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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
22/321

第22話 王国の歴史

 剣技の訓練を終えてフリッツの講義を聞くためにレーンデルス家へ向かう。


「こんにちは!」

「リオン! いらっしゃい!」

「失礼します」


 エドヴァルドとミーナの間に座る。いつものポジションだ。


「さて今回はカイゼル王国の歴史を話すとしよう」

「お願いします!」


 国の歴史を知れば世界の流れも掴める。


「この国の歴史は長い。約5300年あるからな」

「えー! そんなに!」


 思わず声に出てしまった。5300年て途方もない歳月だな。


「従って要点を大まかに伝えるぞ、質問があればその都度問えばいい」

「はい」

「今から約5300年前、現在のカイゼル島に初代国王が移り住んだ。カイゼル島というのはアルメール湖に浮かぶ島の名前だ」

「アルメール湖って何?」

「ミーナ、湖だよ、とても大きな水溜まりなんだ。その湖の中に陸地があってそこが島」

「ふーん」


 村の近くに無いからな。あっても魔物がいて見に行けないだろうし。


「アルメール湖は国の東西に連なる山脈の最西端に位置する。この村からは遥か南の方角。ウィルムとレリスタット、そしてプルメルエントを越えて更に南だ」

「うんと遠いんだね」

「馬車なら5日を要する」

「うわー!」


 馬車が時速15kmだとして1日8時間走れば600kmの距離だ。まあ渋滞や上り坂、馬の休憩も考えると450kmあたりか。


「道のりを説明しよう、アルメール湖がどこにあるかは国民として知っておくべきだ」

「お願いします」


 いいね、興味ある。


「村から馬車で朝出発すれば昼にはゼイルディクの南側に到達する。そこで昼食休憩して更に南へ。夕方にはウィルムの中心地に着く、そこで1泊だ。2日目、朝から動きウィルム南端にて昼食。更に南下して夕方にはレリスタットだ、そこで宿をとる」


 ウィルム縦断に1日を要するのか。大きい町らしいからな。


「3日目、昼頃にはレリスタットの南端に着く。そしてプルメルエントに入り北西部で宿泊だ。4日目、プルメルエント北西部を南下し日が暮れるまでにはプルメルエント南端に至るだろう」


 1日かけてもまだプルメルエントか! 広いんだなー。


「5日目、出発からほどなくアルメールに入る。昼頃には街道の西側にアルメール湖が見えるはずだ」

「うはー聞いてるだけでお尻が痛くなりそう」

「馬車に乗りっぱなしだからな」


 これは気軽に旅は無理だな、行程によっては魔物の危険もあるし。長距離移動は余程のことに限る。


「カイゼル島には大神殿があり訪れる国民は多い。従ってそれらを意識した宿や飲食店が街道沿いに多く連なっている。終日移動ではなく半日は街歩きするなど余裕を持った日程するといい」

「となると往復2週間はかかりそうですね」

「この村の住人でいる限り行く機会はないだろう」


 畑を長期間放置は流石にマズイ。


「さて歴史の予定が地理になったな。ただアルメール湖周辺は歴史上でも重要な場所であり、そこへ至る地域も知るべきとの判断だ。では歴史を再開する」

「お願いします」

「約5300年前、初代国王がカイゼル島に移り住む。当時の人口は100人程だ」


 100人、多いのか少ないのか分からない。


「何故そこへ移り住んだかは詳しく分かっていない。来た方向は南の山脈の向こう側だ。アルメールからはその山脈に街道が通っており、クレスリンに繋がっている。クレスリンは唯一の国境を有しており、他国との貿易が盛んでかなりの大都市だ」

「初代はクレスリンからやってきたのでしょうか」

「当時クレスリンは他国の領土だ。ワシが聞いた中で最もそれらしいのは、その国は戦争を続けていたが劣勢になり、侵略から逃れるため国外へ脱出した。そして山脈を越えてあの地に辿り着いたと」


