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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
169/321

第169話 再会

 暖かく活力に満ちるこの感じ、きっと治療士が体を治しているんだ。半月前にも同じことがあったな、またあの時の様に全身火傷と打撲と擦り傷。今回はサラマンダーではなくジルニトラに喰らった熱風だが。


 よく生き残ったものだ。正直、最後は諦めていた。流石に数で来られるとどうしようもない。しかしバイエンス男爵が何故あの場に来たのだろう。その辺の経緯も後から聞きたいところだ。


 みんなどうなったかな。最後に見たのはミランダだ。命に係わる傷を負っていたがポーションでうまく対応してくれてるといいけど。エリオットは俺と同じように熱風で吹き飛んだはず。クラウスやソフィーナは遠くで見たのが最後だな、生きててくれよ。


 そう、もう途中から人の動向を確認する余裕はなかった。目の前の魔物で精一杯。どんなに力があっても、所詮、戦闘経験の少ない素人だ。その点、グリフォンに駆けていくミランダなんかは一切迷いが無かった。瞬時の判断と行動力は流石だよ、ちょっと危なっかしいけど。


 ……。


 ああ、また眠ってしまったか。もう体は何ともないみたいだ。起きよう。


「リオン!」

「あれれ、ミーナ」

「よかったー! うえーん」


 ベッドの横にいたのはミーナだった。俺が目を覚ますと一瞬の驚きから笑顔に、そして大粒の涙を流しベッドにうずくまる。


「ごめんよ、心配かけたね」

「ぐすっ……えぐ……」


 よしよしと頭を撫でる。ミーナこそ大変だったね、魔物の接近を感じて辛かっただろうに。


「どうかしら、体の具合は」

「はい、もう何ともありません」


 ミーナの隣りにいたエリーゼに聞かれて応える。しかし改めて凄いな治癒スキルと言うのは。打撲や擦り傷に加えて体中に負ったはずの火傷も完治している。いや元通りか、まるであの激闘が嘘のようだ。


「あの、父さんや母さん、商会長や部隊長は」

「みんな生きてるわ」

「ほっ、良かった」

「でもかなり酷い傷でね、きっとまだ眠っているでしょう」


 今回は連戦だったから魔力も底まで出し切ったはず。その回復にも時間が掛かっているのだろう。いやしかし本当によく生き残ってくれた。


 それでここは1人部屋か、治療施設なのは間違いないな。部屋の隅には護衛と思わしき騎士が2人立っている。


「ここは何処ですか?」

「ヒンメル治療院よ、ゼイルディク騎士団メルキース支部の隣りにあるの」

「へー」


 メルキースの中心辺りか。


「今は朝の7時くらいね」

「えっと6月4日ですか」

「そうよ」


 やはり翌日か。ではあの戦いから18時間ほど経過したと。


「さあ、ミーナ、リオンが目覚めたら村に帰る約束でしょ」

「うん、でもリオン1人になっちゃうよ」

「すみませんが、フリッツ・レーンデルスを呼んできて下さい、バイエンス男爵のところでいるはずです」

「はっ!」


 エリーゼは騎士にそう告げた。男爵も近くにいるのか。


「村も大変でしたね」

「ええもう大騒ぎ、ウチのアルが英雄ですって」

「お父さん強かったよ!」

「立派だね、流石はミーナのお父さんだ」

「うん!」


 サラマンダーの首を落としたからな、それも握って間もないトランサイトの伸剣を使いこなして。アルベルトの戦闘センスは高いものがある。


「目覚めたかリオン」

「うん、フリッツ、もう平気だよ」

「私たちは先に帰るわね、さあミーナ」

「西区で待ってるよ、リオン」


 手を振るミーナを見送る。


「いつ頃ここへ来たの?」

「昨日の夕方だ、17時くらいか。その1時間前に村へ防衛部隊の使いが来て状況を知った。ミーナがどうしてもリオンの元へ行くと言うのでな、ワシとエリーゼが付き添い町まで来たのだ。他に村からはランメルト、そして保安部隊のエマが来ている」

「メルおっちゃんも! エマはそっか、娘のラウニィさんも一緒に戦ったからね、その……」

「トランサイト班は全員生きている、クラウス、ソフィーナ、エリオット部隊長、ミランダ副部隊長、セドリック副部隊長、カミラ様、ロンベルク副部隊長、お前の知っている者は皆、治療を終えてここで休んでいる」


