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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
160/321

第160話 ジェイク

 コーネイン商会の工房でクラウスとソフィーナを待つ。ほどなく2人はやって来て作業場に座った。


「待たせたな」

「我々はいつでも行けるが少し休むか」

「ああ」


 クラウスは浮かない表情だ。あまりいい内容じゃなかったのか。


「良ければ聞くぞ」

「そうだな、意見をくれ。まあ端的に言えば金を貸してくれなのだが」


 ああー、やっぱり。


「今日来たのは昔の冒険者仲間のジェイク、29歳だ、姉フレイは既婚者で子供もいる。その夫が知人の借金保証人となっていたが、返済不履行となり催促が来たそうだ。借金総額は5000万ディル。そのうち姉夫婦が1500万、ジェイクが1000万を返したが、残りの融通がつかず困っていると」

「それで頼って来たか、その知人は?」

「行方不明。ジェイク曰く姉の夫は騙されたらしい」

「ふむ」


 保証人か、確かマースカントが俺を鑑定した時にそんな項目があったな。大金を借りる時に必要なんだろう。そんで残り2500万か。


「商会長、5000万も一気に借りれるものなの?」

「返済能力に審査はあるが通れば問題ない」

「そっか、それで父さん、少しずつ返せば何とかなるのでは?」

「一括返済を条件に借りたんだと。何でも知人は商売をやっていて、確実な儲け話があるから大丈夫だって、その経費にどうしても5000万足りないから、だとさ」

「ふーん」


 怪しいな。


「返済が滞れば対価となる物で補わなくてはならない。姉夫婦は冒険者だが武器を手放せば今後稼ぎが無くなる。そもそも大した買取り値にはならん。それなら子供を貰っていくと相手は告げてきたそうだ」

「えー、酷い」

「次に相手が来るのは明後日、それまでに用意しなければ子供が連れていかれると」


 んー、厳しい世界だな。あれでも。


「子供を連れて行ってお金になるの?」

「奴隷商人に売るのだ。もちろん子を守りたいなら親が代わりに奴隷となればいいが、30歳で2500万の買い手は難しいだろう。子供の年はいくつだ?」

「長女が9歳、次女が8歳と言っていたな」

「やはり女児か、容姿によっては高値がつく。ふむ、これは最初から狙っていたかもしれん」

「え! どういうことですか、商会長」

「世の中には性的対象として低年齢層を好む輩がおる。これは奴隷商人と買う客、そして金貸しとその知人が共謀していた可能性もあるな」


 なんと、組織的に動いていたのか。


「なるほど! 最初から5000万も借りてなかったのか。ならばそいつらに2500万と子供が渡るだけになる」

「そういうことだ、クラウス」

「……もしそうでも初めから証明するものは残していないだろうな」

「ねぇ、父さん、出してあげたら? 今の私たちなら直ぐ出せるでしょう」

「ああ、そのつもりではいるんだが」


 ふむ、まあクラウスとソフィーナが許可するならいいか。


「ちょっといいか」

「ああ、エリオット、何でも言ってくれ」

「そのジェイクとか言う者、信用できるのか」

「冒険者時代には共に戦ったんだ、信頼関係が無ければ出来ないことだろう」

「そうだな、ただ2500万という金額、2日という期限、どうも出来過ぎな気がしてな」

「と言うと?」


 ほう、まだ他に可能性があるのか。


「単にそのジェイクが遊ぶ金欲しさに作り話を披露しただけではないか」

「え!?」

「借用書は持って来たか」

「いや、姉の夫が所持している」

「やはりな。これは自身の借金ではないところが要点だ。それも身内である姉の夫。尚且つ夫の過失ではなく、むしろ良心から被害を被ったとしている。その上、このままでは子供が危ないと、こちら側の良心にも訴えかける流れだ」


 おー、そうか。


「そして2500万という金額。平民には大金だが、クラウスにとっては大した額ではない。それに明後日が期限なら今日振り込んでも反映されるのがそのくらいだ。あまり調べる時間がないな」

