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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
146/321

第146話 魔物の役割

 コルホル街道を町へ向かって馬車で走る。明日の侯爵家との面会に備えて、念のため遅れることが無いように町で泊まるのだ。宿泊先はメルキース男爵家。夕食時にはディアナも合流するとのこと。


 それにしても、ひ孫だったか、侯爵家の子供たちも来ることになって若干気が重い。なにしろ将来の婚約者候補として会わせるのが目的なんだからな。どうして貴族はこうも囲い込みに必死になるのか。


 そりゃ俺は将来の成功が約束されているからね。いやむしろ現状でも十分な成果だ。だから仲良くさせる目論みだろうが、それに付き合わされる子供たちは、たまったモノではないな。


 貴族家に生まれた宿命ならば仕方ない、と言うのは簡単だが、本人たちはどんな思いなんだろう。きっと将来のことを意識した強い指導を受けてくるんだよね。ソフィーナはそれでも親の期待に応えようと頑張っている子たちを見守ってあげてと言う。


 でもそんな上っ面のやり取りで信頼関係なんか築けるだろうか。今日討伐に同行したクラウディアを見て分かった。彼女はミランダに褒められたい、だから言われるがまま俺に付き合っているんだ。役目を全うする姿勢はいいのだろうけど。


「リオン、どうかしたか」

「ううん、父さん、何でもないよ」

「まあ心配するな、侯爵もそんな無茶はしないさ。順を追って進めてくれるよ」

「そうだね」


 婚約に関する爵位の制限を解消するために、力技でクラウスを伯爵にする可能性もあるんだ。そこまでされて婚約を断ったら、何をされるか分からんぞ。


「リオン、子供たちと会うのが不安かしら?」

「ちょっとね」

「大丈夫よ、いつもの様に振るまえば」

「そうだけど母さん、ほら、侯爵家でしょ、気を使うよ」

「何も顔を合わせたら将来の相手になるワケではないぞ」

「はい、商会長」


 まあ、そうなんだけどね。


「選ぶのはお前と言っているだろう。どんなに施しを受けようが関係ない。お前が相応しいと思った相手を選ぶのだ。こう言っちゃなんだが、たかだか侯爵だ。大したことは無い」

「え!?」

「おいおい、言うなあ」

「……今のは他言するな、私の本音ではない。ウチの家なぞ、侯爵家に掛かれば吹けば飛ぶからな。しかし、リオン、お前は全く違う。何度も言っているだろ、次元が違うと。サンデベールごときで収まる将来性ではないんだ。もっと視野を広げて自分の立ち位置を認識しろ、自信を持つんだ」

「はい」


 ミランダは俺がビビってるのを見て気遣ってくれてるんだな。ごめんよ、不安にさせて。よし、ここはひとつ。


「そうだね、俺は誰にも指図されない。唯一無二の力があるんだ。むしろ合わせるのは侯爵の方。どんなに圧力をかけられても屈しない」

「おおっ、よく言った! そうだ、それでいい」

「お前、神経図太いな」

「でも失礼はダメよ」

「うん、それは分かってるよ、母さん」


 このくらい言っておけば安心だろう。正直、俺も考えすぎてた。


「まあ何かあっても後始末はする」

「大丈夫か、ミランダ」

「公爵を巻き込めばどうとでもなる。と言うのもな、私はエリオットの妻、もしくは副部隊長としては言えることが限られる、しかしコーネイン商会長としてなら不思議と自信が溢れてくるのだ。無論、リオンのお陰だがな」

「そうなんですか」

「相手が高位貴族だろうが商売の邪魔はさせないし職人も守る」

「とても頼もしいです」


 それが婚約云々とは関係なさそうだけど、堂々と挑む姿勢は参考になる。


「クラウスも息子を見習ってどっしり構えておけ」

「そ、そうだな」


 まあこういうのは場数。高位貴族でも何度と会えば慣れてくるだろう。はは、何だか魔物みたいだな。


 馬車はメルキースに入り大通りを進む。


「ねぇ、ミランダ、当主の爵位より下は1つまでしか結婚相手を選べないなら、子爵家の妻はみんな貴族家なのね」

「そうだぞ、ソフィーナ」

「じゃあ騎士貴族だったら、丁度いい年齢で強い人がうまく見つからないと大変ね」

「うむ、従ってメールディンク子爵家なぞはウィルムとカルカリアから多く妻を迎えている。北部討伐部隊長である子爵弟の妻は、ウィルム西部で冒険者をしていた男爵家の者だ。他にも北東部討伐副部隊長は子爵長男の妻だが、アレリード子爵家から来ているぞ」


