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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
203/321

第203話 4つの鉱物

 6月13日、平日1日目だ。昨日はカルニン村視察で朝から馬車に乗りっぱなし。エストレマ支部まではトランサイト班も同行したが遂に神の魔物は現れなかった。今日であのベルソワの戦いから10日目となる。来るならそろそろだが。


「外で走り込みでもするか」


 クラウスの誘いに乗って屋敷の玄関先に出る。庭園を見渡したがお花の馬車は走っていない。流石に見る所が無くなったか。


 朝食の席はディック、マルス、ドロシー、カインと同じテーブル。カーシスとユフィールはカトウェイク家のテーブルに座っている。8歳と7歳だからね、まだ年上の子供に混ざるより親と一緒がいいだろう。俺も8歳だけど。


「私、決めたわ。シャルルロワ学園に行く」

「ドロシーはそうだと思ったよ」

「ディックはどうするの」

「うーん……料理コースはあったけど、そこまで専門性が高くないんだよね。でも立場的に社交も身につけないといけないし」


 ディックは俺の従兄弟だ。ノルデン家と繋がりを持とうとするなら俺とディアナの次に縁談の対象となる。望まなくても同年代の女子との会食は増えるだろう。


「正直、人付き合いは苦手なんだ」

「料理に興味がある相手なら話が弾むんじゃない?」

「……それも最初だけ。途中から愛想笑いになるよ、俺が暴走するから」

「自覚あったのね」

「気づいたらいつも俺1人、だから余計料理に集中してしまう」


 確かに話題が料理限定ではね。


「進路はもうちょっと考えるよ」

「両親の意見は?」

「好きにしていいと言ってくれるけど本心は貴族学園だよ。カレルが養成所行ったからその分俺に期待しているのが分かるんだよね、リオンはディアナが行くからあんまり言ってこないだろ」

「んー、そうかも」

「リオン様はご自身の意思で行かないのでは」

「まあね」


 うーむ、ディックの悩んでいる姿を見ると学校に行かないと決め込んでいる俺はかなり身勝手に思えてきた。身分に相応しい環境、そして親の思いか。分からんでもないが俺は神の魔物と言うどうしようもない理由がある。


「ディック、シャルルロワの料理コースが充実していれば通う選択肢に入る?」

「そうだねリオン、料理に集中できる環境があれば他は我慢できる」

「分かった、父様に頼んでみるよ。あそこの経営者は伯爵かな」

「そうだけど、何を頼むの?」

「料理コースの設備や講師を専門学校並に引き上げるんだ。もちろん必要な経費はノルデン家が負担する」

「え!? 俺1人ために流石に悪いよ」

「ディアナ姉様も料理が好きだからね、ディックが貴族学園を選ばなくても意味ある投資だ、気にしないで」

「……」


 ちょっと出しゃばりだったか。まあディアナのためは本当のところ。あとはディック次第だ。


 朝食を終えてノルデン家の馬車に乗り込む。クラウス、ソフィーナ、ミランダが同乗者だ。工房馬車はコーネイン商会本店に待機しているとのこと。


「リオン、バストイアの他にも英雄の記憶を感じる地域はあるか?」

「他ですか」


 あ、そう言えば!


「プルメルエント! この地名も初めて聞いた時にカルカリアと同じ感覚でした。そう、住んでいたことがある、です」

「ほう、プルメルエント。確かに且つては王都だった、多くの研究者が集まっても不思議ではない。かのトランサイト製造に成功したガーランド・コルネリウスも北東部に工房を構えていたと聞くしな」

