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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
204/321

第204話 アレリード子爵

 6月14日、平日2日目だ。今日はカルカリアへ向けて長旅となる。


 朝の訓練を終えて朝食も済まし居間に座った。


「8時に出発だったな」

「服装は聞いてないけど着替えるなら早めに出ようか」

「そのままでいいぞ。アレリードでは商会員の息子と偽るのだろう」

「平民のお出掛けなら丁度いい恰好ね」

「分かった、このまま行く」


 村で過ごすときは庶民のいい服に身を包んでいる。まあこれが妥当か。


「後はトランサイトの剣、シンクルニウムの弓、矢はミランダが用意する。それからブーツも持って行け」

「神の魔物に備えてだね」

「シンクライトは商会に保管してあるから馬車に載せるだろう」

「でもシンクライトをゼイルディクの外へ持ち出して心配ないのかな」

「客人の武器を鑑定するなど無礼な行為だ。もし聞かれてもシンクルニウムと言えばいい」


 逆に意識しすぎると怪しまれるか。


「万一、鑑定不能が知れてもレア度4の鉱物なら一部の者は所持しているし、ウチは手に入れる財力も伝手もある。堂々とすればいい」

「そっか、よく考えたら特に問題ないね」

「伯爵が討伐部隊の最前線に持たせる理由も同じだ。あれを鑑定できる者はゼイルディクに2人しかいない。恐らくカルカリアも2人ほどで城から出ることも無いだろう」


 鑑定不能って便利だね。一般人には何なのかまず分からないから。シンクルニウムと偽っても防犯上の措置なら納得できる。


「失礼する」

「フリッツか」


 音漏れ防止結界があるためクラウスは手招きをする。


「今日は頼んだぞ」

「お任せください、クラウス様」

「ふっ、しかし慣れんな、その言葉遣いも」

「ワシだって慣れん、ですが仕方のない事です」

「まあこの場ではいい、それでカルニンはどうだった? 宿泊したのだろう」

「村の置かれた立場、求められる役割、目指す未来、全てにおいて意志統一がなされており、住人は誇りを持って従事している」

「ほう、それは凄いな」


 へー、意識高いのか。


「それも東中央区長コンラード、あの者の指導力が高いためだ」

「確かに管理職にしては視野が広くて頭もいい印象でした」

「カルニンに領主が就いたら家令の地位でも狙っているのだろう」

「その通りだ、クラウス様。ユンカース部隊長との繋がりも深く、全幅の信頼を賜っていると自慢しておったわ」

「はは、フリッツも頼りにしてるぜ」

「出来る限りのことはする」


 叙爵まで時間はたっぷりある。ゆっくりでいいよ。


「そろそろ出るか」

「うむ」

「私たちも見送るから一緒に行くわ」


 家を出て中央区へ向かう。搬入口裏ではカスペルたちが駄弁っていた。


「リオン、お出掛けかの」

「お爺様、行ってまいります」

「おー、おう。気を付けてな」


 カスペルとエミーはウチの2階で寝泊まりしているが朝起きたら直ぐにブラード家へ戻っている。風呂の後にも直ぐ2階へ上がるし本当に寝るだけだ。イザベラの両親クレメンテとマルセラは村への滞在を延長した。やはり孫と同居が楽しくて仕方ないのだろう。


 商会へ到着すると既にノルデン家の馬車が待っていた。


「ラウル、今日は長時間だけど頼むよ」

「お任せくださいリオン様」

「ときに両親には会っているの?」

「昨夜ブラード家に顔を出しましたが、もう私やミゲルなどには興味を失いカトリーナ様やアルマ様にかかりっきりです。特にギルベルト様を溺愛の様子で、あんな表情の両親を見たのは初めてです」


