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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
241/321

第239話 新たな食材(地図画像あり)

 午前5時を過ぎて辺りが明るくなってきた。寝床の穴から壁面を上り地表へ降り立つ。天候は晴れ。風向きは南南西3mほどか。気温は3度で乾燥している。


 半径30mに魔物はいない。高い木は無いため見通しはいいが岩が点在するため死角はある。テラーコヨーテくらいなら隠れてしまうので、隠密を行使しながら慎重に木苺地点を目指した。


 もちろん見つかればクエレブレに引っ張るだけだし、魔物装備の調達を期待すれば、むしろ魔物との遭遇は歓迎されるべきだ。でも今は朝一で腹も空いている。なるべく全力疾走はしたくない。


 寝床から東へ300mのトイレ地点に近づくと角や爪らしき魔物素材が散乱している。鑑定するとサーベルタイガーだった。昨日の排泄時には無かったので夜中に迷い込んだのか。いや臭いに釣られてクエレブレの縄張りに入ってしまったのだ。


 せっかくなので魔物素材の定着を試みる。サーベルタイガーは何度か交戦経験があるため、魔物になりきりながら定着を施した。


 ……。


 うーむ、出来ない。やはりDランク魔物は定着レベルが足りなかったか。ひとまず食事中に訓練するため爪を1本持って行こう。


 魔石も1つ発見したので拾う。素材は3~4頭分ありそうだが他の魔石は見当たらなかった。探せば見つかるだろうが、あまり止まっていると魔物に発見される危険性もある。長居は無用だ。


 ただこの場所をトイレとしたのは正解だったかも。臭いに釣られた魔物が勝手にクエレブレの縄張りへ入るため、俺が引っ張る必要はない。安全に素材だけ確認できるじゃないか。


 トイレから東へ400mの木苺地点へ到着。茂みに身を潜めながら魔物探知を行使して安全に食事を終える。腹は膨れたがやっぱり木苺は飽きたな。いや贅沢言っちゃいかん。食べ物があるだけありがたい。


 とは言え木苺も無限ではない。別の食材を求めて茂みの奥へ足を伸ばそう。北東方面には森らしき木の密集が見られる。あそこにはきっと何かある。


 木苺から東へ10mほど進むと地形探知に特徴的な反応があった。川だ。なんだ、こんな近くに流れていたのか。地形探知は半径40mなので木苺地点からは僅かに範囲外だったらしい。


 茂みを掻き分け東へ進むと川原へ出た。川幅は20mほどか。水は透き通っており清流と言える。ぼんやりと川底が見えるため水深は1mほどだろう。流れはやや速いが歩いて渡れないことはない。


 むっ、南30mに魔物反応だ。数は3つ。どうやらEランクっぽいな。クエレブレは相変わらず縄張りの中心で突っ伏していた。ここから600m離れているが僅かに巨体の一部が見える。うーむ、まだ見つかっていないし後回しでいいか。


 ひとまず北へ川沿いに向かおう。そっちで魔物に遭遇すればさっきのと合わせて引っ張ればいい。うん、討伐は効率よくね。クエレブレなら数が相手でも余裕だ。


 川の下流を目指して歩く。100m先には森が見えてきた。松や杉らしき針葉樹が多い。対岸にも同様に森が広がっていた。あれはモミの木っぽいぞ。クリスマスツリーなんかに使われる常緑樹だ。根元には食用のアカモミタケがあるかもしれない。


 チャプン。水面を魚が跳ねた。


 おおっ! よく考えたら魚がいるじゃないか! もう川がタンパク質にしか見えない。ただ釣り道具なんか無いから真っすぐな木の枝でも突き刺すか。良さそうな枝を発見し、水面を見つめて魚影を探す。


 やった、見つけた。大きさは30cmほどか。ゆっくりと泳いでいるから十分狙える。浅瀬に足を踏み入れて慎重に近づく。


 グオオオッ


「うわっ!」


 対岸にレッドベアが現れた。距離40m。真っすぐにこちらへ向かって来る。あの巨体ならこの程度の川は余裕で渡れてしまう。残念ながら漁は中止だ。


 川沿いに上流へ走ると先ほど探知した魔物に出くわす。Eランクのブラッドジャガーだ。数は3頭。少し引き返してレッドベアを合流させクエレブレまで走る。


「えっ!」


 クエレブレがいない。おいおい、何処行った。あー、他の縄張り侵入対応かな。見回すと北側に巨体の一部が見えた。トイレ付近だ。俺は魔物4体を引き連れて進路を変える。


 グオオオッ


 クエレブレは何かを踏みつけていた。討伐が完了したらしい。


 兄貴! こっちも頼みます!


