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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
133/321

第133話 ギルドと商会

 コーネイン商会の工房でトランサイト生産作業を続ける。その近くにはクラウス、ソフィーナ、フリッツ、そしてミランダ、更にはアーレンツ子爵家令でコルホル村担当のナタリアが座る。


 最初にゼイルディクの地図を見ながら話していた内容は、新しく村を作る開拓事業が議会で決定される見通しとのこと。それはクラウスの屋敷関係を担う建設商会を確保するのに影響がありそうなのだ。従って長期間押さえる話になった。


 しかし不思議だ。クラウスの屋敷関連は大規模事業であり、面積で言えば街道の東側を含めると3km四方の森を開拓する。それを担う業者をアーレンツやメルキースの商会だからと言って安易に決めてしまっていいのだろうか。


 そう、競争入札だ。前世の日本ではそのような手法が取られていた。その上で最も安い予算案を提示した企業に任せる。今回は税金を使った公共事業では無いにしろ、かなり大きな金額。多くの建設商会に見積もりを出させれば、その金額の差は数百万や数千万にのぼる可能性がある。


「あの、ナタリアさん、1年間その3商会を確保する話ですが、事業費用の算定はどのように行われるのですか」

「それは近日各商会から提示されます。担当する区画は任せているので商会長同士が協議して割り振るでしょう。どこがどこを担当しても総事業費は変わりませんよ」

「そうなんですか。ただ、その、金額の根拠と言いますか、つまりは妥当な金額である客観的資料などは示されるのでしょうか。俺たちでは専門的なことは詳しく分かりませんから、余剰に利益を上乗せしていても気づかない可能性があります」


 皆、驚きの表情。え、なんかマズい事を言ったか。


「ああ、あの、信頼できる商会を選出したのだとは思います。ただ、どうせ頼むなら少しでも安い方がいいかと思いまして。元の金額が大きいですし。それならばと、他の商会での見積もりも興味が湧いてきた次第なんです」

「……リオンよ、お前は本当に面白い子供だな。確かにその通り、同業と比べてから決めるのは当然のこと。我々武器商会も、常に客から選ばれているのだからな」

「それならば何故、早々に商会が決まったのですか?」


 ナタリアは昨日、あの場で子爵に3商会の名を告げていた。だから選出は済んでいたのだ、そう、中央区に担当者も待機していたし。ああ、なら落札後の話だったのかな。


 あ、仕事しよう。


 ギュイイイィィィーーーン


「リオン様、もしやおっしゃりたいことは競争入札でしょうか」

「あ、はい、そうです!」


 なんだ、ナタリアからその言葉が出るのなら、この世界にも同じシステムがあったのね。前世でのことはこっちで常識とは限らないし、気を使って言葉を選んだがその必要は無かったみたい。


「あの方法はずっと前に廃止となりました。よくご存知ですね」

「せ、先生に聞きました」

「うむ」

「ほう、意外な知識だなフリッツ」

「家令となるため勉強したのだ」


 子供らしからぬ物言いはフリッツのせいにして構わない話だったからね。


「効率の良い方法に見えますが、今は無いんですね」

「はい。私も歴史の資料でしか知りませんが、商会同士が予め入札金額を合わせる、談合という違法行為が蔓延して機能しなかったそうです。もちろん取り締まりを強化し、罰則を重くしましたが、その撲滅には至らなかったと記されています」


 あらー、談合。異世界でも一緒か。


「それに正常な入札が行われた場合でも、仕事の欲しさに著しく低い価格で落札して、結果、手抜き工事が横行したり、給金の未払いが多発したりと、あまりよい方向には進まなかったのです」

「フン、安ければそれなりの仕事しかできない。質が伴えば高くても問題ないというのに」

「その結果、競争入札制度は廃止、代わりに建設ギルドが適性な価格を提示し、それを元に発注者が任意の商会へ話を持っていき、そこから話し合って最終的な金額が決まるようになりました」


