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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
138/321

第138話 トランサイトの利益

 コーネイン商会の工房でトランサイト生産を続ける。その元となるトランサス合金は伯爵が城で預かった各商会の品だ。昼前に42本届いたが、既に剣18本、弓13本が終わった。後は弓2本、槍4本、杖5本だ。


 ギュイイイィィーーーン


「ふー」

「それで弓は終わりか」

「あと1本です」

「では槍と杖合わせてあと10本だな、1時間あれば可能か」

「そうですね」

「ふむ、では夕方までに城へ納品出来るな」


 15時には終わる。そこから運べば夕方の鐘までには着くだろう。


『トランサイト合金』


 よし、ちゃんと出来てるな。昼前の剣は一気にやって疲れたからフリンツァーに確認を任せたけど、このペースなら自分でも確認出来るからね。


 さて、俺が本来の叙爵対象者で将来は独立した領地運営をする。だから単身ウィルム侯爵の元へ行き、働かされることが無いのは分かった。それならあの人物鑑定は何だったのだろう。色々考えちゃったじゃないか。


「商会長、侯爵の使いが俺を鑑定した理由はなんでしょう」

「……さあな。ただ向こうへ最初に伝わっているスキル構成は中々見ないものだ。気にはなっていただろう」

「イグナシオは確認だと言っていたからその通りじゃないか?」

「鑑定士の見間違いを疑うにも、一度更新されているのだぞ。2回も間違うとは考えにくい。まあ、お抱えの鑑定士に任せるのが信頼はできるがな」


 ふーん、まあトランサイト生産をあの場でするなら、その鑑定ついでに出来るしね。しかしあの鑑定士、マースカントとか言ったな。鑑定結果が物凄い情報量だった。


「父さん、鑑定結果なんだけど」

「おおそうだ、リオン、事後ですまないがミランダとフリッツにも見せたぞ。封印の解放具合を共有する必要があるからな」

「うん、それは構わないよ。それで気になったんだけど、俺って冒険者ギルドに登録されてないの?」


 所属ギルドが無しだったもんな。


「ああ、あれはミランダの計らいだ、言ってなかったな」

「そうなんですか、商会長」

「うむ、まず鑑定情報へ所属ギルドを登録する際に、正しく処理されているか人物鑑定での確認作業が伴う。しかしお前の場合は人物鑑定を回避しなければならない。従って登録作業をせず未所属のままなのだ」

「そう言うことですか。でもその状態で問題ないんですか?」

「ギルド側には正しく登録されているから問題ない、口座もあるだろ」


 そっか、確かに口座は機能しているよね。


「本来は直ぐに鑑定情報にも登録を行うのだが、コルホル支所のアレフブレードが登録士の手配を失念していた」

「あらら」


 やっぱりアレフ支所長か!


「ただそれが発覚したのがお前が治癒を覚えた後だ。従って登録時の人物鑑定を避けるために私の指示で止めているのだよ」

「なるほど、そうだったのですね」

「お前の活動範囲なら鑑定情報が未所属でも影響はないぞ。ついでに言うとだな、特別契約者の件、あれも本来は登録士が鑑定情報に書き込むのだ。もちろん確認の人物鑑定を伴ってな。故に登録作業は行っていない。ただ商会側が把握しているので問題はないぞ」

「あー、それもですか」


 なんだ、鑑定情報の所属って、そこまで重要視するものでもないんだな。


「リオンの場合はな厳密に言えば、武器職人ギルド、治療士ギルド、鑑定士ギルドにも、本来は登録し、鑑定情報にも記載するべきなんだぞ」

「うわわ、そんなにあったんですね」

「まあ、鑑定情報の所属なぞ、出先でギルド会員証を持っていない時に提示するくらいしか使い道は無いな。後は自己満足か」

「ありゃりゃ」

「鑑定情報への登録は基本的に義務なのだが、それも結局は登録士の収入源なだけさ。まあせっかく情報を記すところがあるんだから活用したい程度のことだろう」


 あるんだよねー、大して意味のない仕事。


 ギュイイイィィーーーン


「ふー」

「順調だな、あと杖2本で終わりか」

「そうですね」


 さー、これも出来てるかな。


『トランサイト合金

 製作:エールリヒ商会 杖部門』


 うお!? こ、これは!