 しかし俺はどこへ行けばいい。いつもの岩は南へ200mだが、まさに今そっちから引き連れた4体が向かってきている。一旦、寝床まで戻るか。


 クエレブレは魔物4体を捉えて敵意をむき出しにした。今だ! 西へ方向を変えて全力疾走する。追走は無さそうだ。


 寝床の地表まで辿り着きひと息つく。ふー。穴に入るか。いやしかし川の発見は収穫だった。


 周辺の地形を思い浮かべる。


挿絵(By みてみん)


 川は南南東から流れ出ており、木苺地点でカーブして北東へ下っていた。縄張りを離れて下山するならこの川沿いを進むべきだな。いずれ合流して川幅は太くなり街まで流れているはずだ。何より魚をいつでも調達できる点が大きい。


 湖に注ぎ込んでいても流れ出る川を探せばいい。もしここへ引き返す状況になっても川を伝えば迷いはしない。


 さて、魚を見てしまったからには食わずにはいられない。もう一度、漁へ行くか。


 ところでブラッドジャガー3体は縄張りの中心から600mで遭遇した。クエレブレが反応しないところを見ると、あの辺りが縄張りの境界と見ていい。


 いや待てよ。この寝床は縄張りの中心から350mだ。昨夜は亀裂の対岸にコヨーテがいたがクエレブレは動かなかったぞ。まあ対岸まで5mあるから魔物は渡らないとの判断かな。


 壁面を上がり東へ向かう。


 先ほどの討伐地点を確認したが魔物装備は見当たらない。確かクラウスは20体~30体に1つと言っていた。彼の感覚ならガルウルフやレッドベアなどのEランクからDランクが対象だろう。このペースで討伐を続ければ近いうちに手に入るはず。


 木苺地点に到着。よく見ると周りの茂みはほとんどが木苺だった。木苺の一種であるラズベリーは繁殖力が強く地下茎を伸ばしてどんどん広がる。どうもこの一帯はラズベリーに近い品種の様だ。


 先ほどの木の枝を見つけ再び魚を探す。


 むっ、この感じは。上か!


 ギャアアァース!


 見上げると魔物が急降下していた。ギリギリまで引き付けて避け、茂みに身を転がす。飛び立ったキラーホークらしき魔物は上空で旋回していた。


 いやー、魔物感知が無ければ危なかったぞ。


 魔物はまだ旋回している。あれをクエレブレへ引っ張っていくと空中戦になるのかな。うーむ、どうしよう。ひとまず気配消去を行使して様子を見るか。また襲ってきたらクエレブレに走ろう。


 それにしても痛い。ラズベリーの茎から生えた棘で腕の皮膚が傷ついてしまった。直ぐに治癒を施す。完治まで20分か。あれ? 完治時間って今まで分からなかったよな。治癒スキルが上がったのか。


 この世界において完治とは定着が完了したことを指す。擦り傷程度ならスキルやポーションで直ぐ塞がるがあくまで仮の状態だ。それを自身の魔力を使って少しずつ定着させている。定着完了を待たずに身体強化や共鳴などで大きく魔力を使うと傷が開いてしまうのだ。


 まあ隠れているから丁度いい。魔物が諦めるまでここでじっとしていよう。


 10分ほど経つと飛行型魔物は東の空へ去った。せっかくなので完治まで安静にしておくか。


 ……。


 傷は完治した。さあ、漁の再開だ。


 魚影を探す上で水面が波打っていると分かり辛い。流れが穏やかな場所を探して少し歩くか。ほどなく大きな岩がいくつか並び水流の影響が少ない場所を見つけた。きっと魚にとってもいい環境だ。


 あれ? 水面に映り込んだ俺の姿がおかしい。光の反射加減だろうか。いや青空も俺の服や肌の色もさっきと同じだ。しかし髪の色だけ違う。元々はやや薄い青だが今は緑に見えるぞ。何故だ。


 えっ!? 青に戻った。信じられないが色が変わったぞ。


 ……。


 試しに緑に変えると念じる。


 緑になった。


 はっ!?


 じゃあ赤、赤になった。


 じゃあ黒、黒になった。


 何だこれは……まさかスキル?