 へー、建設ギルド、それが叩き台みたいな原案を決めるのか。


「建設ギルドも元は職人のための組織でしたが、その基準価格を取り決める役目を担ってからは存在が大きくなりましたね。もちろん誰もが納得するような厳選な調査の上に決められています。類似する事例、材料の時価、あらゆることを加味してますから。従って余剰利益は発生しませんよ」

「なるほど、それなら専門知識が無くても安心ですね。ただ価格はそうでも発注者が望む事業内容や工期を実現する商会が身近にいなかった場合どうするんですか」


 公開入札の利点はそこだよね。探す手間が省ける。


「建設ギルドから希望に即した建設商会を案内することもできます」

「あ、そういう役目も担っているのですね」

「とは言え、建設ギルド幹部との癒着は多い。金を積めば優先的に仕事が回って来るからな。村の開発商会なぞ最たる例だ。表向きはギルドの示した中から公正に伯爵が選定するが、その判断は第1夫人長男であり建設ギルド長のエナンデル子爵、そして次男の浄水士ギルド長バイエンス子爵の意見が多く反映される」

「なんだか、談合よりも酷い状況な気がします」


 仕事だ。


 ギュイイイィィィーーーン


 ふー、10本目か。


「いや、案外そうでもないぞ、リオン。結局は貴族間の派閥争いと似たようなものだからな。あれも酷いが、それでいて絶妙な力関係が保たれている。建設ギルドもボスフェルト男爵とメールディンク男爵が幹部を務めている。全てが伯爵家の思惑通りにいかないのさ」

「コーネイン夫人のおっしゃる通りです。建設商会もギルド幹部と関係性を築けなくても、地元の領主と信頼関係が保たれていれば、仕事は入って来ますからね」

「うむ、要は建設商会の考え方次第だな、領主につくか、ギルドにつくか。無論、今回の3商会の選出にギルドの影響はない。基準価格を参考にはするがな」


 ふーん、何だか、それぞれ思惑があって複雑な業界なんだね。


「ちなみにギルドは業種によって影響力が異なる。神職者や治療士、あと鑑定士はギルドが圧倒的に強い。建設は商業、飲食、服飾、運送と同じくらいか。農業や畜産はまた違った立ち位置だな。おお、冒険者ギルドに至ってはあって無い様なものだぞ」

「ギルドは元々それぞれの専門職の人たちの組織でした。しかし過去に様々な編成が行われて今の形になっています。ですから名前がギルドでも、その中身は業種によって様々なんです。長い年月によって辿り着いたのですから、現代に合っているのでしょうね」

「へー、業種ごとにですか」


 なるほどね。確かにミランダの言う通り冒険者ギルドなんて騎士団組織の一部だもんな。


「リオン、興味があるなら、専門の講師を呼んで授業を受けるか」

「あー、はは、そうですね、機会があれば」

「ただ、今言ったのはゼイルディクでの話だ。他の町ではまた違ってくるぞ。ギルド幹部が貴族かそうでないかで影響力に差があるからな。カイゼル王国は広い、全く違う組織形態もあるだろう。ギルドと聞いてここでの基準で判断してはいけないぞ」

「はい」

「そう言うのもな、トランサイトがサンデベールでは収まらんからだ。国中に広めるなら、どこへ話を持っていけば円滑に進むか、そして大きな利益となるか、その土地のギルドのあり方も、それらを考える指標の1つとなるぞ」


 そっか、国と言っても1つ1つの自治体の規模が大きすぎる。それぞれの地域にあった売り方というのもあるんだ。でも売ってるのはコーネイン商会だよね。職人の俺にそんな事を考える必要性があるのだろうか。


 まあ、興味を示したから教えてくれたんだろう。商会も色々考えて動いているんだぞと。


 さて、次で弓は最後だぞ。


 ギュイイイィィィーーーン


 ふー。


「む、それで最後か」

「はい」

「訓練討伐があることを見越してその本数だったからな、槍4本と弓13本がもう終わるとは。時間は15時過ぎか、天気が悪くなければフローラと共にトランサスが届いていた。だがもう明日になるだろう」