 おお、そうなのか。しかし騎士には犠牲者が出ただろうな。


「……防衛部隊の死者は35名だ」

「そんなに」


 俺の表情から察してフリッツは告げた。


「しかしあの規模の魔物を相手にこれだけで済んだのは奇跡的だ」

「うん……まあ、そうだよね」

「気を落とすな、騎士は常に覚悟している。また落ち着いたら騎士団墓地に連れて行ってやろう、そこで死者に祈るといい」

「うん、お願い」


 俺が生き残ったのは命を懸けて戦った騎士たちのお陰だ。感謝と哀悼の気持ちを伝えないと。


 ぐうぅ


 お腹が鳴る。


「おお、話し込んでしまった、すまんがキミ、食事の手配を頼めるか」

「はっ! 伝えてまいります」


 騎士は応えて部屋を出る。


「そうだ、ナタリオさんは?」

「あのよくしゃべる男か、若い治療士を口説くほどで全く問題ない」

「はは」

「そうかコーネインの特別契約者だったな、集いで会ったのか」

「うん、強かったよ、クエレブレを仕留めてた」

「彼はトランサイトの槍だったな、ロンベルク部隊長も預けた意味があると言うものだ」


 そう、ガウェインも重傷だった。他にも討伐部隊は多くの重傷者と死者も出ている。それがゼイルディク騎士団全ての部隊に広がった。


「今回はあちこちで大変だったね」

「Aランク17体、40年前は8体だった。もちろん当時とは騎士団の質も数も違う、しかし城壁が一部破壊されただけで町に被害はない。この快挙は直ぐに近隣地域に広がり国中にも轟く。トランサイトの名と共にな」

