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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
184/321

第184話 城の書庫

 エーデルブルク城の昼食会場で席に着く。周りを見渡すとテーブルの数がかなり多い。ラウニィ側の身内に加えてレリスタット侯爵やカルカリア伯爵の関係者が多数同席しているからだ。これは賑やか。


 俺のテーブルには姉ディアナと伯爵第1夫人のひ孫であるレイリア、ロディオス、オルヴァーがついた。1週間前にウィルム侯爵が来た時の懇親会以来だね。やはり一度言葉を交わした相手だと距離感が全然違う。


「ディアナの髪型とても素敵だわ」

「ありがと、レイリアのドレスもいい色ね」

「うふふ、お気に入りなの」


 この2人は随分と仲良くなったらしい。まあシャルルロワ学園でのサポートをお願いした身としては好ましい状況だ。ただレイリアは伯爵家令嬢、その振る舞いは家の未来のため。


「ひいお爺様のご挨拶よ、皆さんグラスをお持ちになって」


 レイリアの声に促され会場奥を注目する。ゼイルディク伯爵が挨拶をすると続けてカルカリア伯爵、そしてレリスタット侯爵が挨拶をした。言ってる内容もさっきの授与式と大して変わらん、グラスを持った手が震えてきた、早く終わらせてくれ。


