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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
257/321

第255話 魔物装備

 7月20日、午前2時。寒さで目を覚ます。ここは洞窟内の砂地だ。お布団の偉大さを再認識したが、同時に訓練の妨げであると確信した。寒さで目覚めたくないなら保温結界の効果時間を延ばせばいい。体に覚え込ませるのだ。


 鍛錬とはスキルだけではなく精神を鍛えること。雑念を取り払い訓練対象と真剣に向き合えば、おのずと道は開ける。とても若い女性の下着に指を入れながら探知訓練をしていた人間とは思えないな。


 いやまあ、あの環境は良かったよ。正に天国だった。でも上達はしない。


 再び眠りにつくと午前5時前に目を覚ます。現在、保温結界の効果は5時間だ。8時間は持って欲しいから頑張らないと。


 昨日は精霊石鑑定に大きな進歩があった。成分鑑定だ。ただ効果は水と土だけで火と風はまだ何も出ない。まあ火の成分なんて無さそうだから元々見えないのだろう。風も同じ理由かな。


 天候は晴れ。まずは朝食と備蓄食料調達だ。


 川へ向かう途中、トイレ付近の散乱した魔物素材が目に入る。排泄物には敢えて臭い漏れ防止結界を施してないため、魔物が引き寄せられクエレブレが討伐したのだ。ここを離れていた間もしっかり仕事をしてくれたね。


 むっ、この感じは……。


 方向、距離……あそこだ。


『レッドベアの腕輪

 定着:20日4時間12分

 帰属:未

 特殊:斧技(6%)』


 ぬう、斧か。


 おやあっちにも反応がある。


『ブラッドジャガーの指輪

 定着:9日10時間2分

 帰属:未

 特殊:感度(3%)』


 感度? 何だそれ。あー、精霊石の項目か。恐らくほんの少し出し易くなるんだね。


 むっ、待てよ。何故、魔物装備の場所が分かった。これはもしかして探知か。どうやら魔物装備の所在を知る探知スキルを覚えたらしい。はは、やったぜ。


 ひとまず今は朝食だ。探すのはその後。


 焼き魚を食べて2食分の食材を確保する。洞窟に保管して魔物装備探しに出発だ。クエレブレの縄張りを中心に探索したところ、計6個の魔物装備を発見した。


『ドリルエレファントの腕輪

 定着:8日1時間5分

 帰属:未

 特殊:銛術(18%)』


 銛術? モリってあの魚を獲る道具だよな。あれの扱いが向上するのか。18%って約1.2倍だぞ。結構、体感で変わりそうだ。ただ俺が銛術を覚えているは分からない。


『レッドベアの指輪

 定着:6日7時間37分

 帰属:未

 特殊:火属性(2%)』


 へー、属性が良くなるのか。火なら出せる炎の大きさや時間、それに温度とかかな。


『デスマンティスの指輪

 定着:6日6時間21分

 帰属:未

 特殊:風属性レベル2』


 これも属性だが割合ではなくレベルだ。例えば風属性20だったら22になるのかな。えっ、割合換算なら10%だぞ。元がレベル10なら20%、レベル1なら200%だ。これは凄い。流石はBランク装備と言えよう。


『デスマンティスの指輪

 定着:6日6時間21分

 帰属:未

 特殊:範囲(5%)』


 範囲とはスキルの効果範囲かな。例えば探知半径60mなら63mになると。100mなら105mか。へぇ、これはちょっと嬉しい。


『サーベルタイガーの指輪

 定着:17日9時間51分

 帰属:未

 特殊:出力(2%)』


 出力とは精霊石の項目かな。一度に出せる量がちょっと増えるのだろう。


 ふーん、魔物装備って色々あって面白いね。


 あっ! サラマンダー! あの時は見つからなかったけど、探知を覚えた今なら探し出せるはず。早速、東の山肌に向かい探知を行使する。効果範囲は10mほど。亀裂の底に落ちていたら高さによっては難しいな。


 うーむ、見つからない。多少の堆積物があっても探知できるから、砂に深く埋もれたか、或いは亀裂に落ちたかだな。……亀裂を途中まで下りてみるか。


 サラマンダーの激突した辺りを中心として放射線状に何本もの亀裂が走っている。深いところは30m近い。その壁面を慎重に下りる。


 5mほど下ったところで足場が崩れ転落するが、空中浮遊で底面への激突は免れた。やれやれ、そんな気はしてたがな。底は幅30cmから1mほどで砂が堆積している。山のすそ野に向かって注意深く探知を試みる。


「きた!」


 2つの反応を確認。すぐさま近寄り回収する。


『サラマンダーの腕輪

 定着:25日3時間15分

 帰属:未

 特殊:共鳴率(11%)』


 おー、共鳴率か! 流石はAランクだな。いい装備じゃないか。まあ俺には必要ないが。


『サラマンダーの指輪

 定着:25日3時間15分

 帰属:未

 特殊:火属性レベル5 温度400度』


 火属性がレベル5も上がるのか! かなり凄いぞこれ。そして温度400度? それって火の温度かな。まあ鉱物なんかの融点を考えたら大幅な底上げにはなるよね。でもこの世界は精霊石由来の鉱物ばかりだから活躍の場面は少ないかも。