「益々需要が高まるね」


 本当はシンクライトも駆使しているが伏せられる。相対的にトランサイトの価値が更に上がったな。まあその差異は使い手の腕前、そして指揮官の的確な戦術で埋めればいい。


 騎士が帰って来た。


「直ぐにお持ちするとの返答です」


 ほどなく朝食が届く。俺はペロリとたいらげた。


「はっは、よほど空腹だったか、追加も頼めるが」

「ううん子供にはこれで十分だよ」


 ふーっ、メシ食ったら落ち着いた。


「父さんたちのところへ行きたい」

「うむ、ただ目覚めているかは分からんぞ」


 ベッドを降りて廊下へ出る。各部屋の前にも騎士がいるんだね。まあ貴族も療養してるし俺も要人だ。


 隣りの部屋へ入る。


「おお、リオン! フリッツも」

「メルおっちゃん!」


 ここも1人部屋、ソフィーナだけか。


「すっかり良さそうだな」

「うん、母さんの様子はどう」

「1時間前か、少し目を開けたな、リオンたちの無事を伝えるとまた眠ったよ」

「そっか」

「その時にはディアナもいたが今は学校に行ったぞ」

「ねーちゃんも来てたんだ」


 ラウリーン中等学校から近いからね。


「隣りにクラウスが寝てるぞ、行ってやれ。ああ、そうだ、マティアスとゴードンがいる、クラウスの兄と父だ」

「え!?」


 そっか、昨日メルキース男爵の屋敷に到着したんだっけ、すっかり忘れてた。いやしかし凄い日に来たもんだ。


 隣りの部屋に入る。


「ああフリッツ、クラウスはまだ目を覚ましておらん……その子は?」

「父さんリオンだよ」

「おおそうか、見に行った時には顔が向こうを向いていたのでな、そうかそうか、おいでリオン」

「……えっと、おじいちゃん」

「うむ、そうだ、ゴードンおじいちゃんだぞ」


 俺はゴードンの元に駆け寄る。


「8歳だったか、おお、立派な顔立ちだ、どれ」


 ゴードンはひょいと持ち上げ膝の上に座らせる。


「お前の父さんはよく頑張ったぞ、町を救ったんだ」

「父さん、リオンも戦ったんだよ、この子はもう冒険者だろ」

「おお、そうだ、お前もよく頑張った」

「へへ」


 あの場にいた理由はどう伝わっているのか分からない。こっちから言わない方がいいな。


「しかし貴族とは、リオンはどういうことか分かるか」

「分かるよ、村の領主になるんでしょ」

「そうだ、いや本当に、これ以上ない息子を持ったものだ。ああ、マティアス、お前も立派に後を継いでくれた」

「もういいよ父さん、宿屋は引き払ったんだ」


 マティアスは少し寂しい表情になる。きっと中心になって切り盛りしてたのだろう。


「ノルデン家なら宿などいくらでも経営できる、見知ったヴァステロースの客とは違うがな」

「フリッツの言う通りだ、メルキースにも冒険者の集まる地域がある、むしろクノックより多いぞ」

「そんな気を使わなくていいよ、俺はクラウスの屋敷で務めを果たす」

「そうか、まあ気が変わったらいつでも言えばいい、なあフリッツ」

「うむ」


 ゴードンとフリッツは短い時間で仲良くなった様子、まあ年も近いしね。マティアスはちょっと内向的な印象だ、クラウスより真面目らしいし。


「リオン、部隊長も見に行くか」

「うん! ゴードンおじいちゃん、マティアスおじさん、これからもよろしく」

「おお、こちらこそ」

「リオン、ウチの子とも仲良くしてくれな」


 手を振って部屋を出る。


「他の家族は屋敷?」

「うむ、あの2人はクラウスが目覚めるまでいるそうだ」


 あとはクラウスの母親ミリアム、マティアスの妻エリサ、その長男ディックと次男カレルか。それから浄水士のレナも一緒に来たはずだ。


「そう言えばベラおばちゃんの実家が今日来るんだよね」

「うむ、ディンケラ家の3人だな、昼前と聞いている。それでラウルだったか、先に来た兄がハンメルトの宿まで迎えに行くそうだ」

「じゃあ自分の馬車で行くのかな」

「いや男爵家の馬車だろう」


 流石にまだ道を覚えてないか。


「リオン!」

「おお、元気になったか!」


 部屋に入るとベッドの横にアデルベルトとライニールがいた。流石に心配だったか士官学校に行かずに来たのね。


「2人がいるってことは」

「母様のところにはクラウディアがいる、ルアンナたちもセドリック叔父様とカミラ叔母様の側だ」

「テレサとエステルも昨日貴族学園から帰って来たぞ」


 セドリックとカミラの子4人も来ているのか。


「それにしてもリオンは流石だな、俺は魔物種を聞いただけで生き残れる自信がないよ」

「ニール、部隊長のお陰だよ、キミたちの父様は最後まで俺を守ってくれた」

「そうだろう、父様は本当にご立派だ」

「部隊の指揮も執りながら要人も守り切る。正に私の目指す偉大な騎士だ」

「兄様なら絶対なれます!」


 2人共、エリオット大好きなんだね。それでアデルベルトは身近な目標でもあると。お、ここはひとつ。


「セドリック副部隊長も素晴らしいご活躍でした、覚えている範囲ではガルグイユの首を鮮やかに落としていましたよ」

「はっは、叔父様は強い、とんでもなくな」

「ニールもアデルに家を預けるなら腕前を上げて応えろよ」

「おい、言うようになったな、リオン」

「はっはっは、リオンの言葉通りだぞ、ニール!」


 セドリックと言う素晴らしいお手本があるんだ、それに才能や環境も恵まれている。頑張れ、ライニール。


「んん……お前たち」

「父様!」


 エリオットが目を開けた。


「そうか、生き残ったか私は……ミランダたちは?」

「母様も叔父様もみんな生きてます!」

「うむ、分かった……ふぅー」


 再び目を閉じた。


「良かった」

「うん、兄様、また声が聞けて嬉しい」


 騎士の子とは常にこういう心持ちなのだな。誇らしくも心配でもある。


 もう一線を退いたが、メルキース男爵やアーレンツ子爵もこういった死線をいくつも乗り越えて来ただろう。トランサイトも無い開拓の時代に。その姿を見てきたエリオットやセドリックも今務めを果たすべく奮闘している。