「……ふむ」

「まあ試しに振り込んでみろ、数カ月したらまた違った話を作ってやってくるぞ」

「ちょっと、エリオット! ジェイクとフレイは大事な仲間だったのよ! いくら想像でも言い過ぎよ!」


 うお、ソフィーナが噛みついた。初めて見るなこんな姿は。


「それは10年も前のことだろう。人は変わる。特に悪い方へは案外簡単にな」

「……それはある話かもしれないけど」

「貴族家となるなら肝に命じておけ、まず疑う、情に訴えるなら尚更だ」

「じゃあ、放っておけって言うの?」

「……メルキース男爵家が責任を持って最速で調査をする。もしジェイクの言う通りなら、2500万をすぐさま立て替えて子供は守る。これでいいか」


 え、どうした急に。


「おいおい、そこまで世話してもらうのは悪いぞ」

「少し言い過ぎた、やらせろ。それでジェイクは何処だ」

「ああ、店内でいるぞ」

「分かった、ちょっと行ってくる。ミランダも来てくれ」

「うむ」


 そして2人は工房を出た。


「ここは任せるか」

「そうね」

「母さん、部隊長にあんな風に言うなんてちょっとビックリ」

「え……うん、ついね。でも彼の言う通りよ。よく考えたらちょっと話がうまかったわ」

「まあ調べれば分かるんだし、それにジェイクの虚言の方が姉夫婦に何も無くていいじゃないか」

「ええ、そっちであることを願うわ。ジェイクには失望だけど」


 確かにね。さー、今2人は問いただしているのかな。


「ところですまんな、リオン。森へ入る時間が遅れてしまった」

「ううん、いいよ。気になって戦いに集中できないでしょ」

「まあな」

「あ、帰って来たわよ」


 エリオットとミランダが工房へ入る。


「私の考察に近かったな。ただ遊ぶ金ではなく、ジェイク自身の借金返済が目的だったが。尤もその借金も500万、残りの2000万は自由に使っただろう、もちろん返す気もない」

「ああ、そうだったか」

「悔しいわね、あんなに信頼し合ってたのに」

「詫びをしたいと店内で待っているがどうする」

「……そうだな、行くか」

「ええ」

「私はリオンといる、行ってこい」


 そして3人は出て行った。


「商会長、対応ありがとうございました」

「何、大したことは無い。ちょっと脅せば直ぐ全部話したぞ」

「え」


 ミランダはニヤリと笑う。おいおい何を言ったんだこの人。


「それにしても奴隷って何だか怖いですね」

「そうか? ああ、お前の記憶にはそうあるんだな」

「え、はい」

「まあ大昔は扱いが酷い時代もあった。今でも違法な商人と買い手に捕まればその様な境遇に置かれるだろう。ただ多くの場合は正しく管理され、言われなければ奴隷とは気づかないほど主従関係が良好な例も少なくないぞ」

「へー」


 契約事としてちゃんとしてるんだ。


「犯罪に手を染める理由のほとんどは金だ。しかし奴隷となることで回避できる。もちろん契約期間内は多くの制限を伴うが、犯罪者となって過酷な環境に身を置くより遥かにいい」

「なるほど、最後の受け皿としての役割もあるんですね」

「その通りだ。優秀な奴隷商会があるところは治安がいいぞ」


 ふーん。ああでも、犯罪組織からしたら奴隷商会って敵だな。捨て駒の確保を邪魔されるんだから。


「貴族家の使用人にも奴隷は珍しくない。ウチにもいるぞ」

「あ、そうなんですか」

「ただそれなりの人材に限る。借金の経緯も含めてな」

「そっか、健全な奴隷商会の育成にも領主がその様に関わっているんですね」

「はは、まあな」


 中々に独特な文化だな。


「待たせたな」


 エリオットたちが帰って来た。


「父さん、どうだった?」

「深く反省はしているようだ。もちろん姉夫婦は子供共々問題なく暮らしているぞ」

「良かった」

「今回俺の元に来たのは、やはり叙爵を聞きつけてだ。貴族家となってしまえば昔の仲間とは言え縁遠くなる、ならば最後にその関係を活かして騙し取ろうと。もし後で気づかれても、あの金額なら追及も無いと踏んだ」


