第166話 感知スキル
ベルソワ平原にて北西部防衛部隊がAランク魔物を想定した訓練をしている。最初は100人くらいが集合していたが、今は30人程の小隊3つに分かれて100m間隔で散っていた。どうも陣形を確認している様子だ。そこから少し離れたところに8名の騎士が集まっている。
「あれがトランサイト班ですか」
「うむ、弓4、剣2、杖1、そして指揮を執る班長だ。あの班だけでAランク1体を十分倒せる。先のガルグイユ戦が正にそうであったろう」
「はい、見事でした」
「あの経験は大きい。今接近しているのがガルグイユであれば、ローザとラウニィは凍り付かない間合いを知っているからな」
「おおっ」
そう、今回は1体倒せば終わりじゃないんだ。戦力の維持を考えた立ち回りが要求される。
「リオン、他に反応はあるか」
「部隊長、これより探ってみます」
目を閉じ集中する。
……。
うーん、同じか。
「北西、村の方向にサラマンダー1体、西、フェスク駐留所の方向ですね、そこにガルグイユ1体、そして不明1体、以上、変わりません」
「そうか、ありがとう。引き続き警戒を頼む」
「数を揃えて同時には襲って来ないのか」
「ふむ、今のところその様だな。いや、魔物が近隣の森にいるとは限らん。ましてやAランクだ、遠方からの集結を待っている可能性もある」
確かに。
「リオン、距離は分からずとも動いているかはどうだ」
「はい、探ってみます」
……。
うーん、ん?
「動きは分かりませんが、サラマンダーだけ反応が少しずつ強くなっている気はします」
「そうか」
「何とも言えんな」
「村は大丈夫でしょうか」
「城壁を効果的に使えば被害を抑えることが出来る。それにトランサイトを持ったクラウスとソフィーナが留まるのだ、一度戦った相手なら対処する術も知っている」
「そうですね」
あの接近時の熱風と火炎ブレスさえ気をつければ何とかなるか。
「先程、監視所から治療班を村へ向かわせた。元より村の出張所にはポーションも備蓄してある。決して死者は出さない」
「それは心強いです」
そうだ、この世界にはスキルやポーションがあるんだ。即死さえしなければ復活する。
「こっちにはメルキース保安部隊から治療班を呼んでいる。ボスフェルトやデルクセンも同じ対応と聞いているから安心しろ」
「おー、それは頼もしい」
「尤も、平原まで来るのは戦闘が終わってからだ、それまで城壁内で待機させる。ただ一刻を争う重傷者は馬車で城壁まで運搬するぞ、ここからなら4km、10分で行ける」
確かに治療班が負傷したら治す人が居なくなるからね。
「しかし討伐部隊は遅いな、伯爵命令を届けて1時間以上経っているぞ。特に今日の午前はフェスク駐留所付近で任務に当たっていると聞いた。ガウェインとベロニカは何をしておるのだ」
「確かにそうだな、時間が掛かり過ぎる」
「……何かあったか」
「そう見るのが妥当だな、む、もしや、リオン、2体の反応はどうか」
「はい!」
西を向いて集中する。
……。
あれ? こっちじゃない?
「2体とも少し南に下がっています」
「む、動いたか」
森を見つめるミランダの向こうから馬が走って来るのが見えた。
「伝令でしょうか」
「あれは討伐部隊の騎士」
俺たちの近くで馬を止め、その騎士は声を上げた。
「エリオット部隊長、ミランダ副部隊長、お伝えします! 北西部討伐部隊は魔物の襲撃を受け被害大! 本日の訓練は参加できません!」
「なに!?」
「詳細を!」
「はっ! これより約30分前、レナン川の橋より西へ2kmの地点にて、Aランク魔物ジルニトラ、及びガルグイユと同時に交戦。討伐部隊は多くの騎士が戦闘不能となりました。事態を察知したブレイエム監視所とフェスク駐留所へ残っていた騎士、及び冒険者が応援に駆け付けましたが、魔物2体は南の森へ飛び去った後でした」
なんと! そこへ降りていたのか!