 ふー、やっと食事ができる。侯爵のタイミングでグラスを持つべきだった。


「リオン、先日の激闘をよく生き残ったな」

「周りの騎士が強かったからです、ロディ」

「確かに優秀なゼイルディクの騎士がトランサイト武器を使っているのだ、倒せない魔物はいない」

「リオンもトランサイトを使っていたのでしょう、脚の1本や2本切り落としたのでは?」

「いいえレイリア、逃げることで精一杯でした」


 本来ならいち早く戦線離脱するべきだが、まさか俺が狙われているとは言えない。もしそう聞かれたら立て続けに襲ってきてタイミングが無かったとでも言おう。


「身体強化が早いのよリオンは、大人と同じで一瞬なの」

「それは凄いな、俺でも20秒くらい掛かるのに」

「8歳なら十分よロディ、私は30秒くらい必要ね」

「ディアナも正しく訓練すれば必ず伸びる、何せリオンの姉なんだ。確かラウリーン中等学校の冒険者コースだったな、俺が言って専属の講師を向かわせよう」


 出た、伯爵家令息の強権。


「その必要はないわ、社交コースに変えたから。加えてシャルルロワから優秀な講師を向かわせたの。今月中はそれで対応して来月からこっちの寮に入る予定よ」


 レイリアの方が動きが早かった。


「ねーちゃん、来月からバイエンスに行くんだね、寂しくない?」

「平気よ、仲良しの子も一緒に編入するから」

「今回特別に私が指示したのよ、まあ小さい商会の娘だけど意気込みはあるようですし」


 伯爵家令嬢の強権は友人の人生をも変えるのか。


「良かったね、ねーちゃん。レイリアも心遣い感謝します」

「リオンとの約束は果たすわ。ところでディアナの呼び方を姉様や姉上にしなさい、いつまでもねーちゃんでは貴族家として恥ずかしいわ」

「え、えっと」

「リオン、私たちには身分があるの、面倒だけど家族でも相応しい呼び方にしないと」

「うん、分かった、ねぇー……いや、姉様」


 ディアナは自覚が出てきたな。俺も習わないと。


「なあリオン、Aランク魔物との戦いを話してくれ」

「分かったロディ」


 ではクエレブレからのグリフォン2体、リンドブルム辺りにするか。


「……凄い、間違いなく歴史に残る戦いだ。それで北西部のナタリオと言ったか、中々の槍の使い手と見る」

「はい、あんな大きいクエレブレの体を2回も貫通するなんて驚きました」

「そう言えばロンベルクのガウェインも槍だったな」

「はい、よくご存知で。実はガウェイン部隊長が負傷したため妻のベロニカ副部隊長がナタリオさんへトランサイトの槍を持って来たのです」

「そういった流れか」

「ロディは槍に興味があるのですね」

「俺も衝撃レベルが高くて槍技があるからな」


 8歳で槍技とは優秀なんじゃないか。


「もしかしてルイーゼ様は騎士家系ですか」

「その通りだ。ブレクスタ伯爵家は代々戦闘スキルが高い、母様も強いぞ」

「ではレイリアも戦いの才能があるのですね」

「……さあ、どうかしら」


 む、隠してる感じだ。もしかして密かに鍛えているのかも。


「オルヴァーも洗礼でいいスキルを授かりそうですね」

「でも僕は戦いに向いてないよ」

「そう、それでいいの、私たちの戦場は森ではなく社交の場ですから」


 まあそうだね。


「話は出来ているか」

「商会長!」

「ミランダ様!」

「おお、コーネイン副部隊長、次回の極偉勲章には防衛部隊のナタリオが来るな」

「はい、ロディオス様」

「討伐部隊のガウェイン・ロンベルクも同行するよう伝えてくれ」

「……畏まりました」


 はは、槍の話をしたいんだね。


「そなたは先の戦いでAランクを4体も倒したそうだな、リオンを守ってくれ感謝する」

「当然の務めです」

「今後とも防衛部隊としてノルデン家を頼む」

「はっ!」


 おおー、ロディオスは8歳にしてこんなことが言えるのか。それなりに未来の伯爵として自覚はあるのね。


「リオン、書庫はフリッツが同行する」

「あ、分かりました」

「書庫とは城の書庫か」

「はい」

「流石リオンは勉強熱心だ。ウチの書庫なら必ず目的の情報に辿り着くぞ」

「楽しみです」


 そして楽しい食事の時間は過ぎ、デザートを食べ終える頃にエナンデル子爵が懇親会の案内を告げた。フリッツがテーブルに来る。


「書庫へはワシも同行する」

「うん、お願い」

「とても本が多いから驚くわよ。それと道中も楽しんでね」

「はい、レイリア」


 道中?


「行ってらっしゃい」

「行ってきます、ディアナ姉様」


 使用人に案内され廊下を歩く。何度も曲がって階段を下りると一度外に出た。おお、庭園か。


「ここからは馬車です、どうぞお乗りください」


 手入れされた花を眺めながら馬車は走る。なるほどレイリアの言ってた楽しみはこれか。へー、立派な噴水もあるんだな、ティールームらしき屋根付きスペースもいくつか見えるぞ。そっか貴族夫人や令嬢はここでもてなすのね。


「到着しました、こちらです」


 別館か。書庫と言うより図書館だな。


「大きいんですね」

「絵画や美術品も保管しておりますので」


 へー、ちょっとそっちも興味あるな。


「お待ちしておりましたリオン様、フリッツ様。司書のマレイネンと申します」

「よろしくお願いします」


 優しそうな40代半ばの女性、きっと本が大好きなんだろう。


「書庫は2階です」


 階段を上がり大きな扉を開くと沢山の本棚が目に入った。


「鉱物にご興味をお持ちと伺っています」

「はい、なるべく多くの種類で詳しく載っている本がいいです」

「畏まりました。そちらへ掛けてお待ちください」


 さーて、何かヒントになる情報があればいいけど。とは言え、電話を再現するだけなら地球の知識を使えばいい、必要な素材も精霊石から出せる鉱物で賄えるだろう。ただこの世界は特有の鉱物がある。拡声器もアンプリウムとかいう謎の鉱物が中核を構成していた。


 照明もそうだった。光る鉱物、魔石から一定の魔力を通す鉱物、とにかく何か専用の効果を持った鉱物を組み合わせて魔導具を作り出している。ならば音を変換する鉱物、その変換した何かを通し再び音へ戻す鉱物もあるんじゃないかと。


 つまりこの世界で受け入れられるには仕組みをシンプルにする必要がある。もし地球の知識で電球を再現しても、何と手間のかかる照明だと相手にされないだろう。電気なんて魔石に比べたら非効率な動力だもんね。


 はは、電気が非効率とは地球で言ったら怒られる。でも魔石の性能が良すぎるからな、あんな碁石ほどの小さな動力源が無限に手に入るなんて。ならば電話も魔石を動力にするべきであり、その為には根本から仕組みを変えないといけない。