 なるほど、何もゼイルディクだけじゃないんだ。それなら何とかなるね。


「では男爵家が一番融通効きますね、平民の騎士や冒険者から探せますから」

「そうは言っても基本的に貴族家から探すぞ、多少遠方になってもな。貴族と言うのは相手の家格を気にするのだ。私の様な例は少ない方だぞ」

「へー」

「まあ子爵以上でもな、その規則は第1夫人の子たちのみに適用される。第2夫人は2つ下まで、第3夫人は3つ下までの家から選べるぞ」

「あー、そうなんですか」


 えー、じゃあ、ノルデン家が伯爵にならなくても侯爵家と婚約できるのか。


「侯爵ともなると第2、第3夫人はいるだろ」

「もちろんだ。しかしクラウス、仮にお前が子爵となって侯爵第2夫人の子供、いや孫になるか、その令嬢とリオンが結婚したら面倒なことになるのだ」

「ほう」

「明日来る子4人でも侯爵から見ればひ孫だぞ。その間は全て各世代第1夫人嫡男の直系だ。従って侯爵第2夫人以下の者なぞ、最早別の家系に等しい」


 確かに。4世代も前で別れてたら親戚としても付き合いは無くなるね。


「そして、これは仮定の話だが、もし侯爵が亡くなって長男が継承したら、その瞬間から前侯爵第2夫人以降の家系は侯爵家から外れるのだ」

「あー、それはそうだろうな」

「それではノルデン家と身内とは言えないだろう。つまり第1夫人直系でなければ意味が無いのだよ」


 なるほどね。


「とは言え、侯爵が存命の間は第2夫人以降の家系でも身内とはなる。ただそこで大きな影響力を発揮したなら、第1夫人直系の者はいい気はしないだろう。お前はそうではなくても、妻の親が侯爵家で大きな顔をするのが目に見える。そんなもの要らぬ怨恨を産むだけだぞ」

「ありそうだな」


 何だろう、ウィルム騎士団が奥地に行けるのはウチの娘婿のお陰だぞ、とか、トランサイトがもっと欲しいならリオンに頼んでやってもいいぞ、とか、侯爵家の中で勘違いしたマウントを取りに行く感じか。


 もしかしたら普段から第2夫人以降の者たちは、第1夫人直系の者たちから見下されてるかも。そこに俺が加わったら日頃の恨みと言わんばかりに大きく出る可能性はある。


「従って第1夫人直系の子に拘るだろう。故にクラウスが伯爵になるまでリオンと婚約できない流れは同じさ」

「そういうことだな」

「さて、もう直ぐ服屋へ立ち寄る」

「服を合わせるんですか」

「そうだぞ、1着しかないからな」


 俺はあれだけで構わないけど、貴族になる身としてはどこ行くにも同じ服ではダメなんだろう。


 ほどなく馬車は右折し、しばらく走り止まった。窓からはいかにも貴族御用達な店構えが見える。後続の騎士団の馬車から護衛が先に降りた。


「これはコーネイン夫人、そしてノルデンご一家様、お待ちしてました」


 それから3~4着服を合わせた。俺とクラウスは店内に座る。ソフィーナはドレスだろうから着たり脱いだりに時間が掛かるのだ。ミランダも一緒に引っ込んでいる。


「この代金はウチから出すんだよね」

「そうだぞ、もう大抵の出費はウチ持ちだ。払えないものは無いだろう」

「うん」


 払えないものは無い。凄い言葉だ。しかしお金で買えないものって何だ。フッ、愛か。しかしねぇ、余程のクズじゃなければ経済力高い人を選ぶよね。世の中そういうもんさ。いや、若い頃はそうでもないか。色々見えてくるのは年を取ってからだ。


