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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
2章
232/321

第230話 フィル

 クレスリン公爵宮殿と思わしき建物の一室にて監禁される。心身ともに堪える環境を想像していたが実際は違った。足枷は外され、若い女性と入浴し、美味しい食事で満たされ、極上のベッドに身を沈める。ここは天国だった。


 もちろん手厚い待遇には狙いがある。逃亡意欲を削ぐのだ。加えて隠密訓練を禁止し、行使すれば足枷や拷問、反抗すれば家族の命を奪う。これらの脅迫と合わせて完全に諦めさせる。


 この状況下では誰もが屈するだろう。しかし俺は必ず脱出する。いや脱出せざるを得ない。こんな密室で留まっていては神の魔物に押し潰されてしまう。襲撃は早くてあと5日だ。それまでに可能な限り準備をしないと。


「リオン様、夕食です」


 メイドたちが食事を準備する。今回も見ただけで高級料理だと分かった。とは言え1人で食べると味気ない。


「ニケたちも一緒に食べよう」

「私どもはお気になさらず」

「いや1人で黙々と食べてもね」

「承知しました。直ぐ対応します」


 ニケは部屋を出るとトシュテンと共に帰って来た。


「リオン様、気が回らず申し訳ありません。私が向かいに座ります。メイドらは給仕などの役目があるため今回は40過ぎの男でご容赦ください。明日からは同年代の女子が同席します」

「いやー、トシュテンでいいよ」

「将来を考えての措置です」


 あー、公爵家令嬢か。


 さて、会食ついでに色々と聞き出そう。


「イグナシオは何してるの?」

「処刑しました」

「えっ!」


 だから殺されるって忠告したのに。


「ず、随分と決断が早いね。優秀な家令だったから使いどころもあったでしょ」

「閣下のご命令です。理由は存じません」

「そ、そう」


 やっぱり信用できないか。きっと役目を終えれば始末する腹積もりだった。公爵にそそのかされて調整役にされたのだ。それを見抜けなかった哀れな男、イグナシオ。海沿いの領主なんて分かり易い餌なのに。


「リオン様はかなり特別な教育を受けていますね」

「えっ……何で?」

「普通、8歳の子供が親元から引き離され、あのような酷い扱いを受ければ、泣き叫び塞ぎ込んで食事も受け付けません」

「うっ」

「置かれた状況を正しく理解し、的確な対応を取る。それは大人でも難しい事です。是非とも強靭な精神を培った過程を教えてください」


 しまった。完全に子供を装う気遣いが失われていた。


「えっと……村の老人から学びました」

「フリッツ・レーンデルスですか」

「は、はい。教育内容は厳し過ぎて思い出せません」

「ふむ。まあいいでしょう」


 ええい仕方がない。もう謎の8歳児でいいや。


 食事を終えると風呂を案内される。


「もう昼間入ったから構わないよ」

「リオン様は成人女性の身体にご興味があるようです。どうぞ遠慮せずご堪能下さい」

「はあ!?」

「さあ、リオン様こちらへ」


 フィルに手を引かれて浴室に入る。


 ぬう。昼間の目線をその様に解釈したか。合ってるけど。


「触れても構いません」

「いや、あの」


 フィルは自分の胸に俺の手を押し付ける。うっ、くっ、これは。


「ふふ、どうぞご自由に触って下さい。その間に洗いますから」


 8歳児を誘うだと! けしからん! 全くもってけしからんぞぉ!


 大満足の入浴は終わった。


 フィルはメイド服ではなくネグリジェの様な寝間着に身を包んでいた。


「リオン様の隣りで寝ます」


 2人がベッドに入ると照明が消される。


「安心してお休みください」

「……うん」


 フィルの胸に顔をうずめて彼女は頭を優しく撫でる。


 ここは天国か。


 いや違う! まやかしだ! 騙されないぞぉ!