「リオン、そのガーランドの名前は聞いても特に何も感じないのか?」

「うん、父様」


 伝説の職人なのにね。


「その名も偽りの可能性がある。身の危険を感じ逃亡しても新たな居住地では必ず鑑定を受けるからだ」

「そんなことまで想定してるのか」

「もしくは後から誰かが勝手につけたか。なにしろ500年前だ、伝わる過程で如何様にも改ざんできる。いずれにしてもプルメルエントの資料は用意してやろう」

「お願いします」


 とは言え、地名も変わっている可能性がある。特にプルメルエントは歴史が長いのだ。こりゃ辿り着けるか分からんな。


「本店に到着した。工房馬車に乗り換えるぞ」


 裏手の倉庫内で馬車を移動する。


「やあ来たね」

「フローラさん」


 クラウス、ソフィーナ、ミランダに加えてフローラ、更にトランサス合金を納めた箱を積み上げてもまだ余裕のある車内。流石は動く居間だ。


「では剣から取り掛かります」


 ギュイイイィィィーーーン


 ……。


 12本を一気に終わらせた。


 そうだ、シャルルロワ学園の料理コース拡充を伝えないと。


「……以上、俺の提案とその理由だよ」

「なるほどな、実を言うとマティアスからも朝食の場でその話があった。ディックをどうにかして貴族学園に通わせたいと」

「ディアナにとってもその方がいいわ、ねぇミリィ伯爵に言えば実現可能でしょ」

「もちろんだ。村に帰ったらフリッツに伝えて城へ向かわそう」

「カルニンからは帰ったのか?」

「そのはずだ、朝一で村へ向かっている」


 フリッツも忙しいね。でも家令ならそんなもんか。


「設備投資と言えばノルデン家の実家があったパンプローナ伯爵領、ひとまず領内城壁の建設に出資するか」

「それがいいな。今は知らんがクノックの城壁は痛んでも修復が遅かった。当時の冒険者からは領主が金を出し渋って放置していると聞いたぞ」

「領内城壁? 城壁って種類があるの?」

「うむ、カイゼル王国を囲む城壁、ほら今見えてきたメルキースの城壁もそうだ。あれは王国城壁、または国境城壁や国周城壁とも呼ばれ総延長約4000kmにも及ぶ。その高さや奥行など国の示す規格に従い建設し維持管理するものだ」


 へー、外周の城壁って統一規格なのか。


「一方、領内城壁、これは領地城壁や山地城壁とも呼ばれるな。その王国城壁の内側にある山脈などに領主が独自に設ける城壁を指す。ゼイルディクでは大きく3個所の山地があり、その中ではボスフェルトやクラウフェルトが長めの城壁だ」

「ではコルホル村の城壁も同じ扱いですか」

「うむ。アーレンツ子爵の裁量で設計したものだ」


 なるほど、じゃあ山地を抱える領主はまた別に出費が必要なのか。もちろんそこから魔物素材や精霊石も手に入るけど。


「クノックの山地は広さだけならメルキースと同じくらいだ。パンプローナは北東部にも同等の山地が広がっている。あれの維持管理は結構な負担のはずだ」

「ひとまずクノック山地を抱えるヴァステロース子爵へ寄付をする、名目は出身地であることと、実家護衛の謝礼で十分だろう」

「城壁の長さは20kmほど、まあ施設建設も含めて100億送ればいいか」

「領主が子爵ならその程度が適切だ」


 ほう、爵位によって目安の金額があるのか。確か西部養成所の復興を名目にボスフェルト男爵には50億を寄付した。その額の他に理由も明確化するっぽいね。これは単純なバラマキを防止するためか。