 ほう、難民みたいなものか。


「先生、魔物が多く棲む山脈を越えるなんて信じられません」

「それも諸説ある、戦争の中心地へ山脈から魔物が押し寄せて、その分、山の魔物が減ってその間に駆け抜けた。それから初代が類稀なる剣の達人で魔物を全て倒した。あとは神の力により山脈を貫く通路が突然現れ安全に山を抜けたと」


 神のトンネルなんてありがちな話だけど最も現実味がない。


「もしかして初代は剣の英雄だった」

「そう考察する者も多い。ただ山脈に棲むおびただしい数の魔物を1人で相手なぞ無理な話だ」

「剣技53ならどうでしょう」

「十分可能だ」


 ただ時代が合わないだろう。神が英雄クラス誕生を抑制しだしたのは、5000年よりも遥か前の気がする。魔物が山脈から一時的にいなくなった、これだろうな。


 あ、ミーナが寝てる。……つん。


「ひゃっ! んーもう、リオンったら!」


 イチャついてみる。


「ミーナにはいささか話が難しかったな。今回はもういいぞ」

「聞くもん!」

「そうか、では続ける」


 頑張れミーナ。


「カイゼル島に定住した初代国王たちはその人口を増やし、居住区域が島の面積では足りなくなったため湖の近くに町を作った。これが現在のアルメール。その時の人口は1000程だった」

「そこまで何年かかりましたか」

「約100年だ。更に100年後には人口2万ほどまで達する」


 けっこう詳細な記録が残っているな、5000年も前なのに。うーむ、創作では。


「そして更に100年後、人口は5万ほどになり、その後の人口増へ対応するため町の中心を移転した。そこが現在のプルメルエントだ」

「ほーなるほど」

「その移転した年が今年から数えて4998年前になる」

「あと2年で大きな区切りですね!」

「だから今プルメルエントは王都誕生5000周年記念を控えて大いに盛り上がっている」


 とんでもない区切りだな。100年でも大きいのに少なく見える。


「それから200年後に20万、更に200年後に50万と人口を増やしていった」

「200年ならもっと増えそうな気がします」

「魔物に何度も襲撃され多くの犠牲が出た。元々魔物の森を切り開いたのだから当然の事象である」

「この村と一緒ですね」

「うむ」


 そんな大昔から魔物との戦いが日常なのか。そんな環境でも着実に規模を拡大していると考えれば立派なものだ。


「その頃に現在のレリスタット周辺に町を作り、当時はサンデベールと呼んでいた」

「この地方の始まりですか」

「うむ。現在のウィルム中心地に人が移り住むのは更に300年後、今から約4300年前のことだ。その頃の国民は300万、内訳は王都150万、サンデベール100万、アルメール50万だ」

「都市毎の人口も記録されているのですね」

「大体だろう」


 創作にしてはリアルな数字かもしれない。


「さて、ここまで魔物の襲撃はあれども、島に来てから約1000年、国として確実に発展を果たした我が国だが、遂に他国の侵略を受ける」

「あー」

「南の山脈を越えて国内へ進軍されアルメールは壊滅、王都も大きな被害を受けた。この戦いは10年続いたが最後には敵軍を全滅させ見事アルメールを奪還したのだ」

「おー」


 山脈を越えてまで進軍って、よほどこちらの土地が欲しかったか。でもこっちが勝ったんだ。


「その戦いは王族が活躍したのですか」

「うむ、我が国軍には王族の大魔導士がいたと記されている」

「へー」

「さてその時は退けたが、その後も何回か侵略行為を受けた。しかしその都度、我が国は跳ね返し、国内の復興も同時に果たすのだった」


 地形的に有利ではある、敵は必ず山脈を越える必要があり、魔物の相手でいくらか消耗するだろう。あとはアルメール辺りで砦を築いて向かい撃てば、そうそう落ちることはない。


