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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
214/321

第214話 アルベルト

 クラウフェルト子爵領のラムセラール神殿にて清めの儀式を受ける。その最中に神との接触を果たしたが相容れない関係を再認識したに過ぎなかった。


 次は3日後の19日。その場で再び神と対話できるか。もちろん話し合いによる解決は絶望的だが情報源としては有力だ。何しろ神だからな。この際、色々と聞きだしてやろう。


 更衣室で装束を脱ぎ神殿の正面へ。馬車に乗り込みエーデルブルク城へ向かう。


「商会長、授与式の会場は前回と同じですか?」

「うむ」

「でも4人ですよね、伯爵を中央に両翼のバルコニーへ授与者と関係者が並ぶのなら同時に2組しか出られません」

「客間に控えて入れ替わる。アルベルトはカザックと、ナタリオはユーシスと関係者含めて客間を共にする、そのくらい十分に入る」

「なるほど」


 バルコニーは長さ15mほど、従って後ろの客間も同じ幅、もちろん奥行もある。ソファやテーブルも多く、前回ノルデン家関係者が座ってもかなり余っていた。


「ナタリオは北西部防衛部隊だから指揮官である商会長は向こうの客間ですか」

「その通り、エリオットとメリオダスも来ている」

「メリオダス副部隊長はユーシスの夫の兄だから丁度いいですね。ただ防衛部隊の正副3人がみんな来ちゃって心配ありませんか」

「今日はロンベルク長男夫妻がブレイエム監視所に待機している。ガウェインとベロニカもフェスク駐留所を動かない。ガストンとラウラも朝から戻った、何かあっても戦力としては問題ない」


 へー、トリスタンとカサンドラが防衛部隊本部にいるのか。


「トリスタン部隊長は3年前まで監視所勤務だからできる対応ですね」

「よく知っているな」

「フリッツから聞きました。商会長が討伐副部隊長だった5年間、彼は監視所にいましたよね」

「その通り。今頃トリスタンはエリオットより預かったトランサイトの剣を訓練しているだろう」

「保安部隊も欲しそうでしたね。でも伸剣ってどう運用するのですか、人間を真っ二つはマズいでしょう」

「賊なら切り裂いても構わん。殺さずとも腕を落として反撃手段を奪う、脚を落として逃走を防ぐ、その上で広い間合いは有利に働くぞ」


 対人でも容赦ないな。


「ただ捕えて尋問するなら気を使いますね、死んでしまったら聞き出せませんから」

「腕や脚を落としても直後ならポーションで接合可能だ。同時に止血となり死にはしない」

「えっ! ポーションって欠損にも有効なんですか」

「うむ、飲まずに患部へ直接注げばいい。ただ仮接合時間が短いため治療士の処置が早く必要となる」


 へー、直接か。魔物に喉を切られたら飲めないと思ったが、ちゃんと使えるのね。


「更生施設側も五体満足を望んでいる。しっかり働いてもらうためにな」

「アルカトラの罪人冒険者の扱いをフリッツに聞きました」

「あそこは更生させる気はない。格安の労働力だからな、何かと理由をつけて刑期を延長し死ぬまで使い潰す」

「うへー」

「窃盗で1年が30年まで延びた事例を知っている」

「どうして29年も増えるんですか」

「遅刻、手抜き仕事、看守への暴言、備品損壊、それらの積み重ねだ」


 なるほど素行か。


「そんなこと続けたら施設は受刑者で一杯ですね」

「増築する土地は幾らでもある。むしろ受刑者が減れば領主配下の組織が動いて犯罪者を生み出すらしい」

「え!?」

「不自然な治安悪化はその兆候だ、アルカトラと付き合いが悪ければ標的にされるぞ」


 おいおい、迷惑極まりないな。


「王都献上のトランサイトを敢えてアルカトラ経由とした理由が分かるか」

「反国王派を見定めるためですよね。そして武器は行方不明となりました。商会長は結末を見越してた様ですが……あっ!」

「ウィルム侯爵も不要な保安部隊の増員は避けたいだろう」


 まさかアルカトラに献上したと。


「王家は何も言わないのですか? 流石にやりたい放題が過ぎますよ」

「何の確証もない噂話だ。或いはアルカトラの悪評を広める策略かもしれん」

「あーそうか」

「いずれにしろ要らぬ懸念は払拭するべきだ。ゼイルディクは領内の更生施設ではなくアルカトラ送りが多い。つまり労働力の提供に貢献している。ちゃんと手足をくっつけてな。だから安心しろ」