 その分、孫の顔が見たいと急かされず良かったじゃん。それにしても俺の従妹だからかカトリーナ様と呼ぶのね。


「ラウルは明日の会食を頑張ってね」

「はい……何とかなるでしょう」


 馬車商会の娘なら共通の話題はある。


「来たか」

「おはようミランダ」

「既に例の武器と矢は載せてある、鉱物の本もな。後はその剣と弓を持ち込めば直ぐに出発できる」

「父様と母様はこの2日どう過ごすの?」

「俺は例の絵画の対象の続き、メルキース男爵と共に来客の対応、それから北区の進路へエリオットたちと入るか」

「来客にも顔を出すんだね」

「まあな、そろそろ慣れておかないと」


 男爵が同伴なら心配ないね。


「北区は私も一緒に入るわ」

「ソフィならもうサラマンダーで戦えるだろう」

「どうかしら。後はメルキースの屋敷へ行って身内たちの状況確認ね。特に子供の環境はしっかり見ないと。それからキューネルやリカルドとウチの帳簿整理をするわ」

「忙しいね」

「それが貴族家よ」


 ソフィーナは本当に意識が高い。


「じゃあ明日、バイエンスで待っているぞ」

「うん、では行ってまいります」


 馬車に乗り込む。フリッツとミランダも続き、ほどなく出発した。これまで村外へは必ず両親が同伴していたが8歳の子供なら当然のこと。しかし俺は中身が大人である。自分で考え自分で動けるのだ。


「監視所に工房馬車が待機している、乗り換えるぞ」

「ウチの馬車はどうするの?」

「村へ帰る、今日はソフィが使うはずだ。防衛部隊のトランサイト弓士2人とウチの護衛2人はコーネイン商会の馬車でついて来る。他にもウチの商会の馬車が1台、マクレーム付近で合流する。そっちは商会員などが乗っている」


 カルカリア支部への用事を一緒に済ますのね。


 ほどなく監視所に到着。工房馬車に荷物を移動する。


「ミランダ頼んだぞ」

「任せておけエリオット」

「部隊長、行ってまいります」

「うむ、実り多き旅路を祈っておる」


 工房馬車にはフローラが待機していた。ミランダとフリッツも乗り込み扉を閉めると直ぐに馬車は動き出す。さあ今から長いぞ。


「昼頃にアレリードでしたよね」

「うむ、約65kmの距離だがほとんどは城壁側道を通る。2時間半で到着するだろう」


 平均時速26kmってとこか。側道はもっと速く走るかな。


「じゃあ剣からいくかい」

「はい」


 既に箱から出して並べてある。10本ほどあるな。


 ギュイイイィィィーーーン


「ふー」

「剣はあと8本だよ。これを片付けたら並べるから休んでおきな」


 フローラが鑑定確認をしてミランダとフリッツが箱に納めていく。はは、商会長自ら補助をするのね。


 続けて8本を終わらせる。剣は全部で18本か。


「後は槍8本、弓23本、杖14本だよ。45本なら2時間ちょっとか」

「丁度アレリードへ到着する頃に終わるでしょう」


 まあそれを逆算して用意しているよね。俺の生産速度をフローラは正しく把握しているから。ただいつもちょっと多めで微妙に追い込んでくる。最後のペースアップも計算の内か。


 剣身に刻まれた名前を見ると今回も騎士団行きが多いね。


「商会長、剣はアルメール騎士団とオングラン騎士団だけですが他の武器種も同じ配備先ですか」

「うむ」

「アルメールって既に多めの配備だったと思いますがまだ行くのですね」

「国王の指示だ、南の山脈沿いを優先しろとな」


 ふーん、まあ山沿いなら魔物は多い。


「地域を指定するなら他に狙いがありそうです」

「フローラはどう思う?」

「そうですね……山奥まで手を伸ばし精霊石等の資源を確保する。地形によっては山脈を抜けてクレスリンの最前線に肉薄する。するとクレスリン側は開拓の余地が失われたことに怒りと不安を覚える」


 なるほど。確かにクレスリン北山脈の向こうはアルメール城壁、プルメルエント城壁、オングラン城壁だ。ただいくらトランサイトでもあんな山地を奥深く進めるものかね。


「山脈が内陸側に掌握されるならクレスリンは東側の森と山地に手を伸ばすしかない。その為には多くのトランサイトが必要となるから、国王への態度を改め、配分を頼むしかない」

「いい考察だ」

「よっぽどクレスリンは好き勝手やってきたのですね」

「それもあるけど、クレスリンは今後もカイゼル王国の一部であり、国王が最高権力者であることを意識づける狙いだ」


 今後……あ、そうか!