 無事に服合わせが終わり出発。


「明日の朝には出来ている、屋敷の者が取りに行くからな」

「すまない」


 大通りを走る。ここの街並みもいくらか覚えてきたな。飲食店からはカップルが出てくるのが目に入った。いいね、幸せそう。お、そうだ。


「商会長、ララさんの交際相手はどうでした?」

「ああ、アレか。幸いメシュヴィッツから金を取ってはいなかったが、デノールトで見かけた女は浮気相手だった。しかも他にもう1人いた」

「えっ」

「まあクズだな」


 あー、ダメだったか。


「その旨を浄水士ギルドへ通告した。彼は明日付けで異動する」

「村からいなくなっちゃうんですか」

「最奥地の中継所にな。魔物に破壊されないことを祈るよ。はっはっは」

「うひー」


 可哀そうに。でも仕方ないね。


「メシュヴィッツも男を見る目が無いな」

「ブレターニッツはどうだ?」

「うむ、私もお似合いだと思う、彼も好意を抱いている様子だぞ」

「ララの好みじゃないのかしら、ほら、浄水士の彼、顔はよかったじゃない」

「……見た目か。そんなものに惑わされているうちはダメだな」


 とか言いつつ、冒険者時代にパーティだったドグラスは好みじゃないんだよね。まあ、ゴツい外見だったけど。エリオットもどちらかと言うとドグラス寄りの顔立ちな気がする。とは言え、次期男爵だからね、比べるまでもないか。やっぱ顔か金だよなぁ。


 しばらく走り、馬車はメルキース男爵家の敷地内へ入る。騎士団の馬車はここまでのようだ。


「夕食までまだ時間がある、客間で休むといい」


 玄関を入り左手の廊下を進んで扉が開かれる。特別契約者の集いの時に入った部屋だ。大きな窓からは庭が望める。ソファに座ると使用人が紅茶を用意してくれた。


「ふー、ひと息つけるな」

「急だったからね」


 まあ近い方が余裕を持って動けるのは間違いない。村から一気に城へ行くのは乗りっぱなしで疲れるしね。


「ふぁ~あ」

「なんだ眠いのか」

「うん、ちょっと」

「まだ1時間近くある、起こしてやるから寝てもいいぞ」

「そう、じゃあ……」

「ふふ、ここへ頭を乗せなさい」


 ソフィーナが太ももを枕にとの提案だ。それだとちょっと高いのでクッションを敷いて調節した。


「これでいいわね、ゆっくり休みなさい」


 ソフィーナは俺の頭を優しく撫でる。こりゃ直ぐ寝てしまいそうだ。


 ……。



 ◇  ◇  ◇



 おや、辺りが暗い。えー、そんなに寝てしまったのか。夕食はどうなった。


 む、いや、この感じ、もしや!


(目覚めたか)


 おー、宇宙の声だ!


(封印の開放は順調だな)


 あ、はい。ちょっと苦戦しているスキルもありますけど。


(さて、神についてだが)


 そ、そうです! ミーナが襲って来たんですよ! あれって間違いなく神が絡んでますよね、あんなことにミーナを利用するなんて絶対に許せません。


(それに関しては後ほど伝える)


 そっか、段取りがあるんですよね。


(まず魔物についてだ。あれは神が創り出したのだが、その目的は人間を殺すことだ)


 でしょうね、問答無用で襲ってきますし。


(殺す理由はいくつかあるが、人間が増え過ぎた時にその数を減らす役割も担っている)


 ……えっと、殺される立場からすると迷惑なだけなんですが。


(人間の都合など神は考えていない。少なければ増やす、増え過ぎたら減らす、世界を管理するとはそういうことだ)


 え、でも、何の罪もない人が殺されるのって、そんなの、酷いです。


(魔物の存在意義も神の考えも、キミの目線では納得できないだろうが、この世界はそうなっているのだ。ひとまず理解してもらわないと話が進まない)


 ……はい、分かりました。


(それで魔物を使って総人口の調節をするのだが、時に人間側が優勢になり、その調節が機能しなくなる。英雄の存在がそれに該当したが、転生枠を利用することにより解決した)


 ああ、そのハズだったのが俺の誕生で狂ってしまったと。


(従ってキミが動くことによる影響を神は恐れている。とは言え、まだキミの力の多くは封印されたままだ。魔力操作に長けて剣技を使えても、倒せる魔物の数は知れている)


 そうですね、訓練討伐で倒す魔物の数なんか大したことはありません。


(しかしトランサイトはどうだ。キミが動くことは無く、使い手の戦闘力が飛躍的に上がる。それも1本や2本では無いのだ、多くの使い手が広範囲に渡って行使すれば、それは人間側の優勢が長期間続くことになる)


