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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
152/321

第152話 侯爵家の子供たち

 侯爵家との面会が終わった、この後も昼食を共にするようだ。円卓の広間から出た俺とクラウスは別室へ案内される。ここで食事時間まで待機か。


「ふー、何とか乗り切ったぞ」

「はは、お疲れ様」


 大きく息を吐きながらソファに身を沈めるクラウス。よく頑張った。


「でも思ったほどじゃなかったね」

「そうだな」


 伯爵と打ち合わせまでした割には、そこまで突っ込んだことは聞かれなかった。もちろんその方がいいんだけど。確かに将来の話はあったけど想定内ではある。


 コンコン。誰か来た。


「どうぞ」

「失礼する」

「あ、エナンデル子爵!」

「お二人とも素晴らしい対応だった」


 ゼイルディク伯爵第1夫人長男だ。一緒に入って来た女性がテーブルの上で手を広げる。音漏れ防止結界だね。彼女が出て扉を閉めると子爵は話し出す。


「昼食までまだ少し時間がある。お休みのところ悪いが、忘れないうちに先程の面会について意見交換をしておこうと思ってな」

「構いません、お気遣いなく」

「うむ、まず侯爵がウィルムにそなたたちの領地を設けて移住を目論む話だが、現実的ではないため心配には及ばない」

「そうですか、良かった」


 だよねぇ、流石に無理がある。


「実際、手続きとしては可能だが、特例の様な扱いなのだ。例えば領主が重大な不祥事を起こし爵位剥奪となるだとか、巨額の赤字を計上し立て直しも出来ず領主を降ろされるだとか、その様な緊急の事態にひとまず指揮を執るため他方より実力者を呼ぶ、或いは統治だけ任せるのだ」

「ゼイルディクでもありましたよね、40年前」

「うむ、当時は復興までを担ってもらったが、やむを得ない領主変更としては同じ様なものだ」


 そうだよね、理由もなく領主を変えることなんて出来ないもん。


「従って、何の落ち度もない領主を降ろすことはできない。ではどうするか、でっち上げて罪を作るのだ」

「え! それは酷い」

「侯爵の暗殺を企てたでも何でもいい。まあそなたらに任せることを前提とすれば、該当の領主を大きな詐欺に引っかけて巨額の負債を負わせる。つまり財政を悪化させるのだ。もちろん、その詐欺師は侯爵が仕向けるだろう」


 うわ、むちゃくちゃだな。


「そして近隣で財政に圧倒的な余裕があるのはそなたらだ。立て直しに適任だな」

「……何とも、はや」

「もちろん、そんなことは最終手段だ、策略が漏れるリスクも伴う。それでもやろうと思えば出来る、しかし、あまりに不自然で周辺も疑うだろう。プルメルエント公爵もその1人。そして公爵なら作られた流れだと容易く見抜く。そしてそこまでしてノルデン家をウィルムへ連れてくる理由に疑問を抱くだろう」


 あー、そうか!


「リオン殿は分かったな」

「俺がトランサイトを生産してる事実を公爵は知らない。ただ経済力が大きいだけの男爵にウィルム侯爵がそこまでするのは怪しい。何かある、と」

「うむ、公爵が本気で調査すれば職人であることに行き着く。そうなったらノルデン家の獲得にどんな手を使ってくるか分からないからな」


 なるほどね、それで侯爵は手段はあれども実行できないんだ。あ、これ、俺の鑑定結果を知っている侯爵としては余計に歯がゆいだろうな。


「よく分かりました、子爵。では何故、ダンメルス伯爵はあのような事を言ったのでしょう」

「……プルメルエント公爵が出てきてもやり合う覚悟はある、絶対にリオンを諦めないぞ、という意思表示か」

「えー、それは怖いですね」

「とにかくサンデベール公爵になりたいのだ。その為に使えるものは何でも使う。まあ現状でも順当にいけばその方向は確実なのだが、侯爵側はやや焦っている様に見受けられた」