「はぁ……」


 まるで罪人が取引材料だ。


 城へ到着。馬車を降りると伯爵家令ディマスが出迎えた。


「ようこそリオン殿、そしてコーネイン夫人。儀式は無事終えたか」

「はい」

「ほどなく授与式は始まるが、その前に本日の予定について話がしたい」

「ならば私と護衛も同行する、手短に頼むぞ」

「承知した」


 ふーん、何だろう。


 ディマスに続いて城へ。一室に入り腰を下ろす。


「急で悪いが城内でトランサイト生産を行ってもらう」

「えっ、今からですか」

「いやアルベルトの授与後で構わない。彼の関係者だろう」

「はい、同じ西区の住人です」

「生産は昼食まで頼む。出来る範囲でいい」


 ミランダを見ると少し頷く。


「分かりました」

「時間になれば私が迎えに行く。そちらの同行者は任せる」

「……急ぎか」

「プルメルエントの商会だ、伯爵から便宜を図ってやれと」

「午後から持ち帰るのだな。経営者は公爵の血筋か」

「いや違う、その家系で3本売れたのだ」

「なるほど」


 えっ? 何?


「リオン、トランサイト一般販売の客だ、恐らく騎士や冒険者が身内にいる」

「つまり購入者ですか?」

「うむ。その武器商会は販売権利獲得のみだろうが、建設、宿泊、飲食、馬車など、この大きな発展が約束されたゼイルディクへ進出を目論む商会は多い。それらの営業許可は最終的に伯爵が下す」

「リオン殿、選出基準は多々あるがトランサイト購入は大きな材料、そういうことだ」

「よく分かりました」


 まるで賄賂だね。公明正大な賄賂だ。あーこれはうまい手法かも。トランサイト購入で優遇されると広まれば勝手に販路が拡大する。


「午後は予定通り村へ向かう工房馬車内で生産してくれ。それから昨日、カルカリアでの魔物対応について昼食後に伯爵を交えて報告を受けたい」

「……承知した」


 俺が関与したとバレバレだよね。


「ディマス殿、こちらも頼みがある。リオンの人物鑑定を願いたい」

「む! ……承知した、では昼食後の席で」


 そうだった錬成やら弓技やら確認しないと。


「では授与式へ」


 部屋を出て関係者控室へ向かう。


「おお来たかミランダ、ここがナタリオだ」


 エリオットが扉の前で待っていた。


「リオン、俺たちはこっちだ」


 奥の扉の前からクラウスが呼ぶ。アルベルトの控室だね。中に入り窓際のソファに腰を下ろす。


「儀式はどうだった?」

「母様、問題なく終えたよ」


 神の話はまた後で。


「あと数分で始まる」

「じゃあバルコニーへ並ばないと」

「いや俺たちはいい。身内ではなく友人として来ているからな。授与される様子を近くで見るだけ」


 なーんだ。さてクラウスに生産を伝えておくか。


(俺は用事が出来たからアルベルトの授与後に部屋を出るね)

(仕事か?)

(うん)


「ではフリッツと商会の護衛2人も付けよう」

「分かった」


 アヴァンとレナーテはミランダの方へは行かず俺の後ろで控えている。


「これより第127回ゼイルディク極偉勲章授与式を開催する。初めにゼイルディク伯爵からお言葉を賜る」


 男性の声が会場に響き渡った。拡声器だね。


「竜の森。歴史に通じる者はその意味が分かるだろう。ゼイルディクは長きに渡り竜種が支配する広大な森であったが、初代ウォルト・ハーゼンバイン率いる騎士らは果敢に切り開き、正にこの場所に拠点を築き上げた。今から180年前のことである」


 いきなり歴史の話か。


「開発不可能と言われた魔物ひしめく森。多くの犠牲を払いながらも拠点を守り続け、いつしか竜種は姿を消した。脅威の去った森の開発は加速し、町の基礎を作り上げる。時に統一暦2150年、エナンデル子爵の誕生である」


