第213話 創造神クレアシオン
6月16日、平日4日目だ。午前中にはエーデルブルク城でゼイルディク極偉勲章授与式が催される。今回は対象者が10人と多いため3日間に分けられた、今日はその初日だ。
「フリッツ、アルベルトは何番目?」
「1番目と聞いている。アルベルト、ナタリオ、カザック、ユーシスの順だ」
「へー最初か、緊張するね。フリッツたちもバルコニーで一緒に並ぶんでしょ」
「うむ。我々レーンデルス家の他にラシュディ殿とアベニウス夫人、そしてバウムガルド子爵と同家系の何人かも立つ」
「バウムガルド子爵?」
「ララベルの夫レアンドロは子爵の家系だ」
「おーそうなのか」
確か夫は騎士だったな。
「レアンドロの母親は先々代バウムガルド子爵第2夫人の次女である」
「へぇアルベルトの父方も貴族の血筋なのね、そりゃララベルとの縁談相手なら家格を気にする、何せ母親が貴族家だから」
「あまり拘っていると婚期を逃すがな」
「それはあるね」
ただ長男の他は家から出て新たな家系を築くから、その広がりを考えれば案外探せば見つかるのかも。問題は先約がいないことか。
「さて俺は朝から神殿だね、フリッツも来るの?」
「ワシはアルベルトと共に城へ向かう」
「ああそうか、主役の家族だから余裕を持って入らないと」
「お前にはミランダと商会の護衛、そしてバイエンス保安部隊が同行する」
「へー保安部隊が、それは心強い」
客室を出て朝食会場へ向かう。俺のテーブルには夕食と同じ顔ぶれが着く、ディアナ、エドヴァルド、ミーナだ。
「ねぇリオン、明日の午後の予定は聞いてる?」
「いいえ、姉様」
「レイリア様とロディオス様、それから私とリオンの4人、エナンデルの劇場で演劇を鑑賞して夕食も共にするのよ」
「へー」
そう言えばメルキース男爵から会食の話が合ったな。ロディオスとディアナも一緒で演劇まで観るのか。こりゃ全力の囲い込みだ。
「確か演目はゼイルディクの何とか、えーっと伯爵家の歴史をお芝居するんですって」
「それは面白そう」
「2時間もあるのよ、私は全然興味ないから寝てたら起こして」
「えー」
姉よ、そこは頑張れ。
「エドは興味あるんじゃない?」
「そうだねディアナ、ちょっと観たいかも」
「私も観たい!」
「ミーナは寝るわ、10分でね」
「ちゃんと観るもん!」
「じゃあ知り合いを誘ってもいいから2人を追加しておくね、あー演劇だけよ、夕食は別だから」
「リオンと一緒に観れるの楽しみ!」
「いやー席はちょっと離れてるかも」
演劇か。フリッツの話では場面説明に拡声器を使うらしい。劇場の構造含めて設備面で何か気づくことがあるかも。
朝食を終え席を立つ。
「では行くぞ」
「はい商会長」
「俺たちは城で待っているからな」
「気を付けてね」
「父様母様、行ってきます」
屋敷の前に出るとバイエンス男爵家の馬車が数台待っていた。
「前後は私含めた保安部隊で固める。神殿から城への道中も任せろ」
「お手間をおかけしますバイエンス男爵」
「気にするな」
馬車に乗り込み出発。同乗者はミランダと商会護衛のアヴァンとレナーテだ。
「男爵自ら護衛されるのですね」
「伯爵命令だ。恐らく子爵の行動を報告する」
ほう。そう言えば今回の儀式は伯爵側にどう伝わっているのか。
「商会長、儀式を受ける目的は何でしたっけ」
「Aランクなどの強大な魔物から身を守るため神の加護を施す」
「凄い効果ですね」
「フッ馬鹿らしい、何の役にも立たない」
「はは……」
神は守るどころか殺しに来るのだ。