 ふーん、なんだ、このままいけば公爵にはなれるのね。


「ところでリオン殿、面会時の演技は中々だったぞ。8歳相当の子供として十分相手を油断させる。誰かの助言か」

「え、えーと……」

「まあいい。それとあの共鳴、誠に見事であった」

「ありがとうございます」


 まあ最初の俺の名乗りを聞いてからの先程の物言いは違和感あるよね。


「子爵、聞きたいのだが、あの地図を絡めた説明はどんな意図でしょう」

「クラウス殿、それは私にもよく分からない。恐らく自分たちは全体を見て考えていると誇示したかったのだろう、国の東の端まで知っているぞと。ただあの程度は伯爵なら知識としてあるのが普通だ」

「ふむ、そうですか」

「将来はそれも大事だが、今は足元を固めることに注力するといい」

「分かりました」


 いっぱい知ってるんだぞアピールか。確かに知らないこと教えられるとこの人凄いと思うかも。ただクラウスには若干空回りだったな。海だの、侵略だの、大きい話は想像し辛い。まあ俺は地図が手に入って嬉しいけど。


 コンコン。


「昼食だな、共に参ろう」


 エナンデル子爵が扉を開けてその後に続く。この人、色々と詳しいし頭も良さそうだ。流石、次期伯爵だね。俺がゼイルディク伯爵の意向に従っているうちは味方となってくれるだろう。


 昼食会場に到着。俺が座るテーブルは向かいにディアナ、そして他女子2人、男子2人か。


 む、みんなグラスを持って同じ方向を見ている。ウィルム侯爵だ。


「まずはこの場を取り計らったハーゼンバイン卿に礼を申す。卿はトランサイトの販売において目を見張る働きであり、今やゼイルディクは国内で最も注目されている。これを機にサンデベールは1つとなり、確固たる地位を築くのだ。諸兄諸姉の協調に期待する」


 皆、無言でグラスを少し上げて一口飲む。伯爵上げからの、ワシはサンデベール公爵を狙ってるからお前らそのつもりで動け宣言か。


「では名乗るとしよう」


 ディアナの隣りの男子が声を上げる。


「私はエルナンド・ヴァンシュラン、オラシオン学園中等部3年で12歳だ。父はウィルム侯爵の孫、ザイースト子爵である。ゼイルディクに訪れるのは初めてだが、そこそこ街は賑やかだな。このエーデルグルク城も悪くない雰囲気だ。まあウィルムの宮殿には遠く及ばないが。ディアナ嬢、リオン殿、将来のために親睦を深めようではないか」


 うわ! 嫌なヤツだ! 絶対に仲良くなれない。もう物心ついた時から将来の侯爵として周りが持ち上げているんだろうな。大人でもへこへこするから怖いものなしだ。そんなのがディアナの隣りにいるなんて恐ろしい。


 エルナンドは右手側を見る、つまり俺の左側の女子だ。


「私はエビータ・ヴァンシュラン、オラシオン学園中等部2年ですわ、エルナンドは1つ上の兄様なのよ。それにしても昨日今日と馬車に長い時間乗って疲れたわ。こんな辺境にお住まいではさぞご不便でしょう。ウィルムは何でもありますのよ、お二人共、早く移住なさい」


 ひえー! 何不自由なく育ったお嬢様がここにいる。しかも隣りに。一体、何を話せばいいのだ。エビータは俺に微笑むとディアナ左手側の男子を見る。


「俺はフリオ・ヴァンシュラン、オラシオン学園中等部1年で10歳になる。父様はザイースト子爵だ。本当は士官学校にいけるくらいスキルもあるし魔力操作もできる。ディアナ嬢は魔物が襲ってくる村出身と聞いた。討伐を見たことがあるなら是非その話をしようか」


 ほう、もしかして戦えるのか。10歳ならジェラールくらいの実力かもしれない。


「次はキミだよ」

「あ、はい!」


 フリオが優しい微笑みと共にディアナを見る。何だかゾワゾワしたぞ。


「わたっ、私は、ディアナ・ノルデン、ラウリーン中等学校1年、10歳です。えっと、リオンの姉です。侯爵家ご令息ご令嬢とお食事の席をご一緒できること、大変嬉しく思います。これから始まる楽しい時間を心待ちにしております」