「死者は少なくとも7名、重傷者多数、多くはフェスク駐留所で手当をしています。ロンベルク部隊長も重傷を負い動くことが出来ません」
「ガウェインが! どの様な傷だ」
「ジルニトラの放った魔法が腹部を貫通しました、ただ直ぐにポーションで対応し傷口も塞がり意識もあります」
「そ、そうか、分かった」
魔法が貫通だと。なんと恐ろしい。
「それは多くの出血を伴ったな。しかしガウェインともあろう使い手が……ジルニトラ、手強い魔物だ」
「本日の訓練は北西部討伐部隊を不参加とする。負傷者の治療に全力であたれ、こちらの治療班も直ぐ向かわせる」
「はっ!」
「ロンベルク副部隊長は無事か」
「はい」
「そうか、行け」
エリオットは伝令にそう告げると、また別の伝令に指示を出した。城壁待機の治療班を呼び寄せるんだな。
「こちらの部隊にはまだ知らせるな、動揺する」
「うむ、しかしどう思う、エリオット」
「……集結前を狙っているとも取れるが」
「やはりそうか」
「え!?」
なんと、こちらの作戦を知っての動きか。
「リオン、ここより東、そして南へ向き、魔物の反応がないか確認してくれ。小さな違和感でもいい」
「分かりました!」
まず東へ向き集中する。
……。
これは! 間違いないAランク魔物だ!
え、数が、1、2……4、そ、そんな。
「よ、4体の反応があります」
「む!」
「4体!?」
「南も確認します!」
……。
あー、感じる、いるぞ、こっちにも。
1、2、3……4、うわ。
「4体です」
「そうか、分かった」
「これは間違いない、各部隊がここへ来る道中を狙っているのだ」
「リオンよ、4体は同じ方向か」
「え、大体は、ちょ、ちょっと確認します」
……。
ん? ちょっと離れているか、2体と2体。
東も確認しよう。
お、こっちもだ、よく探ると2体は北側に寄っているな。
「それぞれ2体ずつ離れています。ここからだと遠いため少しに感じますが、向こうでは数kmではないかと」
「分かった、ありがとう」
「トランサイトの配備は北部討伐2本、防衛3本、西部討伐6本、防衛5本だ。西部の戦力なら或いは1体なら仕留める、しかし北部は」
「ああ、セドリックとカミラだけで2体のAランクを凌ぎ切れるか」
これはマズい。
「……死ぬなよ、セディ」
エリオットは東の空を見て呟く。兄としては気が気でないだろう。
セドリックか、特別契約者の集いで会ったきりだな。確かクラウスと同じ35歳、顔は厳ついけどとても話しやすく、俺が騎士団施設について多くを質問しても丁寧に教えてくれた。
「あの、部隊長、応援に行かれては」
「……いや、ここでいる」
「俺は、大丈夫です。シンクライトがありますから」
「私はクラウスに誓った、命を懸けてリオンを守ると」
そうだったね。
「そもそもヤツらはそれぞれの部隊を襲った後、森へ去って行くと思うか」
「いえ」
「必ずここへ来る。その時に立ち向かうトランサイトは1本でも多い方がいい」
「……はい」
これは一斉に来る可能性が高い。厳しいな。
「む、あれは討伐部隊、参加中止ではなかったのか」
ミランダの言葉に街道を見ると1台の馬車がこちらへ向かっている。
「ところでサラマンダーはどうなった、まだ反応はあるか」
「あ、確認します」
村を見る。
……。
あれ? 移動したかな。
……。
やっぱり居ない。
「反応なしです、もしかして」
「倒したな。まあ直ぐ伝令が来る」
「おおっ!」
クラウス、ソフィーナ、みんな、やってくれたんだ!