それで加護ね。どうやら俺を殺せとの神託は子爵から伯爵へ伝わっていない。子爵は俺が破壊者にならぬよう悪気を払いたいが、儀式を行うために建前が必要なのだ。
魔物を神が仕向けていると伯爵も子爵も知らない。ただ何故だか魔物に狙われていると伯爵は認識している。子爵はその情報だけ共有し儀式を行う理由としたのね。しかし男爵に報告させるなんて我が子である子爵を信用していないのか。
「ところで今日も髪を下ろしているのですね」
「……まあな」
「お似合いですよ」
「そうか」
ミランダは少し照れくさそうにニコッと返す。いつもキリッとしてるから穏やかな表情はギャップを覚える。
「おや、前髪が少し不揃いですね」
「よく気づいたな、サラマンダーに焼かれたのだ」
「ああー、片目が痛んだ時ですか」
「うむ。傷は治療スキルで治せても失った髪は戻らない」
後頭部でお団子にしてなければもっと広範囲に失っていたね。
「おっそうだ、せっかく同乗しているのでお礼を言います。アヴァン、レナーテ、バストイアの戦闘では大変助かりました。いつぞやのコルホル街道でも素早い魔物対応を感謝します」
「恐れ多いお言葉」
「リオン様には遠く及びません」
「魔物対応が目立っているが本来は対人として付けている。2人とも私より強いぞ」
「ご冗談を、商会長」
へー、そりゃ頼もしい。
「ところで商会専属の護衛はどうやって見つけたのですか? 言えないなら構いませんが」
「メルキース士官学校だ。あそこの卒業生は皆が騎士になるワケではない」
「あー、なるほど」
「騎士になった後でも声が掛かって転職する者もいるが、顔が知れているため商会員を装うにはやや不向きだ」
確かに襲撃者は保安部隊の顔を覚えているかも。
「卒業後も直ぐに護衛業務に就かず、数年は商会員として先輩護衛と共に行動する。実際に窓口なども経験するぞ、レナーテは客に評判が良かった」
「本職の皆様には敵いません」
「実は本店長のフリンツァー、あれも元は護衛採用だ」
「えっ!? じゃあ強いんですか」
「今やあの腹だ、動きが鈍いだろう」
「はは……」
なるほど本店長ともなれば標的になり易い。ある程度は自分で守れるのか。あー、サラマンダー戦で生き残れたのも相応の身のこなしがあってかもしれない。
「では採用基準に鑑定スキルが必須ですね」
「その通り、無論アヴァンとレナーテも鑑定持ちだ。とは言え高いレベルは要求しない、製品鑑定が出来れば十分だ。まあフリンツァーに限っては鑑定が大きく伸びたがな。おお確かアヴァンはウチに入った頃にフリンツァーが付いていただろう」
「はい、本店長には多くの事を教わりました」
へー、あの人、教えるのも上手なのか。だから今の地位にいるのね。
「さあそろそろ到着するぞ」
街中に異質な建築物がそびえ立つ。あれが神殿か。太い円柱の柱が何本も見える。全て石造りだ。
「ようこそラムセラール神殿へ」
神殿の正面で馬車から降りると最初に40代半ばの男性が声を上げた。
「私はヴァレンティン・ハーゼンヴァイン・カウン・クラウフェルト、クレア教ゼイルディク神職者ギルド長だ。リオン・ノルデンよ、今日はそなたにとって大変重要な一日となる」
ローブに身を包み落ち着いた雰囲気で名乗りを上げる。この人が伯爵第1夫人3男、そしてクラウフェルト子爵か。
「クラウフェルト子爵家、家令のガルハールです」
「司祭モニカでございます」
子爵両側の40代男性と女性が名乗った。この2人がコルホルに来てメルキース男爵に神託を告げたのか。
「俺はリオン・ノルデン、コルホル村西区クラウスの長男です。どうぞよろしく」