「監視所へ着いた。乗り換えるぞ」


 再びノルデン家の馬車に乗り込む。


「続きはフローラが商会の馬車で工房へ運ぶ。この後頼むぞ」

「分かりました」


 ほどなく村へ到着しコーネイン商会の工房へ入る。


「後は弓15本と杖10本だね、1時間半ってところか」

「そうですね」

「次の便は昼前だけどそんなに数は無かったはず」

「じゃあ午後は多く時間が余りますね」

「夕方の便は明日工房馬車でやればいい、空いた時間は好きに過ごすといいよ」


 お、じゃあ隠密や弓の訓練ができるな。鉱物大全は仕事しながらでも読める。


「ゼイルディクの商会も一般販売は止めて騎士団販売になったね」

「流石に行ける範囲では買い手がいませんか」

「今日の分は全部ロガート騎士団とレリスタット騎士団だね。特にロガートが多い」

「へー、ロガート。まあプルメルエント騎士団に60本以上行ってますから、同じ公爵領として今まで差があり過ぎました」

「そう66本だからね。対してロガートはたったの11本、カルカリアの15本より少ないって流石に放置できない」


 ロガート公爵領はカイゼル王国の中心に位置する。南側と北側に長距離の城壁を有し、その総延長はプルメルエント以上だ。数が欲しいに決まってる。


「じゃあクレスリンも近くまとまって本数が行きそうですね」

「いや、まだ待たせるらしい」

「え、でも公爵でしょ。それに遅くなると何かしてきそうでちょっと怖い」

「間違いなく国王の指示だね、ゼイルディク伯爵はそれに従っているだけ」

「何が狙いでしょう」

「ちょっとしたお仕置きじゃないか、国境を預かる役目をいいことに態度が大きかったからね」


 あらら。


「クレスリンはまだ10本だよ。あれだけの城壁にたった10本って全然足りない。方やアルメールは24本でまだ追加する方針。こりゃ面白いことが起きそうだね、ひひひ」


 うわー、これ見よがしに隣接するアルメールを充実させるのか。そりゃ神王教の大神殿があるから国王がひいきにするのも分かるけど。アルメール侯爵も仲の悪いクレスリン公爵が苛立っているのを見てほくそ笑むんだね。


 ギュイイイィィィーーーン


 ふー。


「おや終わったね、まだ1時間以上あるよ」

「本を読むことに集中しますね」

「ごめんよ、色々と話しかけちゃってさ」

「いえいえ」


 フローラはおしゃべり好きだからね。今までもそのお陰で仕事が楽しく進められた。色んな情報が手に入るし。とは言え本をいつまでも後回しにできない。せっかく急いで写本してもらったし。


 鉱物大全~2296改訂版~を読み漁る。


 ふむふむ……。


 アナリジス:解析する。


 お、この鉱物の名前、初めて見た気がしない。この感覚は地球の知識でもなくリオンの知識でもない。つまり英雄の記憶、もしかしてビクトル・ノードクイストか!


 特徴は解析するとな。鉱物が解析ってどういうこと? 使用用途には鑑定魔導具がある。え、鑑定って魔導具でもできるの! こんなのが普及したら鑑定士は仕事無くなるぞ。おや対象は魔物素材に限るか、何でも鑑定できないのね。


 他の鉱物も見よう。


 おや、これは。


 エンフォーマ:魔素情報を記録する。


 この名前も知ってる。さっきと同じ感覚だから英雄の記憶とみていいな。


 しかし魔素情報を記録とは? 魔素に情報があるのか、うーむ。そうだ地球の知識に置き換えてみよう。魔素は、えーっと元素か。じゃあその情報って周期表? 1H水素、2Heヘリウム、3Liリチウム……。


 魔素にもそんな分類があるのか。ただ決まった情報なら記録したところで意味はない。ならば数や並んだ位置か? 水素が2個並んだらH2、そこへ酸素が加わればH2О、水だ。なるほど分子情報のことか。


 魔素分子、なんて言葉が適切かは知らんが仮にそう呼ぶとしよう。このエンフォーマ鉱物は魔素分子構造を記録する。ひとまずそれで。


 しかしこの本、主な用途や産地はしっかり記されているが、鉱物固有の情報が少な過ぎる。まあ考えてみれば鉱物の説明って難しい。例えば鉄を見ても色見、融点、硬度、共鳴効率など共通項目を除けば書くことが無いもんな。


 さてさて、他に記憶と反応する鉱物はあるか。


 ……おっ!


