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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
157/323

第157話 新たな住人

 コーネイン商会2階の商会長室で俺の知識について話をする。メンバーはエリオット、ミランダ、クラウス、ソフィーナ、フリッツ、神の封印を知っている面々だ。地球の記憶を元にした年齢にそぐわない知識は、英雄の記憶とすることで納得してもらった。


 さあ、次は大人の思考についてだ。


「リオン、聞きたいのだが」

「はい、商会長」

「封印されている力に記憶が含まれると何故分かった」

「不思議な声に聞きました」

「ああ、それか」


 これはあんまり詳しく言わなくていいな。転生枠とかの話だし。


「でなければ8歳の子供がそれだと気づきません」

「確かに」

「とは言え、その不思議な声の伝えることを8歳の子供が理解するのは難しく、またよく分からないことを短時間で一気に詰め込まれたら、その多くは忘れてしまうでしょう。それでも覚えていることがあれば、近しい者に直ぐ話すかもしれません。さっきこんなお話聞いたよ、と」

「!?」

「あ!」


 クラウスは何か納得した表情に。ソフィーナは少し顔をこわばらせた。


「つまり俺は、その突飛な内容を理解し覚え、且つ、人に話してはいけないと判断できたのです。この思考はまるで大人ですね」

「ふむ、では英雄の記憶がその部分にまで影響したと」

「そう考えていいでしょう」

「おい、リオン、じゃあお前はリオンじゃないのか?」

「いいえ父さん、俺はリオンです、人格は変わっていません。何というか、子供の心は持っています。その上に多くの知識や考え方が加わっただけなのです」


 こんな表現でしか言えないが、どうか。


「考え方が加わったのなら、それ含めて心の内ではないのか」

「……どういうことかしら」

「えっと、物事に対する選択肢が増えた感じかな。それが普通なら時間をかけて少しずつ身につくものが、一気に沢山備わったんだよ。それをどう使うか考えているのは俺自身であり、前のままのリオン。だから基本的に変わっていない、母さんも心配しないで」

「そう、ちょっと分からないけどリオンがそう言うならいいわ」


 むむ、伝わってない模様。ええい、ならば。


「俺は英雄の記憶に支配されていない。乗っ取られたワケではないんだ。俺はリオンだよ」

「おお、そうか!」

「それならいいのよ」


 やっぱり、そこが気になったんだよね。


 でも本当のところは何とも言えない。確かにリオンの記憶はあるし、人に会えば前の感覚に戻る。しかし普段は41歳の大人なんだ。ただ魂は一つなんて言っても意味不明だろうし、実際、俺もよく分からん。


「まあいい、ひとまずリオンの子供らしからぬ物言いの根源は大体分かった」

「すみません、説明がうまくいかなくて」

「そりゃ仕方ないさ、リオンのことはリオンしか分からないからな。ただ今はその記憶がいい方向に影響している様だし問題ないだろう」

「そうね、頭がいいのは歓迎だわ」


 まあこんなもんでいいか。さて話を進めよう。


「それで記憶なんですが、スキルと同じように解放していくのです。その手段も少し分かりました」

「ほう」

「俺はカルカリアという地名を初めて聞いた時、妙な感覚に陥りました。その名を元々知っていたのではないか、いや、もっと身近な印象、ひょっとして住んでいたのかとも」

「む、ではその地で英雄となった者、その記憶が影響したのか」

「そう考えるのが妥当でしょう」


 これも本題の1つだ。


「あー、そういや聞いてたな、カルカリアに行ったことがあるのかって」

「私も思い出したわ、リオンの誕生日のことよね」

「うん。それで不思議な声が言うには、その場所に行けば更に記憶が解放される可能性があると」

「ほほう」

「もしその英雄が何かの発明者なら、それに関することを思い出すかもしれません」

「おお!」


 よし、辿り着いたぞ。これでカルカリアへ行く理由が出来た。


「リオンは行って試してみたいか」

「うん、父さん。だから今日話す必要があった、目的もないのに行けないからね。商会長も協力してくれますか」

「もちろんだ」


 ふー、後は情報共有範囲か。


「今話したことは封印されし力に関係あります。従って話すのはメルキース男爵のみに止めてください」

「分かった」

「無論だ」

「今回の内容は、過去の英雄の記憶と思わしき知識が沢山あること、ただし断片的でぼやけているため具体的な年代場所人物までは分からない、ただ開放することで鮮明になる可能性もある、その方法は例えばカルカリアの様に何かあると感じた場所に行くことです」


