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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
129/321

第129話 弓の訓練

 朝だ。居間に行って挨拶を交わす。


「今日は母さんと弓の訓練だな」

「うまく出来るかな」

「リオンならきっと上達が早いわ」


 弓ね。前世では弓道やアーチェリーなどと全く縁のない人生だった。剣は中学生の体育で剣道があったが、あんなの経験のうちに入らない。でもこの世界では剣を扱えている。そう、剣技を覚える前でも魔物と戦えたんだ。


 身体強化が大きい要素だが、その他にも表現しようのない感覚があるのは間違いない。冷静に考えたら素早く動く大型犬とか、人間の動きで対応できるはずないし。もし動けたとしても、何というか、野生生物の獰猛(どうもう)さを目の前にしたら、知的生物の思考とか役に立つとは思えないんだよね。


 前世で実際にそういう境遇になったことは無いから想像の域は出ない。ただ実際に戦うとしたら、生物として圧倒的不利だと思う。どんなに体を鍛えようが人間だもん。だから銃など使って安全圏から一方的に仕留める。理に叶ってるよ。


 ところがこの世界、剣を持って至近距離で魔物と戦う。前世の常識から考えると、頭おかしいとしか思えない。でもこの世界では常識なんだ。何故それが実現できるか考えてみると、知的生命体のクセに中身は獣の様な本能もある、という結論に至った。


 そうじゃないと説明できない。勇敢だとか、無謀とかじゃなく、戦えるんだよ、この世界の人間は。そう遺伝子に組み込まれている、魔物と戦える本能が。


 それと弓を扱うことが繋がるかは分からない。ただ剣は素振りを続けるより実戦の方が遥かに上達が早かった。きっと弓も魔物と対峙すれば何か掴めるはずだ。まあ、今日の訓練討伐には流石に早すぎるけど。


「どちらへ行かれますか」

「城壁南の訓練場よ」

「では同行します」


 夜警の騎士が2人ついてきた。


「お二人はいつまで警備ですか」

「朝の鐘が鳴るまでです。そこで保安部隊と交代します」

「母さん、俺たちも鐘まで?」

「そうね」


 城壁の西側、鉄の扉の出入り口が開いた。収穫に向かう住人と一緒に外へ出る。もう日は上っていて十分明るかった。


「リシャルト、私とリオンは南部訓練場で鐘まで弓を使うわ。他にいるかしら」

「いや聞いてない。好きに使えばいいが、矢の回収はしろよ」

「ええ、分かったわ」


 そっか、世話人に伝えておくのか。


 そして俺とソフィーナ、騎士2人は城壁前の農道を南へ歩いた。


 城壁の南端に到着。初めてくる場所だな。そこから南側、約100m先に大きな壁の様なものが見える。


「あれが的よ。最初は20mくらいから始めましょうか」


 そう言ってソフィーナは的に向かって歩き出す。俺も続いた。


「リオン、手袋をはめておいて、右手用よ」

「うん」


 人差し指と中指だけの手袋だ。ほーん、なるほど、これで矢を挟んで弦を引くのね。


「サイズはどう?」

「丁度いい感じ」

「そう、良かったわ」


 的と呼ばれるものは、幅20m、高さ5mくらいの土壁だった。その両側には城壁の様に石が積まれている。土壁は垂直ではなく、いくらか傾斜しているようだ。


「最初に私が放つわね、よく見てて」

「うん」


 ソフィーナは背中の矢筒から1本矢を抜き弓につがえる。流れるようなその動きには全く無駄がない。右手で矢を持ちながら弦を引き、ある程度引くと放った。


 ヒュン! トスッ!


 そして土壁に矢は命中する。


「こんな感じよ。今のは身体強化だけで共鳴はしていないわ。同じようにやってみて。矢はつがえる時に、弓を持つ左手の人差し指で落ちないように押さえるのよ」

「分かった」


 身体強化をして、ソフィーナから訓練用の矢を受け取る。弓はミランダが用意してくれたシンクルニウム合金だ。右手で弦に矢をつがえ、弓を持った左手を真っすぐ伸ばす。


「これでいいのかな」

「そうよ、構えはそれでいいわ。でもホントは明確な形はないの、自分がやりやすい持ち方があるならそれでもいいのよ」

「へー」


 まあその辺はやりながら詰めていこう。


「狙いはどうやってつけるの」

「まずは標的を見るの。私が先に放った矢が刺さってるから、それを標的にしてみて。その視線に弓を上げて、握りの上に精霊石をつける台座があるでしょ、それと標的とを重ねるの。そしたら矢を引いて」

