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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
21/321

第21話 剣の訓練

 朝だ。1階に下りて挨拶を交わす。


「収穫へ行くの?」

「いやもう収穫できる野菜が無いんだ。次はあと10日は待たないと」

「じゃあ今日はどんなお仕事?」

「畝立てだ」

「俺も手伝えるかな?」

「ちょっと無理だな」

「見るだけでもいいかな」

「いいぞ」


 畝立て。そうだよ。管理機なんか無いのにどうやるんだ。興味ある。


「私は近くで草抜きをするからお手伝いする?」

「うん!」


 家を出て納屋へ向かう。荷車に武器と道具を投げ込んだ。


「これで畝立てするの?」

「そうだ」


 これは(すき)の一種か。スコップと似ているが先端の掘る部分が長い。大きくカーブした断面はU字だ。いや上部が少し開いているか。畝間の溝の形だな。


 こういうのが前世で欲しかった。畝が崩れて修復する際に最適な形の農具が無かったから。まあ管理機を入れたら済む話だけど、畝を削らずに溝の底から土を上げたい時はこういう形がいいんだよな。


 城壁入り口へ向かう。


「南側もいいぞ!」

「よし扉を開けろ!」


 圃場へ向かい準備をする。


「父さん、それ1本でやるの?」

「ああ見てろ」


 クラウスはおもむろに鋤を突っ込むと、土を持ち上げ、ばら撒いた。


 うお! すげぇ!


 突っ込んだところから1mくらい先まで溝が掘れている。ちゃんと畝間の溝の形だ。クラウスは管理機か。


 見ている間に滞りなく進む。いやはやこれは凄い。操具の派生で耕起スキルだったか? なるほど。この世界に農機は要らないな。それにしてもヒモ等のガイド無しで真っすぐ進めるのだな。


「母さん、父さん凄いね! どんどん畝ができるよ!」

「ふふ、さあリオンはここから草抜きお願いね。草はこの袋に入れるのよ」

「うん!」


 俺は大好きな草抜きを夢中で取り組んだ。うひょー! チョー楽しい!


 この世界はビニールが無いためマルチシートを畝に使っていない。代わりに麦藁らしき植物を敷いているが隙間から草が生え放題だ。まあ流石にビニールマルチの再現なんて無理があるよね。


 いや待てよ。そうか!


 土の精霊石から石油を抽出してポリエチレンだ! 魔素は消えるから自然にも優しい! ビニールマルチが生分解マルチみたいなモンだぜ! やっぱ異世界すげぇよ!


 これは革命だ。農業環境が劇的に変わる。


 あーでも、神がお怒りだろうな。


 ゴーーーーーン


 朝の鐘だ。


「よし帰るか!」


 こんな短時間で圃場1枚の畝立てが終わっている。8アールくらいか。畝は綺麗な直線で幅も全て同じだ。他に道具を使わずに大したものである。まあこれも慣れだろう。


 食堂で朝食だ。


「おおーい! みんな聞いてくれ!」


 周知か。


「来週末の10日、11日、12日に町の学校に行ってる12歳までの子供たちが帰ってくる! 前日の9日に村へ到着する時間が分かるから、またその時伝えるぞ! 以上だ!」


 おおー! ディアナが帰ってくるのか!


「向こうは連休か」

「そうね。建国記念日の式典やお祭りがあるから」

「10日が見張り当番の日だったな。久々にディアナも上がるか」

「ねーちゃん、字を覚えたかな」

「どうかしら」


 かなり楽観的な性格のディアナは、すぐ覚えられると自信たっぷりで学校へ行った。


「手紙をよこすと言っていたが、来ないところを見ると苦戦しているようだな」

「いいのよ。ゆっくりで」


 学校と寮暮らし。環境が激変して気疲れが溜まっているはず。きっと久々の実家は落ち着くだろう。魔物が来なければ。


 朝食を終えて居間に座る。


「リオン、身体強化の訓練をやるか」

「うん。でも10時から先生とお話の約束があるんだ」

「ならあんまりやり過ぎないようにな」

「上手なんだってね。母さんにも見せて」

「うん!」


 納屋の前へ出て跳躍を始める。


 ぴょん ストン


「あらほんとだわ。もうここまで出来るなんて……」


 ソフィーナはしゃがんで顔を覆った。


「どうした?」

「母さん!?」


 俺とクラウスは近寄って一緒にしゃがむ。


「ごめんなさい……嬉しくて」


 ソフィーナは涙を流しながら笑顔を向ける。


「リオンの妊娠が分かった頃、私ね、急に魔力が下がって高熱が出たのよ」

「あの時は大変だった。よく頑張ったな」

「赤ちゃんに影響が出たらって、とても心配だったの。でも無事に生まれて。とってもいい子に育って。それなのに洗礼であんなことになって……」


 その発熱は神の封印が原因だ! ソフィーナは自分が悪いみたいに思っているじゃないか!