 2150年か。カルカリア伯爵家がテルナトス子爵となったのは2100年だからゼイルディクは50年遅れていたのね。それだけ開発に手こずったと。


「町の拡張は順調に進み、2190年、ハーゼンバイン家は伯爵家へと上り詰める。偉大なゼイルディクの歴史が始まったのだ」


 俺が生まれた年が100周年だったのか。


「その軌跡を学ぶ教材として臨場感に溢れた演劇が最適だ。今週は近隣の劇場にてゼイルディク英雄記を毎日2回公演しておる。領民の教養として是非とも身につけてほしい」


 ぬお宣伝か。この場で言うことかよ。


「さて近頃、魔物の動きに変化がみられる。アーレンツでのサラマンダー、コルホル街道のガルグイユ、そしてベルソワ防衛戦、Aランク竜種が数多く襲来しているのだ」


 やっと勲章の話か。


「研究者の報告では竜種が活動期に入り何年も続く恐れがあると。皆の意見を聞こう! ゼイルディクは再び竜が支配する森へ戻るのか!」


 観衆がどよめく。


「先のベルソワ防衛戦では17体ものAランクが襲来した! 誰しもが絶望する規模だ! しかしその脅威を勇敢な騎士と冒険者が全て打ち倒した! ゼイルディクは勝利したのだ!」


 観衆が沸き立つ。


「この先どんな魔物が来ようとも必ず勝つ! このエーデルブルク城がトランサイトを生み出す限り! その武器を携え立ち向かう英雄がいる限り! その英雄を支える我がハーゼンバイン家がある限りぃ!」


 更に観衆が沸き立つ。


 落ち着くと楽器の演奏が始まった。ゼイルディクの歌だ。前奏を終えると物凄い音圧が襲って来る。客間の窓ガラスはピシピシを音を立てていた。1番を歌い終えると拍手と歓声に包まれる。この一体感はやはり凄いな。


「では授与を執り行う」


 おや声が変わった。これはエナンデル子爵か。まあ伯爵も長い挨拶だったし後半は声を張ったため疲れたのだろう。


「ベルソワ防衛戦においては10名が対象だが本日はうち4名に授ける。まずはアルベルト・レーンデルス!」

「はいっ!」


 いよいよだ。


「去る6月3日の午前10時過ぎ、コルホル村西区へサラマンダーが接近する。日頃から魔物討伐を指揮するアルベルトにとっては、相手がAランク魔物であろうとも住人の的確な配置を導き出すまで時間はかからなかった」


 ほうアルベルトが仕切っていたのか。


「城壁の上では弓士と魔導士が待ち受け、サラマンダーが射程に入るや否や(おびただ)しい数の矢と魔法を撃ち込んだ。さしものAランクも飛行能力を失い畑へ降りる。すぐさま剣士と槍士が止めを刺しに距離を詰めるが、灼熱の風により退避を余儀なくされる」


 野菜を投げつけて空中の範囲を確認したよね。


「それでもサラマンダーの首筋に一太刀あびせた住人がいた。英雄クラウスだ。その武勇は深手を負わせるに至ったが彼もまた無傷ではなかった。クラウスはアルベルトへトランサイトの剣を託す」


 ありゃ、そんな流れだっけ。


「彼は高い共鳴を剣に施し、一瞬の隙をついて魔素伸剣を繰り出した。見えないその鋭い刃はサラマンダーの硬い鱗をも簡単に切り裂き、同時に太い首を切り離す。かくしてAランクの脅威は去り、新たな英雄が誕生した!」


 観衆が湧く。


 実際はアーレンツ子爵の指示でロンベルク商会から5本のトランサイトが提供されたが言えないからね。アルベルトはベリサルダ合金の剣だ。彼の腕前なら通じていたかもしれないが、トランサイトとした方が丸く収まるのかも。


 しかしクラウスは変な役回りになったな。負傷もしていないのに。


「父様、今の説明でいいの?」

「構わん。昨日アルと打ち合わせてな、これが現実的だろう」


 まあサラマンダーだからね。トランサイトの評価も上がるし。


「アルベルト・レーンデルス、そなたの功績はゼイルディク極偉勲章に値する。その栄誉を受け取るがいい」

「はい!」


 観衆から拍手が沸き起こり、アルベルトは伯爵の元へ歩みを進める。


「アルベルトの父親レアンドロはバウムガルド子爵家の血筋である。本日は子爵夫妻がお出でだ。お言葉を賜る」


 ほう一言あるのか。まあ貴族だからね。


「ワシはロルダン・ブラームス・カウン・バウムガルド。ミュルデウスにゼイルディク本店を置く我がブラームス武器商会は、皆も知っての通りトランサイト販売を許された数少ない商会の1つだ。これまで多くの取引を実現し、今後もその役割を担うであろう」


