第187話 隠密の検証
朝だ。今日は6月7日、休日の翌日、つまり平日の初日だ。ただ地球の様に曜日は無く、皆日付で呼んでいる。
この世界の1カ月は1週6日の5週間で30日だ。それが毎月繰り返すため平日も休日も同じ並びとなり、1~30の数字を聞けば平日の何日目か皆直ぐ分かる。つまり1日、7日、13日、19日、25日は休日の翌日であり平日の初日、月曜日と同じ意味なのだ。
曜日に慣れ親しんだ身としては少々味気ないが、数字に対して同じ様な印象を抱くのもまた違った文化として面白い。また前世では曜日はすぐ出てきても、何日だっけ? となる事例が少なからずあったが、この世界では日付が曜日と等しいため皆無である。
「朝の訓練やるか」
「うん」
クラウスと家の外に出る。まずは走り込みからだ。
「あ、そうだ」
「どうした」
(足音消去も合わせて訓練しても大丈夫かな)
(あー……まあいいだろ、ミランダに口止めさせればいい)
夜警騎士が少し離れたところにいるため気になったが情報統制できるならいいか。もちろん洗礼を過ぎているし隠密だって覚えていても不思議ではない、珍しいだろうけど。ただ色々と伝わるうちに鑑定士の耳に入る可能性もゼロではないからね。
ちょっと用心深い気もするけど、多分このくらいの意識で丁度いいのだ。
よし、じゃあ足音消去!
……。少し歩いてみたがちゃんと出来てるぞ。
タッタッタ
えーっ!?
「ありゃ」
「ははは……」
走った途端、音がする。有効な速度があるのね。ならば走りながら音が消せる訓練にすればいいだけのこと!
タッタッタ、ズザーッ
タッタッタ、ズザーッ
加速と急停止を繰り返し城壁の間を全力で10往復した。もちろん足音消去も発動しながら。
「ふー」
「しっかり聞こえたぞ」
「はは……」
逆にこれを完全に消せたらかなり凄い。頑張ろう。
続いて跳躍。
ピョン、ストン
むむむ、着地音も消せないじゃないか。有効な高さもあると言うのか。
それから高所飛び降り、城壁登りといつものメニューをこなした。
「ふー」
「全てにおいて聞こえていたぞ」
「ああ、うん」
なんでクラウスは嬉しそうなんだ。
「出来ないなら色々と工夫する、その過程も大事だ」
「そうだね」
なるほど、そりゃ何でも直ぐ出来たら面白くない、試行錯誤する姿が嬉しいのかな。そして出来た時は一緒になって思いっきり喜べる、後に取っておく楽しみが増えたと考えよう。
「気配消去もやるよ、父様、前に立って」
「おう」
正面にクラウスがいる状態でどうなのか。
気配消去!
……。あれ? クラウスは俺をじっと見てる。
「どうだった?」
「何も変わらない」
「あらら、そうなの」
むむむ、出来てないのかな。
「じゃあ、父様の後ろに行くから振り返ってみて」
「分かった」
クラウスの後ろに回って気配消去、どうだ。
「おや? いない」
よーし、よし、ちゃんと出来てる。
「ああ、そこにいたか」
「え、分かるの?」
「そうだな……7~8秒過ぎてリオンを認識できたぞ」
「へー」
なんと、有効時間もあるのか。
「えっと、じゃあまた後ろに回るから」
「いいぞ」
次は任意解除される条件だ。
「おー、いないぞ……あ、いた!」
「うわ、やっぱり」
右手を軽く上げただけで解除か。次はゆっくり歩いても一歩目で解除を確認した。更に頭を少し振っただけでも解除を確認。