それを聞いて3人はうんうんと頷く。何だか怖い。神職者絡みってちょっと苦手だなー。
「ジークが神殿に赴くのはいつ振りだ」
「さあな、数年は来ていない」
「先の魔物対応で生き残れたのも神のご加護があってこそ、祭壇の前で感謝の意をお伝えしろ」
「ああ分かった子爵」
バイエンス男爵はやや面倒くさそうに返す。ふふ、信仰心は薄いのね。
「コーネイン夫人も同じくな」
「はい、神に感謝します」
絶対に嘘だ。
「それで子爵、聞いているとは思うが私含めてバイエンス保安部隊、そしてコーネイン夫人と護衛もリオンと行動を共にするぞ」
「分かっているジーク、リオンは要人中の要人だ。父上からもそれを条件に儀式の許可を得た。リオン、遅くなったが詫びさせてくれ、オルウェンのことは本当に申し訳ない」
「えっと……はい」
オルウェン司祭、クラウフェルト子爵の側近だった実力者だ。しかしコルホル村で俺を襲いクラリーサに取り押さえられた。高い信仰心を利用して神が刺客に変えたのだ。
「彼はアルカトラ行きが決まった。もうゼイルディクには戻らない」
「そうですか」
「今となればオルウェンの動機も分かる。しかし手段としてはやってはならぬこと。私は別の方法でそなたを救う。是非とも安心してくれ」
「は、はい」
儀式は怪しいが襲われるよりはいい。
「では参ろう」
子爵を先頭に神殿内へ進む。
「儀式の前に専用の装束に身を包んでもらう」
そう言えば着替えるんだったね。
洋服収納家具が多く並んだ一室に案内される。これはダルマティカっぽいな、チュニックの一種であり袖口が広い。何やら模様が編み込まれている。
「服は脱がずに上から着て下さい。リオン様でしたらこちらの丈が丁度良いかと」
神職者らしき30代女性が見繕ってくれた。鏡の前に立つ。
「いいですね」
「うむ、クレア教信者として相応しい」
子爵は満足そうに頷く。当然の様に信者と言うが入信した覚えはない。ただ形だけでも礼拝堂の祈りを毎月欠かさず、洗礼の儀まで受けていればそう見られても仕方がない。
宗教とは何だ。幼い頃より擦り込まれ気がつけば習慣化している。クラウスは周りがやっているから面倒でも合わせていた。ソフィーナは真剣に神へ報告し、ミランダは完全否定する、クラウフェルト子爵は職業だ。
人それぞれ立場や思うところはあっても洗礼や祝福で必ず接点がある。ただの思想ではなくシステムの一部だ。人々の信仰心が神の力の源ならば強い繋がりも頷ける。
それなら儀式をクレア教が独占しても良かったはず。しかし神王教でも儀式は出来る。ああそうかスキルだ。恐らく契約スキルの派生に洗礼や祝福があり、対象者さえ条件を満たせば行使できると。
じゃあ俺が契約を解放してレベルを上げれば洗礼とか出来るのかな。確か高い契約レベルで行使すれば結果が良くなると聞いた。それがレベル41以上なら顕著に現れるだろう。おっこれは使えるかも。
クレア教の勢力を削ぐために神王教に加担するのだが、俺が儀式を執行して評判が広まれば信者獲得が捗るのでは。それに儀式の寄付は宗教団体の大きな収入源だろう。他に流れるとかなり痛いよね。じわじわと確実に追い込めるぞ。
ただ俺の露出が大きいとリスクも高まる。いい案と思ったが厳しいか。
「では祭壇の間へ向かおう」
子爵を先頭にぞろぞろと廊下を歩き巨大なホールへ出た。
「本来なら祈りを捧げる領民たちで溢れているが、儀式のために制限を掛けている。無論、警備上の理由だ」
「ご配慮ありがとうございます」
祭壇の間の前方に巨大なオブジェが据えられている。太陽を模した造形か。中央の円から放射線状にいくつもの棒が突き出ていた。コルホルの礼拝堂でも見たな。これが神像だろう。