 確かにそうですね……でも、それで助かる人たちもいるんですよ、町だって守れる。いや、それがいけないことなのか。


(ただもうあれだけの数を作ってしまった。そしてこれからも作り続ける)


 そうです、だって、それが俺の収入源なんですから。あなたも言ってましたよね、財産を築けと、だから俺は頑張っているんです。それを否定されると辛い。


(何も否定はしていない。キミは思いのまま動けばいい。ただ神は良しとしないため、こういった状況に対応できる手段を残しておいた。そもそもトランサイトは神が創りだしたのだ。それが出回った時のことも想定してある)


 あ、そうなんですか。え、でもどうするんだろう。


(魔物に新種が出現しているだろう、あれだ)


 へー、あの赤いガルウルフが。なるほど強い武器には強い魔物で対抗ですか。


(そういうことだ。トランサイトが世に出れば出るほど新種も多く発生する)


 では、いずれ新種ばかりになってトランサイトでも厳しくなるんですか。


(いや魔物側の劣勢が続くだろう)


 おー、流石トランサイト! やっぱり強いんだ。


(新種を発生させるにはより多くの魔素が必要だ。従って数を揃えるのに時間が掛かる。それでも神は十分対応できると考えていたが、キミの作り出した数が想定を大きく超えているのだ)


 俺も、薄々感じてました。作り過ぎたなあーって。しかしなるほど、やられっぱなしじゃないんですね。自分は出て来ないで魔物や刺客を仕向けるばっかりで、何というか、こっちから反撃が出来ないんですよ。


 そうか、トランサイトを作れば作るほど神は困るのか。


(加えてシンクライトもある。神は完全に計算が狂ったな)


 よーし、やってやるぞ、どんどん作ってやる。あ、えっと、構わないんですよね。


(好きにすればいい。ちなみにまだその様な鉱物はある)


 え! それは、何ですか。


(さて、強力な武器素材に対抗する手段は新種の魔物だが、それとは別にキミを狙って強力な魔物を仕向けているだろう)


 あ、はい、そうですね……鉱物の件は教えてくれないのか。


(ワイバーン2体、サラマンダー1体と飛行系20体、そしてガルグイユ1体とドラゴン1体、あれは神が魔物を操る力を使って、キミを殺すために使わせた魔物だ)


 やっぱり。でもその操る力はまだ回復してないと言ってましたよね。


(そうだ、まだ回復していない。本来はこんなものではないのだ)


 そういうことですか。現状でも全く操れないワケではないんですね。それでもAランクとかなのに、完全に回復したらどうなるのか恐ろしいです。あの、それはいつ頃になるんですか。


(1年以上はかかるだろう。それも神の環境によって変わって来る)


 1年か……ではそれ以降はとんでもないことになる可能性が。これはトランサイトを多く作ってその時に備えないと。どうせ止めてといっても聞かないんでしょ。


(ただ完全回復は1年以上先だが、それを待たずに操る力を大きく得ることがあり、それがこの数日以内に発生する)


 ええっ! それは困ります! ど、どのくらいの勢力ですか。


(前回の10倍ほどだろう。つまりはAランク10体とBランク10体、もしくはそれと同等のCランク以下も混同した内容か。或いは数を絞ってSランクを仕向ける可能性もある)


 Sランク! もっと上がいるんですか!


(1体でゼイルディクを壊滅させる力がある。尤も、そのまま倒せず暴れまわると誰も止められない。必要以上に人口が減ることは神も望みはしないはずだ)


 ……そうですか。どの道、神の考え次第なんですね。あの、もしSランクが来たらトランサイトで倒せるんですか。


(倒せる。多くの犠牲を伴うだろうが)


 まあ通用するなら何とかなるか。


 あの、これってとても重要な情報です。この先もそう言うことがあるならば事前に教えてほしいのですが、あなたと任意に話すにはどうしたらいいんですか。


(キミからは接触できない。その時は私が決めている)


 そこを出来るようにはなりませんか。聞きたい事、沢山あるんです。あなたは私の味方と思ってます。助けになること、それこそ命の危機を教えてくれますし。もっと力になって欲しいのです。


(……ならば私の使徒になるが構わないか)


 え?

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[一言] 面会で「取り込まれたくないので、令嬢を寄越すならトランサイト生産しまぜん」と手遅れになる前に結婚お断り宣言をしたらどういう反応をされるのかな 怒るのだろうか
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