お、馬車が止まった。直ぐにエリオットが声を掛ける。
「おい、そっちは中止だろ、引き返して任務に当たれ」
「いいえ、私も行動を共にします」
「ベロニカ!」
そこには鬼気迫る表情のベロニカが立っていた。右手には自身が使うトランサイトの弓、そして掲げた左手には、血の付いたトランサイトの槍が握られている。
「これは、ガウェインの槍か」
「はい。防衛部隊長、このトランサイトの槍を防衛部隊ナタリオに渡してください。夫は、ガウェインは、不覚にも……いいえ、あの人に落ち度はありません。ガルグイユと対峙したその背中から、ジルニトラの魔法が貫いたのですから」
「分かった、預かろう」
エリオットは槍を受け取り騎士たちの方へ向かう。
「魔物は人の集まりを襲う。見通しの良い平原に、これだけ集結していれば高ランクを引き寄せるはずだ。ジルニトラはここへ来る。ベロニカ、その時は撃て」
「はい。必ずや仕留めて見せます」
ガウェインは生きているが弔い合戦の様相だ。
「皆の者、聞け!」
エリオットの声に騎士が注目する。いつの間にか集合していたのね。
「北西部討伐部隊はジルニトラとガルグイユの襲撃を受けここには来れない!」
「何だって!」
「Aランク2体だと!」
「応援に行かなければ!」
「部隊長! 場所は何処ですか!」
「皆、出発の準備だ!」
騎士がざわめく。
「静まれ! 魔物は去った! 討伐部隊は治療班が対応している!」
「なんだ、そうか」
「しかし被害は大きいぞ」
「うむ、Aランク2体だからな」
「部隊長! 犠牲者は!」
「7名即死だ」
どよめきが広がる。
「魔物はこの近辺にまだ潜伏している! 遭遇の知らせが入れば我々は直ぐに向かうぞ! 皆、Aランク魔物との戦闘は近い! 陣形の最終確認をしろ!」
「おお、直ぐ始めよう!」
「さっきの続きだ!」
「こっちは対ジルニトラだ!」
「ガルグイユは任せろ!」
騎士たちの表情が引き締まる。
「ナタリオ、来い!」
「はっ!」
「この槍はロンベルク部隊長が使っていたトランサイトだ、持て」
「血が! 部隊長はご無事なのですか!?」
「うむ、重傷だが意識はある」
「ほっ、それは、ひとまず……しかし部隊長ほどのお方が、何故」
「ジルニトラに背後を狙われ魔法が貫通した」
「なんと卑劣な!」
ナタリオの目の鋭さが増す。
「トランサイトの性能は知っているだろう、周りに距離を確保し、草などを狙って感覚を掴め、お前なら直ぐ使いこなせる」
「お任せください」
「その槍でジルニトラを貫いてやれ!」
「はっ!」
そして彼は平原へ駆け出した。
「みんなヤル気に満ちていますね、流石、部隊長」
「これが仕事だ」
「さて現在、反応は11体か、村のサラマンダーは消えたようだが」
「うむ、前回の10倍とすればまだ数が足りない、エリオットはどう思う」
「……Aランクなら5~6体は更に来そうだな、恐らく今の10体は部隊を襲った後に傷の再生を待つ、そして残りの数体と合流して」
「ここへ同時に来るか」
「私が神ならそうする」
うわ、それは厳しい。
「……北東部や南西部の部隊にも応援要請をするか」
「しかしミランダ、今から城へ行って伯爵命令の手続きとなると時間的に間に合うかどうか」
「それでも今の状況では他の部隊が予定通り揃うとは思えない、ディマスはまだ村にいる、事情を説明して城へ向かわせるべきだ」
「うむ、そうするか、では伝令にディマスをここへ呼ぶよう伝える、ついでに村の状況も分かるしな」
エリオットは伝令へ駆け寄り、直ぐに馬は村へ走り出した。こういう時に遠距離の通信手段があればな。魔導具でそういうの出来ないものか。
「近場の保安部隊も呼ぶか」
「いや、相手はAランクだ。討伐部隊でも手こずる魔物に太刀打ちできまい」
「確かに負傷者が増えるだけかもしれんな。リオン、魔物の状況はどうだ」
「あ、はい!」
……。
数は変わらないが動いたか。
「西に2体は変わらず、東に2体、近くの2体は更に北上した模様、南に2体、こちらも別の2体が西へ移動しています。それぞれ方角は……こうです」
俺は反応のする方へ次々と指を示した。
「フッ、包囲する気だな」
「東に2体、北東に2体、西に2体、南西に2体、南に2体か。本来なら北西にサラマンダーを配置するつもりだったろう」
「ではまだ反応のない数体を抜けたところに回すか、まず北西へ2体、そして北に2体と南東に2体を追加、合わせて6体現れると」
「8方位に2体ずつで計16体か。それなら規模としても予測の範囲だ」
サラマンダーを入れても17体か、10倍ならその辺だ。
「全部が一度に来るのでしょうか」
「その可能性は高い。もしこのままどの部隊も来ないとなれば、ウチの部隊だけで対応できるのは4体が限度だ。残り12体をリオンと私とエリオットが対応しきれるか」
「無理です」
「ならば向こうにとって最善策だな」
12体を同時に相手だと。いくらシンクライトでも一振りで倒せるのは1体だ。
「どうしましょう」
「どうしようもない。向こうが別の戦術を選び、それが時間差で襲ってくる形ならやり易いのだが」
「こっちに都合のいいことはしませんよね」
「ただ一斉に来るならば傷を負った魔物の再生を待つはず。その間に策を練るしかない。まあ他の部隊の動向も分からんのだ、西部は倒すかもしれんぞ、村のサラマンダーの様に」
「そうですね」
南の空を見る。まだ2体の反応はあるな。頑張ってくれてるのだろうか。
「む、あれは防衛部隊、ディマスが来たか」
ミランダが街道を走る馬車を見つけて呟く。北東部と南西部の部隊へ要請を出すんだっけ。馬車が俺たちの近くで止まると荷台から数名飛び出してきた。
「おーい、リオン!」
クラウス! そしてソフィーナも!
