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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
237/321

第235話 別れ

 6月25日、休日。


 フィルたちと挨拶を交わして朝の支度を済ます。


 朝食を終えて1本生産するとロシェが現れた。


「おはようございますリオン様」

「おはようロシェ。ベッドへおいで」


 全裸のロシェで楽しんでいると朝食へ向かったフィルが戻る。


「そのメイド服の評判はどう?」

「食い入る様な男性の視線を多く感じました」

「どんな気持ち?」

「とても興奮しています。早く遊んでください」

「ふふ、おいで」


 フィルは脱がさずにロシェと並んで四つん這いにさせる。その後ろから両手で同時に攻めた。ロシェはもう大洪水だ。この娘は微妙に尻を動かして触って欲しいところを誘導してくる。よしよし分かった。ここだろ?


 あー、楽しい。異世界転生して本当に良かった。クレスリン公爵家万歳!


『殺す』


 えっ。


『オマエを殺す』


 声が頭の中に響いて来る。何だこれ。


 あっ……神の魔物だ。


「ごめん2人とも。お楽しみは中止する」

「……休憩ですか」

「違う。急いで対魔物戦闘を準備しなきゃ。ニケ! 直ぐにトシュテンを呼んで!」

「はっ!」


 今日はグラスドラゴンから10日目。神の魔物を操る力が回復したのだ。ああ、何てことだ。完全に頭から抜け落ちていた。女に夢中で自分の置かれた状況を忘れるなんて。本当に堕落したものだ。


「魔物とはどういうことですか」

「いいからロシェ、早く服を着て。フィルと一緒に宮殿へ避難するんだ」

「私はリオン様のお側にいます」

「ダメだフィル。ここが戦場になるんだぞ。大切なキミを危険に晒すワケにはいかない」

「……?」


 フィルは首を傾げてきょとんとする。


 トシュテンが部屋に来た。


「いかがなさいましたリオン様」

「Aランク魔物が複数体接近している。直ぐに宮殿の防衛部隊に伝えて迎撃態勢をとれ」

「は? お言葉ですが宮殿近辺に魔物が来ることはありません」

「今から来るんだよ!」


 反応を探る。北西150kmに2体。クエレブレとリンドブルムだ。今回は新種の大型は無しか。


「魔物種はクエレブレとリンドブルム! Aランクのドラゴン種だぞ! あと30分もしないうちに到着する! 急いで準備をするんだよ!」

「おっしゃる意味が分かりません」

「あー、もう! そうだ! イグナシオから聞いただろ! 俺がAランク魔物と遭遇を重ねていると!」

「いいえ。リオン様は訓練討伐に参加する腕前の持ち主とだけ」


 何だ伝えてないのか。じゃあ仕方ない。


「俺は魔物に狙われている。もう何度とAランクの襲撃を対応してきた。ベルソワ防衛戦を知らないのか!」

「存じています。17体ものAランクを打ち倒したと。流石はトランサイトを複数本運用するゼイルディク騎士団だけはあります」

「あの魔物は俺を狙って来たの!」

「魔物が人間を襲う生態は知っていますが、特定の人物を標的にする例は聞いたことがありません。リオン様、少しお休みになってはいかがでしょう」


 これはダメだ。話にならん。


「ひとまずトランサス合金の武器を全部持ってこい!」

「バランディンらがその都度お持ちします」

「トランサイトが沢山必要なんだよ! まとめて作ってやるから早く!」

「……承知しました」


 あとは何だ。俺が戦うなら剣か弓が必要だ。いやいっそシンクライトを使うか。2体のAランクなんか飛剣で直ぐ終わる。


 ただシンクライトの存在をクレスリン公爵が知ったら必ず俺に生産を強要する。あの性能は極めて危険だ。公爵の性格なら惨たらしい使い方をするだろう。ここはトランサイトで乗り切るしかない。


 扉が開いて武器を抱えた使用人が入る。


「お持ちしました」

「ベッドに並べろ」


 弓8本、杖4本。たったこれだけか。


「他に無いのか!」

「昼前に12本届く予定です」

「どこにある!」

「申し上げられません」

「いいからそれも持ってこい!」

「……ですが」


 あーもう!