十数段の階段を上がり祭壇の正面に辿り着く。神像と思わしき物体はかなりの大きさだ。流石は神殿か。
「ここへ正座し祈りの姿勢をとれ」
「はい子爵」
神像より3mほど手前に座布団が置かれている。子爵はそこに座れと指示をした。よかった、床に直接だと流石に足が痛い。正座し胸の前で手を組み、軽く頭を下げて目を閉じた。
「これより清めの儀式を行う、私が許可するまで動くな」
「分かりました」
背後から僅かな足音と服が擦れる音が聞こえる。舞いが始まったようだ。時折りハァーとかフゥーとか子爵の息づかいも混じる。これを30分耐えるのか。
そう言えば今階段を上がった、ここは神殿の床より2mほど高い。この足元に隠し部屋を作って俺が待機、頭上の洗礼対象者に契約スキルを行使すればどうだろう。もちろんダミーの司祭は対象者の側だ。問題は障害物を挟んでも効果が得られるか。
まあ契約スキルも解放していないし考えても仕方ないけどね。
さてせっかくの機会だ、神との接触を試みよう。別の神殿では神託、つまり神の声を聞けたらしい。ここも同じクレア教の神殿なら条件は似ているはず。
ひとまず神像に向け意識を集中する。
……。
うーむ、何も感じない。呼びかけてみるか。
神よ! 俺はここにいます! 見ているなら反応してください!
(なんと悍ましい)
えっ?
(消えろ異物)
声が聞こえる。いや頭の中に直接響いて来る。この感じ……神の魔物? まさか襲って来たのか! いや昨日の今日だ、魔物を操る力はまだ回復していないはず。では神の声か!
あなたは創造神クレアシオンですか?
(名を呼ぶな汚らわしい)
おっ反応があったぞ。どうやら会話が出来そうだ。もう一度聞きます、あなたは神ですか?
(我は神だ)
やっぱりそうか。いや待て、自称神なんて怪しい。すみませんが神である証拠を示して下さい。
(異物の要望に応える必要はない)
ハァそうですか。まあ俺を敵視している時点で神でしょう。あのー、宇宙の声の話では接触を拒んでいたそうですが話をする気になったのですか。
(宇宙の声ではない、ザラームだ)
あの声ってザラームという名前なのか。
(ザラームの指示とは言え、異物と意思疎通なぞ不愉快極まりない。本来はあり得ない状況だと理解しろ)
やっぱりザラームは神より上の立場なんですね。
(下は上に従う。異物は下で神は遥かに上だ。その神が命ずる、今すぐ死ね)
嫌です。
(神の命令に背くのか)
背くも何も、俺は普通に生きている人間です。死にたくはありません。
(普通ではない、異物だ)
転入魂だからですよね? しかも前世の記憶をほとんど持っていて100万の英雄の力が封印されている。
(理解しているなら死ね)
あの……さっきから異物だの死ねだの酷い言い様ですね。いくら嫌われてても神と会話する機会があれば失礼のないようにと思っていましたが、そんな気も失せます。
(本性を現せ、神に抗う利己的な破壊者の心を)
またそんな極端なことを言う。確かに警戒する気持ちも分かりますが、やって欲しくないことがあるのなら、まずは言葉で伝えましょうよ。一方的に排除なんて敵対心が増すだけです。
(異物と共存なぞ選択肢に無い)
ハァ、本当に頑なですね。
(では契約するか)
え? 契約?
(我に不都合な言動をしないと誓うなら排除も試みない)
それはつまり魔物や刺客を仕向けないと。
(その通り)
おおー、なんだ話が通じるじゃないか。これでお互い無駄な労力を使わなくて済む。えっでも誓いを破ったらどうなるの?
