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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
147/321

第147話 使徒への誘い

 使徒? それは何ですか?


(この世界において必要なことを私に代わって実行する者だ)


 それになったら危険な情報を事前に教えてくれるんですか。


(もちろんだ。使徒を失うことは私の損失だからな、それを回避するための情報は提供する)


 使徒になったら具体的にどんなことをするんですか?


(それを知ってどうする)


 いや、あんまり無茶なことをやれと言われても辛いので。


(命令内容に使徒が意見したり拒否することは出来ない。私に代わって動くのだからな。目標を殺害しろと言えばその通り動いてもらう)


 え! 誰かを殺したりするんですか!


(当面は任務遂行に必要な能力を身につけるため、神の封印の開放に全力を尽くしてもらう。最短で効率の良い方法でだ。もちろん伸ばす訓練も並行する。キミは将来、素晴らしい使徒となるだろう)


 ……。


(使徒となる契約を交わせば、いかなる事情があろうとも解除はできない。キミがこの世界で寿命を迎えるまでは私の命令に従ってもらう)


 あの、それは流石に出来ません。


(死にたくないから危険な情報を事前に知りたい。でも誰かの指示には従いたくない。随分と身勝手だな)


 え、そ、それは。


(さて、先のミーナの件についてだが、彼女は神の操る魔物の動きを、極めて僅かではあるが感じ取ることが出来る)


 あ! やっぱり、そうなんですね。


(その能力の根源は、神の意思に似た波長の様なものを彼女が有しているからだ。ただそれは神が操る上で都合がいい。キミを思う心、神の意思を感じ取りやすい体質、礼拝堂の祈り、これらが合わさりあの様な言動に及んだ。キミたちの推理は概ね合っている)


 へー、神の意思を感じ取れるのか、凄いなミーナは。だからって刺客にするのは絶対に許せない。あの、今後は大丈夫なんですか。


(礼拝堂に行かなければ問題ない)


 ならよかった。


(さて、そろそろ時間だな、聞きたいことはあるか)


 それは沢山あります。でも、そうですね、あなたは一体何者なんですか、何が目的で俺に色々と教えてくれるんですか。その、使徒でもないのに。


(それを知ってどうする)


 どうもしませんが、気になるじゃないですか。


(キミの転生に関わった者であり、情報提供する理由は言えない)


 そうですか、分かりました。あと、神は、創造神クレアシオンですか、俺に接触してくると言ってましたが全くその様子はありません。ただ話して分かる相手とも思えないですが。


(そのことについてはすまない。神もあそこまで頑なに拒否するとは思わなかった。今後も対話する気は無く、キミを殺すことだけに注力するだろう)


 それは仕方ありませんね。そうだ、魔物と刺客の他に俺を危険にさらす手段はありますか、例えば雷を落とすなど。


(今のところ魔物と刺客だけだ。元より神は自然を操ることなど出来ない)


 あら、神なのに、意外と制限が多いのですね。


(あくまで管理するのが仕事だからな。全て思い通りに動かせたらそれを管理とは言わない)


 確かに。


(では時間だ)


 あの、あなたと次会える時はいつですか。


(それは教えられない、私がその時決めるからな。では戻すぞ)


 ……。


 あれ? 地面が迫って来ない。



 ◇  ◇  ◇



「リオン、そろそろ時間だぞ、母さんも」

「……え、あ、うん」

「あら、私も寝ちゃったみたいね」


 そう言ってソファに横になったソフィーナがほほ笑む。


「リオン、お疲れなのね」

「あ、ねーちゃん!」


 隣りにはディアナが座っていた。


「あら、ディアナも居たのね」

「2人の寝顔をずっと見てたわよ」

「まあ、ふふふ」


 ちゃんと目が覚めるのをソファに座りながら待つ。


 しかし久々の宇宙の声だった。前は洗礼を受けた日だから1カ月近く前か。今回話せた時間は短くはあるが、その内容はやはり驚くことが多い。特に数日以内に神の魔物の襲来があること、まあ10日空くならそろそろとは思ったが、問題はその規模だ。


 前回より10倍の魔物。つまりガルグイユ10体とドラゴン10体、もしくはCランク以下もいくらか混ざった状態。更には数を絞る代わりにSランクの魔物を使う可能性があると。恐らくはその操る力を任意に割り振るんだね。