 モディフィカ:魔素を並べて具現化する。


 これも知ってる! 英雄の記憶で間違いない。それで魔素を具現化? さっきの理論に当てはめれば魔素を分子構造へ導く効果かな。つまり水素2つと酸素1つで水。うへ、これ凄いじゃないか。何もないところから物質を作り出せるぞ。


 むむ、用途に装備品修理の魔導具がある。おー、だから欠けた剣身を復元できるのか!


 他はどうかな。


 ラトレシア:特定の魔力波長を受けると体積が縮小する。


 これもそうだ、もう感覚を掴めばお手の物だぜ。それで体積縮小か。おー、分かった、魔力波長測定器だ、バイメタルの要領で針が振れるやつだよ。よく見たら用途に測定器が書いてあった。


 以降、最後まで見たが記憶に反応する鉱物は無かった。


 アナリジス、エンフォーマ、モディフィカ、ラトレシア、この4つが魔物素材を小さくする魔導具に関係しているようだ。ただ使い方が分からない。その辺はバストイアに期待しよう。


 ゴーーーーーン


 昼の鐘だ。


「何か参考になったかい」

「はい、やはり情報をまとめて見られるのはいいですね」


 護衛と共にエスメラルダの昼食会場へ向かう。円卓にはメルキース男爵、ミランダ、クラウス、ソフィーナがついた。


「男爵、例の魔導具に関する鉱物に目星がつきました」

「そうか、あの鉱物大全だな」

「はい。ただ鉱物だけでは魔導具を作れません」

「文献か、もちろん調査は進めておる、ミランダどうか」

「数日中には一区切りしますが、ほとんど残っていないとの報告です」

「もっと範囲を広げて探すよう指示しろ」

「はい」


 あんまり具体的な記録は無いのか。こりゃ実現には苦戦しそうだ。


「明日、明後日で成果があればよいのだが」

「俺もそれを期待しています」

「ところで男爵、カルカリア伯爵にはリオンの日程は伝わっているのですか」

「それは報告済みだクラウス。変に隠れて動けば見つかった時に面倒だからな。伯爵にはバストイアの牧場を私用で訪問すると伝えてある。貴族家の馬車を乗り継ぐこともだ。ただ工房馬車の存在は明かしていない」


 ふーん、カルカリア滞在を伯爵は知っているのか。


「ただバストイアへの訪問は快く思ってないのでは。ゼイルディク伯爵からビクトル・ノードクイストの話をした際には俺たちも同席していましたから。それにメルキース男爵家の使いが付近を調査していた件も知っておられるでしょう」

「ウチの使いは牧場環境の視察だ、それが魔導具に結びつくとは思っていまい。そもそもカルカリア伯爵の反応を聞く限り、関わる物件は完全に始末済みと見る。好きなだけ調べろと考えておるわ」

「確かにその通りです」


 まず残していないだろう。


「それでも伯爵の知らぬところで受け継いでおるやもしれん。公の記録が少ない以上、何か出てくればよいのだが」

「ところで男爵、クレア教の動きに気になる点はありませんか」

「今のところない。例の新たな儀式も2回目開催の情報は掴んでおらん」

「ふむ、では明日明後日に襲撃があったとしてもAランク2体程度でしょうか」

「恐らくな。まあその程度ならリオンのシンクライトの敵ではない」


 展開にもよるけど1体ずつなら倒せる自信はある。


「トランサイト配備が整ったゼイルディクと手薄なカルカリアの道中、ワシが神なら襲撃は後者とする。加えて襲撃地点だが、防衛部隊が近いアレリードとメースリックを外し、城が近いヘニングスも外す、つまりバストイア滞在時を狙うだろう」