「月日は流れ、最初に侵略を受けてから500年後、今度はこちらから敵国へ侵攻作戦を展開した」

「おーやられっぱなしじゃないと」

「その頃には人口500万、鍛え抜かれた我が国軍は山脈を越え進軍。その麓から西側に多くの国土を獲得した」

「ではその1500年前に山脈を越えて移ってきた初代たちが元居た場所を取り返したのですね」

「そうなるな」

「その後も領土拡大をするのですか?」

「いや周辺国とは同盟を結び安定した期間が長く続いた」


 同盟ね、戦争はお互い消耗するだけだし、そこは考えたのか。


「そこから500年過ぎ、我が国の人口は3000万へ届いた」

「おおー、一気に増えましたね、やっぱり国土を拡張したからでしょうか」

「それもあるが、教育体制の整備、農業技術の向上、治療人員の充実など、様々な影響で生活水準が上がり、病気や飢えで死ぬ人も減ったのが大きい」

「環境が良くなったのですね」


 なるほど魔物や戦争以前に生活環境が不安定だったと。人口が増えれば人材も増える。人材が増えれば色々なアイデアも生まれてくるだろう。


「ここまで周辺国とはうまくやっていたが、西側の隣国に対して、さらに西方の大国から戦争を仕掛けられた。我が国は同盟国としてその戦争に参加する」

「ああー、なんともな展開ですね」

「主な戦場は西側の隣国、戦況は一進一退を繰り返していた。隣国は荒れ果て、住むところを失った人が我が国へも流入していた。隣国を侵略されれば次の標的は我が国だ。絶対に引けない戦いが何年も続いた。そこへある時、北の山脈から魔物の大群が押し寄せてきたのだ」

「魔物! 戦争どころではないですね」


 魔物は敵味方なく非戦闘員も関係なく襲うからな。でも急にどうしたのか、戦争の騒がしさが影響したのか。あーもしや、神が仕向けた? もう戦争なんてやめろと。


「魔物の襲来で隣国は壊滅、我が国の山沿いの国土も全て荒れ果てた」

「え? そんな大規模な魔物の群れですか」

「魔物総数も膨大だがドラゴンなどの強力な魔物も多数混じっていた。とても人間の太刀打ちできる規模ではなかったと」

「うわー……」


 ドラゴンか、きっと火のブレスとか範囲攻撃も多彩だろう。加えて飛行する。空から一方的に蹂躙された可能性もあるぞ。いやー恐ろしい。


「我が国は山脈より南の国土を完全に失い多くの犠牲者も出た。そんな中、東側の第3国が山脈を越えて侵攻してきたのだ」

「うわー酷い、国力が低下したところを狙うなんて」

「その侵攻でアルメールは壊滅、王都プルメルエントも大きな被害を受けた。相手はかなりの軍勢で一気に押し寄せ、とても対応できなかったのだ。もう王都も陥落すると覚悟を決めた時、南の第4国が第3国へ攻め入ったのだ」

「なんと!」


 これは漁夫の利的な作戦か、手薄になった第3国を狙ったと。その主戦力が山脈の北側にいればすぐ応戦できないし。


「第3国と第4国は同盟関係だったため完全に虚を突かれた格好だ。その影響で我が国へ侵攻中の軍隊は足並みが乱れた。そこで一気に反撃し山脈の南側まで国土を回復した」

「おおー第4国には助けられましたね」

「結果的にはそうだ。そして第3国と第4国の争いは続いたが、我が国は関与せず復興に注力した。そして数年が過ぎ、第4国がかなりの優勢となった」


 それが目算できたから第4国は同盟を破って侵攻した。


「第3国の敗北が近づく。その時、我が国は第4国に侵攻した」

「え、いっちゃうんだ。助けてくれたのに」

「第4国が勝利すれば次の標的は我が国だ。長い戦いで疲弊している時に叩く判断をした」

「なるほど」

「我が国は大きく勝利をおさめ、山脈の南側に広く国土を獲得した。それから少しの間安定が続いたが、南側の第4国が国土奪還のため我が国へ侵攻してきた」


 ああー、もう、戦争ばっかりだなあ。


「我が国は山脈麓まで大きく後退し、それからしばらく膠着状態が続いた。そして我が国と第4国は同盟を結び終戦。山脈の麓の地域を国境とし、そこを囲む高い城壁を築いた。その地はクレスリンと呼ばれ、大きな発展を遂げる」