「商会長! 鑑定情報に進歩がありました!」

「おお、何が見える」

「製作:エールリヒ商会、杖部門、です」

「なるほど、製作者か」

「前進したな、リオン!」

「素晴らしいわ!」

「流石だな」


 うひょー! 嬉しい!


 こ、これは他のも見てみよう。


『トランサイト合金

 製作:カロッサ商会 杖部門』


『トランサイト合金

 製作:スヴァルツ商会 弓部門 ガエル・スヴァルツ』


「あ、銘入りです、ガエル・スヴァルツ」

「ほう前商会長か、今も現役で工房に入っていると聞く」


『トランサイト合金

 製作:未登録』


「あれ? この弓は未登録となっています。そんな名前の商会は無いですよね」

「ないない。未だ登録されていないから未登録で合っているぞ。それはウチの品だ」

「そうでしたか、でしたら登録しないと」

「いや、ワケあってその状態だ。他のを鑑定したらその理由も分かるだろう」


 え、どういうこと?


『トランサイト合金

 製作:ロンベルク商会 弓部門』


『トランサイト合金

 製作:ハーゼンバイン武器工房 弓部門』


 む、何だこれは、初めて見たぞ。


「商会長、ハーゼンバイン武器工房ってどこですか」

「あったか、それは城の工房だ。伯爵の名前を思い出せ、フレデリック・ハーゼンバイン・アル・ゼイルディク、ハーゼンバインは家名なんだよ」

「あー、そういうことですか!」

「伯爵は数をまとめて他の領主と取引をする。ほとんどはそこの騎士団に配備されるがな。その場合、ウチの名前だと都合が悪いんだと。だから未登録で作って、売る時に城の工房を登録するのさ」

「へー」


 そっか、城で作ってることにしてるからね。


「あ、でも、売上の扱いはどうなるんですか」

「ちゃんとウチに入る。まあ販売委託の様な流れか。と言うのもな、明らかにウチの生産量がおかしいだろ。コーネイン商会ばかりに偏っていると変な勘ぐりをされてしまう。それを防ぐためにと伯爵の計らいだ」

「なるほどー」

「確かに、1つの商会が異常に多いと不思議に思われるよな」


 その辺も考えているんだね。


 ギュイイイィィーーーン


 ふー、あと1本だ。


「そろそろ準備するか、直ぐ帰る」


 そう告げてミランダは工房を出る。しばらくして商会員が何名か入って来た。


「箱へ収納して台車に載せろ」

「はい」


 お、出荷の準備か。見ている間に箱へどんどん収納する。


「最後、やりますね」


 ギュイイイィィーーーン


「ふー」


『トランサイト合金

 製作:未登録』


 これも未登録の弓か。


「ではフリンツァーに伝えろ、直ぐに持って行けと」

「はい」


 商会員は台車を押しながら工房を後にした。


「さて、これでここにはトランサス合金が無くなった。いやはや、あれだけあって足りないとは」

「第2便があるんですよね」

「うむ、鐘が鳴るまでには到着するだろう。まあ明日でいいぞ」

「分かりました。あ、訓練討伐の次回を聞いていません、もし明日なら今日のうちに生産を少しでもやっておかないと」

「いや、明日は無い。エリオットがまだ調整中なのだ。恐らくあの1番進路は使わないし、班の再編成もする」

「あ、そうなんですか」


 やっぱり不審者案件が影響してか。


「クラウディアは必ずパーティメンバーだがな。まあ明日中には決まるだろう」


 そこは外さないのね。お、ブレターニッツが工房へ入って来た。結界の延長か。


「終わりました」

「うむ、2階の準備室にもやっておけ、2時間だ」

「はい」


 そうミランダが伝えると彼は工房を出て行った。


「さて、トランサイト売上関連の数字が揃った。その書類は全て2階の準備室で管理している、皆ついて来い」


 それで結界を指示したんだね。


 ミランダについて工房を出る。2階へ上がり商会長室の隣りの部屋が開かれた。中は8畳ほどか、中央に低い机と、それを挟んでソファ。そこへ向かい合わせに座る。メンバーはミランダ、クラウス、ソフィーナ、フリッツ、そして俺だ。