 いや、その両隣りで楽しいワケないだろ。何とか間に入りたいけどどうするか。


「次は私」


 俺の右側の女子が声を上げる。


「オリビア・ヴァンシュラン、8歳、オラシオン学園初等部2年。お腹すいたわー」


 え、それだけ! 何だ、この気だるい態度は。む、俺を見て顎を小さく動かす、あー、そうか、早く名乗りをしろと、じゃないと食べれないんだね。


「俺はリオン・ノルデン、8歳、町の城壁から15km先の魔物が毎日襲ってくる村から来ました。周りが森ばかりなのでお家がいっぱいある町にびっくりです。お城も凄ーい」


 こんなもんでいいだろ、どうせ田舎者と馬鹿にしてるだろうし。大都会ウィルムの自慢話で時間を費やす作戦だぜ。


 それにしても見事な布陣だな。俺の両側にご令嬢、ディアナの両側にご令息。そのド直球な姿勢はむしろ清々しいぞ。


 ふと右手を見るとオリビアが前菜を平らげていた。早っ!


「空腹だったんですね」

「そうよ」


 あれ、この子は無口なのかな。


「ねぇ、リオン、お互いの呼び方は名前だけにいたしましょう」

「そうはいきません、エビータ様」

「あら、私の言うことが聞けないの」

「……分かりました、エビータ」

「ふふ、私をそう呼べるのは家族だけなのよ」

「そ、そうですか」

「オリビアもいいわね」

「いいよ」


 むむ、思惑にハマった気がするがまあいいや。この場だけだし。


「へー、ディアナは冒険者コースなのか、じゃあ魔物とも戦えるね」

「いいえ、フリオ様、訓練だけです」

「おいおい、フリオと呼べと言っただろ」

「はい……フリオ」

「いいね、家族みたいだ」


 向こうも同じ流れらしい。これもう間違いなく侯爵に言われてきているな。


「フリオは魔物と戦ったことあるんですか」

「ないない、危ないからって止められるんだ。そんなのは騎士や冒険者に任せればいいってね」

「お体が大事ですからね」

「そんなの治療班がいれば心配ないのに。それでディアナは魔物討伐は見たことあるのか」

「ええ、少しは。西区に城壁があるのでその上からですけど」

「ふーん、それでどんなだった?」

「ええと……」


 ディアナが説明を始める。見張り台にいた時にたまたま目撃した襲来だろう。


「リオンは特別契約者で訓練討伐に行っているのよね」

「え、はい、よく知ってますね」

「もちろんよ、リオンのことなら何でも分かるわ」


 エビータは侯爵から聞いたのだろう。むー、どの辺まで伝えているのかな。


「おい、今、訓練討伐と言ったか」

「はい、フリオ様、いや、フリオ」

「では魔物と戦っているんだな」

「はい、Fランクですけど、それもパーティで協力して戦います」

「協力? そうかしら、リオンはヘルラビットを1撃で倒せるのよね」

「え、えーっと、そういう時もあります」

「お前凄いな!」


 むむ、何でエビータはそんなこと知ってるんだ。まるで見てきたかの様。あ! も、もしかして、1番進路の不審者案件、本当に侯爵の斥候が絡んでいたのか。


 エビータは余裕の笑みを浮かべる。まあいいか。特別契約者であることは周知されているんだし、そのくらいの戦闘能力があることは誰でも想像出来る。


 侯爵も今となっては鑑定情報を知っているんだし。俺の価値を不用意に漏らして公爵に目をつけられたら困るのは侯爵だ。エビータはどこまで知っているか分からんが、その取り扱い方は十分理解しているだろう。


「リオンはこの食事、どうお思いかしら?」

「それはとても美味しいです」

「……ふーん、これで満足なのね。ウィルムにはもっと美味しい店が沢山あるわ。近いうちにいらっしゃい、私が案内してあげるから」

「はい、機会があれば」

「はぁ? 私がお誘いしているのよ、明日にでも行くと答えて当然でしょう」

「え、ええと」


 もう、面倒だなー。


「俺も予定がありまして」

「私の誘いより大事な予定があるはずないでしょ、いいわね、明日よ」


 まいったなぁ、エビータはトランサイト生産を知らないようだし。


「ウィルム侯爵閣下に聞いてください、エビータの誘いより大事なことを知っています」

「え、ひいお爺様が? 私の言うことは何でも聞くのよ、そんなもの覆して見せるわ」


 そう告げて席を立つ。今行くのか。


 ウィルム侯爵のテーブルはあそこか、夫妻で座っているな。他にはゼイルディク伯爵夫妻とエナンデル子爵夫妻で計6人か。しかしあのメンバーでどんな会話をしているんだろう。