 宇宙の声は国内にあと3個所あると言っていたな。まあそれは追々。


「後は俺が大人の思考であることと、その理由です」

「ふむ、極めて重要な内容であった。そうか、魔導具を持って来させたのは記憶の開放に繋げるためだな。構造を見れば発明者の思考に結びつく」

「えーっと、そうですね」


 言われてみれば結果的にそうなるな。


「それからこれから会う人には言動を気をつけようと思います。ウィルム侯爵との面会でそれを確信しました」

「ああそうだな、変に勘繰られる要素は無くした方がいい」

「既に俺の印象が付いてしまった方には仕方ないですが」

「それはフリッツの指導でいいだろう」

「ああ、ワシは構わん。まあリオンもそう気張るな。多少言葉遣いが出来ていても、その様な子は割といる。ましてや貴族家となるのだ、集中的に教育されていても何ら不思議ではないぞ」

「そうですね」


 確かに、じゃあ丁寧な言葉遣いくらいはいいかな。


 ゴーーーーーン


 夕方の鐘だ。


「いい時間だな。エリオット、ずっと黙っていたが何か言うことは無いか」

「今はいい」

「では解散としよう。明日は8時に商会へ来てくれ、リオン、クラウス、ソフィーナ、そしてフリッツもだ」

「分かった」


 店内へ下りるとクラリーサとエマがいた。


「じゃあ西区へ帰るかい」

「うん、リーサ」


 中央区の城壁を抜け西区へ続く道を歩く。


「今日、新たに2軒の住人が増えたよ。12番と13番だ」

「ほう、どんな家族構成だ」

「12番は3世代だね、子供は3人いる。13番は1階と2階に夫婦で入った。それぞれ親と子供は町で暮らしている。でその13番の4人がノルデン家とブラード家の畑を引き継ぐってさ。食事後に挨拶に来るそうだよ」

「分かった、情報ありがとうリーサ」


 へー、2夫婦が同居か。


「私ら西区保安部隊は彼らの素性を知っている。まあ他の住人も何となく分かっている様だけどね」

「とにかく畑の管理と魔物対応をしっかりやってくれればいいさ」

「昼食後に鐘が鳴ったが、問題なく動いてたらしいよ」

「そうか」


 ふーん、その辺はしっかり訓練されているんだろうね。


 西区へ戻り夕食をとる。確かに見慣れない住人が10名ほどいるな。あれがそうか。


「よう、クラウス、出先での成果はあったか」

「よく言うよメル、ただただ疲れただけだ」

「はは、そうか、まあ今日はゆっくり休め」

「ところで何人か西区へ入ったらしいが」

「おおそうだ、ウチの隣りとその隣りだな、連携はまだ時間が掛かるとして戦力的には十分だった。明日は残りの3軒も入ると聞いたぞ」

「ほう」


 空いてから入るまで2~3日とは早いね。


「それで今日の風呂はウチが先に行く」

「ん、ああそうか、分かった」


 食事が終わりに差し掛かると何人か近づいて来る。


「クラウス様、お食事中失礼します。我々は本日より入居した者です。このあと少しお話を構いませんか」

「ああ、いいぞ。メシはもう終わる、声を掛けるからその辺で待っててくれ」

「承知しました」


 早速来たね。20代後半から30代半ばの男女4人だ。


「リーサ、ウチで話すから一緒に来てくれ」

「あいよ」


 トレーを下げて先程の4人と家に向かう。居間に入るとクラリーサが結界を施し、ノルデン家3人の横にクラリーサ、向かいのソファに4人が座った。ああ、これがあるからブラード家が先に風呂なんだね。


「では名乗りを。私はボリス・デューリング、35歳。元騎士で保安部隊と防衛部隊に所属していました。このほどゼイルディク伯爵の命を受け、ノルデン家とブラード家をお守りするため西区へ参った次第です。どうぞ宜しく」


 元騎士か、確かにキリッとして正義感が強そう。それで伯爵からの使いとハッキリ言うのね。まあ俺たちに隠す必要は無いか。


「私はボリスの妻アマンダ、35歳です。元騎士であり、保安部隊に所属していました。子は3名、長男17歳と長女16歳は騎士、次女15歳は冒険者養成所へ通っています。私は農業に興味があったため、この西区に来られたことを嬉しく思います。宜しくお願いします」


 こちらも元騎士、しっかりしてそうだな。それで子供が3人いるのか。ふーん、戦闘系スキルに恵まれた家系なんだね。ただ農業がしたいとは、もしかして今回の件は向こうで希望者を募ったのだろうか。