 ミランダは壁際の家具の引き出しから紙を何枚か机に広げる。おお、何やら表に日付や沢山の数字、それと商会や騎士団部隊の名前が並んでいる。


「これは5月22日生産分までを記録したものだ。そこまでにリオンが生産したトランサイトは78本」

「うへ、そんなに作ってたんですか」

「既に昨日までの合計では100本を超えている。着実に効率が上がっているとは言え、驚異的な生産速度だ。ウチの職人が総出でトランサス合金の生産にかかっているが、このままでは追い付かないぞ」


 そんなに職人が頑張ってくれてたんだ。工房に置いてある完成品しか見ないから分からないけど、そこに至るまでは大変な手間がかかってるんだよね。そうだよ、フローラも感度低い精霊石からトランサス抽出を担っている。


「あの、職人の皆さんの体調管理を第一にお願いします」

「心配するな、しっかり休息は取っている。そもそも疲労が抜けないまま連続で作業すると効率が悪いからな。こういうのは短時間で集中して仕上げるのだ」


 確かにそれは言える。


「さて、その78本全てにリオンへの報酬を計上した。うち4本は試験素材で1本につき5000万、合金は1本につき1億だ。従って合金74本と合わせて76億が入金されている。金額について意見があれば言ってくれ」

「意見、ですか」

「納得できる金額かどうかだ」

「ええと、俺では判断できません。十分いただいていると思いますが」

「まあ1本1億だからな、とんでもない金額だ。しかしトランサイトの価値を考えるとそれでも低い。リオンよ、覚えているか、伯爵が提案した報酬額を」

「えっと……」


 確か城に行った日だな。取り扱い商会に請求する加工賃が2000万で、内訳は伯爵の取り分が1000万、コーネイン商会の運搬手数料が500万、あとは俺への報酬が500万だった。


「500万でしたっけ」

「うむ、なんともふざけた金額だったな。無論、あれから何度となく交渉をし、結果、この1億で決着したのだ。それでもその価値に見合ってないのだが、力及ばず、すまない」

「いえいえ十分です。交渉ありがとうございました」


 ミランダ、頑張ってくれてたんだな。


「リオン、もう一人前だな」

「本当に立派よ」

「うむ、大したものだ」

「えへへ」


 8歳でこれだけの収入。とんでもない子供だな。でもそれが実現できているのもミランダを中心とした商会員や職人たちのお陰だ。俺一人じゃ何もできない。


「最終的に取り扱い商会へ請求する加工賃は2億となった。うち1億がリオンの報酬、9000万が伯爵の仲介手数料、1000万がウチの運搬手数料だ」

「あ、商会の手数料も増えましたね」

「うむ」

「伯爵の手数料も随分と上がりました」

「お前の報酬を上げると同時に上がっていったぞ」

「ははは」


 しかし運搬手数料1000万か。他の商会が持ってきたのは今日からだから、やっとミランダにも収入となったね。第1便が42本だったから4億2000万、運ぶだけでこれは凄いなー。でもこれだけ世話してくれてるんだ、しっかり稼いでほしい。


 ああいや、弓に何本か未登録があったな。あれはコーネイン商会の品だ。全部が全部、他の商会の武器じゃなかったのね。城からの帰りに一緒に持って来たのかな。


「それでその78本の販売先などの内訳を伝えよう。ただ4本は試験素材のため販売はしていない。今はウィルム侯爵の手元にあるはずだ。合金も4種をそれぞれカイゼル国王、プルメルエント公爵、ウィルム侯爵、ゼイルディク伯爵へ献上した」