「うん」


 言われた通り台座と標的を重ね、矢を引く。


 ギギギ……。


「片目は閉じた方がいいの?」

「人によるわね、私は閉じないけど」


 じゃあ、開けたままでいいか。


「放つ瞬間には標的も視界に入れてね、矢を引いている指の力を緩めれば飛ぶわ」


 よーし、的は20m先。ちゃんと狙いを定めて。


 ……むう、ちょっとズレた気がする。もう一度台座に合わせてやり直し。


 ……。


 ああ、いけない、左手がプルプルしてきた。引いてる右手も辛い。


「ふふ、構え直しね」

「はーっ」

「あんまり時間をかけると左腕を真っすぐ維持できなくなるの。弓を持っているだけじゃなくて、張った弦に対する負荷もあるのよ。構えたらなるべく早く放つ方がいいわ」

「……母さん、もう1回やってみて」


 ソフィーナは頷くと矢筒から1本抜き、つがえて構えると直ぐ放った。


 ヒュン! トスッ!


 最初に放った矢と同じところに刺さる。


「うわーっ、凄い!」

「構える時から標的を見て、台座と合わせたら直ぐ放つのよ」

「ふむふむ」

「構えている時はスキだらけよ、だからその時間を少なくするの。城壁の上から地上を狙う時はいいけど、森の中では危険だわ。視界が極端に狭くなるから」

「確かにそうだね」


 構えたらなるべく早く放つ、か。


「じゃあやってみる」


 土壁に刺さった標的を見ながら弓を構える。台座と重なった。


 ヒュン! ……カラン


「あ、届かなかった」

「引く力が弱いわね、そんなに急がなくていいわよ。それから腕で引いちゃダメ、背中で引くのよ」

「背中? うん、やってみる」



 狙いを定めて……背中で引く、そうか背筋を使うんだな。


 よーし! ……ギギギ。


 今だ!


 ヒュン! トスッ!


「やった! 当たった!」

「ふふ、お見事」


 でも標的からは随分離れてるな。ちゃんと狙ったのに。


「リオン、体が少し動いているわ。狙いを定めてから右手を緩めるまで我慢して」

「あ、うん」


 無意識に左腕が下がった様だ。ちゃんと真っすぐ維持しないと。


「あれ? 母さん、動いている魔物に狙いを定めるのって、体の角度を変えないといけないよね」

「そうよ」

「それで真っすぐ飛ぶの?」

「飛ぶわ。その為には静止状態で真っすぐ飛ぶ感覚を体に染み込ませるの。そしたら標的が動いていても狙えるようになるわ」

「へー」


 まずは基本を徹底的に訓練か。


「あ! 例の弓ならそんなことしなくても……」

「あれは反則よ。最初から使ったら上手くならないわよ」

「う、うん」


 だよね。シンクライトの弓はズル過ぎる。


「とにかく数をこなすのよ、どんどん渡すから撃ってみて」

「分かった!」


 それから10本くらい続けて撃つ。


「ふーっ」

「安定して的まで届くようになったわね」


 でも刺さったところはバラけてる。何でだろう。やっぱり腕が動いてしまってるのか。


「そう言えば風が吹いてたら影響受けるよね、今は無風だけど」

「そうね、だから実際はそれも計算して狙う角度を調節するのよ」

「えー、難しそう」

「そうでもないわよ、えっとね、直感で分かるから」

「直感!」


 計算と言いながら何とアバウトな。それもスキルの成せる技なのだろうか。あー、測算か、あれで瞬時に計算してるんだな。他に矢は重力の影響も受ける。この世界に重力の認識があるのかは知らないが、恐らくそれも無意識に計算してるのだろう。


「矢を回収しに行くわよ」


 土壁に向かう。


 いやー、弓、難しいけど楽しいな。飛び道具は剣とは違う魅力がある。やっぱ、遠くから一方的に狙えるってのがいいね。それがかなり離れてたり、動いている相手だと、当たった時に気持ちいいだろうなー。


 矢を抜いて矢筒に納めた。


「ねぇ、母さん、武器を共鳴した方がいいかな」

「いいえ、まずは身体強化だけで矢が真っすぐ飛ぶようにならないとダメよ。共鳴すると矢の速度が上がるから、的に当たらなかったら遠くまで飛んでい行っちゃうじゃない。あの向こうに人がいたら危ないでしょ」