「さー、俺たちはエスメラルダに戻るよ。座ってばかりよりダンスでも動いた方が気分的に違う」

「ヤル気だな、クラウス」

「はは、やるからにはそれなりに取り組むさ。行こう、母さん」

「ええ」

「店内にいる保安部隊の2人と共に行け」

「分かった」


 クラウスとソフィーナは工房を出た。


「私も打ち合わせがあるので失礼します」


 ナタリアも去る。そして入れ違うようにブレターニッツが工房へ入って来た。


「商会長、音漏れ防止結界の延長に来ました」

「うむ、頼んだ」


 彼は結界を施し去った。


「さー、どうするか、共鳴する武器が無いのではな」

「そうだね、先生」

「ところで隠密の具合はどうだ」

「さっぱり進んでいません。僅かな兆しはあるのですが」

「ふーむ、鑑定や剣技の様にはいかないか」

「あの、1つ可能性としてはあります」

「なんだ」


 封印は妨害電波説を電波じゃない表現を使って伝えた。もし仮説が正しければ、神の魔物が来た時に、それを見越した動きも出来る。一緒にいるのはきっとミランダと防衛部隊の精鋭だ。もしかしたら解放に効果的な立ち回りも気づくかもしれない。


「ふむ、また独特な表現だな。魂から引き出す指令を神が遮断している、それが封印か」

「はい」

「その線でいくと、治癒を覚えた時は確かにサラマンダーを操った影響も考えられるな。うむ、いいだろう、次またAランクと対峙する時は、お前の解放も同時に取り組めるよう考えておく」

「お願いします」

「さて、西区へ帰るか、それともエスメラルダへ行くか」

「まあ待て、フリッツ。話すことはいくらでもある。特にお前たちは訓練討伐で居なかった時間もあるのだ。その間に決まったことを伝えてやろう」


 そうだね、情報共有は大事だ。


「クラウスの口座にトランサイト関連の入金がなされることは伝えたな。それに伴い、ノルデン家の会計担当者も設けた方がいい。これからは建設商会への支払いの他、様々な入用に対応しなくてはならない。それをいちいちクラウス自ら動く必要はないのだ」

「まあそうだな、次期領主がそんな事務仕事、誰かに任せればいい。ただ大きい金だ、信頼のおける人物が必要だぞ」

「当面はソフィーナが行う。彼女は文字が読めるし計算もできる。ああ、その書類関係は西区の自宅には置かないぞ、この商会の2階、商会長室の隣りをお前たち専用で貸し出すことにした。警備は万全だから安心しろ」


 おお、確かにそうだ。大事な情報だからね。俺たちは中央区に来ることが多いから、その間、家には誰もいない。重要書類を放置は不用心だ。そうか、なるほど、先々領地を統治するんだもんな、それを見越して準備しないと。


「私は身内がいいと思うぞ、メルキース男爵家の会計にも私の母親が携わっているしな」

「ふむ、ではブラード家の面々か、ただあやつらは不向きに思える」


 うん、そうだね、言っちゃ悪いが事務仕事が得意には思えない。カスペルなんか、ほっほ、入金を忘れとったわい、なんて凡ミスやりそうだ。その中ではエミーが多少はやれそうではある。


「ウィルムに住んでいるクラウスの身内を頼るんだよ。実家は宿屋経営、他にも冒険者ギルドの口座管理所勤務、雑貨商会事務、建設ギルド事務、家具商会経営など、金の扱いや帳簿管理に慣れた人材は多くいる」

「おお、そうだったな」

「早くにこちらへ来る決断をするなら、ノルデン家の2階に住めばいい、そこで収まらないなら中央区に住居を構えてやる。もちろん護衛もつけてな。それも難しいならメルキースのどこかに住めばいい。とにかく近くにいて会計を担う意識をさせるのだ」