「プルメルエント公爵へも送ったのですね。あ、そう言えば、アルカトラで行方不明になった分はどうなったんですか」

「未だ見つかっていない。従って剣、槍、弓の3種は追加で送った。うち槍は23日以降の生産分から工面したためこの22日までの78本には含まれていない」


 あらら、まだ見つかってないのか。もう出てくることは無さそうだけど。


「従って試験素材4本と献上18本を除く56本が販売用となる。うち7本が一般販売、10本が試験運用からの買取り、39本が領主販売となった」

「え、多くは領主、つまりは伯爵が売ったのですか」

「その通りだ。無論、中身はウチの製品であり、製作者のみを変更している」

「あー、それがハーゼンバイン武器工房なんですね」

「うむ」


 しかし39本もどこへ売ったのだろう。あ、騎士団か。


「確か騎士団へまとめて売るんでしたよね」

「そうだ。内訳はゼイルディク騎士団24本、ウィルム騎士団が15本だ。……これがその武器種の内訳となる、ウィルム騎士団での配備される部隊は決まっていないそうだ」


 ミランダは別の紙を机の中央へ出す。


 ゼイルディク騎士団

 部隊    剣 槍 弓 杖

 北東部討伐 2 0 2 0

 北東部防衛 0 1 1 1

 北部討伐  1 0 0 1

 北部防衛  2 0 0 1

 北西部討伐 0 1 1 0

 北西部防衛 2 0 4 1

 西部討伐  2 0 2 2

 西部防衛  0 0 3 2

 南西部防衛 0 1 0 1

 合計    9 313 9


 ウィルム騎士団 剣5 槍1 弓5 杖4


「おおー、ゼイルディク騎士団に沢山配備されてる!」

「お前は早く最前線にと強い希望があったからな、もう既にほとんどの騎士の手へ渡っているぞ」

「あ、ありがとうございます!」


 嬉しい! ちゃんと考えてくれてたんだ。任せてよかったよ。

 あれでも、ゼイルディク騎士団の合計は34本になるぞ。


「商会長、10本多いのですが」

「ああ、これは試験運用からの買取りも含んでいる。ウチが手配した分だ」

「なるほど! ではこの北部討伐の剣はセドリック副部隊長、杖はカミラさん、北西部討伐の槍はガウェイン部隊長、弓はベロニカ副部隊長なんですね」

「その通りだ。更に北西部防衛の剣2本と弓4本は、先のガルグイユを倒した騎士たちだぞ」

「うわー、そうなんだー」


 いやー、これは頼もしい。あのガルグイユ戦でとてもよく分かった。実力ある騎士たちがトランサイトを持てば、その性能をいかんなく発揮できることを。それが34人もいるなんて。


「この西部が多めなのは新たな村の開拓のためですか」

「うむ、更に追加で優先配備される、無論、コルホルの拡張をする北西部もな」


 にしてもトランサイトが最前線で活かされるのは嬉しい限りだ。


「そしてこっちが一般販売の実績だ」


 ミランダはまた別の紙を出す。


 コーネイン 剣 110億

 コーネイン 剣  97億

 コーネイン 杖  95億

 ロンベルク 剣 115億

 ロンベルク 剣  98億

 ロンベルク 弓 108億

 ロンベルク 弓  94億

 合計      717億


 販売利益 215億1000万

 偉勲褒賞  71億7000万

 合計   286億8000万


「おおおっ! 100億前後ばかりですね!」


 すげぇ! ほんとに100億で売ってやがる! 本当にとんでもないなトランサイトっていう商品は。またそれを買えるやつが何人もいるのが驚きだ。


「ん? この販売利益や偉勲褒賞とは何でしょう」

「これも基本は伯爵の城へ行った日に示されたものだ」

「ええと……確か売上の60%を伯爵が税金として徴収、うち30%が伯爵家へ、残りの30%が俺の報酬でしたね」

「うむ、販売利益がお前に入る分だ、その割合は30%と変わっていない。ただ製法発見者に支払われる分が追加された。それが偉勲褒賞、割合は10%だ」

「なるほど」


 これが権利収入か! 10%って大きいな。


「と言うことは、商会の利益か伯爵の取り分が削られたのですか」

「伯爵家へ入る分は30%で同じだ。商会の利益が40%から30%に変わった」

「あらら、何だか褒賞が割り込んで損をさせてしまいましたね」

「いや、元々40%がやや高めではあった。ただ売るだけだからな。商会30%、伯爵30%、リオン30%、クラウス10%、私は丁度いいと思うぞ」


 そうなんかな。トランサス合金も自前で用意して2億の加工賃を払う。それで30%か。うーん、まあ、高く売ればそれだけ取り分も増えるからいいのか。にしても伯爵のポジションはおいしいなー。