 その思いはまた子に引き継がれ騎士貴族家系とは続いて行くのだな。


「行くか」

「うん」


 部屋を出る。


「隣りがミランダだ」


 入る前にフリッツがノックをした。


「どなた?」

「フリッツとリオンだ」

「どうぞ」


 入るとミランダはまだ寝ている様子だ。ベッドの横にはクラウディア、部屋の隅には2名の女性騎士が立つ。


「リオンも大変だったわね」

「みんな同じだよ、でも商会長のお陰で生き残れた。凄かったよ、大活躍だった」

「当然よ、ねぇお母様の戦いぶりを教えて」

「……えっと」


 フリッツを見るとうんうんと頷く。


「覚えている限りだよ、まずは目の前に降り立ったガルグイユに弓士と魔導士へ的確な指示をして、直後に自ら切り込んで片脚を切り離したんだ」

「まあ、流石だわ」

「あとはね、正面でクエレブレが暴れてるのに、少し離れた左右からグリフォンが突風を交互に放って身動きが取れなくなったんだ」

「なんと、3体同時か」

「いや、加えて背後からリンドブルムの火球が襲って来た」


 あの連携はかなりきつかった。


「……信じられないわ」

「どうやって切り抜けたのだ」

「まずクエレブレをみんなで倒したんだけど、その間に商会長は1人グリフォンに立ち向かって仕留めていたんだ」

「何て勇敢な、素晴らしいわ!」


 あれはほんと助かった。


「後にもまた別のグリフォンが来るんだけど首を落としていたよ。それから最後の方に来たジルニトラ、もう目の前に降りて、俺たちは熱風を喰らって吹き飛ばされたんだ」

「まあ!」

「それは手痛い」

「商会長も吹っ飛んで火傷を負ったはずだけど、気づいたらジルニトラの片脚を切り離してたよ」


 ミランダはとにかく動きが早いんだよね。


「片脚を失ってジルニトラは倒れ込む、そこへ商会長は間髪入れずにトランサイトを振り上げ首を狙った……でも直後にジルニトラの魔法が体を貫いてしまう」

「ああ……何てこと」

「俺が知ってるのはそこまで。きっと直ぐにポーションを飲んで傷が塞がったはずだよ」

「そうだな、でなければここで息をしていない」


 しかしあれだけ動いて魔力がよく持ったものだ。


「ジルニトラはどうなったのだ」

「ええと、うーん……ちょっと分からないかな」


 飛剣の存在はクラウディアでも知られてはいけない。護衛もいるしな。


「リオンが首を落とした」

「お母様!」

「目覚めたか!」


 ミランダがむくりと起き上がる。


「倒れながらでも私はしっかりと見ていたぞ。リオンが振るったトランサイトの魔素伸剣が、見事ジルニトラの首を落とすのをな」

「あー、そうでした、必死だったから直ぐ思い出せなかったや」

「お母様、お体の具合は」

「問題ない、腹は空いたがな」

「直ぐに持って来させるよう伝えてきます!」


 クラウディアは廊下へ飛び出した。


「エリオットたちはどうなった?」


 ミランダの問いに部隊の被害含めてフリッツが応える。


「……ふむ、よく分かった」


 朝食運ぶ騎士とクラウディアが部屋へ入って来る。


「皆が目覚めて食事と風呂を終えたらバイエンス男爵から報告があるそうだ。隣りの支部で待機している」

「そうか、ソフィーナが目覚めたらミランダが風呂を待っていると伝えてくれ」

「分かった」


 部屋を出る。


「あ、母さん」


 廊下にソフィーナとランメルトを見つける。クラウスの部屋から出てきたようだ。


「リオン! よく生き残ってくれたわ」

「みんなのお陰だよ」

「もう食事は済ませたの?」

「うん」

「ミランダ副部隊長は目覚めているぞ」

「あら、そうなの、メル兄さん、私行くからリオンたちと一緒にいて」


 ソフィーナはそう告げていそいそと部屋に入った。


「クラウスの所へ行くか」


 ランメルトも加えた3人でクラウスの部屋に入る。ゴードンとマティアスもいるからちょっと大人数になったな。


「おお、来たか。ソフィーナは良い母親だな、リオンよ」

「うん、強いしとっても優しいよ」


 義理の父親と兄との初対面が入院着とは、ソフィーナもちょっと恥ずかしかったな。


「クラウスも奥手かと思ったがしっかりしておるわい」