「サラマンダーはどうなった!」
「もちろん倒したぜ、意外とあっけなかったな、母さん」
「ふふ、そうね」
「流石だな、トランサイト2本でも十分であったか」
「いや7本だ」
「なに!?」
え、どういうこと?
「ロンベルク商会から剣が5本提供された」
商会から? あー、もしや朝作ったやつか!
「使い手はフリッツ、イザベラ、アルベルト、それからマレナとシルヴィアだ」
「ほら西区に昨日入った人よ」
おー、護衛住人か。一緒に戦ったんだね。
「しかし何故ロンベルク商会が、あれは売り物だろう」
「アーレンツ子爵の指示だ。この村を襲ったサラマンダーに後悔をさせてやれ、だとさ」
「フッ、そういうことか」
やるな子爵。
「まだAランク魔物が来るかもしれないからフリッツたち5人は村に残った。もし必要なら呼び寄せるが」
「……いや、それで構わない」
「コーネイン夫人、私に急ぎ用があると聞いたが」
「ディマス殿、こちらへ」
ミランダは追加の伯爵命令を伝える。
「ところで他の部隊は来ていないのか」
「うん、父さん、ちょっと事態が変わって。まだ時間が掛かるかも」
「ほう」
「それにしてもサラマンダーをどうやって倒したの?」
「ああ、野菜がうまく機能した」
「え?」
どうゆうこと?
「西区に来るとの情報を聞いてな、まず住人の弓士と魔導士を城壁の上に集合させた、北区も東区もだぞ」
「ワイバーンの時みたいな感じ?」
「ああ正にそれだ。そしてサラマンダーが現れ、高度を落としたところを矢と魔法で総攻撃、ヤツは飛行能力を失い畑に降りたんだ。母さんの矢が一番効いてたぞ、なんたって鏃がガルグイユの牙だったからな」
「おおっ」
ミランダの手配か。
「そこへ俺を含めたトランサイト剣士6人が止めを刺しに行くんだが、例の熱風があるだろ、目に見えないそれを判別するために野菜を投げつけたんだよ」
「ええ!?」
「飛んでいく野菜が途中で燃えるなりしたらそこが壁だ。その範囲外から伸剣をお見舞いしたのさ」
「凄い!」
何という戦術。
「まあ実際は畑に植わってる野菜である程度は判別できたぞ」
「そっか、無傷の野菜地帯なら大丈夫だね」
「地表近くはな、結果的に空中もほぼ同じだったが。それで振り下ろした6人のうちアルベルトの伸剣がサラマンダーの首を落としたんだ」
「おおっ」
やるなぁ、流石、西区一番の使い手。
「もうみんな英雄だって大騒ぎよ!」
「はは、目の前での討伐だもんね」
「本人は戸惑ってたな、それでアイツ何を思ったか突然走り出して、食堂に上がり太鼓を叩きまくってたな」
「ははははっ」
勝利の太鼓、叩くの好きだって言ってたもんね。自分で叩くのか。
「よく分かったよ、ありがとう」
「ここも地表は草が生えている、サラマンダーが来たら同じ方法で間合いを調節するといい」
「その情報、部隊に伝させてもらう」
そう告げてエリオットは駆け出した。
「さてミランダ、俺たちは何をしたらいい」
「我々と共に行動しろ、指示は随時私が出す」
「分かった」
「ソフィーナ、魔物の矢はあと何本だ」
「ガルグイユが3本、ドラゴンが4本よ」
「そうか」
へー、そんなに持ってたんだ。
「リオン、反応に変化はないか」
「お待ちください」
……。
む、数が減った!