「お待たせしました。ひとまず3冊からお選びください」


 『鉱物大全~2296改訂版~』『世界の鉱物』『鉱物の特性』


「鉱物大全はカイゼル王国内で産出が確認された精霊石であり、その用途も合わせて記載しています、世界の鉱物は他国産出や歴史上の鉱物を主に載せています、鉱物の特性は様々な実験結果を羅列しており幾らか専門的です」


 何だか魔物と重なる部分もあるな。この中では鉱物の特性が求めるものに近いようだが、いきなり実験結果ばかり見ても流石に意味不明か、ひとまず大全にしよう。


「大全を読みます」


 ほほう、まずレア度で区切ってその中は五十音順みたいな並びか。1ページ片面に4種類が載ってて300ページだから約1200種となる。地球で5000種以上と考えればカイゼル王国だけで1200種は妥当なところか。


 いやこの世界特有の鉱物を加えれば総数は地球より多いはずだ。いやいや地球の鉱物が全て存在するとも限らないな。そもそもこの本は精霊石から抽出可能な鉱物のみ掲載している、自然界ではまた違った構成かもしれない。


 いずれにしても敢えて自然界から鉱物を調達する必要は無いだろう。勲章素材への皆の反応を見ても存在自体が希少な部類だからね。余程代用の効かない鉱物でない限り魔素由来の素材で作った方がコスト面や量産性に優れている。


 そう、世話になっているトランサスだって、もし鉱脈を掘りつくしたら新たな鉱脈を探して森を切り開く必要がある。それが無限に現れる精霊石を拾うだけで解決するんだから手間が段違いだ。なるほど、神は過度な自然破壊を防ぐために精霊石を創り出したとも考えられる。


 しかし、うーむ、鉱物から使えそうな特性を探すと一通り見るから時間が掛かって効率が悪い。


「マレイネンさん、鉱物の特性をまとめた本はありますか」

「……私の把握する中にはございません」


 そっかー、じゃあ地道に見ていくしかないな。ただ城にいつまでも居られないし、そう頻繁に来ることも出来ない。


「あの、本を借りることは可能ですか?」

「城外へ持ち出すことは出来ません」

「では買うことは?」

「販売もしていません」


 むむ、ダメか。


「そうだ、写本を依頼できますか?」

「可能です」

「ではこの鉱物大全をお願いします」

「畏まりました。ただ城の写本士は皆仕事を抱えておりまして、早く終わる者でも手が空くのは1カ月先です」

「え、そうなの」

「ご指定の鉱物大全は写本に3カ月ほど要しますので10月にお渡しとなります」


 うわー、時間かかるね。まあ仕方ないか。


「城の写本士は何人だ?」

「専門で携わってるのは3名、兼務は私含めて10名ほどです」


 フリッツが話に入って来た。


「では13名がその本を分業で進めたとして完成に要する日数は?」

「……10日前後と思われます」

「装飾などを省略し改行や文章構成も忠実に再現せず最低限内容の伝わる文字のみなら?」

「4~5日で可能かと」

「では頼む」

「お言葉ですがそれは出来ません」

「幾ら必要だ?」

「……お答えできません」


 おいおい、マレイネンが困ってるぞ。


「フリッツ、俺が伯爵に聞くよ」

「そうか」


 金に物言わせて強引に進める手法は印象良くないよ! 全くこれだから貴族ってモンは。ただ4~5日は魅力的だ。まあ本当に数日で手に入るかは別にしても、この場で隅々まで見る時間はない。今は他の情報を探すか。


 お、そうだ。


「カルカリアの歴史はありますか」

「もちろんです、お待ちください」

「ゼイルディクではなく?」

「うんフリッツ、カルカリアを知りたいんだ」


 バストイアの職人が生きた年代の参考になる。


「お待たせしました」


 さーて、どうかな。……ふむふむ。


 2084年 コーネリアス・レンスタール(31歳)はAランク魔物ニーズヘッグを討伐し3度目のウィルム極偉勲章を授かる。その功績が評価され叙爵が決定する。

 2085年 叙爵、男爵となる。領地テルナトス、領民3千。

 2100年 初代当主陞爵(しょうしゃく)、子爵となる。領民3万。

 2157年 3代当主陞爵、伯爵となる。領民24万。領地名をカルカリアと定める。


 へー、初代当主は約200年前に貴族となったのか。その基準も今に近いようだ。そして15年後に子爵、更に57年後に伯爵か、3代目だから初代の孫だね。そして同年に伯爵領カルカリアも誕生すると。