 それより魔物を操る力は回復してないと聞いたが、十分操っているじゃないか。まあ本来はこんなものではないらしいから、それに比べてっぽいけど。ただ、そういった感覚の相違があるなら、宇宙の声が言うことでも鵜呑みにはできないか。


 そう、俺たち人間とは全く違う存在。沢山の知識があり、転生に関する大きな権力を持つ。神に対してガチャなんて提案するほど上の立場だ。その気になれば俺たちの記憶を操作できるとも。


 そして使徒か。情報を提供する代わりに思い通りに動いてもらうと。そりゃ、身の安全に関する情報なんて大事だ。それをタダで欲しいとは思わないけど、死ぬまで命令に従うってのは極端すぎる。


 でも今は対価を払うことなく教えてくれてるんだよな。それも神の動向だぜ? 普通の人間なんか絶対に知ることのできないとんでもない情報だ。一体何が狙いなんだろう、そりゃ助かるけど。だからって後から何か言ってこないかな。


 まあ宇宙の声の正体について今はいい。それより魔物だ。ひとまずSランクが来るかもしれないこの重要な情報をミランダたちに伝えて備えてもらわないと。いやまてよ、本当に来るのかな。でも来たら大変だ、むしろ空振りになるならその方がいい。


「夕食の準備が整いました」


 使用人が告げに来た。俺たちは広間へ向かう。


 円卓が4つ。1つはメルキース男爵、男爵夫人、それから見たことのない50代前半男性、40代半ば女性の4人。隣りのテーブルはエリオット、ミランダ、アデルベルト、ライニール、クラウディアの5人。俺が案内されたテーブルは、クラウス、ソフィーナ、ディアナの4人。その隣りのテーブルは家令リカルド、フリッツ、他40代男性1名、40代女性2名だ。


「父さん、男爵の近くにいる人は誰?」

「キッケルト建設商会の商会長と夫人だってさ、それからフリッツの周りはみんな家令だそうだ」

「ふーん」


 他にもお客さんが来てたのね。それにしても家令が同等の扱いを受けているのに驚いた。フリッツがお客さんだから今日は特別なのかな。男爵が食前の挨拶をすると前菜が運ばれてくる。こういうコース料理も最近は食べる機会が増えていくらか慣れた。


「ねーちゃん、学校の様子はどう?」

「常に護衛が何人も付いてくるから調子狂うわ」

「はは、そういやマリーはまだ特訓してくるの?」

「ううん、距離を取るようになったわ、やたら謝ってたわね」

「あらー、でも特訓に付き合うの面倒だったし良かったんじゃない」

「そうね」


 マルガレータも忙しいな。俺の実力を知ってからはディアナを導くとか言って、今度は貴族令嬢になると知ったら失礼を詫びる。


「後は商会の子がやたら絡んでくるようになったわ。テレサやエステルの話だとシャルルロワ学園に入れなかった二流三流の家だから相手にしなくていいそうだけど」

「だからって無下にしてはダメよ」

「分かってるわ母さん、最低限、失礼のないようにでしょ」

「ええ、将来、関わる可能性もあるから」


 そっか、何か頼みごとをするかもしれないから顔と名前は覚えておいて損はない。おー、なるほど、ソフィーナが学校に拘る理由はこういうところだね。


「じゃあちょっと学校では過ごし辛いね」

「そうでもないわ、友達もいるし。貴族令嬢になることを知った直後はよそよそしかったけど、直ぐに以前に戻してもらったから」

「みんなビックリしたね」

「そりゃそうよ、トランサイトだもん。普通の貴族とは格が違うとか何とか、勝手に盛り上がってたわ」

「ははは」

「ねぇ父さん、そんなに稼げるものなの?」

「うーん、そうだな。もう俺の口座に280億くらいあるぞ」

「は!?」


 ディアナは大きく口を開けたまま固まりフォークを床に落とす。直ぐに使用人が新しいのに取り替えた。今の動き、めちゃくちゃ速かったな。


「……想像できない桁だわ、どうなってるの」

「ディアナ、これはまだ数本の利益だぞ。加えて近いうちに100本以上の売上が見込めるからな」

「え!? 100本?」

「まあ領主だからな、それだけ大きな財力がないと勤まらないんだよ。お前はそんな貴族家の一人娘となる、立場が分かったか」

「うん……確かに関係を持とうとするのは当然よね、ハァ」


 ディアナは疲れた表情で呟く。


「欲しい物があったら何でも言え、今思いつかなくても必要な時に断りなく買えばいい、支払いは俺宛てでな」

「えー……」

「とは言え、手続きが面倒だな、ディアナ専属の会計担当をつけるようにするよ。そうだ、護衛に兼務させるか」


 どうしたクラウス、随分と意識が変わったな。まああんだけ収入があるのにケチケチしても仕方が無いけど。それにディアナなら本当に必要かの判断も出来るだろうし心配ないか。