「公爵の願いが通ってトランサイトが多く配備されたとしても、その後も言うことを聞かないと3年後に困りますね」

「その通り。トランサイトに依存すればするほど更新時に同数を維持したい。クレスリンならずとも配備先の領主は今以上に国王に気を使うさ」

「ただ俺の他に生産者が出れば大きく状況は変わりますね」

「いやいや絶対に無理だ、何年経とうがリオンにしか作れないさ」


 フローラは前も自信たっぷりだったね。まあ職人がその見解なら安心ではある。


「ところで商会長、アレリード子爵ってどんな人ですか」


 初対面だから事前に情報を仕入れたいところだ。


「年齢は50代後半か、かつてはカルカリア騎士団の北西部討伐部隊長であった。アレリード城壁の北側エスレプの開拓には先頭に立って尽力したと聞く」

「エスレプ? そこって村があるんですか?」

「うむ。ゼイルディクの開拓村事業はエスレプを見本としている。位置はサガルトより10km東か、羊を中心とした畜産が盛んらしい」

「へー」


 カルカリアが始めたやり方だったのか。


「人口は6000人ほど、領主は男爵だ」

「あー、ちゃんと個別にいるのですね」

「確か12年程前か、3つ目のカルカリア極偉勲章を受けて叙爵したと聞く。現在も北西部防衛部隊長を任されているはずだ」


 やっぱり基準はAランク討伐なのかな。


「そのエスレプや城壁側のブディーク地域だったか、そこも含めてアレリード子爵の領地だ。今のコルホルがアーレンツ子爵領と同じだな」

「叙爵時に切り離さなかったのですね」

「エスレプ男爵も元は騎士、経済的な基盤が整うまで子爵が支えるのが務めだ。特に討伐部隊と防衛部隊の騎士給金なぞ12年経った今でも賄えないだろう」

「え、じゃあコルホルが独立するのって」

「アーレンツ子爵は騎士の給金を払いたくない、そういうことだ。ノルデン家なら何のことは無いだろう、はっはっは」


 やっぱりお荷物なのね。


「アレリードは人口約8万、大きく北部と南部に分かれているな。北部は子爵邸宅のある地域で士官学校や冒険者養成所、騎士団支部やギルド支部など魔物に関する施設が多い。南部はアレリード男爵が主に担っており亜麻や木綿の栽培が盛んだ。服飾商会も多く、男爵自身も服飾ギルド長だ」


 へー、服飾関連が素材から集まっているのか。


「ベルニンクと川を挟んで隣接しているだろう、ベルニンク男爵も服飾ギルド長であり、領地には関連する施設も多い。最近はシャルルロワ学園から服を買いに行く学生が多いとテレサやエステルから聞いている」

「あー、思い出しました! 特別契約者の集いでそんなこと言ってましたよ! アーレンツ子爵家のビクトリアもよく一緒に行っていると」

「バイエンスの隣りだからな」


 前はミュルデウスやハンメルトの飲食店巡りをしていたが、一通り回って飽きたらしく服に興味が移ったとのこと。


「40年前のゼイルディク壊滅の際にはアレリード子爵家率いる騎士たちが真っ先に応援へ駆け付けた。主にメルキース付近で奮闘しウィルム騎士団が到着するまで持ちこたえたと聞く」

