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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
252/321

第250話 武器

 7月16日、晴天。


 昨日はクエレブレがサラマンダーを討伐した。お陰でAランク素材や魔石が手に入ったが、よく考えるとかなり凄い事である。Sランクを除けば現実的に手に入る最も訓練効果の高い素材だからだ。


 その恩恵は早速結果となって表れる。人物鑑定の習得だ。実のところ自分に鑑定を行使したのが初めてだっただけで、スキル自体は既に覚えていた可能性もある。


 ただ基礎レベル条件を考えると疑問も浮かぶ。フローラの話では鑑定レベル16以上で精霊石、21以上で人物鑑定を覚える可能性がある。精霊石鑑定を覚えたのは4日前だ。この僅かな期間で基礎レベルが5つも上がったのか?


 もちろん訓練効率はかなり良かった。実際、魔石や魔物装備の詳細が見える様になったし。……まあいいか。100万の英雄の力に常識は通用しない。むしろ結界、探知、隠密の成長に比べれば遅いくらいだ。


 人物鑑定も習得はしたが、名前、生誕、洗礼、祝福、住所の5項目しか見えない。鑑定士マースカントの鑑定結果にはもっと多くの情報が網羅されていた。スキル群も気になるので引き続きレベル上げを頑張ろう。


 となれば鑑定訓練に多くの魔物素材や精霊石が必要だ。今日はテマラ川沿いに精霊石探しを重点的に取り組もう。


 下流へ向かっていると異変に気づいた。川の水量が増している。進めば進むほど水位は上がり、遂に川原を越えて茂みにまで水が浸入していた。何が起こっているのか。


 更に下流へ進むと答えが分かった。川が塞き止められている。昨日の戦闘で東の山から大量の土砂が崩れ落ち、自然のダムを形成していたのだ。


 山肌は大きくえぐられ断崖絶壁と化している。正しく深層崩壊だな。この土砂の量だと一時的なダムではなく、川の流れ自体が変わりそう。


 おっ、これはチャンスかも。川底には多くの精霊石が沈んでいるが浅瀬以外の回収は難しい。しかし今なら下流域の水位は大幅に下がっているはずだ。


 早速、土砂ダムに登り確認すると、昨日まで川幅20mだったテマラ川にはほとんど水が流れていなかった。川底だった砂地を歩くと次々と精霊石が見つかる。うひょー、何と簡単なお仕事か。


 あまりに多く見つかるためブーツリュックは直ぐに満杯だ。洞窟まで往復する時間が勿体ないので、ひとまず森の中に積み重ねておこう。もし土砂ダムが決壊すれば、ここは再び川底だ。とにかく地上へ移動させれば後で回収も出来る。


 調子に乗って精霊石集めに夢中になる。土砂ダムから2kmは進んだか。もう600個以上は回収しているぞ。本当に思わぬボーナスタイムとなった。


 おや? 見覚えのある突起物が砂から覗いている。近づいて確認するとやはり剣の握りだった。砂から引き抜くと75cmの剣身が姿を現す。


 はは、武器だよ。何だか久々に見たな。


『ミスリル合金

 定着:3日9時間23分

 製作:ガニム武器商会』


 ミスリル合金? 初めて見るな。そう言えばフローラの話では、遠い国にはミスリルやオリハルコンなどカイゼル王国には無い鉱物があると。これがそうなのか。


 はっ!? 定着期間が3日だと!? ぐぬぬ、せっかく武器を手に入れたのに、使える期間があまりに短いではないか。


 おや、剣身の付け根にポーラと刻まれている。持ち主はテマラ調査隊の彼女か。ん? 武器の定着期間って最長3年だよな。つまりこの武器は3年前に作られた可能性が極めて高い。


 そうか分かったぞ。ザファル王国暦12年は3年前だ。テマラ基地が完成したのも、ジュナイドやポーラが死んだのも、下流域が魔物襲撃で壊滅したのも、全て3年前の出来事である。


