第193話 神のお告げ
北区の進路500m付近で新種の大型魔物、アーマーリザードと遭遇する。討伐は果たしたが素材を置いて先に進むと復路で荷車に載せきれないと判断、先に村へ素材を届けるため引き返していた。
特に大きい部位は尻尾先端の棘付き球体だ。直径1m近くある。かなりの重量で大人6人が身体強化してなんとか荷車に載せた。それをエリオットとクラウスが並んで引っ張り、女性3人が後ろから押す。
「これは加工するのも大変ですね」
「新種なら一通り武器種を作って適性を調べるが、この部位が何に向いているのか見当もつかんな」
「戦闘武器では無さそうだ、斧か」
「それはあるな、クラウス」
へー、部位ごとに適性があるんだ。そう言えばサラマンダーの翼爪は射撃速度が上がるから弓だったね。これは見た感じ打撃か。
「まあ武器や道具に向いてなくても粉末にして肥料や飼料に混ぜて使える。Cランク魔物なら育ちもいいだろう」
「ところで新種素材の買い取り価格はどうやって決めているんだ」
「同等の魔物を参考にする。今回は恐らくテリブルグレズリーやエビルコンドル辺りか、この球体は50万ほどになるだろう」
「新種の希少性を考えれば安い気もするが」
「価値が定まるまではその程度だ」
何とも扱いが難しいね。あー、そうやって調査している間は次に運ばれてきても安いままかも。でも分かった範囲で武器なり道具なり作るしそれは適正価格で売るんだろ? つまりギルドは卸すときに上乗せするはずだ。汚い、流石組織は汚い。
しばらくして進路入り口に到着。魔物には遭遇しなかった。
「ローザ、ギルド職員を呼んでこい、新種だと告げろ」
「はっ!」
そっか、ここから先はギルドへ任すのね。
「我々はもう一度進路へ入る。時間が半端なのでそう奥へはいけないがな。ローザとギルドの者が見えたら出発するぞ」
エリオットが腰を下ろしたのを見て皆座った。北区の畑には農作業をしている住人が見える。現在6月上旬、この時間は気温20度くらいか。暑くもなく寒くもなく過ごしやすい陽気だ。
カンカンカン! カンカンカン!
「東側だな……あれか」
エリオットが見上げる空には3つの黒い影が北区城壁へ向かっていた。
「アルビンさん、上空の魔物探知はどんな範囲ですか」
「私を中心に半球状です、森の中なら地上の範囲がそのまま反映されますね。ですから進路両側の木の上を飛んでいる魔物が対象となります」
「真上は視認できるからな」
「その通りです、部隊長。ですからこういった開けた場所では地上含めて探知はあまり意味を成しません」
「確かに見えますからね」
あくまで森の中、あとは高い草が覆った草原や見通しの悪い丘陵地帯などが活躍の場か。
お、勝利のファンファーレだ、もう倒したのか。
「ローザたちが帰って来たぞ、先に入ろう」
エリオットが立ち上がると皆も続き進路へ歩き出す。
「ローザさんは待たないのですか」
「あれはギルドの者と共に中央区へ向かう。新種の特徴を伝える役目でもあるからな」
「なるほど」
俺たちは素材の見張り番だったワケか。
それから2度魔物と遭遇し、引き返すこととなった。ギルドへ素材を預けて報告。昼の鐘を聞きつつエスメラルダへ向かう。
昼食の席にはメルキース男爵とミランダが待っていた。今日はエリオットも同席となる。
「ここで食べるのは久々だな」
「やはり監視所が多いのですか」
「うむ、あそこは北西部防衛部隊の本部だ、なるべく私が居なければならない」
大変だね、部隊長って。
「リオンよ、実戦でのスキル関連はどうだったか」
「魔物感知については概ね効果を確認できました。とても素晴らしいスキルです。一度戦った魔物なら動きが手に取るように分かります」
「それは先のAランクにも有効か」
「実際に対峙しないと何とも言えませんが恐らく通じます」
「それは頼もしい、その時は共に戦う騎士たちにも知らせてくれ」
「はい、もちろんです」