「動いちゃいけないみたいだね」
「そうだな」
流石に呼吸する僅かな肩の動き、瞬きや視線の動き、表情の変化程度なら継続できたがそれ以上は解除された。代わりに座ってたり、しゃがんでたり、寝転んだり、姿勢による制限は無いらしい。
ゴーーーーーン
朝の鐘だ。
「メシに行こう」
最初にクラウスの正面で発動した時は無効だったが、正面で目を閉じてもらって発動し目を開けたら有効だった。後ろに回って全て有効だったから発動時に視界に入らないことが条件なのだろう。あと手を繋いでいたら視界外でも無効だった。
こうやって地道に検証すれば使いどころも分かって来る。残るは効果範囲くらいかな。そう、神の魔物は上空200mで有効だった。地上同士の距離も試さないとね。
ベルソワの戦いと言えばミランダにはどうして有効だったのだろう。まあ常に上空の魔物が気になっていたから、隠密を解放した後は無意識に気配消去発動を繰り返していた可能性もある。ミランダもエリオットの声で振り返っていたので、先に俺がエリオットから降ろされた時に発動したらしい。
なるほど解除しても直ぐ発動すればいいのか。もし長時間使う場合は7秒ごとに発動すれば上書き延長されるのかな。ただかなり面倒だ、効果時間を訓練で伸ばせるといいけど。
朝食を済まして家に帰る。
「弓の訓練に行きましょう」
「あ、うん、母様」
気配消去を発動したクラリーサを感知する訓練と考えていたが弓もやらないとね。
「私も行くよ」
クラリーサも同行して訓練場へ向かう。ならば弓を構えているところに後ろから接近してもらってそれを感知する訓練……は無理か。今は弓だけで精一杯、そんな器用なことできない。まあ弓を引く動作中は無防備で狙われ易いのは間違いないけどね。
それにしても時間がない。訓練に集中できるのは起床後から朝食までの30分~1時間ほどと朝食から家を出るまでの約1時間。朝食までの身体強化は立ち回りにおいて基本だから外せない、自由に使えるのは今の時間だけなんだよね。
忙しくなったものだ、前は好きな時に搬入口裏で立ち回り訓練をしてたのに。選択肢が広がるとあれもこれもと欲張ってしまう、贅沢な悩みと言うことか。しかし時間は限られている、1つ1つ確実に進めていこう。
「おー、いい感じじゃないか」
「ほんとだ、頑丈そう」
城壁出入り口を抜けると直ぐ左手に避難部屋の壁が迫る、4mくらい突き出てるね。幅は6mほどか、高さは城壁と同じ7m辺り、地上から5m付近に窓がいくつか見える。今はその上の天井部分を仕上げている様子。外側は石壁だから内側に鉄骨を使っているのだろう。完成したら中を視察しておきたいところ。
これも本来は俺のために作った様なもの。ミランダがアーレンツ子爵に必要性を伝えてくれたんだよね。異常な魔力操作を持つ子供に魔物戦闘を間近で見せ慣れさせる。その経験は早い内から力を伸ばす手助けになると。Aランク討伐まで経験してしまった俺に必要かは分からないが、西区の子供たちにとっては大変意味のある設備だろう。
訓練場に到着。
「前は的まで30mだったわね、今日も同じ距離で精度を高めてみて。まずは目印の矢を1本撃ち込むわ」
そう言ってソフィーナは弓を構える。おお、サラマンダーの弓か。
ブウゥン
魔力集束5%ほど、鏃に炎が揺らめく。精霊石無しでも火属性を付与できるんだね。
シュン
速い!