 先ほどは茂みに隠れて上空の魔物から見つからない様にと念じていた。茂みの葉は青ではなく緑だ。つまり溶け込む色へ変化したのか。


 恐らく隠密スキルの1つだろう。いやしかし驚いた。まさか瞬時に髪の色を変えるなんて。


 むっ、もしや。


 水面を見つめて念じる。やっぱり目の色が変わった。あー、なるほど。これは周りに溶け込む効果と同時に別人にもなれるスキルなのか。髪と目の色なんて個人の特徴を示す上で分かり易いからな。


 これは使える。もしクレスリンが俺を捜索していても青髪に碧瞳という特徴がまずは共有する情報だろう。それを別の色にしてしまえば対象外だぞ。


 にしても髪と瞳の色が変わるなんてあの戦闘民族みたいだな。俺は怒りで変化しないが。


 ただ効果時間がかなり短い。もちろん重ね掛けすれば問題ないが面倒ではある。他の隠密スキルと合わせて訓練するか。恐らく色の変化にはそれなりに魔力を使うが、俺の魔力操作は異常なので大して負担にはならない。


 さーて、漁を再開するか。


 ……。


 見つけた。30cmほどの獲物だ。気配を殺しゆっくりと距離を詰める。


「ふんっ!」


 魚影目掛けて一気に枝を水へ刺す。仕留めた。やったぜ。体色は褐色から灰色で白い斑点が多く見られる。カワマスの一種か。


 意気揚々と枯れた枝葉を川原に集める。火元は落ちていた火の精霊石だ。難なく着火し白い煙が上がる。魚は口から枝を通し斜めに据えた。火の勢いが増す。焼けた皮の表面からは油が滴り落ちる。口の中は唾でいっぱいになった。早く食べたい。


 グオオオオッ!


「えっ」


 また上か! あれは……ワイバーン!


 俺を発見して真っすぐ急降下している。


 くっそおおおおっ!


 クエレブレ目掛けて走る。せっかく焼き魚を食べるところだったのに。絶対に許さない。


 むっ、クエレブレがいない。またトイレか! いや違う。何処だ。


 見渡すが姿が無い。ええい、何処へ行った。


 ドズウウゥゥン


「ひっ」


 ワイバーンが俺の進行方向に着地した。色が赤い。ファイアワイバーンか! 火を吐く意思を感じる。マズい!


 ブオオオッ


 魔物の側面まで走り、何とか火炎ブレスの範囲から逃れた。危ねぇ。


 クエレブレを見つけた! 亀裂の向こう側にいるぞ。俺が全力疾走するとワイバーンは飛び立ち上空から追いかける。


 クエレブレは尻尾をブン回して何やら吹き飛ばしていた。よく見ると他にまだ魔物がいる。おーい、大物を連れてきたぞー! 何とかしてくれー!


 亀裂の対岸まで辿り着いたが、変わらずクエレブレは周りの魔物に夢中だ。ここへワイバーンを降り立たせてもクエレブレまで100mの距離があるため、直ぐ気づくとは思えない。あの魔物たちを倒し終わるまでワイバーンから逃げるのも大変だ。


 跳ぶか。亀裂の対岸まで5m。身体強化すれば十分届く。


 よしやろう。


 一旦、引き返して助走をつける。この速度なら跳躍距離は5mを超えるぞ。いける!


 ズルッ


「えっ」


 なんと、踏み切り時に滑った。勢い余って頭から崖下へ転落する。


 高さ20m。この体勢では着地制御が間に合わない。


 地面が迫る。終わった。


 ……。


 あれ? 激突しないぞ。何故だ。


 目前が地面だが止まっている。


 これは……もしかして浮いてる?


 スタッ


 着地。どこも怪我をしていない。見上げると20mの断崖絶壁。ビルなら6階か7階だ。あんな高さから逆さまに落ちたら助からないぞ。


 グオオオオッ


 上空にワイバーンの姿が見えた。ここへ下りてくるのか。しかしあの体の大きさなら亀裂の幅にすっぽり収まってしまうぞ。翼を広げられないじゃないか。


 ガアアアアッ


 あっクエレブレが飛んでいる。ワイバーンを認識して追いかけているな。ほっ、ひとまず任せて俺は崖を上ろう。


 しかしさっきの事象は何だ。空中浮遊だと?


 試してみるか。


 3mほど上がったところで飛び下りる。すると足が地面より20cmほど空中で体全体が止まった。


 スタッ


 やっぱり浮いている。


 再び崖を上る。


 これはスキルだよな。うん、そうに決まってる。でも何の派生なのか。あー、身体能力強化か。きっとあれの類だ。思えば着地制御だって謎の力で運動エネルギーを消しているし。


 でも一体何処で覚えたのか。


 そうかクエレブレだ。何しろ背中に乗って3時間も飛行したからね。あの時に何かを掴んだに違いない。いや解放か。きっと英雄の力だ。つまり空中浮遊する英雄がいたのか。


 崖を上り切る。


 対岸には魔物素材らしき物体が散乱している。


 クエレブレとワイバーンの姿は無かった。


 魚は丸焦げかな。

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