 その近くのテーブルはダンメルス伯爵夫妻、アーレンツ子爵夫妻、メルキース男爵夫妻の6人か。あそこも会話の内容が想像できない。


 こっちはザイースト子爵夫妻、グスタフ、ルイーゼ、クラウス、ソフィーナの6人だね。ほー、年代が近いところを集めているのか。今日来ている子供たちの親ばかりだね。これは共通の話題があるかも。


 あ、エビータが帰って来た。


「……ダメだったわ、私の言うことなのにどうして」


 ショックを受けている模様。まあフォローせず放置でいいか。


 あっちのテーブルはトリスタン、カサンドラ、エリオット、ミランダか、あれ、小さい子供もチラチラ見えるぞ、あれはアレスタントとセルベリアか。まー、6歳と4歳だからね、親と一緒に食べているのか。


 こっちはパーシヴァル、アデルベルト、ライニール、クラウディア、他男子2人と女子1人だな。女子は多分レイリアだ。となると男子2人も伯爵家の子供か。おー、いいメンバーじゃん。アデルベルトもレイリアと近づくチャンスだ、頑張れ。


 それで向こうはバイエンス男爵、それと騎士っぽい男女が5人か。見たことない顔だな。む、エリオットが加わったぞ、その騎士たちと話をしている。知り合いなのかな。あ、離れた、ちょっと聞いてみよう。


「部隊長!」

「どうした、リオン」

「あの騎士たちはどこの部隊ですか」

「本日付で北西部防衛部隊とメルキース保安部隊に配属される騎士だ。クラウスの実家関連と聞いているが」

「あー!」


 おー、そうなのか、もうこの場にいたなんて。


「名前はウォレン、カチュア、アグロヴァル、ウェンデル、シャロンだ。皆いい顔をしている。ときにどうだ、楽しく話はできているか」

「ええ、まあ」


 あ! しまった、ディアナを放置していた。見ると小さくなってちまちま食べている。あれはかなり萎縮しているぞ。マズイな、ひとまず近くに行くか。俺は席を立つ。


「ねーちゃん」

「ひゃっ! リオン、びっくりするじゃない」

「これ美味しいね」

「そ、そうね、言われて今、味が分かったわ」

「あの、フリオ! 俺、ねーちゃんの隣りがいい、席を代わってくれるかな」

「は? ああ、まあ構わないが」


 そう言ってフリオは席を立つと、使用人に皿などの移動を指示した。もう、強行策だ、侯爵の思惑なんか知るか。これ以上ディアナに辛い思いをさせたくない。


「やれやれ、多少強いと言ってもまだ子供か。1人で食事くらいできないようでは貴族としてやっていけないぞ」

「まだ平民です。勉強中ですので」


 エルナンドめ、お前がちゃんとディアナの緊張をほぐさないからだぞ。


「平民なぞ理由になるか。ディアナと話してもつまらんし。全く、ひいお爺様の言いつけだから我慢していたが、こんな場は早く終わって欲しいものだ」

「!?」

「えっ!」


 こやつ、言いたい放題だな。


「……」

「む、なんだその目はディアナ、私に敵意を向けるなぞ、命が惜しくないのか」

「あ、す、すみません。その様なつもりでは」

「これだから平民は困る。貴族令嬢になるなら感情の制御くらいやってみせろ」

「はい、努力します」

「努力ではいかん、結果を出せ。おい、試しに笑ってみろ」

「……(ニコッ」

「まあ、いいだろう。楽しく食事はしないとな」


 お前のせいで楽しくないんだよ。ああ、いかん、これではエルナンドのペースだ。落ち着け、俺。しかし子供を装っていると大したことは言えん。まあディアナさえ気が休まればそれでいいか。