 そんな動機だったか。


「ジェイク自身も過去に似たような話で交際相手に騙されたんだと。あいつも優しいからな、きっとそこに付け込まれたのだろう」

「根はいい人なんだね」

「そうだぞ、だから余計不憫でならない」

「ねぇ、フレイの状況次第だけど、1000万くらいを預けてはどうかしら」

「姉夫婦の方にか」

「そう、それでジェイクの500万の返済を少しずつ世話してもらうの。きっと彼の性格なら黙っているはずよ」


 まあ借金は言い辛いからな。身内に頼らず抱え込んでいる可能性もある。


「一気に渡すとまた借金をするかもしれないでしょ、だからあくまで自分で返済をする補助にするの」

「返す苦労を分からせるんだな。それで滞納しそうになったら助けると」

「500万全部をジェイクが返せたら500万はフレイのもの、残りの500万は手間賃ね。どうかしら」

「俺はそれで構わないが」

「じゃあ決まりね。フレイはしっかりしてるから大丈夫よ。ミリィ悪いけどフレイの所在を調べてもらえるかしら」

「分かった」


 そう告げてミランダは出て行く。あー、もう完全にミランダが家令じゃないか。


「甘いようだが、これが俺たちのやり方だ、エリオット」

「いや、昔の仲間なら丁度いい対応だろう」

「ただこれが最後だ、母さん」

「ええ、分かったわ」


 身内ではない人間にどこまで関わるかは難しいところだね。それも長い間会っていないし。見返りも無いから本当にただの自己満足だな。でもそういう自分の中の区切りは大事だ。


 ララへの施しは今後も商会員として付き合いもあるし、母親のクラリーサに至っては現時点でかなり頼りにしている。いずれ彼女も招待したのが誰か知ることになり、幾らか恩を感じてくれるだろう。そういう打算的な考えがあったワケではないけどね。


「さて、予定より遅れたが行くか」

「はい!」


 俺たちは商会を出て冒険者ギルドで荷車を2つ借りる。近くの騎士が進路入り口まで引っ張ると申し出たので任せた。中央区北側の城壁出入り口から西側へ進み、西区の最北端で右折、そのまま直進して森に入れば進路となる。


「よう、クラウス! 討伐に行くんだったな」

「そうだ」


 あれはボリスか。昨日は丁寧な言葉遣いだったが、外では西区の住人と同じような接し方なのか。彼のいる圃場はノルデン家が世話してたところ、早速手を入れてくれてるんだね。おや、近づいてきたぞ。


「コーネイン部隊長、コーネイン副部隊長、お気をつけて」

「うむ」


 そう言いながら何かチラチラと目線を動かし、彼は畑に戻っていった。おや、家名で2人の名を呼ぶとは、まだコルホル村の文化が伝わってないようだ。


 しばらく歩いて進路に到着、荷車を引いていた騎士2人は中央区へ向け戻る。


「先程の住人、リオンの武器を見ていたな」

「え」

「シンクルニウム合金を訓練討伐に使っているのは伯爵も知っている。ただ北区の進路に入るならトランサイトだろう、何か違和感を覚えたかもな」

「マズいですね」

「フッ、構わん。成る様になる」


 あらら、そうなの。


「まあ森に入れば分からん、好きな様に運用しろ」

「はい」


 流石に中まで見には来ないだろう。


「俺が荷車を引いて母さんと後ろからついて行くよ」

「そうか、では頼む。私とエリオットが前を行き、後ろにリオンがついて来い。魔物対応はその都度指示する」

「分かりました。あ、そうだ、これはまた特別編成1班ですか」

「そうなるな」

「では、1班、出発!」

「おう!」


 俺の掛け声にエリオットとクラウスが反応してくれた。


 進路を進む。200mほど行くと前の2人が歩みを止めた。


「ガルウルフ3体だな、リオンは右奥の1体を頼む」

「はい」


 俺の担当は60mほど先か。木の隙間からその姿が見えた。残りの2体はエリオットが向かうようだ。よーし、シンクライトの初運用、頑張るぞ!


 まずは共鳴。


 キュイイイィィィーーーン


 100%、これで魔素飛剣の長さは5m50cm、剣を振れば生成されるが振り抜いた延長上に障害物があると途切れるんだったな。きれいな三日月型を作るには横に薙ぎ払うように振らないと。どうせ放つなら最大効果範囲だ。


 そんで射程は共鳴率×100m、100%ならまんま100mだ。後は飛んでいく速度、切っ先の時速+切っ先の時速×共鳴率×2だから、共鳴100%で切っ先が時速150kmなら3倍で時速450kmだ。間合いによっては避けられる速度じゃない。


 共鳴を維持したまま進路を外れて森の中へ。背の高い草が所々生えていて地面が見えないが、探知スキルで手に取るように分かる。ほんと便利なスキルだ。


 ヤツまでの距離は40mか、丁度こっちに気づいたな。よーし、向かってくるところに飛剣を喰らわせてやる。


「やあっ!」


 ブンッ! パン、スパパン、ガササッ、ガガッ!