(神罰を下す、つまり死だ)
うはっ直球過ぎる。じゃあそちらも同等の罰則が必要ですね、こっちは命を懸けているのだから。神に神罰って変だけど。
(我の全権限をザラームへ移管、つまり神の資格を失効だ。これでいいか)
えっ……は、はい。まあ神の命って扱いが分からないし、それが死と同等な状況なのでしょう。いや待てよ、そもそも神に不都合な言動って誰が判断するの?
(我が決める)
そんなの何でも通るじゃないか。危ない危ない、契約直後に殺す気だったな。
(チッ)
よく考えたら神が用意する契約なんだから如何様にもできる。この場合は双方に面識があり立場も上のザラームに取り仕切ってもらうべき。それなら応じますよ。
(不当に得た力はこうも勘違いを引き起こすのか。改めて告げよう、我が上で異物が遥か下だ。その間に対等な契約など存在しない)
不当ではありません。ガチャに応じたなら結果を受け入れるべきです。
(ザラームの示した確率は偽りだ。初めから異物に力を与える腹積もりだった)
えっ、そうなの? いやいやハズレを引いたからってインチキ呼ばわりは往生際が悪いですよ。そもそも英雄の力はあなたの調整ミス。本来は世に出るところを先延ばしにしただけ。無かったことには出来ないのです。
(異物が消えれば解決する)
ああなるほど1つにまとまった俺は神側から見れば逆に好都合か。
(理解しているなら死ね)
あのですね、俺は生きたいのです、ちゃんと生涯を全うしたいのです。そんな相手に死ねだの消えろだの素直に聞くワケないでしょう。神の都合なんて知ったことではありません。
(無知で低劣な異物に教えてやろう。神である我はこの世界を創り出し途方もない年月を管理してきた。人間の寿命なぞ70年、比べ物にならん。その短い生涯を終えれば魂は浄化され転生する。記憶は残らない)
転生枠に前世の記憶を付与すれば残る可能性があるとザラームより聞きました。
(異物の魂には何も付与せず遠い惑星へ飛ばしてやる。つまり今すぐ死のうが70歳まで生きようが転出先では一切覚えていない。死ぬ間際に痛く苦しい思いをしても全て忘れる。だから安心しろ)
何が安心なのか分かりません。
(いいかよく聞け。異世界の知識を使い優越感に浸ろうとも、英雄の力を発揮して世界の支配者になろうとも、死ねば全てを忘れ去る。しかし大きく乱れた世界の秩序はそのままだ。それを何千年とかけて我が元に戻す)
それが神の仕事でしょう。
(異物を排除するのも神の仕事だ)
ハァ……転入魂は変化をもたらす役目、そうザラームより聞きました。だから自由に生きていいと、前世の知識を使っても構わないと。英雄の力も神が命を狙うからその対抗手段と解釈しました。つまり俺の存在も力も意味があるのです。
(意味はない、ただの異物だ)
えっとですね、俺は知っています、馬車より速く走り、多くの人を安全に運ぶ乗り物を。遠くの人へ瞬時に情報を伝える手段を。見たまま聞いたままを正確に記録する仕組みを。やっぱり世の中、便利になった方がいいと思います。
(何と恐ろしい、想像したくもない)
どうしてですか、きっとみんな喜びますよ。
(ここは我の世界だ! 余計なことをするな!)
