第216話 村への帰路
走行する工房馬車内でトランサイト生産を行う。一気に終わらせた剣と弓をミランダたちが木箱に収納し始めた。
「商会長、箱に納める前に鑑定確認はいいのですか」
「全てトランサイトだろう」
「まあそうですけど」
「このままメルキースの本店へ向かい全て預ける。そこで鑑定すればいい」
「今回フローラ主査は同乗しないのですね」
「本店で待っている。城の帰りは込み入った話になるからな」
確かにこのメンバーなら話す内容に気を使わなくていい。
「明らかに弓の生産速度が向上しているが、やはり弓技の影響か」
「はい間違いありません。剣と同じ、いや弓の方が負担が少ない気がします」
「スキルレベルの差か」
「恐らく」
最初は同等の魔力消費だったが数をこなすほど弓が楽になった。剣を1とすれば弓は0.8辺りか。
「あっそうだ、杖技ってありますか?」
「杖か、いやない」
「あらら、では杖の生産効率はどんなスキルが関係するのでしょう」
「……魔法使用に必須と考えれば撃性具現か」
「となると属性のレベル上げですね。土属性なら錬成と合わせて戦力向上も期待できます」
「うむ、土を主体に取り組むべきだろう」
シンクライトをトランサイトでコーティングして飛剣が2倍になるか検証しないとね。杖の生産速度向上は副産物程度に考えればいい。
「その剣身を鉱物で覆う強化は錬成スキルが必須と聞きましたが、具体的にどんな派生スキルが作用するのですか」
「蒸着だ」
ほう、まるでメタルヒーローがコンバットスーツを着る行程じゃないか。
トランサス、蒸着!
共鳴強化! トランサイトブレード!
これは胸が熱くなる。
「その蒸着は錬成レベルいくつで覚えますか」
「21以上だ」
「へぇ、高めですね」
「故に扱える騎士や冒険者はほとんどいない。そもそも錬成が高ければ魔物と対峙せずとも仕事はいくらでもある」
「敢えて危険な環境を選ぶ必要はありませんね」
蒸着ができる時点で狙った鉱物を出せているから鉱物士でもあるのか。
「蒸着した武器はどのくらい強くなりますか」
「元の合金の基本値に蒸着鉱物の基本値が半分ほど加わる」
「へぇー……あれ? かなりの強化では」
「うむ、例えばベリサルダ合金の剣なら基本値は330ほど、そこへ基本値150の鉄を蒸着強化すれば70程が加算され400となる。これはベリサルダ合金共鳴100%と同じだ」
「おおっ!」
確かベリサルダの共鳴効率は20だ。つまり100%で1.2倍、396か。ほんとだ同じになる。
「共鳴強化はその400が基準ですか」
「もちろんだ」
「うおっ凄い! 蒸着とはかなり飛び抜けた強化手段ですね」
「しかし効果時間が数分と短く、魔物に切りつければ強制解除される。ならば再び蒸着を施せばいいが、多くの魔力を必要とするため連続使用は難しい」
「あー」
「剣の通らない格上の魔物など使用は限られた場面だ、通常運用には向いていない」
なるほどね。
「実は加算される基本値も蒸着鉱物との相性で変動する。最初に言った半分とは平均値だ」
「へぇ相性、あっフローラ主査ならトランサスを高い数値で蒸着できますね」
「うむ、だが彼女は蒸着を覚えていないし戦闘スキルもない」
「まあそうです……あっ思い付いた! 蒸着担当を同行させて戦闘直前に施すのはどうでしょう。これなら剣士なりが使える必要はない」
ただ戦場に非戦闘員は危険が伴うか。
「自らの蒸着でなければ剣技などのスキルが作用せず共鳴もうまくいかない。これには魔力波長が起因しているらしいが詳しいことは不明だ」