 ……。


 パキパキパキ、ドーン


 飛剣はガルウルフの体を横に真っ二つにした。

 やったぜ、シンクライトの初討伐だ!


 ただ……前方の背の高い草が広範囲に刈り取られ、周辺の木には大きな傷が残った。その原因は間違いなく飛剣だが、一気に通り抜けて音も重なったため、大型の魔物が急接近したのかと思って焦ったじゃないか。


「少し、座るか」

「はい!」


 進路へ腰を下して討伐地点を眺める。


 飛剣を放った時の魔物との距離は30mってところ。その間に倒木や岩などの大きな障害物は無い。地表は草で覆われているが、なだらかで見通しは良かった。


 ガルウルフは体長2m、体高1mくらい。従って体を水平に切り離すには地表より80cmくらいの高さへ飛剣を飛ばせばいい。大人が腰を落として足を踏ん張れば、丁度そのくらいの高さが最も力を出せるだろう。


 しかし俺は子供。30m先の80cmの高さを狙うなら少し上に角度をつける必要がある。どうも直感で最適な角度を導き出したようだが、もっと距離が離れていたら同じ精度を出せるだろうか。


「飛剣5mは大きすぎるんじゃないか」

「そうだね、父さん」


 確かに。目標の幅は正面に立てば1m程度。時速450kmなら30mまで0.24秒で届く。ただ実際は剣を振る時間もあるから、今だ! と思ってから飛剣が到達するまでは1秒ほどだろう。む、その間に目標が水平方向へ動く可能性もあるな。多めに見積もって2m範囲か。


 ならば1m+左右2mずつで、やはり5mあれば絶対に逃しはしない。ただ魔物はこちらに向かっているのだから、その距離で横移動は考えにくいな。まさか透明の刃が飛んで来るとは思いもよらないだろう。


 んー、3mにするか、なら共鳴50%となる。飛ぶ速度は同じ振りの速さなら時速300km、射程は50mだ。うん、森の中で戦うにはこれで十分だな。それに今は進路に俺たちだけ入っているが、万一、100m先に誰かいたら大変だ。


「じゃあ共鳴50%で飛剣3m、射程も50mにするよ。森で見通せる限界の距離もそれくらいだし」

「それがいい」

「50%なら基本値447だな、トランサイトの80%と同等だからAランクでも切り裂けるぞ」

「なら十分ですね、商会長」

「しかし100%は少々やり過ぎたな、奥で木が2本ほど倒れたようだ」

「やはりマズかったでしょうか」


 うん、気になってた。明らかに不要な自然破壊だもん。


「いや、魔物を倒すのが最優先なら周辺環境の破壊は致し方ない。火だけに気をつければな。ただ、ガルウルフ1体にあれは過剰だ」

「すみません」

「はは、これは訓練だ。実際にどうなるかを試す機会だからな。よく分かっただろう」

「はい」

「リオンよ、魔物は魔素で出来ている、だから魔素由来の武器で切り裂くことが可能だ。しかし自然物である木は魔素ではない。まあ実際には魔素を含んでいるが、元の成り立ちは魔物とは全く違う」


 え、そういう理屈だったのか。じゃあ魔素由来じゃない武器、つまり天然の鉱物武器では魔物を切り裂けないのだろうか。


「木はとても硬い。普通の武器で切り立てても表面が傷つくだけだ。ああ、スキルの伴った斧は別だがな。それで剣でも小枝なら切ることは出来るし草も刈れる。ただ木を切り倒すなぞ、相当の切断が無いとできないのだぞ」