「もうそれ以上は行かない、そして来させない境を決めたと」

「当初は山脈を国境とする話だった。第4国は山脈を越えても侵攻する力を有していたが、それをやめ山脈で手を打つことにした。だが話はまた変わり、更に南の麓の地域までもを我が国とし、敢えてそこを国境とした」

「へー、なんでだろう」


 山脈が国境の方が分かりやすいのにな。山を越えて目前まで隣国の町があるのは、また防衛上で気を使うだろうし。


「その後の貿易を考えての措置だったと言われている。つまりだ、山脈を国境にすればお互いの最前線の町は山の麓となる。そこから山中の街道を通って行き来するのに魔物の対応が必要になる。普段どちらがどこまで管理するのか揉めるのさ」

「なるほど」

「山脈の街道込みで相手側に管理させれば麓の町と交易するだけでいい。クレスリンがその役目となったのだ」


 考えたな。確かに魔物込みで山道を管理すれば多くのリソースを割く。


「西側大国の侵攻から始まったこの戦乱はひとつの区切りを迎えた。その後も争いは絶えなかったが、我が国は一切関与せず、クレスリンの国境を守り続けた」

「いい判断です。戦争は消耗するばかりですから」

「その間、我が国も国土拡張を続けていた。そう、王都より東側の地域だ。多くは森だったが切り開き住むところを広げていく」

「そっちは魔物だけですか」

「うむ」


 人と争うよりはマシなのか。まああまり無茶をせず少しずつ開拓すれば被害も抑えられるだろう。それにいつでも中断出来てペース配分はやり易い。


「西側大国の侵攻から500年が過ぎた頃、今から約2800年前だ。その頃には現在の王都ローゼンブルフ付近にまで国土を拡張する」

「かなり行きましたね」

「その頃のローゼンブルフは人口100万、全体で5000万の国となっていた」

「へー、東側の開拓がかなり安定した人口増加に繋がったのですね」

「他国の関与を受けないからな」


 やっぱり魔物相手の方がマシだったか。


 ゴーーーーーン!


 昼の鐘だ!


「はは、やはり歴史は時間がかかる。続きはまた今度だな」

「ありがとうございました! とても興味深かったです」

「僕も知らないことばかりで聞き入ってました」

「……はっ!」


 ミーナが目を開けた。


「紙は昼食後に取りに来ればいい。その時に続きの日時を決めよう」

「はい」

「リオン、一緒に行こ!」

「うん」


 よく頑張ったよミーナ。ごめんね、付き合わせて。


 俺とミーナは手を繋ぎ食堂へ向かう。エドヴァルドも横に並んで歩く。


「リオンはよく問い掛けや相槌をしていたね、内容を全部理解してたんだ」

「まあそうなるね。エドは分かった?」

「僕は大体かな。最初のアルメールまでの道のりは分かったけど、戦争が多かった時期の説明は少し難しいな」

「国同士の争いなんて想像し辛いよね」


 確かに子供が聞いて理解できる話ではなかった。フリッツはそれでもやってくれたのは俺がその器だと判断したからだろう。明らかに普通の子供とは思ってないな。今更だが。


 その理由を話す日は近い。ただどこまで話すかだ。幸いにもこの世界の前世の記憶が僅かにある。それをうまく使えばまとまるような気がしてきた。


 そう、この世界基準で話を持っていけば、そこまで警戒されることは無いだろう。そのためにも歴史を知ることは有意義だ。5000年は長すぎて壮大だけど。

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