「それは残念」
あくまで自分専用の武器強化なのね。
「お前はトランサスとの相性が抜群に良いため高い効果が見込める」
「へぇ俺って相性良かったんですね」
「……あれだけ力を引き出しておいて何を言っている」
「はは、そっか」
「そもそも鉱物による差など無いのだろう。英雄の力で全てを使いこなす」
だろうね。
「それにしても蒸着のために錬成レベル21まで上げるなんて、随分と先は長そうです。俺の錬成は確かレベル3でしたよね」
「クラウス、鑑定結果を控えた紙を出してくれ。他のスキルも合わせて確認しよう」
「おう分かった。このまま触れずに帰るかと思っていたぞ」
「そんなワケあるか。かなり重要なことだ」
クラウスが紙を広げ皆で覗き込む。
「まず弓技18と高い理由、あれから考えていたが、特大Aランクという対峙した魔物が関係しているのではないか」
「俺もそんな気がします。最低限の通じるレベルが18だったと」
「ただ並みの人間では通用しない。リオンの魔力操作やGD型を加味した結果だろう」
なるほど、後の底上げも計算してか。
「では伯爵の言うようにシンクライトに変えて放っていたら解放しなかったかもしれませんね」
「その可能性はある、余裕で通じてしまうからな」
「シンクライトと言えば標的固定って弓技21以上じゃないと使えなかったのですね」
「肝心なところを隠されていたな」
「伝え漏れかもしれないぞ」
「クラウスよ、バイエンス男爵がそんな初歩的な見落としをすると思うか」
「いや思わない」
「恐らく伯爵の指示で故意に伝えなかったのだ」
情報に差をつけて少しでも優位に立ちたいと。まあ俺たちも変化共鳴を隠しているけどね。
「測算はレベル1で派生もありませんでしたが、今は測算5で派生に距離5、速度3、時間3が追加されています。これらを覚えた理由と効果は何でしょう」
「……効果は様々な局面で発揮する。距離と速度なら戦闘においても重要、主に魔物の攻撃だ」
「そう言えば魔法を放たれた時に当たるか当たらないかを瞬時に判断できました。その辺ですか」
「うむ。レベルが上がればより正確に把握し、際どい立ち回りも可能だ」
なるほど、防御面で活用するのか。
「リオンは神の魔物までの距離を30kmほどと告げていたな。あれもスキルの効果だ」
「あー確かに」
色々なところに恩恵があるのね。
「時間は戦闘にあまり関係ないだろう、何で覚えたのか」
「父様、時間って何時何分のこと?」
「いや経過時間だ」
「恐らく錬成ではないか」
「ほう」
「定着はスキルを施す時間でその期間を調節する。リオンはヘルラビットの爪を5カ月延長していたな。従って今後は5カ月以内なら任意に期間を定められるのだ」
「へー」
「ただかなり繊細な感覚であり、繰り返しの訓練が必要となる」
ふーん、定着期間って念じて決めるんじゃなくて、スキルを施す時間で決まるのか。ヘルラビットの爪はどのくらいだったかな。魔物になりきる時間も含めるなら結構長かったぞ。
「今は定着レベル3のため魔物素材はFランク止まりだろう。レベルを上げれば扱えるランクが増え定着期間も延びる」
「精霊石から出した石も定着できますか」
「土属性レベル1では微量の土や砂しか出ない」
「あーそっか、でも定着の訓練にはなりますね」
「うむ」
同時に土属性も訓練できるぞ。
「実は定着訓練に着目すれば適した対象がある。効果が高い順に魔物装備、魔石、魔物素材だ」
「へぇ、魔物関連ですか」
「ただ短い定着期間で確定させると価値は下がる」
「確かに」
「それでも経済力を駆使すれば訓練目的で潤沢に使える」
