマンティス

 定着:29日22時間37分

 含有:750,950

 出力:17

 感度:54』


 期間は1カ月。他にCランク3カ月、Dランク6カ月、Eランク1年と延長に成功している。


 魔物素材はAランクも定着を延長できた。


『サラマンダーの牙

 接合:無し

 定着:1カ月20日4時間21分

 成分:F32 L31 R35

    G24 A26 W22

    H55 D54 М53』


 期間は1カ月。これで素材は全てのランクを定着延長できる。恐らく接合延長も可能だ。どうやら魔物素材、魔石、魔物装備の順で難易度が高くなっているね。


 残るは魔石Aランク、魔物装備BランクとAランクだが、サラマンダー関連はまだ20日の猶予がある。定着レベルは21に上がった。訓練を続けていれば十分間に合うはず。


 いやはや、昨日から集中する時間が長くて疲れたよ。時間に追われるって本当にしんどいね。もう今日は休息日とするか。雨も降ってるし。



 ◇



 翌日、7月26日。晴天だ。地面も十分乾いている。朝食を終えて備蓄食料を確保していると明らかな感覚の変化に気づいた。


 精霊石が見える。


 茂みの中も、川の底も、そして地中までも、しっかりとその存在を確認できた。試しに目を閉じれば頭の中に方向と距離が浮かび上がる。人物鑑定では探知の派生に「精霊石レベル31」としっかり記されていた。


 遂にやった。精霊石探知を覚えたぞ!


 範囲は俺を中心に地上半径75m、地下半径3mの球状だ。今見えるだけでも地表13個、川底17個、地下2個の精霊石を確認できる。地面はこんなにも見落としていたのか。


 早速回収を始めると次々に周りの精霊石が探知される。それを拾いに行くとまた更に先へ、そしてまた先へ。そりゃそうだよね。キリが無い。お陰でリュックは直ぐに一杯になった。


 一旦洞窟へ戻り、精霊石探しを再開する。地下3mまで探知するので多少砂に埋もれていようが掘り起こす。夢中で集めていたら昼前になった。何個あるか。ざっと500個か。


 一通り鑑定する。


「うひょー!」


 鑑定不能を発見。これこそ思い描いていたトレジャーハンターだ! うはー、嬉しい! 最高の気分だ! もう洞窟の外が宝の山にしか見えないぞ!


 その日は夕方まで精霊石探しに没入する。もう子供だな。


「あれ?」


 洞窟へ向かっている途中、違和感に気づいた。


 俺の影が無い。


 いつもなら夕日に照らされて長く伸びる影が全く地表に映し出されていなかった。急いでスキルを確認すると隠密の派生に『影消去レベル31』が追加されている。


 影を……消すだと。


 た、確かに前世は影が薄い人間だったかもしれない。だからって消されてしまうと何だか寂しい。おっ、出た。なるほどこれも任意にオンオフのパッシブスキルか。いやしかし影が無いなんてまるで幽霊だな。幽霊見たこと無いけど。


 あー、これってかなり凄いぞ! 足音を消しても、気配を消しても、擬態で溶け込んでも、探知を無効化しても、影だけは残る。その唯一残った存在の手掛かりさえ消してしまうのか。何と恐ろしいスキルだ。


 つまりこんなことも出来る。地表に寝そべって20cm浮遊する。そのまま空中移動すれば足跡も残さない。目標に辿り着けば音漏れ防止結界を施して悲鳴を上げながらの暗殺も可能だ。


 俺は一体、何を目指しているのか。


 洞窟に戻り、検証を失念していたスキルを試す。そう色彩偽装の効果時間だ。町に下りて寝床を確保しても、起床前に元に戻った頭髪色を目撃されたら確実に怪しまれる。つまり最低でも8時間以上の継続が必要なのだ。


 検証の結果、オンオフ可能なパッシブスキルに変わっていた。足音消去も擬態も同じだ。恐らくは気配消去も。どうやら一定レベルを超えると性質が変わるらしい。探知無効がレベル21なので、そこが境界線だろう。


 よし。これで1つ懸念材料が払拭された。残るは鑑定偽装だ。もちろん下山途中に石の部屋を自作して、その中で夜を明かせば安全ではある。ただよく考えたら保温結界が切れれば目を覚ます。その時、再度全ての結界を施せば同じことである。


 隠密が睡眠中も有効なら滅多なことは無いはずだ。もちろん継続には魔力を消費するだろう。でも俺は異常な魔力操作で何も感じない。今まで隠密関連は常に重ね掛けしていたほどだ。むしろ無駄な魔力消費を抑えられる。


 いやしかし我ながら境地に達していると思う。現状でもかなりの危険人物だぞ。この上、鑑定偽装を習得したら何処にでも潜り込める。もうクレスリン突破なぞ容易いことだろう。


 現在、隠密レベル31、人物鑑定レベル25だ。確かエリオットは鑑定偽装の存在を文献から知り得た。文献だぞ? 神が封印した力はレベル41以上のはず。そんなの文献で残るレベルじゃない。数万年前だ。


 つまり鑑定偽装は割と現実的なスキルなのではないか。もちろん選ばれた人間が辿り着く境地だが、そんなのもう俺は達している。レベル31以上は冒険者ならAランク相当だ。現在、探知、感知、隠密が31である。トリプルAランクだぞ。


 恐らく人物鑑定レベルが鍵と見た。次の区切りはレベル26だからあと1つ。そこで覚えなくてもレベル31に到達すればかなり期待できる。


 よし、鑑定訓練に全力を注ごう。丁度、精霊石を大量に集められる環境となったばかりだ。その上、鑑定不能に鑑定を試みるとかなりの手応えを感じた。つまり訓練効率が高い。数を揃えればレベルアップも大いに捗るぞ。


 それにしても、こんなに充実した成長を遂げているのに、一緒に喜んでくれる人がいないとちょっと寂しいな。1人で興奮していると余計に切なくなる。


 きっとソフィーナは涙を流し、ミランダは高笑いだ。クラウスは呆れるかな。フローラは大興奮だろう。それにフリッツ。あなたに俺の成長を、神の封印を次々と解放する姿を見せてあげたい。


 ミランダの話ではカイゼル王国の平均寿命は67歳だ。フリッツは62歳。かなり鍛えているし、長生きと言われる70歳まで心配ないだろう。このザファル王国がゼイルディクからどれだけ離れているか知らないが、戻るまで8年なんて掛からないはず。


 ゼイルディク伯爵は65歳だったか。ミランダの話では、最近魔力低下が著しく、もう1~2年のうちにエナンデル子爵が爵位を引き継ぐらしい。つまり寿命だ。あの人も色々と思惑があるだろうが、最後は全面的な協力を示してくれた。


 その日が来る前に、何とか元気な姿を見せてあげたいね。

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