「次は俺だな。名前はダン・ハウジンガ、30歳、保安部隊に所属していた。故に魔物対応の経験はやや少ないが、住人との連携含めて慣れて行こうと思う。もちろん本職の対人は自信があり、いつでも駆け付ける準備をしている、是非頼ってもらいたい」


 ほほー、自分で言うか。印象としては熱い男だな。


「私はダンの妻マレナ、28歳よ。夫と同じ保安部隊の経験と、ここ数年は討伐部隊で最前線にいたから魔物対応にも自信があるの。子供は長女12歳、次女11歳、長男10歳の3人、みんな町の学校へ行っているわ。よろしくね」


 魔物に自信ありか、まー、森の奥地を生き抜いたのだからね。それでこちらも子供3人。計算すると16歳で第1子か、若い母親だな。ただどうもこの世界では16歳から大人扱いみたいだから珍しくないのかも。それに騎士なら早い内から出産して魔力を上げる狙いもあったのだろう。


「ではこっちだな、俺はクラウス・ノルデン35歳、隣りは妻のソフィーナ30歳、そっちは長男リオン8歳だ。こちらのことは伯爵から聞いているだろう。以後、宜しく頼む」

「よろしくね」

「よろしく!」


 もう今日は4回目の名乗りだ。相手は貴族家でもないしこれでいいね。


「それでウチの畑を世話してくれると聞いたが」

「はい、この4人でお隣りのブラード家含めて引き継ぎます」

「では明日、圃場にて植えた作物の説明をしよう、朝から一緒に城壁の外へ来てくれ」

「承知しました」


 まあ途中までは育てたんだ、気になるよね。


「ここでの暮らしは俺たちの護衛を兼ねているそうだが、具体的にどういった任務になるか」

「我々は西区の住人と同じように動きます。従って日中はお側に付くことはできません。ですから今の時間から翌朝までを主体としてお守りします」

「夜中もか、お前たちの寝る時間はどうするんだ」

「4人のうち必ず1人以上起きており、何か異変を察知した場合には他の者を起こして駆け付けます。夜警騎士とも連携しておりますので、有事の際には我々に協力を求めるよう打ち合わせております」

「そうか」


 ふーん、夜がメインなのね。


「もちろん日中も不審な者はいないか目を光らせております。我々の役目は夜警騎士、及び西区保安部隊も把握しており、今日入った12番、13番、そして明日入居する11番、1番、6番の家の者についても同様です」