「まあそうですね」
パワーレベリングというやつか。
「商会として職人の技能向上のため幾らかは用意してやる」
そう告げてミランダはクラウスを見つめる。
「おうおう分かった、ノルデン家からも提供する」
「買い付けや運搬は商会に任せればいい。最初はほどほどにしてくれ」
「分かった、リオンもいいな」
「はい父様」
これは大変なことになる予感。
きっと多くの人は土の精霊石から出す土などでチマチマ訓練する。しかし金の力があれば別だ。俺たちの財力なら大量の魔物素材を無駄にできるぜ! うーむ、効率と引き換えに何か大切なものを失っている気がするが、まあいいか。
「他に剣技や鑑定関連なども僅かにレベルが上がっているな。新たに覚えたスキルは結界感知か」
「はい、先程の伯爵との面会時に音漏れ防止結界が施されていると気づきました。時間と範囲も含めてです」
「ほう、解放したのもその時か」
「恐らくそうでしょう。結界感知はどういった場面で役に立ちますか」
「村なら農作物への防除、日常では虫よけや日焼け止めの残り時間を知る程度か。音漏れ防止も意図せず施されていたら警戒する要素ではある」
ふーん、無いよりあった方がいい程度か。
「弓術と足音消去も鑑定結果で見るのは初めてだぞ」
「そうでした父様」
うん、ちゃんと覚えているね。
「さて今後の育成方針だが、引き続き鑑定偽装を目指して鑑定と隠密、そして武器強化のために土属性と錬成のレベル上げでいいか」
「はい、商会長」
戦闘スキル、探知や感知などは訓練討伐で伸ばせるだろう。
「そう言えば弓技解放を狙ってボスフェルト辺りの山地に訓練討伐に入る予定でしたね」
「アーレンツ西部の領地城壁内で日程を組み込んでいたが中止とした。明日は演劇鑑賞が予定に入り、明後日も午後はあまり時間に余裕が無い」
「では勲章関連の日程を終えて村に帰ってからですね」
「うむ」
まあ弓技も解放したし実戦をそんなに急ぐことも無いか。
「ところで今朝の神殿では何か感じたか。クラウフェルト子爵は神託の光を見たと言っていたが」
「俺は創造神クレアシオンとの接触に成功しました」
「おおっ!」
「それは凄い!」
「内容は?」
敵対関係を中心に話すか。
「神は俺を殺害する根拠を述べていました。魔物も刺客もその手法として間違いありません。やはり100万の英雄の力は世に出ては困るようです。大量のトランサイト生産もかなり嫌がっていました」
「和解はできそうか」
「無理だろう、一方的に襲っているのだぞ」
「俺の存在自体が許せないそうです。神の嫌がることをしなければ抹殺も試みない、などと言う契約の話もありましたが、騙して神罰を与えるつもりでした」
「おいおい神罰かよ」
何も罪を犯していないのに罰は受けられない。
「とにかく話は平行線で今後も相容れることは無いでしょう。ただ情報源としては有力です、なにしろ神ですから。次回の清めの儀式でも引き続き接触を試みます」
「うむ承知した。しかしクレア教の神職者が聞いたら大興奮だな」
「そりゃ神と問答なんてかなり特別なことだ。いやー、リオンは改めて凄いな、相手はこの世界の神だぜ? もう王侯貴族や、そんな次元ではない」
そりゃね。
「どんな感じだ? 男か女か? 年は?」
「えっ、うーんと……あれ? 言われてみれば分からない。男にも女にも聞こえるし、若くも年寄りにも感じる。変なの」
「何だそれ、ちょっと怖いな。姿は見えないのか」
「うん、声だけ。それも頭に直接届くから音声ではなく、えっと、何だろう……想い? まあ想念かな、魔物の殺意も同じ感じ」