「それは大きな恩がありますね」

「復興が終えるまでメルキースを預かったのもそういった縁からだ」

「なるほど。ところでラウリーン地区から変更される名称は決まっているのですか」

「いくつか候補があったが絞り込んだ。フィガロだ」

「フィガロ」


 ふーん、じゃあフィガロ検問所、フィガロ中等学校になるのかな。


「ベルソワの功績で叙爵するオグマ・ドナート、本来は妻のユーシスが対象だが女性のため夫が預かる。そのユーシスの実家の家名がフィガロなのだ。現在のラウリーン地区を領地とするなら名前を刻むことにより一層励むであろう」

「おおー、いいですね。メルキース男爵も粋な計らいです」

「今日、アレリード子爵からその話題が出ても、新たな英雄の名に変わるなら納得もする」

「ほんとですね」


 領主はオグマだからドナートでもいい気がするが、ユーシスを生み育てた両親を称える意図があるのだろう。フィガロ家はこの上ない喜びだね。


「ベルソワはノルデン家の領地となる。城壁を挟んでフィガロとは隣接するのだ、仲良くやれよ」

「あー、そうですね!」

「ユーシスは長男9歳、長女8歳、次女7歳の子があり皆、士官学校生だ。授与式にも参列するからディアナと共に顔を合わせておくといい」

「分かりました」


 はは、見事に騎士家系だな。


「フリッツ、外の様子はどうか、そろそろクランツを抜ける頃合いだろう」

「……野菜畑が広がっている、作物から察するにサガルト街道は過ぎた」

「うむ、では直に城壁へ入るな」


 フリッツは覗き穴から外を確認して応えた。ほう、作物で場所が分かるとは色々と勉強しているのね。


 ほどなく馬車は一時停車する。御者台に向けて大きな声が飛んでいた。恐らく検問官だろう。


(照明を消すぞ、じっとしていろ)