「うわ、そうだね」


 そっか、まずは基本をしっかり身につけるんだ。


「だから今日の訓練討伐は剣で戦うのよ。弓を実戦で使うにはまだ先ね」

「分かった。ところでこんな朝早くあの辺に人がいるの?」

「泊りがけで村に来ている冒険者が朝一で森に入っていることもあるのよ」

「へー、そうなんだ」

「向こうもここに訓練場があるのは知ってるから注意はしてるけどね」


 ゴーーーーーン


 朝の鐘だ。


「さあ、帰りましょう」


 城壁を北へ歩く。騎士2人もついてきた。


「弓はね、魔物の動きだけ見ていてはダメなの、近くにいる人たちの動きも合わせて見ないとね」

「そっか、切り込んでいる時に撃ったら危ないよね、ちゃんと間合いを離してないと」

「訓練討伐ではどうしてるの?」

「後衛は進路で待ち構えて、前衛はそこへ向かって魔物を引っ張るんだ。それで大体20mくらいになったら進路から外れて、魔物がそれを追って方向転換した時に、後衛は撃つんだよ」

「そう、じゃあ後衛は動かないのね」

「うん」


 基本的に立ったままだよね。あれなら狙いも付けやすい。


「リオンは進路から外れた後に切り込むのかしら?」

「うん、最近は引っ張らずにそのまま森の中で倒してるけど」

「それなら他の前衛が引っ張ってるのね」

「クラウディアが剣をやってるから5班は今前衛が3人なんだ。もう1人の剣士カルロスが弓士のパメラに連れて行ってるよ」

「あら、じゃあリオンはクラウディアと一緒に行動してるのね」

「まあ……うん」


 ちょっと嬉しそうな表情のソフィーナ。クラウディアとは特に仲良くなったみたいだからね。あ、そういや負傷したこと伝えてなかったな。


「そう、あの子が剣を。頑張るわね」

「祝福で剣技を目指すんだって、そのための特訓。でもかなり辛そうだよ」

「それはそうよ、かなり魔力を使うはずだから。リオン、ちゃんと見ててあげなさいね」

「うん」


 ミランダは俺にお守りではないと言ったが、やっぱり怪我させるわけにはいかない。ポーションがあったって、引っ掻かれたら痛いし血も出るんだ。今日はちゃんと守るぞ。


 食堂に到着。同行した騎士に礼を言う。


「ありがとうございました」

「任務ですから」


 この2人はもう寝るのかな。夜警は生活リズムがおかしくなって大変だね。


「やあ、おはよう」


 クラリーサだ。他5人の保安部隊も揃う。


「ビアンカちゃーん! 一緒に食べよう」

「ええ、いいわよ」

「俺も俺も」


 男性住人が何人かビアンカの周りに座る。


「人気ですね」

「そりゃあの容姿だからね、私も若い頃は負けてなかったさ」

「え、リーサが」

「ララは私に似て可愛いだろ」

「あ、はい」


 まあ確かにララは可愛い方ではある。


 食事を終えるとケイスが近づいてきた。


「よう、お前すげーな、貴族かよ」

「まーね、でもまだ1年後だし、これまで通り遊べる時は誘ってくれよ」

「……あのさ、俺、リオンに伝えることがあるんだ」


 ほう、珍しく改まって。何だろう。


「実は、来月から東区へ行くことになった」

「へっ?」

「ほら、住人編成だよ。居住区の空きを整理してるだろ、それでウチは東区へ引っ越すんだってさ、だからリオンとはお別れだよ」

「そっかー」


 あらら、ケイスは西区から出て行っちゃうのか。


「父ちゃんか決めたことだから仕方がない。せっかく仲良くなれたのに寂しくなるな」

「そうだね、でも村にいるならまた会えるよ」

「おう、たまには遊びに来いよな! ああそうだ、ピートやロビンのことを頼む。リオンも忙しいだろうけど、たまにはあいつらの遊び相手になってくれ」

「分かったよ」

「じゃあな!」


 ケイスは去った。あれでいて面倒見のいいところあったからな。ピートとロビンは嫌々ながら付き合っても結局楽しそうにしてたし。


「ファビアンの家は東区へ行くのか」

「そうみたい」

「うまく馴染めるといいが」

「うん、大丈夫だよ。同じ村の住人だし」


 とは言え、ケイスは生まれてからずっと西区で暮らしてきた。まあ10歳になる年には町の学校へ行くから、その方が生活環境は大きく変わる。ただそれは他の子供たちも同じ境遇。今回は既にコミュニティが出来上がっている所へ入るんだ。