「ふー、あれを目指してみてね」
「分かった。母様、サラマンダーはどう?」
「底知れない器の大きさを感じたわ、気を抜くと魔力をどんどん吸われそう」
「へー」
「Aランク魔物素材は鉱物ならレア度4相当、とんでもない強さよ。それにこれは翼爪だから速度増加の効果もあるの。強さ、速さ、火属性を兼ね備えた素晴らしい武器だわ」
流石Aランク素材だね。それにしても翼爪は速度増加なんだ、魔物素材は鉱物とは違った特徴があって面白いね。
さて弓の訓練だ。
この弓はシンクルニウム合金だから共鳴させると射撃が上がって矢の威力が増す。ただ訓練の目的は弓の扱いに慣れて精度を高めることなので必要なのは身体強化だけ。
20本ほど撃ち込む。
「だいぶ安定したわね」
「うん」
その安定とは土壁に全て届いていることを示す。矢はソフィーナの用意した的から半径1mくらいに見事にバラけて刺さっていた。酷い精度である。きっと弓技を解放するまではこんな感じだろう。
剣技みたいに鑑定と同時に矢を放てば解放できるのだろうか。でもあの時はヘルラビットと対峙した実戦だからなぁ。ならば弓を持って実戦と行きたいところだが、もっと精度を高めないと話にならない。とにかく回数をこなすか。
それから数本放ったところで終了となった。矢を回収して西区へ戻る。
家に帰るとクラウスがいた。
「どうだ、調子は」
「まあまあかな」
どう言っていいか分からないので万能の言葉で返す。
「ソフィ、アルベルトに副賞の確認してきたよ」
「驚いたでしょう」
「そりゃな。次はスヴァルツ商会に依頼しないと」
トランサイトの剣を告げてきたのか。しかしクラウスはソフィーナを母さんと呼んだりソフィと呼んだり最近統一されていないな。恐らくは実家の母親が来たから区別をつけるため名前呼びに変えようとしてるんだね。
でもソフィーナはクラウスを父さんと呼ぶ、たまにあなただけど。まあ隣りにカスペルが住んでて普段から区別がついていたからいいか。
俺やディアナが父様や母様と呼ぶから揃えた方がいい気もするが、他の貴族の様にソフィーナがカスペルを父上、クラウスがミリアムを母上と呼ぶ姿を想像すると違和感が凄いので今のままでいいとも思う。
「さあ、そろそろ行くか」
玄関前で待っていたクラリーサとエマと共に中央区へ向かう。
そうだ、隠密についてクラリーサに聞こう。ただ外で話すので俺の訓練ではなく単にスキルの話題として伝えた。
「……と知り合いから聞きました、有効時間って短いんですね」
「そのくらいでも十分だよ、対人でも対魔物でも数秒スキができれば勝負は決するだろ」
「確かに」
「もちろん訓練で伸ばせるけど中々上がらないって聞くね」
「へー、難しいんだ。じゃあ効果が切れる前に発動を繰り返して延長するしかないですね」
「発動に使う魔力は維持よりもずっと多い、長時間は厳しいね」
確かに魔力が持たないか。
「リーサはどのくらい効果時間があるの?」
「30分くらいじゃないか」
「凄い!」
「私のは効果を及ぼす相手が限られるし一定距離が必要なんだよ、尚且つ私の周りにある程度の人間がいないと効果がない。背後なら私1人でもいいんだけどね」
なるほど特定人物を町中で悟られない様に追跡する、そんな用途限定なんだね。俺とクラウスが座っている後ろで気づかれることなく数分立ってたのも、対象が2人で視界外という条件が成立してたんだ。
「だから数メートルの視界内にいて認識されないってのは、かなり凄いことなんだよ、短い時間でもね」
「ふーん。ところで昨日はその辺の石ころや草みたいになるって言ってたけど、姿が見えてるのにそういう認識ってどうにも理解できないよ」
「……空気中には魔素が充満してるだろ、目には見えないけどさ」
「え、うん」
「人を人として認識するにはその魔素を伝播する気配を感じ取って初めて成立する、だからそれを止めてしまえば人として認識されない。そういう理屈らしいよ」
「へー」
そっか、俺は情報を止めると意識したが結果的にその理論に当てはまっていたと。ふーん、魔素を伝播するか。あ、Aランク魔物の殺意を感じ取ったのもそういう仕組みが作用してなのかな。