「なるほど、まあそれだけいれば、1人くらいは来そうなものだが」


 うーん、でもどんな人か分からないし、なんとも。


「それまではフリッツがソフィーナの補佐をしろ」

「うむ」

「商会からも支店長のキューネルを補佐としてつけることにした。あれも経理ができる」

「それは助かります」


 それにしても、この世界の経理ってどうなってるんだろう。俺は前世で商業簿記1級はある。農家をするようになってからは自分で青色申告もしていた。複式簿記なんて要は借方貸方(かりかたかしかた)の考え方だからな。まあ、無いようなら無理して導入させる必要はないか。混乱するだけだし。


「ひとまずそれくらいか、お前たちから何かないか」

「実は今日の訓練討伐で不審者事件があった」

「ほう」


 フリッツはミランダに事の経緯を伝えた。


「ふむ……私も精霊石拾いだとは思うがな。ただ用心に越したことは無い。これは次回から訓練討伐の運用を考え直す必要があるな」

「うむ、部隊長もそう言っていた」

「リオンよ、商会としては剣技での生産効率向上を見るにつけ、他の武器種も取り組んでもらいたいところだ。あとはシンクルニウムの共鳴効率をより高める狙いもある。もちろん、単純に強くなることは護身においても有効、従って訓練討伐、或いはそれに準ずる魔物討伐を続けてほしい」

「はい、異論はありません」


 加えてクラウディアと親密にさせたいのだろう。それにずっと村でいるよりは、森で思いっきり走ったり武器を振ったりして息抜きにもなるからね。はは、何だかんだ言って俺も魔物のいる世界に慣れたものだ。


「おお、そうだ、昨日の男爵院で気になる報告を見つけた。どうも近いうちに中央区の礼拝堂へ神職者が増員されるらしい」

「なに、それはクラウフェルト子爵の意向か」

「もちろんだ、ギルド長だからな」

「ふーむ、子爵は神の意志に従って動いたのだろうか」

「分からん。ただ先の襲撃者の様に単独の行動はまだ対応しやすい。事を荒立てず外堀を埋め、機を見て一斉に動かれると、虚を突かれるやもしれん」


 ひいい、怖い。


「無論、神職者とその周りの動きはより監視を強化する」

「頼んだぞ」


 やっぱり人の動きが一番怖いや。


「リオン、お前の身の安全のためにはこちらも手を尽くす。しかし絶対はない。従って、1つ提案がある」

「何でしょう」

「感知スキルの習得だ」

「ふむ、なるほど」


 感知、ああ、クラリーサが言っていたな。高いレベルの感知スキルがあれば、後ろから襲われても気づくことができると。


「隠密を取り組むなら感知も繋げやすいと見る。一見真逆のスキルだが関連性もあるのだ、身を潜めるには周りの様子も鋭く観察する必要があるからな」

「ああ、確かに」

「だから次の神の魔物の時にはそれも意識しろ、何、魔物の動きを察知するにも効果がある。例えば次にどう動くか、飛ぶのか、火の息を吐くのか、そう言ったことに神経を研ぎ澄ませれば、或いは習得へ近づくのではないだろうか」