「ほーん、何とも不思議だな」
意識での会話だもんね。これはファンタジーと言うよりスピリチュアルだ。
「そうだ商会長、変化共鳴についてですが、家令ディマスさんの態度を見ると感づかれた可能性があります」
「むっそうか」
「このまま隠し通すことも出来ますが、先に向こうが気づくと情報の価値が下がります。どうしましょう」
「……報告するか。最近発見したとすれば隠していたことにはならない。クラウスとフリッツの意見はどうだ」
「俺も伝えていいと思うぞ、どうせ時間の問題だろう」
「ワシも賛成します。ただ何と引き換えに提供しますか」
それだよ。
「……変化共鳴の難易度に関する情報、伯爵工房での生産実績も含めてだ。これでどうか」
「確かに知りたいです」
「リオンの優位性が具体的に分かるな」
「では明日、共鳴を見せながら説明するか」
「はい、方針が決まったなら早い方がいいでしょう」
「ではこの後、城へ先触れを出しておく。生産に関する重大な報告としよう」
驚くか、いや先に動いたと見るか。
「リオン様、アングレムの件は伝えましたか」
「忘れてた! ありがとうフリッツ」
「アングレム? 確かプルメルエント南部の伯爵領だな……もしや!」
「はい商会長、恐らく英雄の記憶です。感覚としては在住ですね」
「ふむ、ガーランドの工房は北東部と伝わっていたが。記録違いか、或いは別の人物か。年代や実績など他に情報は?」
「今のところありません」
うーん、ちょっと出て来ないな。
「では現地視察に期待するか」
「おい、プルメルエントなんてバストイアみたいに1泊で行ける距離じゃないぞ」
そうなんだよな。
「確かに片道5日は要する」
「工房馬車を使える行程はほとんどありませんね」
「……バウムガルドにコーネイン商会の店舗を構える予定だ。物件を確保すればアレリードの様に乗り換えはできる。ただ全行程からすれば微々たるもの」
「やはり大量の前倒し生産ですか」
今の効率なら1000本くらい? 3日くらい集中的にやれば何とかなるか。
「いや意識して増やす必要はない。そもそも現状が早過ぎるのだ。多少は待たせても構わない」
「分かりました。となると旅から帰ったら忙しそうですね」
「伯爵が決めた優先順位に沿って淡々と進めればいい。どんなに急かされても作れるのはお前だけだ」
「あっでも伯爵工房が生産を実現したら客を取られますよ」
「せいぜい1日1本だろう。数のうちには入らん。いいかリオン、お前は職人程度で収まる器ではないのだ。その可能性を広げる機会を逸するな。気にせず旅に出ろ」
随分とミランダは旅を推すな。まあカルカリアは色々見れて良かったし。
「しかし伯爵にはどう説明する? シンクライトを持ち出すなら納得のいく旅の目的が必要だろう」
「1つあるぞクラウス、プルメルエント公爵への謁見だ。叙爵が決まった者は貴族となる前に一度は公爵と顔を合わせる」
「おお、そうだったな」
「対象はクラウス1人だが家族が同行してもなんら不思議ではない」
ふーん、そんな慣習があるのか。いやよく考えれば当然の流れだ。
「本来なら叙爵決定から早くに出向くべきだが、プルメルエント側が5000周年記念の式典やらでバタバタしていてな。それらが落ち着けば伯爵へ案内が来るだろう」
「しかしリオンの同行を伯爵が許すか? 場合によってはウィルム侯爵も口を挟むぞ」
「……公爵の家系にはディアナとリオンの同年代が数多くいらっしゃる。そのご子息ご令嬢が会いたいとおっしゃれば断ることはできない」
むむ!