「ところでリオン、先程、ひいお爺様と一緒だったようだが何を話していた?」

「大人の話です」

「!? はっはっは! 子供扱いされたから直ぐそうやって返す。それが子供だと言うのだ」


 正直に言うワケ無いだろう。何のために別室に行ったんだ。


「まあいい、しかし何故ノルデン家をこれほど特別扱いするのだ。たまたまトランサイトの製法を発見して叙爵するだけなのに。多少の財力も侯爵家に比べれば大した事はない。おい、何か心当たりはないか」

「ありません」

「ふむ、何か隠しているな。しかしディアナを妻に迎えるなら知る権利はある。申せ」

「え! あの、私、結婚なんて考えていません」

「ああ、婚約だ、同じことだろう」


 何なんだコイツは。完璧に仕上がっているじゃないか。


「婚約もしません、勝手に決められるのは困ります」

「そなたが困ろうが関係ない、上位貴族の言うことは絶対だぞ」

「失礼ですが、エルナンドは貴族ですか」

「何を言っているリオン、私は侯爵家だ。それも第1夫人直系の長男、将来の侯爵だぞ、この状況でそれが分からんとは、つくづく平民と言うのは……」


 やれやれ。


「貴族は貴族院に出席できる権利がある方だと聞きました。エルナンドは該当するのですね」

「……いや、私にその権利はない」

「では貴族ではないですね」

「確かにそうだが、貴族家の一員だ。世の中、貴族の家族も同等の扱いをしていることすら知らんのか、平民はこれだから困る」

「上位貴族に確認してきますね」

「はっ?」


 もう直接言ってもらうしかない。俺は侯爵のテーブルに向かう。


「閣下!」

「む、リオン殿か、どうした」

「エルナンドがディアナと婚約すると言うのです。そんな大事な話、一方的に決められても困ります。拒否しても閣下のご意向だと聞かないのです」

「……分かった、行こう。皆、少し席を外す」


 ウィルム侯爵と共にテーブルへ戻る。


「ああ、ひいお爺様、是非ともこの無知な平民に説明をしてください」

「無知はお前だ、物事には筋道というものがある。ディアナ嬢、一族の者が大変失礼をした、代わって詫びる」

「あの、いえ」

「フェリクス! 来い!」

「はっ!」


 侯爵が声を上げるとザイースト子爵が駆け寄って来る。


「ここの使用人に別にテーブルを用意させ、エルナンドと共に食事の続きをしろ」

「承知しました、エルナンド、立て」

「え、お父様、何故」

「言うことを聞け!」

「は、はい!」


 そしてザイースト子爵とエルナンドは俺たちのテーブルから離れて行った。


「いかがなさいました、閣下」

「ハーゼンバイン卿、大したことではない。ただ場を乱してすまなかった、戻ろうか」

「はい」


 侯爵と伯爵は自分たちのテーブルに向かう。


 うひー、ちょっと注意してもらうつもりだったのに思わぬ展開だ。


「兄様は思い込みが激しい時があるの、それも真面目過ぎる故、どうか許して差し上げて」

「それはもう、ちょっとビックリしたけど」

「きっとディアナが魅力的だから、早くに将来を約束したかったのよ」

「そんな……」


 エビータ、必死のフォロー。まあ形としてはつまみ出された様なものだからね。あんなに遠くに行っちゃったし。エビータも侯爵のあの振る舞いを見て、事の大きさを直感したらしい。


 侯爵がエルナンドの父親を呼ぶ声に一瞬静まり返った周りも、時間が経つと元の雰囲気に戻った。これはいい話のネタに出くわしたと思われただろうか。俺も後から色々と聞かれそう。


 あー、この感じ、ライニールがエリオットに連れていかれた場面に似ている。あの時はこっそりだけど。今頃フェリクスはエルナンドに事の経緯を聞いて説教しているのだろうか。あんな性格に育てた責任もあるからね。


 それにしても侯爵は大変だ。一族の者、と言っていたな。侯爵家の名を使って不本意な言動をしたら、その尻拭いをしなきゃならんのだからね。ま、これはこれでいい勉強になったとするか。ノルデン家も気をつけないと。

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