「それは訓練討伐でも使えるな」

「もちろんだ」


 なるほど、言われてみれば。


「分かりました。魔物と対峙する時に意識してみます」

「次々と覚えることが増えて大変だな、すまん」

「いいえ、身を守るためです。そのためには俺も必要と考えます」

「ミランダよ、高い感知スキルに伸ばせればどんなことができるのだ」

「聞いた話では視界外からの矢を無意識に避けることが出来る」

「何と! それは是非習得して欲しいものだ」

「英雄の力なら、容易いぞ」


 何だそれは。勝手に体が避けるだと。流石、異世界、スキルは何でもありだな。もちろん僅かな人しか到達しない高いレベルだろうけど。


 感知か。もし覚えたら伸ばす訓練もやり易そうではある。


「おや、揃ってるね」

「フローラさん!」


 工房へフローラが入って来た。


「おお、戻って来られたのか」

「無理やり雨の中を走ってもらったのさ、トランサスも沢山持って来たよ」


 そう言うと同時に、工房へララとキューネルが武器を抱えて入って来た。


「あら、ララさんは休みじゃなかったんですね」

「私と一緒に本店へ行ってたのさ。天気が酷いから明日でもいいだろうと提案したが、この子が帰ると聞かないんでな」

「こっちは降り方が酷かったですね、少し後悔しました」

「だろう? だからって引き返すワケにも行かないんで突っ切ってきたのさ。まあ私らより馬や御者に感謝だね」


 はは、ララは頑固な側面もあるのか。まあお陰で仕事ができる。


 剣を持つ。


 ギュイイイィィィーーーン


 お、これは。よし、連続でやってみるか!


 ギュイイイィィィーーーン


 ……。


「ふー、ひー、休憩」

「あんた、見てる間に8本終わらせるなんて。持って来た剣が全部変わっちまったじゃないか」

「はっはっは! 流石だなリオンは! おい、フローラ、またトランサスの抽出を頑張ってもらわないとな、生産が追い付かんぞ!」

「やれやれ、感度低いのは疲れるんだよ、まあやるけどさ」


 ごめんよ仕事を増やして。


「さて、明日だが、8時にクラウスとソフィーナと共に来てくれ。9時にウィルムの使いが到着予定だ」

「分かりました」


 ゴーーーーーン


 夕方の鐘だ。


「おー、賑やかだな、リオン、帰るぞ」

「あ、父さん」


 俺たちは西区へ向かった。まだ雨は強い。



 ◇  ◇  ◇



 食事を終えて風呂も済ます。俺は買い取ったゼイルディクの地図を広げてニヤニヤ眺める。


「お前は本当に不思議なやつだ」

「へへ」

「あ、母さん、誕生日に貰った地図は書き込んだりするのに使うね」

「ふふ、いいのよ無理に使わなくて、そっちの方が立派でしょう」

「ううん、あっちは余白が多いから文字が書きやすいんだよ」

「そうなの」


 主要施設の場所と名前を書くように使い分けるんだ。あー、この感じ。前世の公共放送の教育番組にあったな。確か小学3年生向けの社会科だった。よーし、俺もおもしろ地図をひろげるぞ!


「コルホルの拡張計画も新たに地図を作るそうだ。レナン川沿いの騎士団拠点も含めてな」

「楽しみだね」

「まあ、その拠点が出来れば村の魔物対応も余裕ができる」

「あ、そう言えば、カルニンとサガルトの周りは騎士団拠点っぽいのが近くにあるよね。コルホルも近くに監視所があるけど、それでも5km離れてる。村の防衛も兼ねているなら中途半端な位置な気がするよ」


 そう、ワイバーン2体の時は、結局村のみんなが倒してから騎士は到着した。今回は犠牲者が出なかったものの、次はどうなるか分からない。危ない相手の時は直ぐ駆け付けられる距離の方が安心だよ。


「それはな、領主であるアーレンツ子爵の意向だ。あんまり近くに騎士団がいると頼ってしまうだろ。だから敢えて距離を置くことによって、住人の団結力を高める狙いがあるのさ」

「へー」

「そして強敵を自分たちで倒すことによって自信も付く。騎士は当てにならないから次も自分たちで頑張る。そういう風土を根付かせるのさ」

「私も最初ここへ来た時は監視所が遠いとは思ったけど、最近その理由を聞かされて納得したわ。それで効果はあったのよ、コルホルの住人は他の村より強い人が多いもの」

「ふーん」


 村の住人を強くなるためには環境から追い込むワケか。アーレンツ子爵、昔は最前線で戦っていたらしいし、きっと自らもそう鍛えてたんだ。


「さて、明日は8時に商会だな」

「そうね」

「ウィルム侯爵の人も来るんだよね」

「9時だったか、さーて、何を伝えてくるやら」


 ベッドに入りおやすみの挨拶を交わす。外の雨音はまだしっかり聞こえた。

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