「公爵家がサンデベール北西端まで影響力を及ぼしたいならノルデン家を身内とする選択肢は十分考えられる。加えてノルデン家の経済力は日々増すばかり、他に先を越される前に何かしら手を打つのが上位貴族だ」
「ほら! だからウィルム侯爵が許さないって! ディアナとリオンを連れて行くなら絶対何か妨害してくるぞ」
「公爵側が強く同行を命じれば侯爵もそうそう手出しは出来ない。従ってその内容を出すように依頼は出来るが、間違いなく誤解される上に大きな借りを作ってしまう」
「そりゃこっちから縁談をお願いしている様なもんだ。その方法は止めてくれ」
「例えばの話だ。元よりそのつもりはない。とにかく公爵側の案内次第だ、それを見て対策を練るとしよう」
強権に頼りたいけど、なかなか難しいね。
「他に旅の目的に使えそうなことは?」
「……アルメールの大神殿へ参拝くらいか。アングレム伯爵領はその通過地点となるからな」
「うーむ参拝か、理由としては弱いな」
「明後日、メルキースの屋敷に神王教の神職者が訪れる」
「おお、神殿建設の話か」
「うむ、クラウスは寄付の契約書を交わすからそのつもりでいろ。その席で意気投合して是非とも大神殿のあるカイゼル島へ来てほしいと熱望された、これはどうだ」
「……なんとも」
「かなり立場が上の神官が訪れるらしい、使えると思うがな」
「まあダメで元々だ。ひとまず仲良くなっておくか、もちろんリオンもだぞ」
「は、はい」
クレア教の勢力を削ぐため、そして英雄の記憶を呼び起こすため、そんな目的で大して興味のない神王教に大接近するノルデン一味。うう、ごめんよ、沢山寄付するから許して。
「生産はそれで最後だな」
「あっ、はい!」
用意された武器は全てトランサイトへ変えたぞ。一応鑑定しておくか。
「おやアベニウス商会ですね」
「昨日商会長であるミディアが走り回って集めてきたのだ。確か14本だったな」
なるほど、夫であるラシュディと行動を共にしなかったのは、城へ運ぶトランサス合金をカルカリア内の店舗から回収していたのか。
「アベニウス商会長と言えば、コーネイン商会長と雰囲気がよく似てますね。話も合ったのではないですか」
「おお、リオンの言う通りだ。声も少し似ているからミランダが近くにいると錯覚したぞ」
「……周りからはそう見えるか」
「きっと皆も同じ印象だ、口には出さないがな。あー、気分を悪くしたか」
「いや、むしろ私の振る舞いは騎士貴族家として間違っていない証となる」
独特な受け取り方だね。
「しかし本当に最初はミランダかと思ったぞ。実はリオンが来る前にブラームス商会長とアベニウス商会長が軽く言い合っていてな」
「ブラームス? 今の商会長は子爵夫人か」
「口論の元はトランサイトの配分なんだが、ブラームスが減ってアベニウスが増えただろ、だから子爵夫人はアベニウスに取られたと思って敵視したのさ、伯爵にいくら渡したのかだとか」
まあタイミング的にそう思われるか。
「アベニウス商会長は毅然と返したが、その感じがミランダそっくりでな。何だっけフリッツ」
「配分はロワール商会に取られたのでしょう。言うべき相手もお分かりにならないの? 配分が欲しければレリスタットへ支店をお出しになればいい。まあ入れないでしょうけど」
ぷぷっ、フリッツの成り切りが面白い。
「聞いてた周りは小さく笑っていたぞ。ただあのやり方は敵を作るな」
「フン、言っていることは正論だ、堂々とすればいい。ブラームスはたまたまゼイルディクに進出していたため初期に優遇されたに過ぎん。今や伯爵は更に遠方に目を向けており、ブラームスの役目は終わっている。そこに気づいているからこそ歯がゆいのだろう」
悔しかったらミディアの言う通り勢力拡大して伯爵に訴えかけないとね。直ぐに出来ないだろうけど。
「そろそろ本店だ、裏に付けるから乗り換えろ」
ほどなく工房馬車はコーネイン商会本店に入る。
「やあ来たね」
「フローラさん!」
「全て箱から出して鑑定確認をしろ」