 夢の内容は140年前以降の可能性が極めて高いな。そもそもカルカリア地域の歴史が200年ほどなんだね。意外と最近だった。尤も、5000年のカイゼル王国と比べてだけど。


 2170年 バストイアに男爵を置く。

 2202年 領民50万。


 おーこの辺か。専門学校が必要とされる人口的にもこの年代が濃厚だな。そうだ、専門学校の設立年が載っているかも。施設一覧のページがあれば……お、これかな。


 2195年 スコーネ錬成学校設立


 あっ、知ってるぞこの名前! 俺はここへ通っていた! うん、所在地もテルナトスだし魔導具科もある、ここで間違いないな。しかし約100年前とは思ったよりかなり近い。夢に出てきた要因も新しい記憶だからか。


「そろそろ行こう」

「あー、うん、そうだね」


 今日は村へ帰るため城で長居は出来ない。


 庭園を抜け客間へ戻る。


「お帰り、リオン」

「ただいま、ねぇ……様」

「ディアナ様の呼び方を変えたか」

「うんフリッツ、まだ慣れないけどね」


 客間には身内が座っているが知らない人たちも多い。


「あれは城の使用人たちよ、衣装係、水管係、食事係、厩舎係とか」

「ふーん」


 俺の目線に気づいたディアナが教えてくれた。なるほど屋敷での仕事のために伯爵が手配してくれたんだね。しかし城となれば規模が大きい、参考になるのだろうか。


「お戻りになられましたか、別室でクラウス様たちがお待ちです、フリッツ殿も同行ください」

「はい、リカルドさん」


 客間に入って俺を見つけた家令リカルドに付いて行く。別の部屋にはクラウスとソフィーナ、そしてミランダがいた。音漏れ防止結界を施している旨を聞いてソファに座る。


「父さんレリスタット侯爵との席は終わったの?」

「ああ、ちょっと前にな、今はミランダにその場のことを話していた」

「父さんたちは何を聞かれたの?」

「大したことは聞かれなかったな、母さん」

「そうね、ほとんど侯爵と伯爵が話していたわ、トランサイト関連は私たちも共有するべきと考えたのかしら」

「ふーん」


 まあ製法発見者だからね。何より経済力が大きい貴族だ、それも近い将来レリスタットを超えるほどに。重要な話をする場に同席させて信頼関係を築く目的かな。加えて今日は勲章授与者で主役だしね。


「商会長は何処にいたんですか」

「ラウニィたちや伯爵家の者と話をしていた、私は次回の授与者だからな」

「4体も倒しましたからね、じゃあ4つ貰えるんですか」

「そうなるな、尤も2つはお前のものだ、エリオットも加えれば3つだな」

「父さんの1つで十分です」


 8歳の子供が貰ったら目立ちすぎて面倒だろう。


「さてレリスタット侯爵は帰路につかれた。ゼイルディク伯爵家は見送りに出ている」

「じゃあ俺たちも伯爵が戻ったら城を出るんですね」

「いや、カルカリア伯爵との話がある」

「そうなんですか」

「ゼイルディク伯爵がレリスタット侯爵と話してる間、カルカリア伯爵はハーゼンバイン夫人と一緒にいた。途中からはディンケラ家の4人とも話していたらしい」

「そっか、カルカリアから来ましたからね」


 ハーゼンバイン夫人とは姉弟だから話題は尽きないだろう。しかしディンケラ家は緊張しただろうな。


「つまりレリスタット侯爵がいない席で会談をするため時間を調整したのだ。トランサイト配備は侯爵がいると話し辛いだろう」

「確かに、あまり数は言えないですね」

「加えて取り扱い商会の話もするつもりだ」

「ラウリーンの他に増やせと」

「うむ。実際レリスタット侯爵もその話が主体だった。城壁近くを領地とする騎士貴族のエテルベーク子爵、そこが経営するロワール武器商会の商会長も先程は同席していたからな」