 年は60代か。経営する商会のトランサイト取り扱いを自慢しているな。でもブラームス商会の配分は削られてロワール商会へ回したはず。敢えてこの場で発して伯爵へ見直しを求める思惑か。


「さて我がブラームス家は代々多くの騎士を輩出してきた。特にウィルム北西部において使命を全うし、その功績はトレド極偉勲章を5回受けるほどだ。誇り高きブラームスの血筋はゼイルディク最高の名誉を授かるに相応しい。おめでとう、アルベルト!」


 なんだか自画自賛ついでに祝っているな。


「アルベルトの母親ララベルはメースリック子爵家の血筋である。本日は子爵に代わり長男夫妻がお出でだ。お言葉を賜る」


 今度は母方か。


「私はラシュディ・アベニウス、カルカリア北東部を預かるメースリック子爵家の長男だ。このほどゼイルディク伯爵のご判断により、我がアベニウス商会はトランサイト販売権利を得た。サンデベール北東へ向けた販路拡大、その大きな期待に全力で応えましょう」


 こちらも負けじと商会自慢か。


「我がアベニウス家は由緒ある騎士家系だ。主にカルカリア騎士団北東部隊の指揮官を歴任してきた。その統率力と武力を引き継いだアルベルト殿ならサラマンダー討伐も頷ける。ゼイルディク極偉勲章おめでとう! アベニウス家の一員として誇らしい」


 聞いているとブラームスもアベニウスも自分の血筋が影響したとの主張だね。うーん両方じゃないかな。


「アルベルト・レーンデルス、皆に言葉を伝えよ」

「はい!」


 両親の家系、それも貴族家を前にすれば話す内容に気を使うね。


「俺はボスフェルトの養成所で育った冒険者だ。40年前、不幸にもボスフェルトは魔物によって壊滅したが、復興に尽力されたバウムガルド子爵家のお陰で俺の育った環境は作り出された。この場を借りてお礼を申し上げる」


 子爵はうんうんと頷く。まずはその話か。一度大きな恩を売れば事あるごとに感謝される。


「襲来時にはゼイルディク騎士団も勇敢に戦い、その中には我が母ララベルの両親ローエンとクラリーネの姿もあった。祖父母は指揮官として統率力をいかんなく発揮し、魔物の群れを食い止める。その2人の騎士精神は偉大なメースリックの地で培われたのだ」


 ラシュディはうんうんと頷く。やはりアベニウス家も触れたね。


「俺はブラームスとアベニウスの由緒ある騎士家系の元に生まれた。しかし両親の顔を全く覚えていない。俺が幼い頃に魔物によって命を落としたからだ」


 おやアルベルトが少しうつむく。


「両親を死に至らしめた魔物、それはサラマンダー。痛かっただろう、悔しかっただろう、それでも騎士の使命を全うし最期まで勇敢に戦った。本当に誇らしく思う」


 アルベルトは両手を握りしめ天を仰ぐ。


「父さん母さん見てくれたか! 俺はサラマンダーを倒したぞ! うおおおおっ!」


 その雄叫びに応えるように観衆が湧いた。やはり特別な思いがあったのだな。きっとレアンドロとララベルはよくやったと言っているよ。


 歓声が落ち着くとエナンデル子爵が声を発する。


「続いてナタリオ・ホフラントへ勲章を授ける」

「はっ!」


 さて俺はお仕事か。


 ほどなくディマスに呼ばれフリッツと護衛2人を引き連れて城内を歩く。


「フリッツごめんね、続き見たかったでしょ」

「アルベルトだけで十分です」

「授与者が発した言葉は記録している。観衆の反応含めて報告してやろう」

「手数を掛けます、ディマス殿」


 俺も興味がある。


「ここだ」


 扉を開くと見覚えのある内装。前回生産を行った部屋だ。テーブルの周りに職人と思わしき数名が立っている。40代後半の髭面(ひげづら)はコルヴィッツだったか、工房長だよね。