「はい、商会長」
「我々はこっちだ」
俺たちはメルキース男爵家の馬車に乗り込む。
「ウチの馬車は?」
「城からソフィたちが使いメルキースの屋敷で待機している。今から合流するぞ。私は父上に諸々の報告のため村へは帰らない」
「分かりました」
情報共有は大事だ。
「馬車と言えば、バストイアで買い付けた馬が明日届く」
「俺の買った馬も?」
「うむ、しばらくはウチの屋敷で管理させる。村では乗る場所があるまい」
「そうですね、ではお願いします」
いくらでも草原があるけど魔物が出て危ないからね。
メルキース男爵邸宅へ到着。
「客間で少し休んでいけ、村へはエリオット含めた保安部隊が前後に付く」
「おう、分かった。じゃあ明日も頼んだぞミランダ」
「うむ」
客間にはエリオットとソフィーナが待っていた。
「部隊長、ワシが騎士団の馬車へ乗ります。村への道中クラウス様たちとお話しください」
「あーそうだな、そうしてくれエリオット」
「分かった、クラウス、フリッツ」
ひと息つき出発する。同乗者はクラウス、ソフィーナ、エリオットだ。
「ソフィとエリオットもリオンの鑑定結果を確認してくれ」
「そうね、見せてもらうわ」
「ミランダから聞いていた、城で受けたのだな」
クラウスは紙を広げソフィーナに渡しエリオットが覗き込む。
「……これはまた、信じがたい内容だな」
「……凄いわリオン」
「伯爵もさぞ驚かれただろう」
「非常識だと怒られました」
「はは、お気持ちは分からんでもない。この弓技18は対グラスドラゴンで得た力か」
「はい部隊長、目論見通り解放に成功しました」
「もはやスキルレベルでも士官学生を超えている、いやそんな枠で考えてはいけないか」
「そうよ、近いうちに私たちも超えるでしょう」
シンクライトの精度補正のために21まで上げておきたいところ。必中の矢に頼る場面があるかもしれない。
それから今後の育成方針、神との接触、変化共鳴の報告、アングレムの記憶などを伝え、2人とも俺たちの考えに賛同を示した。マルカリュードの海の件は伯爵との約束だからここでは伏せる。でもミランダはメルキース男爵に話しているかもしれないな。
村へ到着。防衛部隊出張所の前で馬車は停まる。保安部隊のクラリーサとエマが出迎えた。
「明日は7時30分に商会前へ来てくれ」
「分かった、じゃあ明日」
エリオットと別れて西区へ向かう。食堂に入ると住人は半分ほど残っていた。受け取りカウンターでトレーを持ち席へ座る。はは、やっぱこの環境が落ち着くな。
「おー、帰ったか」
ランメルトがクラウスに絡む。
「メル、今日の魔物は?」
「あー昼過ぎに来たな、クリムゾンベア1とレッドベア2だ」
「熊ばっかだな」
「まあな、3体とも城壁まで来たから畑も幾らか踏まれた。やっぱアルやフリッツがいないと締まらないぜ」
そうか魔物討伐指揮がいなかったのね。
「俺がいない時はメルが何とかしろよ。クラウスたち、お疲れ」
アルベルトも加わる。
「おや、勲章を服に付けているのか」
「まあな、城からずっとだ。似合ってるか」
「分からん。汚れるからしまっておけ」
「ああそうする」
アルベルトは木箱に勲章を納めた。ふふ、やっぱり嬉しいのね。
勲章は天然の鉱物だ。極偉勲章は銀を多く含むらしい。従ってこの世界は鋳造技術もそれなりに発達している。となると成形済みの道具も溶かせば形を変えられるのか。
むむ、トランサイトの鍬や斧を溶かせば武器になってしまうぞ。価値が跳ね上がるではないか。これはマズい。ひとまず技術の程度を確認しよう。
「フリッツ、鉱物合金の製造法は鉱物土を定着させる他にある?」
「……いえ、知りません」
「鉱物って高温で熱すると溶けるよね、それを型に流せば出来ると思うけど」
「溶ける? 確かに天然の鉱物ならその様な製法と聞きますが、精霊石由来の鉱物は融点に達すると昇華するため再成形は不可能です」
「えっ」
なんと消えるのか。いや魔素に戻るだっけ。でもそれなら鍬や斧を広めても心配ないな。