 うは、同行してたのか。


「それはもう入れざるを得ないですね」

「ああ、ゼイルディク伯爵も配分を約束していた。元よりプルメルエント以南へ販売するならレリスタットの商会は頼りになる。ブラームスの配分を減らして調節するらしい」

「えっ、いいんですか、前にウィルム侯爵と一緒に来た商会ですよね」

「レリスタットと仲良くする方が伯爵の描く未来に近づく。向こうもゼイルディクと強い繋がりを希望している、ウィルム侯爵以上にな」


 おっと、これはウィルム包囲網の構築ですか、怖い怖い。確かにレリスタットは地理的にも要所だからね、加えて侯爵だ。そうか、レリスタット侯爵もウィルム侯爵と同じ爵位なのにサンデベールでは実権を握られている。そりゃいい気はしてないよな。なるほど、利害関係一致ですか。


 しかし強いなトランサイトは。交渉の場において爵位関係なく話ができるもんな。


「この後の会談には私とリオン、そしてディアナとフリッツも同席する」

「俺と姉様もですか」

「ほほう、呼び方を変えたのか、いい心掛けだ。それでノルデン家が全員同席するのは私がゼイルディク伯爵にそう頼んだからだ。実は1つ仕込んでおいた、その反応を一緒に見てもらいたい」

「悪い顔ですよ商会長」

「そうか、はっはっは」


 全くこの人は。お、そうだ。


「先程、書庫で例の学校を特定しました。2195年設立のスコーネ錬成学校、魔導具科があり、テルナトスに所在しています」

「うむ、よくやった」

「100年前か、なら情報も残っていそうだな」

「故意に消していなければな」


 そんなことを話していると家令ディマスが呼びに来た。カルカリア伯爵との会談準備が出来たそうだ。俺たちは廊下へ出てディアナと合流しついて行く。しばらくして円卓のある大きな部屋へ入った。既にゼイルディク伯爵やカルカリア伯爵は席に着いている。


「おおこれはノルデン家の方々、今日はいい日になったな」

「はい、副賞もいただきお礼を申し上げます」

「はっは、あの程度の金額ですまない、侯爵を超えるわけにはいかんからな。いずれにしてもそなたらには大した金では無かろう」

「金額の問題ではありません、お心遣いを感謝します」


 そう、気にかけてくれてる行為が嬉しいのさ。


「そちらはご令息とご令嬢だな」

「ディアナ、リオン、名乗りをしろ」

「はい、父様」


 む、ディアナは父様と呼ぶのか。まあそうだよね、俺も習うか。そしてディアナ、俺、クラウス、ソフィーナ、フリッツ、ミランダと名乗った。


「コーネイン夫人は商会長としての手腕も聞いておるぞ」

「アレリードではお世話になります」

「構わん、大いにやれ。ラウリーン商会は最近の態度が良くないと他の商会から苦言が出ている。少しは危機感を持たせた方が丁度良いであろう」


 あー、それはあるかも。カルカリアでトランサイト販売ができる唯一の商会だからね。


「しかしクラウス殿はトランサイト製法発見が叙爵対象だが、Aランク討伐でも条件を満たせるほどの武人であるな」

「伯爵、そう何度もAランクとの対峙は身が持ちません」

「はっはっは、そうか」

「レンスタールの家系も武人ですよね、初代コーネリアスも3体討伐が叙爵対象となったそうで」

「これはまた、リオン殿はよく知っておるな。いかにも我がレンスタール家は代々最前線で戦ってきた。まあ最近は騎士貴族に任せてばかりだがな」

「それはワシらも同じ、今のハーゼンバイン家を見れば初代も嘆く」

「いやいやフレデリック、この豊かな領地を見れば満足であろう」


 今の立場なら役目が違うからね。しかしカルカリア伯爵はゼイルディク伯爵をフレデリックと名前で呼ぶのか。きっと若い頃から親しいんだね。加えて姉が嫁いだから義理の兄だし。もちろん領地が隣り合わせで接する機会も多い。


 見たところ温厚そうなカルカリア伯爵、果たしてビクトル・ノードクイストの抹殺を知っているのだろうか。多分ミランダの仕込みはそれ絡みだ。ちょっと怖いけど直接聞くのが間違いないからね。さーて、どうなることやら。

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