「でもよかった。こんな立派な才能があるんですもの」

「そうだぜ、俺たちの子だ。まだまだ伸びるぞ。なあリオン!」

「うん! 頑張るよ!」


 3人は笑顔で向き会った。


 スキルとはこの世界においてとても便利な能力だ。と同時に大きく依存する。こんなにも心を揺さぶられるその存在は、まるで人間を支配しているかの様だ。


 もし英雄ほどの凄まじい力が解放されたら、この2人はどんなに喜ぶだろう。その笑顔が見たいがために取り組むのも理由として十分と言える。


「じゃあ訓練再開だ!」

「うん!」


 俺は跳躍を繰り返す。


「ふー、まだちょっと余裕あるけど止めておく。先生との約束があるし」

「じゃあ休むか。俺は訓練用の武器を買ってくるよ」

「行ってらっしゃい」

「お願い父さん!」


 剣の訓練か。楽しみだけどうまく行くかな。


 ソフィーナと居間に座る。


「母さんも身体強化ができるんだよね」

「そうよ」

「弓士はあんまり動かない印象だけど、いつ使うの?」

「城壁の上で矢を引いている時は動かないけど、地上で戦うときはそれなりに動いているのよ」

「どうして?」

「止まっていたら魔物に襲われるでしょう」


 そりゃ確かに。


「じゃあ動きながら狙いを定めているの?」

「その時は止まるわ。動きながら矢を引いて魔力を集中して間合いを調整するの。それで魔物の動きを見て、頃合いと判断したら止まって狙うのよ」

「へー」

「動いている時に足元が何もなく平らとは限らないでしょ? 障害物があったり、大きな穴が開いてたり。この村は畑だから倒した魔物がジャマになるくらいだけど」

「そういうのを避けるのに身体強化が必要なんだ」

「もちろん全力で走ることもあるわよ」


 なるほどね。後衛でも魔物は関係なく襲うから機動力は必須なのか。


「でもそんなに動いて、よく狙いをつけられるね」

「魔物の動きには流れがあるの。跳ぶ前には力を溜めるし、着地したら次の動作へ移る前に少し止まったり」

「そっか。先読みするんだ」

「もちろん思った通りの動きじゃない時もあるわ」

「じゃあ矢は外れちゃうね」

「ふふ、それでも当たるの」

「どうして?」


 まさか。


「放った矢の軌道を少し変えるのよ」

「何それ、凄い!」


 これは驚いた。離れた矢に関与できるなんて。と言うことはもしかして。


「魔物を追いかけるスキルはある?」

「あるわよ」


 出た! 誘導! 魔物もたまったものではないな。


「他に何本も同時に放ったりね。でも高いレベルじゃなきゃできないわよ。もちろん私には無理」

「へー、凄いな。弓って」


 何だか弓にも興味が出てきた。そのうち訓練をお願いしてみようか。


「そう言えば城壁の上って高いよね。落ちたら危ないでしょ」

「身体強化があるから心配ないわ」


 へー、あの高さでも平気なのか。


「魔物が来た時、近道するために城壁から飛び降りる人もいるのよ」

「そっか。出入り口が真ん中だけだもんね」

「城壁に上る階段があるでしょ? ディアナはあそこで身体強化の訓練をしていたの。学校へ行く前には踊り場から飛び降りるくらいに上達していたわ」

「えー、2階の高さだよ」


 ディアナもやるじゃないか。


「ただいま」

「父さん! お帰り」

「外で素振りをやってみるか」

「うん!」


 家を出て納屋の前へ移動する。


「これが訓練用の剣だ。持ってみろ」


 剣身をクラウスが持ち、握り部分を俺へと向けた。両手で受け取り剣身を観察する。長さ60cmの銀色の両刃。思ったほど重くはない。


「お前専用の剣だ。刃は無いから剣身を持っても構わないが、切っ先はそれなりに尖ってるから気をつけろ」

「分かった! 父さんありがとう!」

「そのうち名前を彫り込んでやろう」


 えへへー、やったぜ。


「じゃあ素振りだ。型とかは思う通りにやってみろ」

「うん」


 ゆっくりと切っ先を上げ、目の前に剣身を据える。


「まずは身体強化だ。それを忘れると剣に振り回されるぞ。体中の筋肉にその重さ長さを扱えるだけの力を宿らせてみろ」

「うん。やってみる」


 魔力を体全体に巡らせ集中する。


 ……。


 両腕の輪郭がぼやけたように見えた。同時に活力がみなぎる。


 よし!


 握りを頭と同じ高さまで上げ、右肩の前へ移動する。剣身は高く上がり斜め後ろへ傾く。そのまま体を右後ろへ捻り、脚を開いて腰を少し落とす。


「はぁっ!」


 ブンッ


 右上から左下へ振り下ろす。同時に1歩前へ踏み出した。


「いいぞ続けてやれ」


 今度は右上へ切り上げ。


「やっ!」


 そして右から左へ中断切り。


「とうっ! ……ハァハァ」

「いいじゃないか。初めて振るうにしては」

「そう? やったあ!」

「いいか。剣を扱う時には必ず身体強化をしろ。じゃないと関節に変な音がして何日か痛いぞ」

「うわぁ、分かった!」


 勢いを付けたら振り回されるもんな。遠心力を甘く見てはいけない。


「そろそろ準備しないと。先生のお話だ」

「おお、そうだったな」

「リオンはいつもどんな話を聞いているの?」

「色々だけど今日は歴史だよ」

「歴史!? それで朝食の時に英雄が何だの聞いていたのか」

「じゃあ紙とか取ってくる!」


 家から筆記用具を持ち出す。


「父さん、納屋の前なら剣の訓練を1人でやってもいいかな」

「構わないが周りに人がいないか確認するんだぞ」

「うん! じゃあ先生のところへ行ってくる」

「昼はそのまま食堂へ行けばいい」

「分かった!」


 フリッツの家へ向かう。


 体を動かすと気持ちいいね。身体強化に魔力を使えば独特の疲労感が残る。ともあれ、これを繰り返せば剣技スキルを覚えられるはずだ。

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