「天然鉱物の武器は魔物に通じないため作るとしても儀礼用です」
あらら魔物に通じないの。魔素由来と対峙するには魔素由来と言うことか。この辺も過度な開発を防ぐため神が定めたルールだろう。
「何だ採掘鉱物の話か、俺が知っているのは勲章の他だと礼拝堂の神像だ、確か銅らしい」
「へぇ、割と身近にあるんだ」
「まあ加工が手間だから余程拘りが無ければ精霊石由来で十分だ」
「そうだね父様」
設備さえ揃えばそこまで手間ではないけど、精霊石から簡単に抽出生成ができる世界では中々発想に至らないのかな。
夕食を終えて自宅へ向かう。
「じゃあ結界をやっておくね」
「ああ頼む」
クラリーサが音漏れ防止結界を施す。半径2m23cm、3時間17分か。本人は2mと3時間と告げたが実際は多めにやってくれてるのね。
風呂を済まして居間に座る。
「城の帰りにディアナから聞いたけど、昼食はドナート家の子供たちと同じテーブルだったでしょう。リオンから見た印象はどうかしら」
「平民から貴族家だからね、俺たちと同じ不安を抱いていたよ。それでちょっと気になったんだけど、姉様が手助けを提案する時にノルデン家の名前を使って主導権を握っていた。構わないのかな?」
甘く見ないで、だもんな。意外な言葉だった。
「いいのよ、掛かる重圧に耐えるためにその根源を最大限活用する。ディアナはそれを体現しているだけ。リオンも今後は上下関係をハッキリさせておくのよ」
「う、うん」
子供同士でも貴族家となればその流れは避けられないか。
「だからってあんまり高圧的な態度は止めておけ、仲良くな」
「いいえ多少は必要だわ、あなたはその辺りが甘いから舐められるのよ。意識して偉そうにするくらいで丁度いいの」
「そうか……まあ努力する」
「見本なんていくらでもいるでしょ」
「はは、そうだな」
つまりは威厳か。これまで見た貴族ではレリスタット侯爵が一番凄味があった。顔も怖いし声も低いし。いや威厳とはちょっと違うかも。
「明日はデルクセン男爵家が城へ来るわ、授与者である長男ヒルベルトと妻バネッサは昼食でも同じ席よ」
「カルニンで会って以来だな、騎士らしく誠実で話しやすかった」
「あの2人はコルホルを見下しているわ、多分カルニンの充実ぶりを引き合いに出して優越感に浸るでしょう」
「まあ実際、向こうが発展しているしな。でもそんな性格悪そうに見えなかったぞ」
「男爵夫人やマルティーナを見たでしょ、あれがヒルベルトの母親と妹なのよ。表には出さないけど根っこは同じ」
どうしたんだソフィーナは。ミランダの影響か知らんがまるで人間不信だ。いやまあ貴族家に限っての探りだろうが、それでもちょっと過敏な気もする。うーん、ただクラウスみたいに愛想よすぎるのも舐められるからなぁ。
「じゃあどう接すればいい? 正直、その辺を意識して上手く話せる気がしない」
「黙っていればいいわ」
「は?」
「あなたは身分だけで圧倒できるの。静かに少し笑うだけで相手が勝手に考える」
「おー、そうか。ちょっと気が楽になったぞ」
確かに有効な手段かも。
「リオンも子供3人と同じ席よ、長男8歳、次男7歳、長女6歳だから余裕でしょう」
「ええと、まあうん」
「特に長男のディランは年も同じだから意識してくるわ。メールディンク子爵領のデボネア士官学校初等部2年、洗礼は終えているけど剣技は5、全然大したことないから訓練討伐の話でもして徹底的に打ちのめしてあげなさい」
「は、はい」
おいおいスキル構成なんてどこから仕入れた情報だ。しかし子供相手でも容赦ないな。これが貴族社会か。
「さーて、寝るとするか」
ベッドに入り照明を消す。俺はソフィーナと同じベッドだ。
「母様、あまり無理しないで」
「何のこと?」
「あれこれ神経使うと疲れるよ」
「ふふ、心配しないで、本当にいい子ね、さあお休み」
「うん、お休み」
あの優しかったソフィーナが何だか別人になってしまったな。身分とはこうも人を変えるのか。