 恐らくポーラは最前線に配属が決まって武器を新調したのだ。そして2カ月掛けてミスリル合金の扱いを習得した。


 剣を構える。


 ポーラ。あなたはこの剣と共に数々の成果を上げるはずだった。しかし運悪くこんな山奥で力尽きてしまう。きっと魔物に川まで追い込まれても勇敢に戦ったのだろう。


 この剣はその役割をほとんど果たしていない。俺が拾ったのも何かの縁だ。本来の武器としての力を、いや通常では届かない限界の力を、残り3日ではあるが存分に発揮してもらおう。その方がポーラも喜んでくれるはず。


 強化共鳴。


 キイィーン


 共鳴の感じはシンクルニウムと同じだ。銀色の剣身も、真っ白な共鳴光も、シンクルニウムと酷似している。


 ……。


 鉱物変化の手応えは無い。でも念のため変化共鳴を試してみるか。


 キイイィィーーン


 くっ、50%辺りから極端に魔力操作が難しくなった。恐らくはシンクルニウムと同じ現象だ。つまり鉱物特有の波長に魔力を合わせれば突破できる。


 ……どれだ。


 ……。


 来た!


 キュイイイィィィーーーン


 よーし、よし。100%到達。


 じゃあ変化共鳴だ。


 ギュイイイィィィーーーン


 110%、120%、130%……。


 うーむ、何も変わらない。170%まで上げてみたがミスリル合金のままだ。


「ハァハァ……」


 流石に初めて触る鉱物は疲れたな。休もう。


 さて、武器が手に入ったはいいが3日で何ができる。もちろん魔物討伐は可能だが、クエレブレに任せれば同じこと。となるとクエレブレに頼れない場面での活用が有力か。


 よし、ミデルト基地へ行こう。


 テマラ基地からサビク川沿いに12km下流がミデルト基地だ。普通に歩けば3時間で辿り着くが、魔物対応で大きく時間をロスするため、恐らく片道6時間は要する。朝一にテマラ基地を出ても日が暮れるまでに戻れるかどうか。


 しかし武器があれば魔物を倒せるため、立ち去るまで待つ必要はない。ポーラがどれほどの腕前だったかは知らないが、最前線を任されるなら上位と見ていい。このミスリル合金も相応しい能力を持っているはず。


 俺は剣技15だが高い共鳴率で戦えばほとんどの魔物に通じるだろう。


 むっ、南からテラーコヨーテ2体か。試すには丁度いい相手だ。


「ヘイ! カモン!」


 ガオオオッ


 お前の動きはよく知っている。跳び掛かりを回避し、一気に間合いを詰めて首を落とす。


 スパン


 ほう。もう1体。


 スパン


 ほほう。これは強いぞ。まあ強化共鳴100%ならどんな武器でも強いが。斬撃の入る感じから推測するとシンクルニウムより少し威力がある。それに共鳴効率も高い。恐らくトランサイトと同等だ。


 へー、ミスリル合金か。いいねこれ。


 おや、もう1体テラーコヨーテがいるぞ。そうだ。ちょっと試してみよう。


 敢えて魔物の進行方向に回り込み、隠密と結界を行使して身をひそめる。俺の至近距離に迫っても全く気づいていない。目の前にテラーコヨーテの首が近づく。


 スパン


 無言で距離を詰めて剣を振り下ろす。魔物は俺の存在に気づくことなく頭が地面に転がった。もうこれ暗殺じゃないか。


 もっと上のランクも試してみよう。魔物探知を駆使し、ほどなくレッドベアの単独行動を発見する。魔物の進行方向に待ち伏せして、通り過ぎたところで後ろから右脚を切り裂く。


 ガアアア!


 突然の襲撃に怒りと困惑が読み取れる。俺は茂みに身を転がし存在を消していた。魔物の視界外に入ったのを確認して再び後ろから右脚に切り込む。


 ゴガアアアッ!