多分、分かる。そうじゃなきゃスキルの意味がない。
「探知はどうか」
「アルビンさんの指導で仕組みは大体分かりました。ただ習得には至っていません」
「まあ回数が必要であろう、エリオットよ次回もアルビンを同伴させろ」
「はっ、父上。その時はナタリオも連れます」
「それがいい。ラウニィと並べて歩けば尚いいな、はっはっは」
おや、男爵もその線で考えているのか。あの2人がくっつくのは男爵家にとってそんなにメリットがあるのかな。まあ実力者のラウニィがどこかに行かれるのを防ぐにはいい手ではある。
「さてリオン、明日そなたの魔導具講師がこの村へ移住を完了する。午前中から工房へ入れるだろう」
「フローラさんから聞いていました。専門学校の学生ですよね」
「うむ、名はジルベール・グラス、15歳だ。リグステル専門学校高等部の3年で魔導具科に在籍しておる。来年からはコーネイン魔導具商会の工房職人として既に採用を決めた」
「会うのが楽しみです」
「両親は我が屋敷の使用人であるため、子に対しても領主への忠誠を正しく指導しておる。従って大いに信用のおける人物と見ていい」
「それは安心です」
なるほどね、使用人の子か。
「ただそなたとの相性もある、合わないと判断したら遠慮なく申せ」
「はい」
まあ余程変な人じゃなければ大丈夫だろう。
和やかな雰囲気の昼食の時は過ぎ、食後のデザートとなる。
「さて、この後、皆に重要な話があるため別室に移動する」
「父上、私もでしょうか」
「そうだエリオット。昼食の場でも良かったが話題に集中するため避けた。神に関する内容だ、フリッツも合流する」
むむ、食事ついでに話すには重いと、神に関するとは何だろう。
昼食会場を出てエスメラルダの一室に集合する。メンバーはメルキース男爵、エリオット、ミランダ、クラウス、ソフィーナ、フリッツの6人。神の封印を知る面々だ。
「音漏れ防止結界は施してある。護衛も外で待機だ。極めて重要な話であるからな」
男爵はいつになく真剣な表情。
「本日午前中、10時頃であったか。クラウフェルト子爵家令モニカ、そしてラムセラール神殿司祭ガルハールがワシとの面会を希望し村へ訪れた。ワシとの関りは薄いが顔は覚えておる。メルキースの礼拝堂建築について過去に何度か打ち合わせをしたからな、従って両者とも本人で間違いない」
ほう、クラウフェルト子爵家令と神殿司祭か。
「クラウスの叙爵が広まってからと言うもの、この村へ来る有力者はノルデン家に用事がある場合がほとんどだ。ワシやアーレンツ子爵がその間に入って対応しているのは知っての通り。しかし先の2人はワシに用事があると申した。内容はリオンに関わる重大なことだと」
「俺に?」
「うむ」
むむ、何だろう。
「他の来訪者とは明らかに雰囲気が違うため、たまたま中央区にいたミランダを呼びつけ共に話を聞いた。それで……これが内容だ、先方が忘れない様にとご丁寧に紙に残し置いて行った」
男爵は紙を1枚机に広げる。
「リオン・ノルデンは異世界より来たれり破壊者。大量殺戮兵器を産み出し争いを助長する。表向きは8歳の子供だがその内に大人の思考を持つ。自身の価値観を押し付け世界の秩序を乱し、格差と貧困を拡大させる」
え……。
「加えてこの者は神の目を姑息な手ですり抜け、途方もない力を我がものとしている。それらが行使されれば誰一人逆らうことはできない。リオン・ノルデンの存在は世界にとって脅威ではあれ何一つ恩恵はない。手遅れになる前に今すぐ殺せ」
なんだと。
「その2人はこの内容を告げた後にリオンを子爵側に引き渡せと求めた。もちろん拒否したぞ。ワシは向こうの主張も全て否定し、リオンはただの子供で何の害もないことを伝えると、近いうちにまた来ると告げ去った」
「父上、これらの情報源は何と?」
「答えてはくれなかった」
「ふぅむ……」
来たのはクラウフェルト子爵の家令と神殿の司祭だよな。