 ギュイイイイィィィーーーン


 ギュイイイイィィィーーーン


 ギュイイイイィィィーーーン


 ……。


「ハァハァ……バランディン、確かめろ」

「は、はい!」


 久々に連続共鳴やったから疲れた。


「全てトランサイトです!」

「何と!」

「10分も掛からずとは!」

「これで分かっただろ! 早く追加を持ってこい!」

「承知しました!」

「リオン様、息が大きく乱れています」


 フィルに抱えられて就寝用ベッドへ移動する。


「添い寝いたします」

「……フィル」


 エプロンを外して胸を舐め回す。ああフィル、フィル、フィル……。


「股を開いて両脚を自分で持って」

「はい」


 下着を脱がしてしゃぶりつく。女の匂いがどんどん溢れてくる。ああこの味だ。美味しい。


「ありがとう、元気になったよ」

「ふふ、それは何より」


 あと10分で来る。


「トシュテン! さっきの武器は宮殿の防衛部隊に渡せ! この島へ集結させろ!」

「……本当に来るのですか?」

「だからそう言ってるだろ! 俺も戦う! 弓と矢を用意しろ!」

「なりません」

「逃げやしないって!」

「我々にお任せください」


 ぬう、無理か。


「フィル、宮殿へ」

「いいえ。お側にいます」

「死ぬかもしれないぞ」

「リオン様の盾になります」

「お前……」

「リオン様は私の全てです。必ずお守りします」


 何ていい子なんだ。


「フィル、愛している」

「私も。リオン様」


 濃厚な口づけを交わす。フィルは絶対に守る。


 カカン! カカン! カカン!


 魔物の鐘! 応援要請だ!


「鐘が!」

「本当に来たの!?」

「ここは宮殿よ!」


 メイドたちがざわつく。


「魔物襲来! 魔物襲来! 非戦闘員は宮殿へ避難せよ!」


 飛び込んできた警備の声により一層慌ただしくなる。


「リオン様、宮殿へ行きましょう」


 フィルに抱きかかえられて部屋を出る。


「おっぱい丸見えだよ。下着も脱いだままでしょ」

「構いません。興奮します」


 筋金入りの変態になってしまった。


 ひとまず気配消去を常時発動して少しでも狙いをそらさないと。


 建物の外へ出ると石橋に多くの騎士たちが集まっている。皆、弓矢と杖を空に向けて構えていた。上空には飛行する巨大な魔物、クエレブレ。全長、翼開長共に60mか。改めてとんでもない大きさだ。


 ゴガアアアッ!


 魔物は石橋の騎士たちへ急降下を始める。


「撃てーっ!」


 一斉に矢と魔法が魔物目掛けて放たれた。


 ドオオオォォン


「きゃああっ!」

「うわああっ!」


 石橋は大破した。魔物は堀に沈み動かない。流石に多くの矢と魔法を受けたため、傷の再生に集中しているようだ。


「ああ、橋が……」

「直ぐ船が来るわ!」


 セーラは救助船を期待しているが、この状況下で島を離れても堀に浮かぶ的になってしまう。


「トシュテン! 俺に武器を持たせろ! 橋は落ちたから逃げられないだろ!」

「ですがお渡しする武器がありません」

「はっ? 島に何でもあるだろ」

「警備の持つ武器のみです。先ほどのトランサイトは騎士と共に堀に落ちました」

「じゃあ警備の武器を貸せ!」

「お言葉ですが、リオン様のスキルレベルより警備の方が遥かに上です。ここは彼らに任せてください」

「リンドブルムだ! 皆、散れ!」


 警備の声に空を見上げると口を開けたリンドブルが迫っていた。


『殺す』


 いかん! 火球が来る!


「あっ、リオン様!」


 フィルの懐から飛び降りて走る。こっちだ! 俺はこっちにいるぞ!


 ドオオオオォォン


「ぬわぁ!」


 気配消去が効いたのか着弾点は随分と外れた。それでも大きな衝撃波を受けて吹っ飛ばされる。


「リオン様!」

「……心配ない」


 駆け寄ったフィルに応える。


 ガアアアッ!