「クノックの学校ではモテた方だよ、父さん」

「ワシに似ておるからの、はっはっは」


 ゴードンは陽気な性格らしい、カスペルに雰囲気が似てるかも。マティアスは、うーん、あ、エドヴァルドに近いか。うんそうだ、落ち着いてて頭よさそうだし。


「……あれ? ここは」

「おお、クラウス!」

「目覚めたか!」

「……父さん、兄さんも!」

「よーう、死にかけたな」

「メルか、それにフリッツ、リオン! 母さんは?」

「商会長とお風呂じゃないかな、部隊長はまだ寝てるかも」

「そうか……はは、俺たちは勝ったんだな」


 クラウスは笑顔になる。


「腹減っただろ、メシ持ってきてやるよ」

「そうだな、すまんメル」

「久しぶりだなクラウス」

「ああ、兄さん、最初誰かと思ったよ。父さんも老けたな」

「よく言う、お前も可愛かったのに」

「もう35だぜ? 大人になったのさ」


 嬉しそうに言葉を交わすノルデン家、長い間会ってなくても家族なんだね。


「さて礼を言わせてくれ、クラウス、お前の偉業によりワシたちの人生が変わった、もちろんいい方にな」

「そう言ってくれると助かる。兄さんも急ですまなかったな」

「気にするな、弟が貴族になるなど喜ばしい限りだ。最初に聞いた時は手の込んだ詐欺かと思ったが」

「ははは、まあ戸惑うよな、でも本当だ」


 ビックリするよなー。


「フリッツ、今何日何時だ、そしてこの場所は」

「6月4日朝8時過ぎ、ヒンメル治療院、メルキースの騎士団支部の隣りだ」

「そうか、やはり昨日のことか」

「ああ、屋敷に着くなり魔物襲来の鐘が鳴って驚いたぞ、ゼイルディクとは町でも安心できんな」

「この辺は滅多に来ないんだがな」


 ランメルトが食事を持って帰って来る。


「さて、マティアス、屋敷へ戻るか」

「そうだね、父さん、エリサたちにも伝えてやらないと」

「俺も一緒に行くぜ」

「ランメルトだったか、そなたの実家が来るんだったな」

「あー、いや、俺の妻の実家だ、まあそれを迎えに村から実家が来るのは合ってるが」


 またイザベラたちも屋敷へ行くのね。そっか向こうでランメルトと合流か。


「俺たちも後から行くよ」

「うむ、待っておるぞ、クラウス、リオン」


 3人は去った。


「いやー、腹減った」


 クラウスはぺろりと朝食をたいらげる。


「父さん、風呂なんだけど部隊長が目覚めるのを待つ?」

「おー、そうだな、一緒に入るか、ここでいれば来るだろう」

「どの道バイエンス男爵の話は皆揃ってからだ」

「なんだ男爵が?」

「父さん覚えてないかな、最後にサラマンダーをバイエンス男爵が倒したところ」

「いや知らない。俺はガルグイユの尻尾で吹き飛ばされてな、多分体中の骨が折れ内臓もやられた、直ぐに母さんがポーションを飲ませてくれたが、直後に多分リンドブルムの火球で一緒に吹っ飛んだ。何とか意識はあったが覚えてるのはジルニトラが降りてきたところまでだ」


 最後の方だな。クラウスとソフィーナはカミラたちトランサイト班と一緒に北側のリンドブルム対応に回ってたんだ。へー、そっちはガルグイユも絡んでいたのか。


「お前は反対側だったろ」

「うん。でも父さん凄かった、クエレブレの尻尾を落としてたね」

「グリフォンの突風が止んだスキを付いてな、あれはうまくいったぞ」

「しかし聞けば聞くほど出てくる魔物の名前が恐ろしい、お前たちもそう思うだろ」

「はっ! 士官学校で教わったAランクばかりです、その様な魔物との戦いが近くで起こっていたなんて信じられません」


 フリッツが護衛の騎士に絡む。


「グリフォンを単独討伐の勇者アナスタシア、ガルグイユを槍で仕留めた英雄ラーシュ、ジルニトラの首を飛ばした英雄ブラス、そういった歴代の使い手が死闘を繰り広げた魔物として記憶しております」

「じゃあ俺らもそういう英雄として教材になるか」

「間違いなく歴史に名を残したな、尤も、トランサイト製法発見の時点でその対象だ」


 うへ、俺たち教科書に載るのか。嬉しいけど少し気恥ずかしいな。

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