「クラウフェルト子爵と言えば伯爵第1夫人の三男であり、神職者ギルド長でもある。自身も高い信仰心を持っており、洗礼や祝福の儀も執り行える」
「もしや神からの声を聞いたのでしょうか」
「うむ、エリオット、その可能性は高い。現にリオンが聞いたという不思議な声と一部が一致している。不思議な声は神ではないが関りはあるのであろう、リオン」
「は、はい、男爵」
宇宙の声は神よりも高い立場の存在だ。
「それで情報源を神とすれば、リオンの内情を知っていてもおかしくはない。まして殺せと括っているのだ、これまでの神の動きと一致するだろう。しかしその根拠について我々がリオンから聞いている内容と大きく違う」
「確かによく分からん単語がある、異世界だって?」
「すまんが1つ1つ確認してもいいか、リオン」
「はい」
これは……どうしよう。
「まずは異世界より来たれり破壊者、異世界とは何だ?」
「分かりません」
「破壊者とは?」
「さあ……」
「ふむ。次に大量殺戮兵器、心当たりは?」
「ありません」
「そして大人の思考、これはそなたが告げた内容に近いと考えるが」
「はい、その通りです。俺の中身は8歳の子供ではありません」
「次に……価値観の押し付け、思い当たることは?」
「無いです」
「そうか」
もうこれは異世界転生者を意識した内容に違いない。しかし今この場でそれを告げるとどんな反応をされるか。ひとまず伏せておくべきだ。
「そして、神の目をすり抜け力を手にしたとある。力とは英雄を超える100万の力が該当するのか」
「そうでしょう」
「手に入れた手段は分かるか。確かミランダの話では言えないとのことだったが」
「……ええと」
「まあ構わん」
「あの、言えないことは無いのですが、とても複雑で皆さんには想像し辛い流れです。ただ1つ、決して俺は神を出し抜いたワケではありません。むしろ神の失策を尻拭いする役目なのです」
「ほう、失策とな」
「神はレベル41以上を作ったのにもかかわらず、世に出して制御が出来ませんでした。それが失策です」
「ふむ、想像できぬほどの力だからな。それらが集まったリオンは確かに神にとって邪魔であろう」
うーん、転生枠の話は他の世界も絡むからな。そうなると地球の話も外せなくなる。そりゃ正直に言わないで何かに置き換えればいいけどうまくまとめられるか。
「ただ、少し不思議には思っていた。果たしてそれだけの理由で神はこれほど抹殺に力を注ぐのかと。もしかすると、この異世界だの価値観だのが、その根拠になっているのではないか」
「……」
「リオン自身が気づかないだけで、その内に秘められている可能性もある。これも英雄の力と同様に何かのきっかけで解放されるやもしれんぞ」
「そうでしょうか」
「父上はこの内容を信じるのですか」
「いや、あくまで可能性の話だ。ただ本当に神からの言葉を聞いたなら無視することはできまい」
ああ、神の行動に少し疑いを持っていたところへこの情報だからな。男爵としては納得できる材料が揃ってしまったのか。
「子爵側はリオンの能力を知っているのかしら? つまり鑑定結果について」
「それは分からん。同じ伯爵家でも全て共有しているワケではあるまい。まあトランサイト生産は知っているだろう」
「それが争いを産む兵器のことでは?」
「クラウスよ、確かにトランサイトは対人においても他の武器とは一線を画す。しかし大量殺戮兵器と言われれば大袈裟だな。シンクライトもそこまでの武器とは言い難い」
これは核兵器を指しているのだろう。そして正直、作り方は分かる。設備建築や技術確立に時間はかかっても手順を踏めば実現は可能だ。精霊石からウランを抽出できれば尚良い。だからって作る気は無いけどさ。この世界に原子力が必要と思えないし。
「リオンよ、魔導具についてだが」
「はい、フリッツ」
「お前は何でも作れると言っていた。それがその、世界の秩序とやらの乱れに関係するのではないか」