 ミランダは天井の照明に魔力を送り消灯する。しばらくして荷台後部の扉が開いた。


「家具だな……うむ、問題はない」


 少し不自然に声を張ってそう告げた検問官。きっとゼイルディク伯爵から奥まで確認するなと指示が出ているのだろう。


「目的地はアレリードのロートリスト、コーネイン商会カルカリア支部への搬入か」

「はい」

「後ろの商会馬車も確認した、行け」


 御者とのやりとりが聞こえてきた。ほどなく馬車は動き出しミランダは照明を点ける。何だか隠れてやり過ごしているみたいで変な感じ。でもちょっと楽しいかも。


「直接アレリード子爵邸宅ではないのですか?」

「当初はこのキッケルト建設商会の馬車で入ると伝えていたが、やはり特別仕様を見せては要らぬ勘ぐりを招く。支部でコーネイン商会の馬車に乗り換えるぞ」

「確かにその方がいいですね」


 トランサイトが沢山載っているし。何がきっかけで生産に結びつくか分からん。


「その支部って工房馬車を付けられるほど敷地があるのですね」

「2カ月前まで家具商会が入っていた物件だ。工房も有していたため無駄に広いぞ」

「じゃあかなりの広さでは」

「確かに武器商会としては手に余る。ただ一括借り上げが条件だったため止むを得ない措置だ。まあ将来は魔導具商会でも併設すればいい」

「なるほど使い様はありますね」


 生産はあと杖4本か。到着までに終わらせるため一気に行くぞ。


 ギュイイイィィィーーーン


「ふー、はー」

「いいね、私の想定通りだ」


 フローラは不敵に笑う。間に合わすための追い込みまで計算されていると何だか釈然としない。


「よし着いたぞ」


 ミランダが前方の覗き窓から外を確認して告げ、ほどなく馬車は止まる。フリッツは壁面扉を開いて階段を下した。


「うわ、広い!」


 50m四方はあるか、天井も高い。


「お待ちしておりました、商会長」

「うむ、直ぐに子爵邸宅へ向かうぞ」

「馬車はこちらです」


 コーネイン商会の馬車が横付けされている。次はこっちか。


「私はここまでだよ」

「次にフローラさんはどこへ行くのですか」

「ここいらで食事をすませてメルキース本店まで帰るよ。もちろん工房馬車に乗ってね。まあ夕方の鐘までには到着するさ」

「1日乗りっぱなしですね」

「ここから商会員が1人同行するから話し相手には困らないよ、ひひひ」


 3時間くらい1対1か。


「リオン行くぞ」

「はい!」


 商会の馬車にはミランダとフリッツの他にラウルも乗り込む。


「御者台ではないの?」

「この馬車の台は1人用です、恐れながら隣りへ失礼します」

「そっか、別に気にしないよ」

「5分もあれば着く。この辺りの土地勘はあるかラウル」

「何回かは通りましたが中道までは分かりません。まだメースリックの方が詳しいですね」

「その先は?」

「バストイアまでの道のりは良く知っています」

「では手綱を任せていいな」

「馬との相性もありますが貴族家所有ならよく調教されているので言うことを聞いてくれるでしょう」


 そうか初めての馬だもんね。それも貴族家の馬なら気を使う。今回の旅では気疲れが多いだろうけどそれも貴重な経験だ、頑張れラウル。


「見えてきたな、アレリード子爵の敷地壁面だ」


 大通りから1本入った先に高い壁面と正門が見えてきた。門番と御者がやり取りをして中に入る。


「広い庭園ですね」

「メルキースの屋敷と同等か。裏手には保安部隊の施設もある」


 貴族屋敷定番の配置だね。庭園には立派な噴水も見える。花で覆われたティールームもあるぞ。植えられた花の傾向を見るとコーネイン家と好みが近いようだ。


 馬車は屋敷前で停車、降り立つと50代後半の男性、そして30代半ばの女性が出迎えた。


「よくぞ来られたコーネイン商会長、そしてリオン・ノルデン」

「アレリード子爵、ラウリーン商会長、お出迎えありがとうございます。本日はお世話になります」

「さあ長旅で疲れたろう、客間でしばし休むといい。昼食はいつでも用意できる」

「お気遣い感謝します」


 この人がアレリード子爵か。元討伐部隊長の割に穏やかで話しやすそうだな。隣りはラウリーン商会長と言ったな、こちらも優しそうな女性だ。


 客間に案内されソファに身を沈める。


「ふー」

「疲れたなら商会通りやギルド支部視察を省略してここで休むか」

「いえ行きます。せっかくの機会ですから」

「まあ移動時は寝てもいい。もう仕事は無いからな」

「ラウリーン家には歓迎されている様子ですね」

「どうだか、ニコニコしている者ほど内面は反する」

「はぁ」


 本当にミランダは人間不信なんだね。まあ貴族家に限ってか。


 10分ほど休憩し使用人へ昼食会場へ向かう旨を伝える。一度玄関ホールへ出てほど近い広間へ。長机の席へ案内された。


「ワシはヘンリク・ラウリーン・カウン・アレリード、子爵家の当主だ。今回はコーネイン商会長きっての頼みでバストイアまでの中継地点を引き受けた。メースリックまでもウチの馬車を遠慮なく使うといい。それまで昼食含めて我が屋敷でゆっくりと過ごされよ」


 アレリード子爵は目を細めて優しく語りかける。


「私はシャニィ・ラウリーン、子爵家長女でありラウリーン商会長を担っております。今般のトランサイトにおいては初期の販売権利を我が商会が獲得するにあたり、コーネイン商会長、及びノルデン家の強い働きかけがあったとアーレンツ子爵より伺っております」


 おー、子爵院での話だな。ちゃんと伝わっているんだ。


「そのお陰を持ちまして販売本数64本と、ゼイルディクのどの商会よりも抜きに出た実績を上げられました。この偉業はラウリーン家に莫大な富をもたらし、多くの優良な顧客開拓へも繋がったのです。本当にトランサイトのもたらした恩恵は計り知れません。改めてラウリーン商会へ販売権利を与えてくださったこと、そのお力添えに深く深く感謝いたします」