「忘れないうちにミランダに伝えてくるよ」


 そう告げてクラウスは席を立つ。その旨を聞いたミランダはフリッツたちの席に移動し、30代の女性と言葉を交わす。しばらくしてこっちにやって来た。


「ディアナ、取り急ぎメルキース男爵家の家令を1人つけることにする。普段は学校の事務室に待機、出掛ける時には同行させるからな、決済は全てその者に任せろ」

「は、はい、ありがとうございます、コーネイン夫人」

「ミランダでいいぞ」

「はい、ミランダ様」


 流石、対応が早いね。


「さて、そろそろ食事も終わるな、この後は別室に移動し懇親会だ。クラウスはキッケルト建設商会と屋敷について話すといい。ディアナとリオンはウチの子供たちと同じテーブルだ」


 またそういうのがあるのね、そうだ、例の件を先に伝えておこう。


「商会長」

「なんだ」


 手招きして顔を近づけてもらう。


(極めて重要な話があります)

(なに!? 分かった)


 ミランダはエリオットの元に行き今の件を伝えたようだ。


 それからデザートも食べ終えて広間を出る支度をする。男爵の懇親会の案内に皆次々と席を立った。


「リオンは私と来い」

「ねーちゃん、後から行くよ」

「うん、分かった」

「どうした?」

「直ぐに合流する、クラウスたちは先に行け」

「そうか」


 ミランダと廊下に出て少し歩き部屋に入る。シンプルな家具で8畳ほどの広さ、使用人の待機室かな。


「音漏れ防止結界は施してある。他にも呼ぶか」

「皆さん建設商会の人とお話し中ですよね。この場はひとまず要点だけを」

「そうか、まあ後で皆集まればいいな。では話してくれ」


 向こうはせっかくの場だからね。


「実は夕食前に例の不思議な声をまた聞きました」

「たしか神よりも上の存在だったな」

「はい。それでその声が言うには、数日以内に神が操る魔物が再び俺を襲ってくると」

「む、そうか。ただ今日がガルグイユ討伐から5日目だ。10日ほど空くのなら数日以内は想定内だぞ」

「問題はその規模です。前回の10倍と聞きました」

「何!?」


 ミランダは眉間にしわを寄せて痛みを堪えるような表情。


「つまりガルグイユ10体とドラゴン10体、もしくは同等のCランク以下大多数、或いは数を少なくする代わりにSランクの可能性もあると」

「Sランク……だと」

「ゼイルディクを1体で壊滅させる力があるそうです、あの、商会長」

「ああ、すまん」


 彼女は壁に顔を向けて目線が泳いでいた。


「Sランクって初めて聞きました、そんなに強いのですか」

「歴史上でもほとんど記録が残っていない。何故なら出現した地域は誰一人生き残らないからだ」

「え!?」

「半分、御伽噺の様な存在だ。実在したかも定かではない。もちろん倒した記録もないため魔物の名前も分からないぞ」

「そうなんですか」


 謎に包まれているってワケね。


「ただトランサイトは通じるとのことです、倒せない相手ではないと」

「……ほう、ならばやりようはあるか」

「もちろんSランクではなく、Aランク十数体かもしれません」

「そうだな、うむ、分かった。懇親会を早めに切り上げてクラウスたちと情報共有し対策を話すとしよう。おお、そうだ、ディアナにも個別に話があった、それが先だ」

「え、何でしょうか」

「お前のトランサイト生産を伝えるのだ」

「あっ」


 そうか、遂に告げるのね。


「明日、侯爵家との面会でその話も出るだろう。ディアナも同席するなら知っておく必要がある」

「確かにそうですね」

「よしでは皆の元へ行こう」


 懇親会の席へ合流する。俺は子供たちのテーブルに加わった。メンバーはアデルベルト、ライニール、クラウディア、そしてディアナだ。


「来たね、まずは父上の叙爵おめでとう、いやはや、驚いたよ」

「隠していて申し訳ありません、アデルベルト様」