「そうなんですか」

「私は剣で木を切るところを初めて見た。これが100%のシンクライト、切断638の力か」

「うむ、ミランダ、私も目を疑ったぞ。その上、剣身ではなく斬撃波なのだから、いやはや恐れ入った」


 む、明らかに強すぎる印象だな。


「リオン、基本値638とはトランサイトなら共鳴150%ほどだ。今更ではあるが、シンクライトはあらゆる数値でトランサイトを上回る。同じ様な運用をする必要はないぞ」

「確かにそうでした」

「私も少し感覚が麻痺していたようだ。事前によく相談するべきだったな、すまない」

「あ、いえ」


 そうだな、共鳴とか100%が直ぐできちゃうから、その環境に慣れてしまった。よく考えたらどんな影響があるか未知の領域だよ。もっと慎重に扱わないとな。


「えと、やってみて分かることもありますよ」

「はは、そうだな。今日は色々と試すがいい」

「はい!」


 進路を進む。やっぱり木が倒れたところが気になったんで横目に確認する。どうも飛剣を発射した地点から50~60mあたりの木が倒れたようだ。その後ろは草もそのままだった。


「商会長、飛剣は減衰があるんですよね」

「うむ、Eランクの魔物なら3~4体貫通するらしいが、流石に木を切ったところで消滅したようだな」


 ミランダも気になってたんだね。


「あの、確認なんですが、今日ここへ入っているのは俺たちだけですか」

「もちろんだ。ただ今日に限ったことではなく、討伐に入る時は基本的に1組と決まっている。それは流れた矢や魔法が近隣の者に飛んできて危険だからだ」

「あー」

「従って、飛剣を放つことに人的被害を考慮する必要はない。ああ、我々の位置はしっかり確認してくれ、何しろ見えないから避けようがない」

「ああ、それは考えてます」


 なるほどね。あー、だから冒険者が奥地に入る時もパーティ毎に散らすようにしてるんだ。広範囲を面でカバーすると同時に、そういった危険性も回避する意図があったのね。


「上空、キラーホーク! 2体ね」


 ソフィーナが後ろから声を上げた。


「リオンとソフィーナでやってみろ」

「はい!」

「分かったわ」


 おお、飛行系か! これはシンクライトの真価が発揮できるかも。


「リオン、進路に私と残って下りてくるところを狙うわよ」

「うん、母さん」


 それを聞いてクラウスたちは進路横の木の陰に身を寄せる。


「1体が後ろに旋回したわ、そっちは私がやるから上のをお願い」

「任せて!」


 俺の真上から急降下するキラーホーク、共鳴50%、射程50mだから逆算して放つぞ。


 今だ!


 ブンッ! スパアアアァァン! どてっ!


「うわわ」


 ドサッ


「はっ!」


 シュバ! ドスン


「終わったな、休むか」


 ミランダの声に木陰に腰を下ろした。


「はは、危なかったな」

「うん」


 俺は真上から降下するキラーホーク目掛けて飛剣を放った。真上に素振りする最適な方法が分からなかったので、咄嗟に思い付いた振り上げ軌道を試みたのだ。結果、真上に飛剣が飛んでいき魔物を真っ二つにしたので良かったが、問題はその後だ。


 剣を背中側に思い切って振り切ったものだから、勢い余って尻もちをついた。そして直ぐ空を見上げると切り裂かれた魔物が落ちてくるのが見え、俺はあわてて地面を蹴って直撃を免れたというワケだ。


 ちなみにもう1体はソフィーナが頭を射抜いて1撃で倒していた。流石だね。


「一旦、腰をかなり低くして剣を後ろに構え、前に振り下ろす方が良かったね」

「ああ、そうだな、今のやり方じゃ腰を痛めるぞ」

「うん、色々危なかった」


 真上ってのがやりにくいんだよ。また同じ軌道で来たら素直に着地を狙おう。


 いやしかし、凄いな魔素飛剣は。間違いなく強力な飛び道具だ。あ、よく考えたら空に向けて放つなら100%でも良かったね。なーんも無いから。あー、でも100m先の目標か、ちょっと厳しいかも。


 いやいや、飛行中のサラマンダーを落とすのが目標なんだ。遠距離でも精度を高める訓練をしないと。よし、次に飛行系が来たら挑戦してみよう。

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[気になる点] 「先程の住人、リオンの武器を見ていたな」「え」「シンクルニウム合金を訓練討伐に使っているのは伯爵も知っている。ただ北区の進路に入るならトランサイトだろう、何か違和感を覚えたかもな」「マ…
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