「町に被害が出てしまいます」

「主要道路から少し離れれば牧場ばかりで人影1つ無い。戦場を探す上で苦労はしないぞ」

「それなら安心です」


 魔物が来れば馬たちも逃げるだろう。


「護衛は防衛部隊から2名だったか、ミランダ」

「はい。弓士2人を同行させます。無論、武器はトランサイト、矢もAランク素材を複数持たせます」

「商会の護衛に持たせるのではなかったか。そもそも騎士をゼイルディクの外へ連れ出して構わないのか、そのトランサイトも防衛部隊配備だろう」


 確かに考えてみれば流石に職権乱用が過ぎる。


「ゼイルディク伯爵の許可を得た。リオンが魔物に狙われていることは伯爵も知っている」

「ならいいのだが。リオンがバストイアへ行く理由はそっちも馬で伝わっているのか?」

「うむ。加えて見聞を広めるとした」

「そうか、ただ表向きの理由と思われるだろうな」

「構わん。勝手に想像させればいい」


 ゼイルディク伯爵もビクトル・ノードクイストの話は知っている。彼がバストイア出身であることも。そこへたまたま行くなんて、ちょっとタイミングが良すぎる。まあどんなに疑われようが馬を見るの一点張りで通すか。


 しかし8歳の子供が馬なんて乗るのか? 貴族なら小さい頃から乗馬もありそうだが流石に若過ぎると思う。ポニーみたいな小さい馬でもいるのかな。


「ところでリオン、魔導具に関連する鉱物を食後にでも教えてくれ、直ぐに含有する精霊石を確保させる」

「はい、商会長」

「ただ希少なんだろ?」

「だからこそ早く動く必要がある」

「まあそうか」

「あの、まだ確定とまでは言えないのですが」

「構わん、もし違っても売ればいいだけのこと」


 魔導具にも使われているから需要はあるか。


「ときにレイリア様からリオンへ会食の誘いが来た。16日か17日の夕食で調整するが構わないか」

「お任せします、男爵」


 ほうレイリアか。ゼイルディク伯爵のひ孫、第1夫人直系だよな。言われてみれば会食を約束したかもしれない。まあディアナの世話をお願いした手前、付き合わないといけないね。


「さて生産の仕事だが午後の便は20本ほど、1時間で終わるだろう。その後は何か訓練をするか」

「はい商会長、隠密と弓をやりたいです」

「分かった、クラリーサ、エマと共にエスメラルダの客室を使うといい」

「じゃあ15時半頃に私が迎えに行きましょうか」

「そうだなソフィ、弓は西区の訓練場を使うといい」


 よーし、サクッと仕事を終わらせて訓練頑張るぞ。


 そして22本のトランサイトを生産しクラリーサとエマと合流、エスメラルダの客室へ向かう。


「まずは感知をやるかい、前みたいに紙玉を投げるよ」

「お願いします」


 俺はカーテンの引かれた窓際に立ち2人は紙玉を投げつける。

 30分程過ぎて休憩。特にスキルの進展は感じられなかった。

 続いて隠密訓練を始める、これも前回と同じ脱出作戦だ。

 4回行ったが全て失敗。ただ気配消去の効果時間は増えた気がする。


 コンコン。


「来たね、行こうか」


 ソフィーナと合流し西区の訓練場へ到着。


「まずは私が目標を作るわね」


 ソフィーナは1本の矢を土壁に放つ。それを目掛けて10本ほど放ったが相変わらずバラける。うーむ、上達の兆しが見えない。


「母様、このまま継続して本当にうまくなるの?」

「そんなに慌ててはダメ、反復の他に方法は無いわ」

「分かった」


 まあそうだよね。短期間で習得できれば誰しも弓使いだ。


「ちょっと早くしましょうか」

「え?」

「構えてから放つまでの時間を縮めるの。本来は体に染み込ませてから少しずつだけど、リオンは特別だから違う流れも試してみましょう」

「うん、やってみる」


 より実戦に近づけるのか。なるほど、ひとまず精度よりも一連の動作を詰めるのだな。


 弓を構える、矢をつがえる、放つ!


 トス!


 ん? 今感じが違った。


「あら、ど真ん中じゃない」

「ほんとだ」


 あれれ、大して狙ってないのに。何故だ。


 もう一度。


 トス!