 ◇




 6月22日、平日4日目。


「おはようございます。リオン様」

「おはよう。フィル」


 隣りには笑顔の美女が。最高の目覚めではないか。俺はおもむろにフィルの身体を触る。


「ふふ、胸が好きなんですね」


 大きさがありながら仰向けでも形が崩れない美しい胸。張り艶も素晴らしい。


「フィルって何歳?」

「19歳です」

「ふーん」

「もっと若い女性が好みでしたら手配します。リオン様のお立場なら自由に選べますよ」

「フィルがいい」

「まあ……嬉しいお言葉、ありがとうございます」


 フィルと共に洗面台へ向かう。


 ほどなくパトリシアが現れた。


「リオン様、お仕事は何時から取り掛かれますか」

「もうできるよ」

「承知しました。直ぐ準備します」


 パトリシアは去った。


「ニケが来ましたので交代します」

「どこ行くの?」

「朝食です。すぐ戻りますから」

「うん」


 フィルは足早に部屋を出る。


「フィルがお気に召しましたか」

「うん。いい子だね」


 あー、いかん。完全に思惑にハマっている。このまま依存度を増せば逃げられないぞ。でも……今はこの環境に溺れたい。俺は疲れた。時には休息も必要だ。


「お持ちしました!」


 チェイニーが弓を抱えて部屋に入る。


 ギュイイイイィィィーーーン


「次は1時間後で」

「はい!」


 フィルが戻った。俺は近寄って抱きつく。


「あらあら。甘えん坊さん」

「……へへ」


 もう何が何だか分からない。まるで夢のようだ。もしや地球で落雷を受けて植物人間になったのでは。意識が戻らないまま覚めない夢の中を漂っているのか。


 なんてね。これは現実だ。異世界だけど。


 朝食が用意されるとトシュテンが現れた。


「同年代の女子は昼食から同席します」

「分かった」

「それとこの後、お部屋の移動をお願いします」

「えっ」

「ここより環境は良くなります。ご心配なく」

「へー、それは楽しみ」


 朝食を終えて弓を1本生産すると部屋移動の準備に入る。


「リオン様、失礼します」


 ガチャン


 ニケが足枷を取り付けた。


「これって鍵穴が無いよね。どうやって外すの」

「魔力錠です。私の波長でのみ解除できます」

「へー」


 なるほど。つまりニケが鍵そのものか。そんなこったろうと思った。


 トシュテンに抱えられて部屋を出る。しばらく通路を歩くと外に出た。


「うわー」


 掘りだ。恐ろしく広いぞ。対岸まで200mはある。


「あそこにリオン様の部屋があります」


 歩みを進める石橋の先に大きな建物が見える。


「あれは人工島でして、徒歩ではこの橋が唯一の連絡路です。緊急時に備えて船着場もございますが、船は常駐していません」


 外からしか船では来れないのね。


 いやしかし困った。地続きでないなら脱出方法を考え直さないと。この橋は厳重な警備だろうし、堀に飛び込んでも対岸で待ち受けられる。そもそもあんな断崖絶壁、素早く上れる気がしない。