「剣4、槍1、弓5、杖2の計12本だ。昼の鐘まで1時間ほど、出来る範囲で構わない」


 それなら30分ってところだ。いや弓技があるから短縮できるはず。


 早速、弓を構える。


 ギュイイイィィィーーーン


 いいね全然負担が違う、これは一気にいけるぞ。残りの4本も連続生産だ。もう剣と変わらないね。更に続けて剣を4本、休憩を挟み残りの槍と杖も終わらせた。


「ふー」

「15分も掛からないとは、いやはや驚いた」

「他にないですか」

「幾らでもある。コルヴィッツ、王都依頼を20いや30持ってこい」

「はい!」


 コルヴィッツは職人と共に部屋を出た。残った職人は鑑定確認をして木箱へ収納する。俺も鑑定しよう。


『トランサイト合金

 定着:3年12日6時間

 製作:レイカールト武器商会 弓部門』


 ほうレイカールト商会。あっ! 聞いたことあるぞ。ディマスに確認したいが護衛や職人の手前、鑑定情報とは言えないな。外見で分かればいいのだが。


「ディマスさん、鞘に刻んでいる文字は商会名ですか」

「うむ、レイカールト武器商会だ。リオン殿なら知っておるだろう、カイゼル王国第171代君主、女王ベアトリス、その実家の末裔が経営者だ」

「へー」


 ええと統一暦500年頃だから今から1800年前か。即位に伴って身内を王都プルメルエントに呼び寄せたらしいね。そこから続いているのか。


「騎士家系と聞きましたが商会も手掛けているのですね」

「家格は申し分ない。何をするにも有利に働く」

「それは使わない手はありません。じゃあやっぱり貴族ですか」

「爵位を預かった時期もあるが今は平民だ」

「あらら何故平民に?」

「裏金絡みで剥奪されたと聞く、レイカールト側は陰謀との主張だが真相は分からん」


 別に理由があったかもね。


「公爵の身内にも武器商会はあるが、臆面もなくレイカールト商会長はトランサイト販売を直談判してきた。その際に3本の購入客だと引き合いに出すあたり流石は裏金疑惑の家系か」

「はは、商魂たくましいですね。そっか3本購入に300億の支出でも、この12本を売れば30%の360億が入る。もう元は取りましたね」


 伯爵も女王の神通力に押されたか。


「お待たせしました」


 コルヴィッツたちが大量の木箱を台車に載せて部屋に入る。さーて、仕事だ。


 ギュイイイィィィーーーン


『トランサイト合金

 定着:3年7日5時間

 製作:カイゼル武器工房 剣部門』


 王都依頼分か。むっ剣身にオービドス騎士団と刻まれている。やはり東の開拓も進めるらしい。


 ……。


「ふー、終わりました」

「30本を40分掛からずとは」


 剣と弓が多かったからね。


 ゴーーーーーン


 昼の鐘だ。


「急な要望に応えてくれ助かった。では昼食会場へ案内しよう」


 ディマスに続いて城内を歩く。


 先程の生産中に職人たちは俺の手元を凝視していた。まだ変化共鳴に気づいていないのか。はたまた再現に苦戦しているのか。うーむ、進捗を聞きたいが聞けない。


 あのグラスドラゴンの腕輪があれば一般的にどれだけの難易度か検証しやすいのだが。


「ディマスさん、グラスドラゴンの残した魔物装備は知っていますか」

「無論だ。特に共鳴率34%加算の腕輪は必ず手に入れる」

「目立った競合はいますか」

「今はいないが必ず特定の上位貴族が参加する、理由は分かるな」

「ええまあ。最終的にいくらになるでしょう」

「……1000億は超えないと見込んでいる」

「もし超えたら?」

「ウチは諦める」


 あらら。


「ただ他に渡っても最大の恩恵は受けられない。リオン殿ならその意味が分かるだろう」

「えっ……何のことですか」


 ディマスは僅かに口角を上げ目を細めた。うーむ、やはり共鳴の違いを知っているのか。よく考えたら伯爵工房職人は選ばれた優秀な人材だ。観察能力も高いはず。となると変化共鳴に取り組んでいる最中か。


 近いうちに何か聞かれる可能性が高いな。俺はひとまず知らない振りをすればよかったか。共鳴の使い分けに自覚があれば故意に隠したとなるからね。


 いや待てよ。いっそのこと先に話を持ち掛けて取引材料とするべきか。そうだよ先に気づかれたら情報の価値が下がってしまう。共鳴の違いは最近気付いたとすればいい。この辺含めてミランダに相談しよう。

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