 堀から姿を現したクエレブレに島の警備たちが立ち向かう。20人ほどか。この時ばかりはガルスを応援するしかない。


「リンドブルムは俺を狙っている。火球の巻き添えになるから近づかないで」

「でも」

「フィル、俺は死なない。頼むからみんなのところへ行って」

「……はい」


 上空で旋回するリンドブルムを見上げる。くっそう、これじゃ防戦一方だ。何か武器が欲しい。


 ふと崩れた石橋付近に目をやると騎士が3人見えた。動く様子はない。


「おーい!」

「何だお前は!」

「子供が何故こんなところに!」

「武器を持っているなら戦えよ! クエレブレが上陸するだろ!」

「皆、負傷者だ!」

「ポーション治療を終えて戦えない!」


 あっそうか。


「だったら武器を貸せ!」

「はっ?」

「何を言っている」


『殺す』


 まずい。火球だ。


「みんな伏せろーっ!」


 ドオオオォォン


 地面に突っ伏して飛び散る石と衝撃波をやり過ごす。少し離れたところには直径4mのクレーターが開いていた。うひー、あぶねぇ。


「おい子供! 島の住人なら船着場で待機していろ!」

「俺はただの子供じゃねぇ! 弓矢を貸してくれ! 早く!」

「まさか戦うつもりか? 相手はAランクだぞ」

「死にに行くようなものだ」

「いや待て、この島の住人ならただの子供ではないだろう」


 この男は指揮官らしいな。


「武器を貸しても構わんが我々は剣士だ。弓士は堀へ落ちたか橋の宮殿側にいる」

「じゃあ剣でもいい! 早く!」

「では私の武器を持つといい。これはデスマンティスの鎌を使った魔物合金だ」


 剣を手に取る。デスマンティスか。じゃあ魔力集束だな。


 ブウウゥン


 感じはマッドマンティスに近い。クラウスの剣で試したから高い集束率もできそうだ。


 ブオオオオォォォッ


「おおっ!」

「なんと!」

「一瞬で集束100%を超えたぞ!」


 分かるぞ。この武器は斬撃派を放てる。


『殺す』


 また火球か。しかし放つ体勢に入れば無防備な的だ。魔力集束を200%まで上げて一気に片を付けてやる。


「はあああぁっ!」


 ゴオオオオォォォッ


「凄まじい魔力操作だ!」

「何故こんな子供が!」


 口を開けたリンドブルムに向けて剣を振り抜く。その剣身から放たれた斬撃派はリンドブルムの首を掠めて片翼を切り裂いた。


「落ちるぞ!」

「退避ー!」


 ズウウウゥゥン


 島を揺らす地響きを伴ってリンドブルムは降り立った。


 ガアアアァ……。


 魔物は首の再生に集中している。俺は再び渾身の斬撃派を放つ。距離30mの動かない的に外しはしない。見事リンドブルムの首は切り離され巨体がゆっくりと崩れる。


「ハァハァ……やった」

「おお!」

「素晴らしい!」

「キミは何者だ!」


 座り込み息を荒げる。これはキツい。


 ガアアアアッ!


「いかんクエレブレが来る!」

「おいキミ、私が運んでやる!」


 騎士に抱きかかえられてクエレブレの突進から逃れる。魔物は勢い余って堀へと姿を消した。


「島の警備は何をやっている……いや、全滅か」


 騎士の視線の先には倒れて動かない人たち。手足だけも転がっている。踏み潰されたか。


 堀からクエレブレが姿を現す。


『殺す』


 騎士の懐から跳び降りて剣を構える。魔力集束200%はあと1回が限界だ。一発で首を落とす。


 ガアアアアッ!


 クエレブレが俺たち目掛けて突進する。まるで狙ってくれと言わんばかりだ。その自慢の耐久力を真っ二つに切り裂いてやる! 喰らえ!