 建物に到着すると足枷が外された。振り返ると巨大な石造りの建物が目に入る。あれがクレスリン宮殿か。


 新たな部屋の間取りは同じだったが大きな窓が備わっていた。もうこの島にいる限り逃げられないってことか。


「暑いね」

「冷風を最大出力します」


 パトリシアが壁に取り付けられた箱に魔力を送ると、ほどなく部屋中が冷たい空気で満たさせる。この子は風の精霊石使いか。


 武器生産の合間に魔物図鑑を見ながら地形探知を続ける。とにかく建物探知を覚えるまで頑張ろう。運良く橋を渡れたら必ず頼れるスキルになる。


 昼食が準備されると女子が1人入室する。


「リオン、初めまして。私はセーラ・プレザンス、10歳よ」

「プレザンスって公爵家?」

「ええ。第1夫人の家系よ」


 やはり婚約相手を意識か。


 昼食が始まる。


「リオンの鑑定結果を拝見したけど驚きで言葉が出なかったわ」

「だろうね」

「あなたの子は間違いなく優れた人材ばかりよ。沢山作りましょうね」

「はぁ……」


 ここはひとつ。


「初対面でいきなり将来の話かよ。親の操り人形なんかと話してても全然楽しくない」

「なっ」

「10歳なら貴族学園中等部だよね。今すぐ寮へ戻りなよ」

「まあ! なんて失礼な!」


 さあどうする。


「……いいえ。ここでいます。それが私の役目ですから」

「じゃあ勝手にどうぞ」


 悪いけどキミと仲良くなるつもりはない。


 それから言葉を交わすことなく昼食は終わった。


「夕食も来るから」


 セーラは疲れた表情で部屋を去った。


 午後、1本目の生産を終える。


「リオン様、気分転換に庭へ出ましょう」

「えっ、いいの?」

「はい。トシュテンより許可を得ました」

「フィルの提案?」

「……差し出がましい事をして申し訳ありません」

「そんなことない!」


 フィルと手を繋いで庭へ出る。


「リオン様、そのまま動かないでください」

「えっ、分かった」


 フィルは両手を掲げて1分程動かない。


「ふー、終わりました。虫よけ、日焼け防止、清涼結界です」

「おーっ!」


 凄い! 外気温は33度なのに全く暑くない。午後の強い日差しを浴びても全然平気だ。清涼結界なんて便利なスキルがあるんだな。同時に虫よけと日焼け防止を施すフィルは優秀だ。


「へー、花が沢山植わってるね」

「きれいでしょう」


 チャプン


「堀で魚が跳ねたよ。釣りが出来るね」

「人を襲う怪魚を放しています。絶対に水辺には近づかないでください」

「あ、はい」


 うひー、泳いで脱出は無理だ。


 夕食時には再びセーラがやってきた。


「リオンは魔物図鑑ばかり見ているそうね」

「いいだろ、別に」

「……他に読みたい本はあるかしら」

「クレスリンの地図が見たい。セーラの力で何とかして」

「無理よ」

「使えないなぁ」

「……(プルプル」


 セーラは真一文字に口を結び小刻みに顔を振るわせる。耐えているぞ。


「リオンは魔物討伐の経験も豊富なのでしょう。どうやって倒すか教えてくださる?」

「俺の機嫌を取るために大して興味のない話をしなくていいよ」

「そ、そんなことないわ。ねぇ、リオンの戦い方を教えて」

「トランサイトで一撃。以上」

「……ま、まあ、お強いのね」


 セーラ、頑張るなぁ。


「聞けばメイドと入浴を共にしているとか。私も一緒に入りましょうか」

「子供の身体に興味はない」

「な、なんですって! あなたも子供でしょ!」

「うるさいなぁ、大きな声を出すならもう来なくていいよ」

「……」


 下を向いて黙ってしまった。ちょっとやり過ぎたかな。


「もう大きな声は出さないわ。だから私を嫌いにならないで」

「……分かった。じゃあセーラの趣味を聞かせて」

「は?」

「買い物、カフェ巡り、庭園散策、演劇鑑賞、舟遊び、色々あるでしょ」

「……まあ一通り嗜むわ」


 おや、これは他にあるな。


「どうやら違うみたいだね。料理や読書かな」

「……」

「ねぇ正直に教えてよ」

「……編み物」

「えっ」

「あっ今、馬鹿にしたでしょ!」

「いやいや」

「どうせ公爵家令嬢に編み物なんて似合わないわよ!」


 何だか可愛いな。ミーナみたい。


「大きな声は嫌だなぁ」

「あっ、ごめんなさい」

「何を編んでいるの?」

「……お人形」

「ええっ!」

「あー、絶対馬鹿にした!」

「いやいや、いいと思うよ。もしかしてお人形の服も編んでる?」

「……もちろん」

「じゃあ今度見せてよ」

「……分かったわ」


 夕食を終える。


「本当にお風呂は一緒じゃなくていいの?」

「俺にはフィルがいる。セーラの身体に興味はない」

「んまぁ!」


 セーラは去った。


 何だか面倒な来訪者が増えてしまったな。


 フィルと一緒にお風呂に入る。


「セーラ様は発育がいい方ですよ」

「でも中身が子供だもん。フィルは色々知ってるよね」

「……ええ」


 ベッドに入る。


「フィルの身体、自由にしてもいいよね」

「リオン様の望む通りに。あっその前に」


 フィルは音漏れ防止結界を施した。


「夜警に聞こえたら恥ずかしいので」

「そんな大きな声を出すの」

「念のためです」

「痛かったら言ってね」

「はい」


 俺の身体は未発達だから性行為は出来ない。従って喜ばせることに集中した。フィルも満足の様子だ。結界を施したのは正解だったね。演技もあるだろうけど。


「リオン様……お上手です」

「毎日、可愛がってあげるね」

「……はい」


 正体不明のエロガキがここに誕生する。何だかタガが外れたな。でもこれが異世界転生の醍醐味だろ。俺はこれからも神に狙われ続ける。いつ死ぬか分からないんだ。生きている間は好きなことするぞ。

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