 他にも反応が無いか慎重に探すが見つからない。どうやらこの2つだけだね。帰ろう。


 洞窟に戻りひと息つく。


 魔物装備は合計10個見つかった。内訳は腕輪3と指輪7だ。指輪はかなり小さいので魔物装備探知が無ければ見つけられなかった。いやー、本当にいいスキルを覚えたものだ。もう基礎スキルの探知もかなり上がっているはず。


 さて、サラマンダーやデスマンティス装備のお陰で間違いなく訓練は捗る。しかし本来は装備して使うもの。ミランダの話では腕輪は片腕1つずつで計2個所が同時に装備可能だ。現在、合わせて4つが手元にある。


 サラマンダー   共鳴率11%

 ドリルエレファント 銛術18%

 レッドベア      斧技6%

 サーベルタイガー   槍技5%


 今後、人里に下りてどういう展開になるかは不明だが、生きていくためには金が必要だ。でも俺自身が換金すると間違いなく怪しまれる。例えば協力者に頼むか、或いは身元保証人としての対価に贈与するか。


 共鳴率11%加算の腕輪なんてかなり価値だ。ミランダの話ではジルニトラの腕輪が共鳴率5%だった場合、希少性を含めて500万が妥当であると。このサラマンダーの腕輪は11%だ。低く見積もっても800万は固い。


 うん、これは装備するべきでは無いね。そもそも俺には何の恩恵も無い。となると銛術か、斧技か、槍技だが。どれも俺には関係ないな。銛術はまあ、覚えていたら意味はあるが、現状でも漁に苦労はしていない。


 よし、全部未装備で置いておこう。


 続いて指輪だ。


 サラマンダー  火属性レベル5

          温度400度

 デスマンティス 風属性レベル2

 デスマンティス    範囲5%

 エビルバッファロー 水属性3%

 レッドベア     火属性2%

 サーベルタイガー   出力2%

 ブラッドジャガー   感度3%


 手の指は左右合わせて10本あるよね。指輪は7つだから全部装備可能だ。でも換金などの用途を考えると残しておきたい気もする。サラマンダーの指輪なんか火属性レベル5だからかなりの価値だぞ。1,000万は軽く超えそうだが。


 うーん、どうしよう。正直、焼き魚に焚火を用意するのが面倒なんだよね。火属性がもうちょっと上がれば精霊石からの火力だけで賄えるのだが。


 よし、装備しよう。やはりより良い環境整備が優先だ。


 サラマンダーの指輪に装備と念じて魔力を送る。すると右手の中指にスポンとハマった。鑑定では帰属が済に変わっている。これで俺専用になった。


 早速、精霊石から火を出す。


「おおーっ!」


 50cmほどの火柱が勢いよく立ち上がる。試しに高さを落とすと範囲が広がった。これはいい。何個か並べればバーベキューも余裕だな。


 続いてデスマンティスの指輪、範囲5%を装備する。確かに探知範囲が少し広がった。もしやと思い結界を施すとこちらも僅かに範囲が広がる。まさか効果範囲を有するスキル全てに有効なのか? これってぶっ壊れでは。


 まあ流石にそれは無いか。追々試していこう。


 続いてエビルバッファローの指輪、水属性3%を装備……あれ? できない。何故だ。何度も装備と念じながら右手を近づけるが指輪は飛んでこない。仕方ないので自ら指にはめてみる。しかし帰属は未のままだ。


 もしやと思い左手で試すとスポンとハマった。ああ、なるほど。片手2つまでか。そりゃ両手で10個って流石に多いとは思ったけどね。


 試しに水を出すと僅かに水量が増えた気がする。おや? 水温が30度くらいあるぞ。この温度はコップ1杯が限界だったか上達したのか。いいね。風呂に近づいたぞ。


 水量を減らせば温度は上がるかな。


「あちっ!」


 出した水が跳ねて体にかかると高温だった。照明の魔導具に照らされて湯気も見える。もう一度出して確かめると明らかに熱湯だ。恐らく100度に近い。


 どういうこと? あっ、もしや!


 試しに風の精霊石を使うと火傷するほどの熱風が出力された。あー、これで分かったぞ。サラマンダーの指輪だ。特殊の400度とは火だけではなく水や風にも有効だったのか。何と言うぶっ壊れ性能だ。


 試しに土を出すが温度に変化は無い。こっちは無効か。


 いやしかし、これで風呂にかなり前進したぞ。あとは水量だ。じゃあ残りの左手はサーベルタイガーの指輪、出力2%にするか。恐らく4属性全ての精霊石に有効だ。試してみると僅かに増えたっぽい。やっぱりあの鑑定項目の出力だ。