 ガガガッ


 鈍い音を残して斬撃派は消滅する。魔物の首は繋がったままだ。


 そんな……。


「危ない!」


 騎士に抱きかかえてクエレブレの突進を免れる。


「ハァハァ……効かなかった……何故」

「2発目の後に剣身が痛んでいた」

「えっ!?」

「見ろ。もう鍔の先は無い」


 手元の剣身は砕け散っていた。


「あんな集束率を連発すれば流石のBランク素材でも持たない。最後の斬撃派は本来の力を発揮できなかったのだ。それが並みの魔物ならまだしもクエレブレには通用しない」

「……そうか、残念」


 クエレブレが堀から上がる。


『殺す』


「そなたは私が守る。2人は散って注意を惹き付けろ!」

「はっ!」

「お任せ下さい!」


 騎士たちが丸腰でクエレブレに走って行く。しかし踏みつけられ、押し潰された。


 ガインッ


 ドスッ


 カンッ


 矢と魔法がクエレブレに降り注いでいる。


「宮殿の防衛部隊だ! 船で応援に来たぞ!」


 おお、それは助かる。


 クエレブレは船に向かって堀の中を進む。後ろ脚で歩いているため上半身が水から出ていた。さながら怪獣映画のワンシーンだな。


「リオン様ーっ!」


 声の主はフィルだった。


「ハァハァ……大事ありませんか」

「うん、ちょっと疲れたけど」

「キミはメイドか? 何ともふしだらな格好だな」

「リオン様は私が引き受けます」

「うむ、頼んだ」


 フィルに抱っこされる。


「リオーン!」


 セーラたちも駆け寄ってきた。


「あなた凄いわね!」

「うん。頑張った」


 フィルのおっぱいを吸いながら応える。


 ガアアアッ!


 魔物は堀の中で暴れていた。


「防衛部隊が全滅だと……」


 騎士がつぶやく。船は全て沈んでいた。


 魔物はこちらへ向き直し、ゆっくりと堀を進む。


「まだ倒れないの!」

「こっちに来るぞ!」


 魔物は島に上陸して歩みを止めた。


「かなりの傷を負っているからしばらく動けないよ」


 ヤツは再生に注力している。


「騎士たちの増援が来たぞ!」


 堀には数多くの船が見える。あれだけいれば数で押し切るだろう。


 それにしてもクエレブレは凶悪だな。たった1体で多くの騎士と警備を犠牲にした。石橋の騎士からはトランサイト武器による矢と魔法も受けたはずなのに本当にタフな魔物だ。


 ベルソワ防衛戦ではグリフォンらとの連携に大苦戦を強いられたな。それでもクラウスが尾を落とし、最後はナタリオが心臓を貫いた。気づいたらミランダがグリフォンを倒してたね。はは、あの人は本当に凄い。


 みんな諦めずに戦っていた。街を守るため、騎士の務めを果たすため。エリオットは何度もリンドブルムの火球から俺を守ってくれた。自らの命を懸けて。


 俺は今、何をしている。


 きっとみんな必死に探している。相手がクレスリン公爵だろうが、クレア教や人買い組織だろうが、持てる手段を総動員して決して諦めない。全ては俺を救い出すため。


 ああ……間違ってた。


 ここは俺の居場所ではない。


 ゼイルディクへ帰らなければ。


 家族の元へ。


 グルルル……。


 クエレブレは上空に逃れて再生するつもりだ。


 上空? そうか!


「フィル」

「はい。リオン様」

「キミと過ごした日々を絶対に忘れない。さようなら。大好き!」

「えっ」

「セーラも元気でね!」

「どうしたの!」


 クエレブレ目掛けて全力で走る。魔物は翼を広げて飛び立つ体勢に入った。尻尾に飛び乗り背中まで駆け上がると棘にしがみつく。


「飛べ!」


 ガアアアッ


 全方位から風圧が襲う。飛ばされないようしっかり踏ん張る。俺を呼ぶ声が聞こえたが直ぐに風の音で掻き消された。


 数十秒後。風圧の向きが一定になる。ゆっくりと目を開けるとクエレブレの尻尾の先に地面は無かった。


 飛んでいる。


 クレスリンの街並みが遥か下に見えた。

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