 両腕をブン回し雄叫びをあげる。かなり怒っているな。もう一度、右脚だ。


 グオオオ……。


 遂に片膝をついた。その再生に意識が集中している。今度は正面から切り込み、腕に一太刀あびせて直ぐに姿を消す。魔物は頭を振り襲撃者を探している。


 慎重に背後に回ると背中を駆け上がり、首筋に剣を突き立てた。すぐさま駆け下りて再び姿を消す。太い動脈を切ったらしく大量の出血が止まらない。魔物は片腕を突いて完全に動きが止まった。


 再び背中を駆け上がり首筋により深く剣を突き立てる。鮮血が吹き出し魔物は前のめりに倒れた。ほどなく血肉が消え始める。


 6発か。Dランク中位ならこんなもんだろう。トランサイトの魔素伸剣があれば一撃で身体を真っ二つにできるが、このミスリル合金には備わっていない。まあ剣身75cmなら上出来だ。


 いける。大型は手数が必要だが十分倒せるぞ。


 それに先ほどの戦闘で気づいたが足音消去の性能が上がっている。以前は歩く速度だけで有効だったが、今は全力疾走でも効果が継続している。加えて地面との摩擦による減速時にも音が出なかった。更に木の枝を踏んでも無音だ。


 うん、これならより安全に魔物を討伐できる。ミデルト基地まで多くの魔物に遭遇するだろうが、手際よく片付けられるぞ。よーし、今日はテマラ基地に宿泊して明日朝一で出発しよう。


 もちろん下流域の復興次第ではテマラ基地へ人が帰って来るかもしれない。3年も過ぎていればその可能性は十分ある。しかし向こうも夜には移動しないはず。ミデルト基地を足掛かりにしても出発は朝だ。


 つまりテマラ基地に宿泊して朝一で発てば、拠点で鉢合わせはしない。道が整備されていないので向こうは河運を利用して上がって来る。俺は森を進むので道中も見つかりはしない。


 日が暮れるまでテマラ基地周辺で活動して、誰も来なければそのまま宿泊しよう。


 食料を調達しながらテマラ基地へ向かう。Eランク程度の魔物は討伐しながら進んだので昼過ぎには辿り着いた。城壁出入り口の草が踏まれていないかを確認して、施設内へ侵入する。


 あっ! 東棟の鍵が掛かった玄関を見て思い付いた。これって剣で破壊できるのでは。


 扉は引き戸で金属製だ。恐らく鍵穴近くの戸先にフックがあり、それが戸枠の鍵受けに収まってロックされている。つまり鍵穴と戸枠の間を縦に切り裂けば、フックが切断されて扉が開くはず。問題は剣身の耐久力だ。もし折れたら貴重な武器を失ってしまう。


 さあどっちを取る。ミデルト基地への快適な道中か、目の前の東棟の設備か。


 いやよく考えたらミデルト基地から戻った後に鍵破壊を試せばいいじゃないか。そもそもミデルト基地が無傷放棄ならきっと施錠されている。鍵破壊は向こうで試すかもしれないぞ。


 武器の定着はあと3日と4時間だ。決して多くは無いが猶予はある。慌てることなくまずは情報収集を優先するべきだ。むしろ剣身が昇華する直前、最後の一太刀を鍵破壊に使えばいい。そこで折れても問題は無い。


 午後からテマラ基地周辺で食材確保と精霊石探しを続ける。近くに現れたレッドベア、テラーコヨーテ、ブラッドジャガー、そしてビリジアンホークは全て倒した。暗殺戦術がとても楽しい。俺は一体、何を目指しているのだろう。


 夕暮れ時でもテマラ基地周辺に人の気配は感じないため、今日は誰も来ないと見ていい。城壁をよじ登り施設内へ降り立つ。炙ったキノコと山ブドウを頬張り腹を満たす。


 ポーラのベッドと布団は、風呂に入るまで使わないでおこう。会議室の椅子は座面が布で覆われており、中には綿が入っている。これを3脚ずつ向かい合わせに並べれば簡易ベッドの完成だ。砂に比べれば極上の寝床である。


 早めに寝て明日暗い時間から活動を始めよう。

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