おや、ピートとロビンが搬入口裏で遊んでる。冒険者ごっこらしいが見ない子もいるな。
「リーサ、あの女の子も西区?」
「そうだね、6番に入った住人でリンダ、9歳だよ」
「ふーん」
活発な印象だ。ふふ、ケイスがいなくなって新しいリーダーになったかな。
「ところでエマ、昨日はラウニィが立派に役目をこなしたな」
「ありがとうございますクラウス様、娘は誇りです」
「伯爵が結婚相手まで話を広げていたが、あの言いぶりなら騎士貴族家となる、候補はいるのか」
「……ゼイルディクの男爵家では独身の同年代はいらっしゃらないようです」
ラウニィは平民だから相手は男爵家のみだね。ただ貴族家なら15歳の成人前後に相手が決まっていることも多いだろう。かと言って婚約者のいない年齢となると随分と年下になるよな。
探す範囲を広げれば見つかりそうだけどラウニィがゼイルディクから出て行く可能性が高くなる。伯爵はそれでいいのか。ああいや次男以下ならこっちに来れるか。なんて、そんな基準で探すこと自体どうかと思うが。
「貴族ではなくても騎士家系なら十分でしょう」
「はいソフィーナ様、私もそれが現実的かと」
「なら沢山いるな、防衛部隊のナタリオはどうだ? 彼も極偉勲章を授かる腕前だから申し分ない」
「……娘次第ですね」
ナタリオはちょっとクセがあるからなー。そもそもあの人20代半ばに見えるが独身なのかな。いやあの調子で既婚はあり得ないか。そう、結婚後も女性騎士に声をかけまくるなら妻はたまったモンじゃない。
「まあ俺に協力できることがあったら何でも言ってくれ」
「はい、お気遣いありがとうございます」
そんな話をしてたらコーネイン商会に到着。クラウスとソフィーナは2階の準備室へ、俺は工房に入る。職人に挨拶をしていつもの作業スペースに座った。
「結界はしてあるよ」
「はい、フローラさん」
「じゃあ剣からいくかい、並べればいいんだろ」
「お願いします」
さーて、お仕事だ。
ギュイイイィィィーーーン
……。
「ふー」
「エリカ、箱に仕舞うのを手伝ってくれ、鑑定確認もするんだよ」
「あいよ」
エリカ工房長とフローラは手際よく作業をこなす。ひとまず剣を12本終わった、後は槍6本、弓17本、杖13本か。8時30分~11時30分の3時間で休憩5分のペースなら36本生産できる。あと26本なら余裕だな。
昼前に午後の生産分が城から到着予定とミランダが言っていた。剣だけなら午前中の内に一気に終わらせられるね。そうだ、前倒しに仕事を済ませば午後に空き時間ができる。そこに隠密や感知の訓練を当ててもいいな。
さて仕事再開だ、弓を構える。
『トランサス合金
定着:3年12日4時間
製作:ロワール商会 弓部門パブロ・ブルンベルヘン』
あれ? ロワール商会ってレリスタットの商会じゃないか、昨日の今日でもう準備出来たのか。いや昨日レリスタット侯爵と一緒に商会長も来てたんだ、もうその前提で用意してもおかしくはない。
ギュイイイィィィーーーン
「ふー」
「これもロワール商会だね、レリスタットの商会だけど昨日の授与式で動きがあったのかい」
「まーそうでしょうね」
「カルカリア伯爵も来てたからラウリーンの他にも追加する流れか、さしずめアベニウスかガンヘルだね」
いい読みじゃないか。
「次の授与式には更に遠方の領主も来そうだね」
「どの辺ですか」
「ロムステル伯爵とブレクスタ伯爵は来るだろう、サランシュ侯爵やプルメルエント公爵も家系の有力者を向かわせる可能性が高いね」
「うへー、じゃあ沢山商会が追加されますね、俺も頑張って生産しないと」
「まあゼイルディクの商会から配分を削って回すさ、あんたの仕事量はそう変わらないから心配なさんな」
ふーん、そんなもんか。
「ところで聞いたかい? 王都へ献上したトランサイトが全て行方不明になったって」
「え!? またアルカトラですか」
「いいや、輸送路を変えたからあそこは通っていない。どうもロガート公爵領で足取りが途絶えたらしいね」
「ロガート公爵領って……あそこが安全に通れないならもう無理じゃないですか」
「そうなるね」