 しかし偉勲褒賞か、この扱いってどうなんだろ。


「この10%はいつまでなんですか?」

「3年間、もしくは1000本販売まで確定だ。それ以降は再度検討される。と言っても、決めているのはプルメルエント公爵だ」

「あー、そうなんですね。ところで1000本って、そう遠くない未来に到達しそうなんですが」

「……まあな。既に100本以上生産しているのだ、1年、いや半年もかからないだろう。尤も、その前にトランサスを含んだ精霊石が枯渇するがな」

「原材料は仕方ないですね」

「その時はシンクライトもある。売る物には困らないさ」

「そうでした」


 そうだよ、まだ本命が隠されているんだ。これ、総額どれだけのお金が動くんだろう。


「さて、この販売利益と偉勲褒賞、7本分の売上ではあるが合わせた286億8000万もクラウスの口座に入金されている」

「うわー、凄いお金ですね。あ、騎士団への販売分はまだ先なんですか」

「うむ、価格が決まってないからな。その根拠とするのが一般販売価格だ。騎士団への売上本数と同じ実績の平均値が販売価格となる」

「えっと、では、ゼイルディク騎士団は34本、ウィルム騎士団は15本、それぞれの本数を一般に販売した時点で価格が決まるのですね」

「その通り、今7本の実績だからあと8本売ればウィルム、27本売ればゼイルディク騎士団の価格が決まる。まあ今日42本作ったんだ、2~3日中には達成できるだろう」


 うは、じゃあ数日中に大口の販売利益が入るのか。


「これは他の商会にも頑張ってもらわないとな」

「あ、そっか! 高値で売れば売るほど騎士団の分も高くなる」

「おいミランダ、ロンベルク商会は2本100億超えだぞ、最高値の115億もこっちだ。コーネイン商会も負けてはいられないな」

「フン、言ってくれるな、クラウス。まあ、やや遠方の客からの返事次第だ。手応えはいいぞ」


 はは、これは商会の腕の見せどころか。しかしそう考えると、ルーベンス商会を中心とした値引き合戦はほんと迷惑だったな。もう外れちゃったみたいだけど。


「商会長、最終的な取り扱い商会はどうなりました?」

「ウチとロンベルク、エールリヒ、スヴァルツ、カロッサ、そしてラウリーンだ。あとの4商会は7月から復帰する予定とは聞いたな」

「あ、ずっと外されるんじゃないんですね、それも約1カ月後に復帰なら早い気がします」

「いや、その頃には高値の販売先はほとんどないだろう。近場は良くて40~50億くらいじゃないか。余程遠方に行けばまだ100億近くが残っているだろうがな」

「それでも売れないよりはいいですね」

「まあな」


 それにしても100億とか、よくそんなにポンっと出せるもんだ。


「商会長、俺、トランサイト関連となるとお金の感覚がおかしくなるんですが、そんな大金を出して買う人が多くいるものなんですね」

「溜め込んでいるのさ。信じられないぐらいにな。ウチが売った3件は、いずれも複数の商会持ちの貴族だ。100億なぞ直ぐ出せる」

「へー」

「もうお前も出せるだろ」

「あ、確かに」

「そうやって金は回っているのさ」


 ふーん、そういうもんか。まあ貴族は家系だ、何代も前から巨額の財産を引き継いでいるんだろうな。


「あの、買った後は誰が使うんですか」

「それは身内の騎士や冒険者さ。トランサイトは剣技適性が低いから使える者は多いぞ」

「あー、確かに」

「まあ中には、ずっと遠くへ持って行き、転売する者もいるだろう」

「それは労力と見合ってない気がしますが」

「実際の利益よりも、その地域へ一番に持っていくことに意味がある。つまりは本業の新規市場開拓の足がかりにでもするのさ、話題性は抜群だぞ」


 まあ、幻の鉱物だからね。そりゃ大注目だ。


「あとは……目障りな商売敵、或いは権力者を消し去るために、雇った裏稼業へ持たせるか。そこそこの腕なら護衛もろとも切り裂けるからな」

「え、それは、ちょっと」

「おいおい、俺たちも危険じゃないか」

「フン、こっちはトランサイトの生産拠点だぞ、そのうち保安部隊にも配備する、心配するな」


 トランサイト同士の戦いってどうなるんだ。きっと独特の間合いだな。


 いやー、しかし、武器1本で色々と動くし変わるな。何だか俺って、かなりのバランスブレイカーな気がしてきた。神が排除したい気持ちも分からんでもない。だからって、はいそうですかと殺されるのもゴメンだけど。

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