「なるほど分かった。ところでいつまでこの任務を続けるんだ」

「クラウス様のお屋敷が完成し移住するまでです。その後は伯爵の指示に従います」

「ふむ、そうか」


 そのまま住人になるか、或いは騎士に戻るのかな。


「伯爵には毎日報告をするのか」

「はい」

「内容は?」

「異常が無ければその旨をお伝えします」

「それだけか」

「はい」


 ほう、ちょっと突っ込んだ質問だが、答えはそうなるね。


「分かった。ではくれぐれも西区の住人と仲良くしてくれ。そして魔物対応は全力で頼む」

「はっ!」


 4人は一斉に胸に手を当て声を出した。


「おいおい、クセなんだろうが皆の前では控えてくれよ」

「承知しました。何分、染みついているもので」

「じゃあ私は中央区へ帰るよ」

「ああ、リーサ、ありがとう」

「我々も失礼します」


 そして皆、去って行った。


「ふー、何とも、どう接していいのか分からんな」

「最初はあれでいいと思うわよ」

「そうだな、時間が経てばまた変わって来る。とは言え、あまり仲良くなって何でも話すわけにはいかんぞ」

「そうね」

「リオンも気をつけろ」

「うん」


 伯爵が仕向けた監視役だもんね。結界の無い場では発言に気をつけないと。いやまあ、普段からそうしているけどさ。


「でも思ったよりは普通そうだね」

「は? お前どんな想像してたんだ」

「だって伯爵が選りすぐって短期間で農業とか身につけたんでしょ、特殊部隊みたいな怖い人たちかと思った」

「なんだそれは。ん、いやまあ、実際そんな人も紛れているかもな、素性も自分で言っているだけだし。ただ疑ってもキリがないし、知ったところで意味はない」

「そうだね」


 出会ったら挨拶したり、最低限の付き合いだけでいいか。


「いやしかし、今日は長かった」

「はは、お疲れ様」

「城でのことが随分前に思えるよ。と言うのも、さっき商会で聞いたリオンの話がビックリしたからな」

「……隠しててゴメンね」

「いいのよ、そんなこと言い辛いでしょう」

「まあでも色々とスッキリした、よく話してくれたよ」

「うん」


 でもここまでだな。俺と同じくらいの子供がいた家庭の記憶もあるなんて、それは流石に引いてしまう。


「こんばんは!」

「お、ベラの声だ」


 クラウスは玄関に行き扉を開ける。ブラード家が風呂から出たようだね。俺たちは直ぐ支度をして風呂へ向かった。


 浴場の洗い場にはボリスとダンの姿も見える。おお、引き締まった体だね。


「ほう、騎士だったのかい、どうしてまたこんな村へ」

「妻が農業をやりたいと言うんでな、子供たちも自立したし、なら残りの人生をのんびり過ごすのもいいかと」

「ほー、まあ騎士なら十分貯えがあるだろうし、好きなことやるのもいいか」

「おいボリス、ここはのんびり出来ないぞ、魔物が来るからな」

「昼間の動きは悪くないが、もっと安全に且つ効率をよくする余地はある」

「是非、教えてください」

「おう、任せろ」


 ふふ、積極的に住人と絡んでいるようだ。


「クラウス、城はどうだった」

「疲れただけさ。でもエリーゼとミーナは楽しんでたぞ、アル」

「いやー俺には無理だ、面倒過ぎる」

「ははは、だろうな」


 アルベルトは貴族家の血が流れていると知っているのだろうか。


 風呂を上がって居間に座る。


「おじゃまするよ」

「おや、義父さんどうした」

「どうしたもこうしたも、城で侯爵に会ったのだろ、どうだった?」


 カスペルが待ち構えたように居間に入って来る。


「父さんごめんなさい、みんなもう疲れているの、明日にして」

「おお、そうだの、これは悪かった、じゃあ帰るの」


 カスペルは去った。


「少しくらい構わないが」

「ダメよ、調子に乗って長話になるから」


 ソフィーナは厳しい。でも実際、早く寝たいのが本音だ。


「ほら、リオンも眠そうじゃない」

「そうだな、じゃあ寝るか」


 ベッドに入り照明を消しお休みの挨拶を交わした。


 いやー、今日は濃い1日だったぜ。とは言え、記憶が戻ってからのこの1カ月、毎日の様に色々とあるから今更だが。ただ相手のいることで、それが高位貴族家で初対面となるとまた違ったエネルギーを消費する。


 さて、ここまでで一旦区切りかな。もっと上ならプルメルエント公爵が一番近いところだが、それでもかなりの距離がある。流石にこっちへ来ることは無いよね。では近くまで呼び出されるかな。


 いずれにしろ間を空けてもらわないとしんどい。出掛ける予定があるし、仕事もあるし、何より魔物の脅威もある。もう話が来ても断ろう。


 しかし商会長室での説明は意外と言葉を選んだな。やはり両親であるクラウスとソフィーナは我が子の心がどうなっているのか気になるもんね。乗っ取られたワケではない、あの言葉で安心したようで良かったけど。


 ただまあ実際は乗っ取ってる状態に近いだろう。ソフィーナは頭がいいのは歓迎と言ってくれたけど、本心はどう思っているか。やっぱ子供らしい言動がかわいいもんね。少しずつ成長していく時を共に過ごすのが家族ってもんだ。


 そういうのを奪ってしまったのは間違いないなー。でももう仕方がない。代わりに色々と頑張っていい思いをしてもらおう。


 しかし本当にカルカリアに行けば記憶が解放されるのだろうか。そもそもカルカリアと言っても広い。何処に行けばいいんだろう。あ、そうか、何か偉人の記録でも残っているところでいいか。その辺はミランダに調べてもらおう。


 む、よく考えたら、記憶の開放って、つまりは現状の俺か。子供のリオンに大人の地球人の記憶がよみがえった状態。むむむ、これってもしかして、その英雄なりの人生が一気に入って来る可能性もある。


 大丈夫かな。それこそ乗っ取られるんじゃ。ああでも魂は1つ、じゃあリオンであり、地球人であり、英雄かな。うーん、分からん。あー、でも多分、乗っ取られるほどに影響を受けたことすら気づかないんじゃないか。だってそれが自分と思うから。


 ただ周りの反応が変わって来るだろうな。うーむ、これはそういった懸念を事前に伝えておく必要もありそうだ。ただソフィーナなんかは、リオンがおかしくなるなら止めてと言うかも。あー、どうしよう。


 まあまたその時考えるか。寝よう。

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