「南部の2体、東部の1体が消えました」
「ほう! やったか」
「おいリオン、お前何言ってるんだ」
「父さん、重要な案件だよ」
「おおっ!」
「まあっ!」
それから簡単に経緯を伝えた。
「なるほど、この時に解放を狙えるのは本当だったか」
「凄いわ、リオン」
「あ、そうだ、ミーナの様子はどうだった?」
「出る前にも確認したが、いくらか落ち着いてはいた。ただずっと感じているようだ」
「そっか、早く倒して楽にしないとね」
ええい、チョロチョロしてないでさっさと来やがれ! でも一度に多くは困る。
「む、あれは北部の伝令か!」
東北東から草原を馬が走って来る。もう道とか関係ない。
「北西部防衛部隊へお伝えします! 北部討伐部隊、及び防衛部隊は魔物の襲撃を受け被害大! 本日の訓練には参加できません!」
「被害状況を申せ セドリックとカミラは?」
「少なくとも騎士15名、冒険者8名の死亡、他重傷者多数、コーネイン討伐副部隊長、及びカミラ様は軽傷です」
「そうか、分かった」
セドリックとカミラは大丈夫そうで良かったけど、騎士冒険者合わせて23名も犠牲になったのか、くっそう……。
「魔物種は?」
「グリフォン、ガルーダ、リンドブルム、クエレブレ、いずれも1体ずつです。ガルーダはカミラ様が魔法で止めを刺し、他3体は多数の傷を負い姿を消しました」
「分かった」
え、あんまり聞いたことない魔物ばかりだ。ドラゴン種じゃないのも来たのか。
「メルキースの城壁へ向かったデルクセンの治療班は、現場に向かうよう別の伝令を使わせています」
「うむ、それでいい。交戦場所はどこだ」
「防衛部隊はガンディア1番線マクレーム城壁から2kmの地点、討伐部隊はソートラン第2中継所付近です」
「ではマクレームから冒険者が向かったのだな」
「はい、70名ほどが応援に駆け付けました」
そっか、マクレームと言えばメルキースでも冒険者が多く暮らす地域。この時間でもそれなりの滞在人数だったようだ。
「こちらは通達事項を把握した、引き続き負傷者の治療に全力で当たれ。ただセドリックとカミラはこちらへ向かうよう伝えろ、現場が落ち着いたらで構わない」
「はっ!」
伝令は去った。
「そうか、集結する前の部隊を魔物は襲っているのだな」
「うむ」
「まあ、なんてこと」
「ほどなく西部の伝令が同じ様な報告に来るだろう」
「北西部のガウェインたちは?」
「……既に襲撃を受け状況も聞いている。ガウェインは重傷だ」
「なに!?」
クラウスはアーレンツ子爵邸でガウェインと面識があるからな。心配だろう。
「ベロニカは彼の槍を持ってここへ合流している、槍はナタリオが持ち訓練中だ」
「……あれか、ちょっとベロニカに聞いてくる、母さんも行こう」
「ええ」
2人はトランサイト班へ向かう。ベロニカはあそこに加わって打ち合わせしてるのね。
ミランダはセドリックとカミラにここへ来るよう指示した。もちろんトランサイトとその使い手を1人でも多く確保するためだ。今のところトランサイト班の7本に加えて、ナタリオの槍、ベロニカの弓、クラウスの剣、ソフィーナの弓、そしてエリオットとミランダの剣で13本か。
セドリックの剣とカミラの杖が来ても15本。んー、厳しい。
あ、そうだ!
「俺のトランサイトを誰かに使ってもらえば! 子供用だけど」
「……リオンはその武器は使って間も無い、トランサイトの方が慣れているため共鳴の負担が少ないだろう、場合によっては持ち替えて運用するのだ」
「いや、この武器だけで問題ありません。俺の魔力操作はそういう次元ではないのですよ」
「!? そ、そうか、これは失礼した」
ミランダは俺のトランサイトを持ち騎士の方へ向かった。
うん、メルキース男爵の屋敷で飛剣もそれなりに練習したからね、あれで大体把握できた。これ1本で最後まで戦うぞ!