カイゼル王国の中心に位置して南北に城壁を抱えているロガート公爵領。国土をひょうたんの形に例えるなら中央のくびれた部分だ。つまり国の東西に抜けるにはあそこを通るしかない。
「隣接するアルカトラ侯爵領で最初の献上分が行方不明になってますから、また同じ勢力が関わっているのでしょうか」
「……どうだろうね、流石に隣りでも公爵領内でおかしなマネはできないよ。ただ同じ公爵なら何か通じている可能性も否定できない」
「え、どういうことですか」
「ロガート公爵領の南東にフォルシアン公爵領がある、あそこも罪人の町さ」
「罪人の町ってアルカトラの他にもあったんですね」
アルカトラは人口720万、フォルシアンは1220万だ。倍近い規模で罪人が集まっているのか、怖いなぁ。
「いいかい、この国で罪人の町と呼ばれる大規模な収容施設がある地域はその2つだけだ。つまり西側はアルカトラ、東側はフォルシアンへ捕まった人間は集まるのさ。それで領主の立場になって考えてごらんよ、国の厄介者を全て引き受けるなんて面倒でしかないだろ」
「確かに」
「そんな不満を抑えるために国王は税制などの優遇措置を施し、領内で多少の身勝手も目をつぶって来たのさ」
「じゃあトランサイト強奪もお咎めなしと踏んだのでしょうか」
「私はそう見るね」
公爵なら王族だろ、信頼関係どうなっているんだ。
「そろそろ王都から直属の輸送団が来るだろうね」
「今までは誰が輸送してたんですか?」
「ウィルム侯爵の輸送部隊だよ」
「ありゃ、面目丸潰れじゃないですか」
「そうなるね。1回目はアルカトラで部隊ごと行方不明、2回目はロガートで荷物だけ消えて無くなったそうだよ」
うひー、部隊ごと消えたって怖いなぁ。
「あ、でも偽装してるんじゃないですか?」
「その辺の盗人対策程度だよ、領主には中身を伝えないといけないだろ」
「なるほど。それにしてもフローラさんはよく知ってますね」
「商会長が伯爵家から報告を受けているのさ、それで何故か私によく話してくれるんだよ」
「きっとフローラさんの意見を聞きたいからですね」
「そうかい、まあ私はそんな話大好きだけどさ、ひひひ」
悪い顔だ。
「私の考察ではね、ウィルム侯爵は敢えて通常の輸送部隊程度にしてるんじゃないかと。トランサイトは幻の鉱物、もっと厳重にやりようはあるだろ」
「そうですね」
「つまり反国王派を炙り出しているのさ」
「え」
「そこにはクレスリン公爵の意思があると見ているね」
うわ、その人が出てくるか。しかしなるほど、トランサイトほどの献上品を奪うなんて表立って反旗を翻すに等しい行為だ。国王への不満度を見極める指標として十分だろう。クレスリン公爵は独立をも目論むほど、国内の同志と通じれば或いは……。
「何か大きな乱れにならなければいいですが」
「この国は大きくなり過ぎた、その先に待っているのは崩壊しかないさ」
2億人を超えているからね、流石に無理があったか。
「さて、あんまりおしゃべりばかりではいけない、訓練もしないとね」
そう言いながらフローラは魔物素材を机に置く。錬成だね。
『ガルウルフの牙
定着:14日2時間36分』
「あ、そうだ」
「なんだい」
「定着期間が見えるようになったんです」
「何だって! あんたは本当に凄いね」
ぬふふ。
「アーレンツ支部でAランク素材を多数鑑定したことが大きな後押しになったようです。フローラさんの言った通り種類を稼いで正解でした」
「私も見に行ったよ、あれは壮観だった。しかしあんたもよく生き残ったね」
「必死でした」
「シンクライトは使ったのかい」
「トランサイトだけです」
「……まあいいさ」
俺が生産できるのを知っているからね。想像には容易いか。
「じゃあ生産の合間に定着の訓練だよ」
「はい」
「キエエェー」
「ガオオォー」
魔物になり切る訓練、俺はガルウルフに、フローラはエビルアントに取り組む。そうやって魔物素材が本体に繋がっていると錯覚させるのだ。端から見るとかなり怪しいが専門学校を卒業して数年の職人プリシラが言うんだから最新の訓練法なのだ。
ただ全く進んでいる気はしない。