「おおっ!」

「また同じところ!」


 何だこれは。動作を早くすると精度が上がるって本来は逆だろ。


 トス!


 トス!


 トス!


 うひょー! 全部同じところに命中! 気持ちいいー!


「リオン、あなた……グスッ」


 ソフィーナはこぼれる涙を拭う。


「きっと時間をかけ過ぎると良くないみたいね。感覚はどう?」

「えっと……的を見ながら弓を構えてそのまま放ってるよ、全然狙ってない」

「私と同じじゃないの、もう訓練討伐でも使えるわ」

「ほんと? やったー」

「共鳴して放ってみて」

「うん」


 よし、シンクルニウム合金、強化共鳴!


 キイイイィィィーーーン


 構えて直ぐ放つ!


 ヒュン! ズバッ!


「おお、速い!」

「いいわね」

「これって弓技を覚えたの?」

「どうかしら……弓術っぽいけど」

「あー、そうか!」


 操具の派生スキルだ。確かに基本スキルの操具がレベル6あるから新たな派生スキルを覚えてもおかしくはない。現に派生の剣術はレベル6を習得済みだ。


 ゴーーーーーン


 夕方の鐘だ。


 食事を終えて風呂を済ます。


「父様、どうやら弓術を覚えたみたい」

「流石だなリオンは!」

「あの放つまでの早さと精度なら訓練討伐でも十分通じるわ」

「じゃあまたミランダに編成を頼むか」

「でも遠出と授与式が続くからちょっと先だね」

「まあ授与式も1日中じゃない。それに城の近く、ボスフェルトの山にも訓練討伐の進路はある」

「へー、じゃあ少しの時間なら行けそうだね」


 もしかしてクラウスは養成所時代にその進路を入ったのかな。


「さあ、いよいよ明日はカルカリアだな」

「父様と母様は行ったことあるの?」

「俺は無い」

「私はゼイルディクから出たことないわ」

「じゃあ一緒に行っても良かったね」

「いずれ行く機会はある、その時を楽しみにしておくよ」


 今回は俺とフリッツ、そしてミランダだけだ。


「ラウルは会食があるらしいな」

「そっか御者で同行だったね」


 忘れてた。


「ソフィ、何て言ったかな」

「セレン・リスベドス、18歳ね。ヘニングス男爵弟の次女、男爵からは姪に当たるわ」

「若いけど話は合うのかな。仕事は何?」

「父親が経営する馬車商会の受付よ」

「まあ座ってるだけだろう」


 客に顔を覚えてもらって有力者なら縁談に繋げる目論みか。


「それでも馬車には詳しいでしょう」

「今回はカルカリア伯爵の顔を立てただけ、2回目があるかはラウル次第だな」

「ミゲルさんも羊皮紙商会の娘と会うんだっけ」

「あれは向こうがゼイルディクへ来るそうだ。それとリオン、使用人に敬称は要らんぞ」

「う、うん」

「身内でも俺とソフィの両親、それから兄弟夫婦を除いて名前だけでいい」

「分かった。じゃあ父様側のゴードン、ミリアム、マティアス、エリサ、母様側のカスペル、エミー、ランメルト、イザベラがお爺様、お婆様、伯父様、伯母様かな」

「その通り」


 カスペルをお爺様はかなりの慣れが必要だな。


 ベッドに入りお休みの挨拶を交わす。


 今日は弓の進歩が嬉しいな。弓術だっけ。ただこれも本来は習得に時間が掛かるだろう。俺は1つのきっかけさえ掴めば一気に覚える感じ。間違いなく英雄の力が作用しているな。


 ただ弓技ではないならトランサイト弓の生産に恩恵はない。そのボスフェルトの山でうまく解放出来ればいいが。いやいや待てよ、明日神の魔物が来たら狙えるじゃないか。もし2体なら1体は飛剣で速攻で倒して、もう1体を解放に利用させてもらう。


 来やがれ、神め。

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