必要かどうかを判断するのは俺でも神でもなく世界の人々です。
(己惚れた恥知らずめ)
ええ分かってますよ、何一つ俺が開発した技術ではありません。多くの人たちが長い年月、労力、執念、財産を注ぎ、また犠牲を払って成し遂げたのです。手柄を横取りとでも何とでも言えばいい。
(本性を現したか)
確かにズルい思考でしょう。でもいいのです。謎の拘りに縛られて内に秘めておくよりも、俺1人が後ろめたい気持ちを抱える程度で済むなら何のことは無い。もうね、単純な話なんですよ。世の中が便利になる、周りが笑顔になる、そして俺が儲かる。悪い事は無いでしょう。
ああ、神が困りますね。
(挑発か、覚悟は出来ている様だな)
まるで悪役が吐く台詞ですよ。
(我は善でも悪でもない、神だ)
おお、妙に説得力がある。
(異物は邪悪そのものだ)
神から見ればそうでしょう。善悪なんて立ち位置によって変わる。
それで先程はああ言いましたが異世界の知識は最後の手段と考えています。まずはこの世界に存在する鉱物なり魔導具なり、あなたが創り出した要素の範囲内で収めるつもりです。積み上げた世界観を壊されるのが嫌なのでしょう?
(既に壊しておきながら偉そうにほざくな)
あーそっか、トランサイト作り過ぎちゃったからね! きっと魔物の大きさや攻撃範囲なんかも今まで丁度いいバランスだったのでしょう。いやー、色々と大きく崩れましたね。新種も俺の生産速度に全然追い付いていませんよ。
(殺す……必ず殺す)
では必ず生き抜いて見せます。身を守るため英雄の力をどんどん解放します。知っての通り、魔物を仕向ける度に俺は強くなりますから。次はどんな魔物ですか? Sランク?
(調子に乗るなよ)
おお怖い怖い。そう言えば約1年後に魔物を操る力が大きく回復するんですよね、その時は町もろとも俺を消し飛ばしますか?
(……回復などしない、ザラームの虚言だ)
え?
(我との対立を煽り、利用されているとも気づかず極めて愚かだ)
どういうことですか?
(ザラームは……いずれ……使……徒……)
おや、声が途切れる。
……。
何も聞こえなくなった。
うーむ、重要なことを言おうとしてた気がする。
ともあれ神との接触は果たせたらしい。予想通り物別れに終わったが。それでも全然話せない相手では無かった。舌打ちしたり悲観したり怒ったり人間っぽい感情もあるじゃないか。
それにしても一貫して俺を異物と呼んでいたな。オマエとかキサマとか二人称代名詞すら値しないのか。恐らく人間全体に対しても家畜程度の認識だろう。そりゃ神と人間だ、上下関係は認めざるを得ない。
だからって一方的な抹殺は受け入れられないし、失敗を帳消しにしようなんて虫が良すぎる。俺は抗うぞ。今回の接触でその意識をより強くした。世界が乱れようが知るもんか。それを含めて管理するのが神だ。
しかし宇宙の声、いやザラームについて気になる事を言っていた。俺を利用している? 神との対立はザラームの仕組んだこと? ガチャも騙されたとの主張だし。うーむ、少し不穏な印象を覚えてしまったな。
ただ神はザラームに対して快く思っていない様子。ならば単なる捨て台詞、或いは俺を不安に陥れる狙いか。1年後の回復も嘘らしいが油断を誘っているだけかも。
「無事終了した。目を開けて楽な姿勢を取れ」
「あっはい!」
「そなたは何か感じたか」
「……いいえ」
「実は神託らしき光が見えてな、神の声を聞いたのではないかと」
ほう神との接触は外部に視覚的変化をもたらすのか。
「神は私の行いを肯定している。この者を救ってやれと」
「子爵は声を聞いたのですか」
「いや感じた。舞いが徐々に研ぎ澄まされたのだ」
「はぁ」
何だか都合よく解釈している。神は救うどころか殺意全開だぞ。
「次は3日後の19日だ、この調子でいけば予定より早く目的を達せられるだろう」
「えっと、頑張ります!」
「うむ、よい心掛けだ」
「子爵」
「何かコーネイン夫人」
「メルキースの神王教施設の件、良きに計らいを」
「任せておけ、約束は守る」
ミランダは釘を刺す。子爵院議会で建設に反対をしない、これが儀式に応じる条件だったからね。クレア教ギルド長を押さえておけば安心だ。