 64本か、単純計算2000億弱の粗利となるな。そりゃ莫大だ。下手すりゃアレリード子爵家の貯えと同等じゃないか。それがたった1カ月で稼げたのだから、本当にトランサイトとはぶっ飛んだ商材だね。


 まあそれもラウリーン商会によるサンデベール北東部に向けた営業力があってこそだ。運搬の危険も伴う中、多くの販売を実現しノルデン家としてもありがたい限りだ。そうか、騎士貴族家だから護衛もしっかりしているのだろう。


 続けてミランダ、俺、フリッツと名乗りを終える。


「コーネイン商会長においては先の魔物討伐、誠に見事であった。Aランク4体をも倒したと聞くぞ、何とも恐ろしいほどの腕前だ」

「トランサイトのお陰です」

「そのトランサイトだが、ゼイルディクに比べてカルカリアへの配分が少なく感じる。もちろんゼイルディクは城壁も長く、伯爵工房がその生産拠点であるため多く配備するのも頷ける。ただ我が領内の討伐部隊と防衛部隊、合わせてたったの5本だぞ、カルカリア伯爵の意向でメースリックには10本回っている、あまりに不公平だと思わんか」


 えっ5本なの、それは少ない。


「ゼイルディク北東部の部隊は合わせて20本も配備されており、これでは奥地への開拓速度に大きく影響する。コーネイン商会長からゼイルディク伯爵へ口添えを願いたいのだが」

「私では伯爵のお考えに意見は申し上げられません」

「……まあそうだな、そなたも商会長の身、伯爵の機嫌を損ねて配分を減らされては困る」

「ただ子爵の歯がゆい思いは痛く伝わりました。父上に働きかけを申し出てみます」

「是非頼む」


 そう告げてミランダは俺と視線を合わせる。あっ、笑っていたぞ! 何と性格の悪い事か。そりゃトランサイトの差に加えて北東部討伐部隊はシンクライトまで配備されている。アレリード子爵の懸念はもっと深刻な状況なのだ。


 それにしてもメースリックと差があるのは何故だろう。5本と10本じゃあからさまに不満が出る。カルカリア伯爵の狙いが分からんな。


「ところで、このほどコルホル村へ当商会の出店が叶いました。カルカリアの商会でありながら快く受け入れてくださったのはコーネイン商会長のご理解があってのこと。ノルデン家が領主を引き継がれたその先も末永くお付き合いを願いたいものです」

「こちらこそ、ゼイルディクの商会でありながらアレリードへの出店を受け入れてくださり大変感謝いたします。願わくばエスレプでも騎士や冒険者のお手伝いをしたいのですが、子爵からエスレプ男爵へお口添えをいただければ幸いです」

「いいだろう、丁度エスレプからルーベンス商会が撤退するため空きも出来る」


 おやおや、こんなところでも勢力拡大に(いとま)がない。それにしてもルーベンス商会は色んな所に支店があるのね。また撤退らしいが。


「ときに家令フリッツよ、そなたの家名レーンデルスに聞き覚えがあるのだが」

「子爵、お答えします。私の父はローエン・レーンデルス、かつてカルカリア騎士団北東部討伐部隊に所属しておりました。50年ほど前にカルカリア伯爵のご意向でゼイルディク西部討伐部隊へ所属を変えたのです」

「やはりそうか! 覚えておるぞローエンという名を! ワシが士官学校初等部に入った頃でな、度々指導に訪れていた。大変厳しくも騎士のあり方を良く理解していたぞ。そうかそうか、あのローエンの子がそなたか!」


 へー、アレリード子爵は面識があるのか。初等部に入った頃って7歳だろ、よく覚えているな。よほど強烈な印象だったに違いない。


「リオンよ、あれほどの武人の家系ならノルデン家を任せて安心だぞ」

「はい子爵、とても頼りになる男です」


 当時フリッツは11歳辺り、同じ士官学校の中等部に在籍していたのかな。いやいや最初は冒険者だったから養成所か。


 メースリック子爵家はフリッツの母親の実家だ、そっちでは子供の頃の話が聞けるかもね。

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