「ええと……」
「思い付くものの中に該当する魔導具はあるか」
うーむ、要らんこと言ったな。
「いや、出来そうな予感、仕組みがぼんやりと思い浮かぶ程度だよ。恐らく本格的な製作となると行き詰る、そんな簡単なことではないさ」
「そうか、分かった」
「フリッツよ、心配には及ばん。確かに革新的な発明は影響力が大きい、それは時に社会の仕組みさえ変えるだろう。ならばしっかりと管理し扱いを慎重にすればいい。貴族はそれが可能であり、リオンは今やその組織の一員だ」
「考えてみればその通りです」
「何も憂うことは無いぞリオン、魔導具開発に邁進しろ」
「はい、男爵」
コーネイン魔導具商会の成功が懸かっているもんね。
「それは英雄の力も同じことだ。正しく使えば魔物の脅威を払い人々の幸福に寄与できる。時には不毛な争いさえ鎮められるだろう。我々が近くにいる限り間違った方向に行くことは無い。迷うことなく力を伸ばせ、よいな」
「はい、男爵」
「従ってクラウフェルト子爵がどう出ようともリオンは渡さない」
「そもそも伯爵家が許しはしないのでは? この文面からはリオンを抹殺する気しか感じ取れないが」
「その通りだクラウス。リオンはゼイルディクの宝、伯爵家はその全面的な後ろ盾である。つまりクラウフェルト子爵家の行動はそれに反すること、あの2人の来訪は独断と見て間違いない」
よく考えたらそうだね。
「やはり伯爵へ報告するべきでしょうか」
「……いやミランダ、少し様子を見よう。情報源の特定も含めて今後もやりとりを増やした方がいい。これらの情報がどれほど広まっているのか探る上でもな。またその過程で伯爵家へ大きな貸しが生まれるやもしれん」
「はい、分かりました」
「無論、リオンへの警備は怠るな。最早神の手は貴族家の内部まで浸食したと見ていい。刺客を含めて何をしてくるか分からんのだ」
「動きによっては大きな失態にも繋がりますね」
「……先のオルフェン司祭の襲撃でクレア教に汚点がついた。また何か仕出かせば更に大きな失墜となる。信者を減らすにはいい材料だ」
なるほど、泳がせて敢えて襲わせるのも有効な方策だと。
「それにミランダよ、やられっぱなしでは済まないだろう」
「もちろんです、父上」
これは、商会解散の危機を根に持っているな。
「おいおい、あんまり敵対しないでくれ」
「敵対ではない、正当な取引だ。それは将来のリオンのため、そしてノルデン家のためでもある。ちゃんと考えているから心配するな」
「そうか、ならいいのだけど」
貴族とはいかにして弱みを握るかの探り合いなのだろう。少しでも綻びがあれば逃しはしない。もう染み込んじゃってるのね。
「さて、長引いてはリオンの仕事に支障をきたす。今日のところは解散としよう」
俺は護衛と合流し商会へ向かった。
「フローラさん、遅くなりました」
「聞いてるから構わないよ、じゃあ剣からやるかい」
ギュイイイィィィーーーン
……。
しかし、まいったなこりゃ。GD型を直接的な刺客とするのではなく、信者へお告げとして情報を与える作戦か。俺に不利な内容を浸透させて包囲網とでも。まあ異世界転生については正しく伝えればなんとか理解してくれるかな。
しかし嘘の情報は許せない、なんだよ破壊者って。随分とまあ偏った認識だな。そりゃ俺次第でその方向に舵を切ることはできるが、そんなことするメリットは無いだろう。発明だってちゃんとこの世界に合ったものに限る、それで十分稼げるさ。
それになんだよ、神の目を姑息な手ですり抜けって。ガチャに同意したのは神だろ。その結果を俺のせいにするなんて全く酷いものだ。ああ、どうせ殺すなら悪者に仕立て上げる魂胆か。やれやれ、心底俺を憎んでいるのね、神は。
フン、どうせ憎まれ役ならいっそ破壊者にでもなるか。神が嫌がることを徹底してやってやろうか、ああん? そうやって追い込んだのは神自身だ! その報いを受けるがいい!