「リオン、私のことはアデルでいい、丁寧な言葉遣いもいらないぞ、ライニールも含めてな」

「そうだぞ、俺はニールと呼べ」

「……分かった、アデル、ニール」

「ここでは気を使うことは無いぞ、屋敷が出来るまでは我が家と思って寛ぐといい」


 こりゃ親子ぐるみで家族の様な関係に持って行く作戦か。まあでも同年代の貴族家男性で気軽に話せる相手が出来るのはありがたい。子供目線でも貴族としての振る舞いを知っておきたいからね。


「明日はゼイルディク伯爵家、そしてウィルム侯爵家の第1夫人直系の方々が揃う。その様な席に同行できるのは光栄でもあり緊張もするな」

「アデルは慣れているんじゃないの」

「そんなことはない! 伯爵家ご令息でも滅多に会うことは無いんだぞ。それに聞けば明日会う同年代では私が最年長ではないか、発言に気を使うぞ」

「ふーん」


 そりゃ長く生きてるからね。それなりの見識を持っていると見られて当然だわな。


「具体的にどういう面々なの?」

「子供だけで言えば、ウィルム侯爵からひ孫に当たる4名、長男エルナンド様12歳、長女エビータ様11歳、次男フリオ様10歳、次女オリビア様8歳だ。皆様オラシオン貴族学園へお通いだ」

「へー、よく知ってるね」

「当然だ。それからゼイルディク伯爵家は、こちらも伯爵からひ孫に当たる3名、長女レイリア様10歳、長男ロディオス様8歳、次男オルヴァー様7歳だ。いずれもシャルルロワ貴族学園にお通いだぞ」


 もうガッチガチの貴族家令息令嬢なんだろうな。


「ビクトリアやエステルはレイリア様ともお話することがあるそうよ」

「そうらしいな、ディアナ。でもエステルは明日行かない。アーレンツ子爵家もパーシヴァルとアレスタント、そしてセルベリアだけだ」

「こちらも長男夫婦と子供だけなのね」

「うむ」


 パーシヴァルは8歳、アレスタントは6歳だったな、ガウェインが槍の練習をしてる時に少しだけ話した。セルベリアはカトリーナと同じ雰囲気だった、まあ4歳だからね。ならば親のトリスタンとカサンドラも行くのか。もちろん子爵夫妻も。


 これはかなりの面子が集結するな。


「アデル、キミは侯爵家長男のエルナンドと同じ12歳じゃないか。話は合いそうだけど」

「無理を言うなリオン。侯爵家と男爵家だぞ、家格が違い過ぎて話にならん」

「じゃあ俺も男爵家、いやまだ平民だ。何も言えないね」

「そんなことはない! リオンは対等に話せるぞ」

「そうかな」

「頼んだぞリオン」

「え、そんな、ニールも話してくれよ」

「俺は無理だ、その場にいるだけで震える」

「えー」


 ダメだこの人たち。逆に貴族社会に慣れているからこそか。


「リオンはきっとエビータ様やオリビア様とずっと一緒じゃないかしら」

「やっぱりそうかな、あ、クラウディアはエルナンド様と話すチャンスじゃないか」

「そ、そうね、何とか顔を覚えてもらうわ」

「頼んだわよ、私はどうしようもないから」

「何言ってるのよ、ディアナこそ囲まれるわよ」

「えー! 困るんだけど、アデル、ニール、何とかしてよ」

「いやまあ、努力はする」

「俺は遠くから見てるよ」


 おいおい、そこは頑張って男を見せろよ。そうだよ、どうせアデルベルトはディアナと仲良くなって将来も考えてるんだろ? 侯爵家だろうが手出しはさせんと間に入ってみせろ。これは明日までに意識を改めてもらわないとディアナが潰れる。


 いやしかし、子供たちだけでも中々の駆け引きが繰り広げられるな。これが醍醐味と言えるほどまだまだ余裕はないが。とは言え、この雰囲気も悪くはない。何だか妙な一体感があって面白いね。なるほど、お互い家の将来を背負っている、その境遇を楽しむのもアリかもしれない。

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