 右手、サラマンダー火レベル5と400度、デスマンティス範囲5%、左手、エビルバッファロー水3%とサーベルタイガー出力2%か。右手のインパクトが強いな。


 他の魔物装備はブーツと手袋だ。エビルバッファロー走力10%跳躍3%、レッドベア腕力12%を引き続き使おう。ベルトは未だに手に入っていない。


 しかし定着期間が残り少ないな。ブーツは7日1時間、手袋は7日22時間だ。最も古い装備はデスマンティスの指輪で6日6時間しかない。何としても昇華までに魔物装備の定着延長を習得せねば。


 その日は魔物素材と魔石も加えて定着訓練に時間を費やした。



 ◇



 翌日、7月21日。今日も朝から定着訓練に勤しむ。


『ヘルラビット

 定着:3ヶ月26日14時間

 含有:365

 出力:20

 感度:81』


 おおー! 来た! 魔石の定着延長に成功したぞ! ヘルラビット、つまりFランクを3ヶ月延長か。魔物装備ってランクはあるのかな。落とした魔物が反映されるならFランクからは出ていない。となるとEランクのブラッドジャガーが一番低いか。


 洞窟にこもってひたすら訓練を続けていると夕方には成果が現れた。


『ブラッドジャガーの牙

 接合:19日9時間45分

 定着:3ヶ月19日9時間45分

 成分:F02 L01 R01

    G03 A01 W01

    H15 D13 М17』


 来たぞ。Eランク素材の定着延長だ。



 ◇



 翌日の7月22日も朝から定着訓練を行う。鑑定や隠密も取り組みたいが、魔物装備を失っては色々と都合が悪い。今優先するべきはこっちだ。最も近い定着期限は7月25日14時、今日を含めて4日も無い。急がないと。


 おお、そうだ。東の山のサラマンダー素材、持ち帰るには大きすぎて無理だが、現地なら定着訓練を行えるぞ。よし行こう。


 山肌に張り付いてひたすら訓練を続ける。


 昼前に少しだけ手応えを感じた。持って来た魔物装備に定着を試みる。


『ブラッドジャガーの指輪

 定着:3ヶ月7日6時間45分

 帰属:未

 特殊:感度(3%)』


 来た! Eランク装備を3カ月延長だ!


 よーし、よし。やはりサラマンダー素材の訓練は効果が大きい。流石Aランクは格が違うぜ。


 むっ、上空に魔物。ビリシアンホークか。2体だな。


 ……。


 くっそう、なかなか遠くへ行かない。もちろん隠密と結界は機能しているが、定着訓練を始めると何故だかビリジアンホークは向かって来る。訓練時の魔力に反応しているのか。


 ええい、これでは時間がもったいない。ひとまず洞窟へ戻ろう。



 ◇



 洞窟に持ち込める高ランク素材がもっと欲しい。まあそこのデスマンティスでもいいが、入り口の優秀な見張りを失うワケにもいかない。こいつは最後の手段だ。


 となるとケルベロスか。しかし30kmもクエレブレを引っ張るのは現実的ではない。ではケルベロスを使ってアムドムラを討伐し、その魔石や魔物装備を持ち帰る。或いはゲルミン川流域の高ランク同士を戦わせて素材回収。


 うーむ、不確定要素が多すぎる。それに武器の無い今としてはミデルト基地に行くだけでも最低1日掛かる。そこから更にゲルミン川まで1日だ。尚且つケルベロス周辺で安全な寝床なんてあるだろうか。


 ちょっと厳しいな。これは近場で高ランクを探すしかない。よし、少し奥地まで探索しよう。


 いや待てよ。魔素の柱理論を思い出せ。デスマンティスの縄張りには再びデスマンティスが現れた。ならばサラマンダーの縄張りにもサラマンダーが発現しているのでは。


 おおそうだよ、よく考えたら直ぐ近くにAランクが存在する可能性があった。クエレブレも一度勝利した相手だ。次は余裕を持って戦える。


 早速、南の山、その裏側へ足を伸ばす。


 ただあのサラマンダーは大型個体だったのでそれなりの年月を生きてきたはず。恐らく10年、いや20年、それ以上かもしれない。その期間に地下の発現要因に変化が無ければいいのだが。


 かつての縄張りの中心から800mの距離まで到達。Aランクなら体の一部が見えるはず。


 うーむ、いない。もう少し近づいてみよう。


「えっ!」


 人影が見えて岩陰に身を潜める。今、あそこに人がいた。レッドベアではない。身長2mほどの、間違いなく人の形だった。


 胸の高鳴りが増す。落ち着け。何かの見間違いかもしれない。


 岩から頭を出して注意深く観察する。やっぱり人だ。距離100m。何か棒のような物を持っているな。むっ、近くにもう1人いるぞ。


 どういうことだ。下流域の復興はかなり難しいぞ。まだまだ人が戻れる環境では無い。まさか山脈の向こうからまた別の国の人間が奥地へと入ったのか。でも4000m級の山脈だぞ。あんなの超えられるとは思えない。


 その人物が70mまで近づくと魔物探知に反応があった。


 えっ! 魔物? これはEランク相当だ。


 まさか……。


 50mまで近づき顔もよく見える。


 あれはオークだ。亜人種、創作じゃなかったのか。

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