なんてね。
それにしてもこれまでにない精神攻撃だな。まだ魔物や刺客の方が分かり易いし後始末も簡単だった。それを信者へお告げとは、次に何を言われるか気になるじゃないか。ぐぬう、心配事を増やす作戦としては悔しいが効果ありと認めざるを得ない。
「ふー、これで終わりですね」
「剣20本、槍9本、弓26本、杖14本、全部で69本を3時間か、上出来だ」
「17時過ぎですから午後の便が来ていれば剣なら終わらせますが」
「いやまだ来てないね。もう明日で構わないよ」
「分かりました。あ、ジルベールさんが明日から来ると聞きました」
「そうだね、一度会ったけど真面目そうないい坊ちゃんだよ、ふふ」
「そうですか」
坊ちゃんって。うーん、どんな子だろう。
工房を出て護衛と合流、西区へ向かう。
食堂に到着してしばらくするとクラウスとソフィーナが帰って来た。
「今日は早いな」
「うん、たまにはね」
ゴーーーーーン
食堂で鐘を聞くのはいつぶりだろう。
夕食を終えて風呂も済ます。
「昼間の男爵の話、あれから考えていたが何を示すのか俺には答えは出なかった」
「私もよ、異世界だの破壊兵器だの、意味が分からないわ」
「まあ大人の思考と、途方もない力だっけか、それだけは合っていたから実際に神に聞いたのだろうが、他は知らないんだろ」
「うん」
「ああいや、力を手に入れた方法は知っているのか。でも言えないんなら構わないぞ」
「そうよ、伝えるのが難しいんでしょ」
「まあ……うん」
流石に気になるか。
「それでな……男爵家は俺たちに全面的に協力してくれているし、これからも変わらないだろう。でもな、何でもかんでも従うことは無いんだぞ」
「え?」
「言いたくないことは言わなくていい。リオンが不利になることはしなくていい。まあなんだ、結局は金の元だからこれだけ良くしてくれてるんだ。ほら、魔導具だって売る気満々だろ」
「そうだね」
「リオンがそうしたいなら構わないが、別に貴族はコーネイン家だけじゃない。もっと視野を広く持ってだな、その、何というか」
あー、クラウスは俺が悩んでいるように見えたのか。それでそんなこと。
「父様、心配しないで。呑まれることは無い」
「そうか、ならいいんだけど」
「俺の敵は神だけ、そこから命を守るためなら利用できるものは利用する、貴族でもね」
「そこまで分かっているならいいさ」
むー、これはそうか。
「ちょっと商会長は攻撃的過ぎるよね」
「そうなんだよ、何か弱みを握りたいんだろうが、仲良くすればいいのにさ」
「ミリィはね、ああすることでしか自分の立場を維持できないと思い込んでいるの。舐められてはいけない、スキを見せてはいけない。そうやっていつも気が張っているのよ」
「母様が変えてあげられないの」
「……難しいわね」
ミランダなりの戦い方か。
「もちろん貴族社会を生き抜くには必要なことだって分かってる。でもちょっとリオンを利用し過ぎ。わざと襲わせるだなんて、そんなの……酷いわ」
「俺もちょっとどうかと思ったけど、まあ今後のために必要と判断したんでしょ、それに全力で守ってくれるから心配ないよ」
「そこまで理解を示す必要は無いわ、これは私が直接言うから」
「え、そうなの」
「もうちょっとやり方を考えなさいってね」
ソフィーナ、強いな。
「まあソフィも思うところがあれば言えばいい」
「あなたもよ」
「いやー、俺はまあ、そうか」
「あなたが当主なんだから」
「おう、分かった!」
ふふ、クラウスってソフィーナに敵わないんだな。
「リオンは俺たちに言い辛いならフリッツに言えばいい、あれには何を言っても構わん」
「えー」
「調整役なんだから遠慮は無いわ」
「うん、そうする」
フリッツ……面倒な役回りになったね。
「さあ、寝るか。おおそうだ、注文してたベッドやソファ、明日納品されるぞ」
「おー、ふかふかが家でも体験できるんだ!」
「つまり今のベッドは今日で最後だ。世話になった感触をしっかり覚えよう」
「うん」
ベッドに入り照明を消す。
「2階もだよね」
「そうだぞ、全部で4つだ」
「ねぇ2階に身内のだれかを住まわせたらどうかしら?」
「あー、そうだな、また考えておくよ」
確かに、もうディアナが帰って来ることも無さそうだし。ずっと空いているならそれも選択肢だよね。
「ディンケラの夫婦は?」
「だったら隣りの2階に入ってもらってカスペルとエミーがこっちでもいい」
「そうね、孫と一緒に暮らせるんだし」
「よし、明日にでも提案しよう」
いつまでもメルキース男爵邸宅にお世話になるのも申し訳ない。動ける人から行動するべきだね。
しかしクラウスとソフィーナ、特にソフィーナは色々と言うようになったな。まあ以前からもずっと黙っていたと思ったら急に意見することもあったけど。そうだよ、相手がエリオットでも臆さず意見してた。仲良しのミランダでもハッキリ言うつもりなのね。
それを考えると俺は優柔不断と言うか、流れに任せるタイプなんだろうな。いやだって、そのほうが角が立たないし、なんて、それがいけないんだ。もうちょっと堂々としないと両親に気を使わせてしまう。そう、俺が諸々の中心なんだから。
寝よう。