 それでも同年代の村の住人、共通の話題も多いはず。きっとケイスも直ぐに子供たちを集めて冒険者ごっこに勤しむだろう。そう、あっちは城壁に避難部屋があるんだ。ケイスも興味あったみたいだし、よかったじゃん。


 家に帰る。クラリーサと隠密の訓練だ。


「ふーっ」

「どうだい、何か変化は」

「いえ、特には」

「ふーむ、どうしたらいいんだろうねぇ」


 正直、ここでの訓練は全然進歩がない。それより訓練討伐で剣技を使いながらの方が、僅かながら手応えはある。ただ実際に足音消去を見れるのは大事だ。これはこれで続けていく意味はきっとある。


 あ! そう言えば。封印が妨害電波説を試すの忘れてた。そう、スキルの発動が、魂に信号を送っているのだとしたら、それを妨害しているのが封印だと仮説を立てたんだ。だからその妨害電波が弱まっている時なら覚えやすいのではないかと。


 神はサラマンダーを操った時に力を落としたはずだ。つまり封印の力も弱まり、それで治癒を覚えられたのではないかと。ガルグイユの時は忘れてて試してなかったや。ドラゴンも一緒に来てたからきっと大きく力を落としたはずなのに。


 次は忘れずに試そう。6月4日くらいだったよな。それも本当に来るかは分からないけど。


 家に帰って居間に座る。しばらくするとフリッツがやってきた。もう同伴のお願いを完全に忘れてたけど、彼はそのつもりで準備してくれている。


「父さん、母さん、行ってきます」

「気を付けてね」


 フリッツとクラリーサ、それにエマも加わって中央区へ向かう。


 ギルドへ行くとアレフ支所長がいた。


「これはリオン様、おはようございます」

「あ、はい、おはようございます」

「本日は予定通り訓練討伐が行われます。前回と同じ5班で、メンバーはクラウディア様とカルロスとパメラです。進路は、ええと、1番進路ですね。Fランクばかりですので、リオン様の敵ではありませんよ」

「は、はあ」


 うわー、やりにくい。


「あの、アレフ支所長、言葉遣いは前のままでいいですよ」

「そうはまいりません! リオン様は次期領主ご令息ですぞ、失礼に当たります。それで、シーラはもう商会へ向かっております。リオン様のお好きな時に合流してください」

「は、はい」

「行くぞ」


 フリッツの声にギルドを離れた。


「あやつは好きにさせておけ、元騎士だからな」

「そっか、そういうの厳しく教育されたんだね」


 なら仕方ないか。ちょっと調子狂うけど。


 商会の前で待機する馬車に乗り込む。クラリーサとエマはここまでだ。


「16時にギルドで待っていてくれ」

「分かったよ」

「お気をつけて、リオン様」


 エマはアレフ支所長と同じ言葉遣いだ。保安部隊3人は昨日からだからね。叙爵告知前から付き合いがあれば、クラリーサやフェデリコみたいに態度を戻すこともできるけど。まあ仕方ないか、それが騎士だし。


 馬車が中通りを走り出す。


「おはよう、シーラ」

「えっと、おはようございます、リオン様」

「あの、いいよ、前のままで、やりにくい」

「そうよね! ほら、おじいちゃん、言ったとおりでしょ」

「はっは、そうだな。じゃあワシも以前と同様に接するよ」

「はい、お願いします」


 そう、前から付き合いのある人は同じでいいよね。


「いやー、昨日は驚いたぞ、リオンもそうだが、フリッツも家令とはの!」

「ワシは村担当の家令となる、つまり東区も含めてだ。ベルンハルトにも世話になるな」

「はは、あんたが仕切ればきっといい村になる。期待しているぞ」

「だが、出来ることに限りはある」

「何を言うか、トランサイト男爵だぞ。いくらでも金が入る」

「それとはまた別の話だ」

「やれやれ、言うこと聞くのは領主だけか。ナタリアと変わらんぞ」

「それが家令だ」


 あー、フリッツも微妙な立場になってしまったな。


「ところでリオンがトランサイトを使っていた理由がこれで分かったぞ、父親が製法を発見したのだからな」

「ねえ、どうやって作るの? 聞いてるんでしょ」

「いやー、知らないなー」

「これ、シーラ、知ってても教えることはできないぞ」

「そっか、とっても大事な情報だしね」


 教えても作れる人はいるのだろうか。でも歴史上ではいたんだよな、だったら世界中にはいるかもしれない。そうだよ、100%を超える共鳴なら何とか出来る人いそう、そのあと気絶するだろうが。


 魔物の脅威に立ち向かうなら生産できる人は多い方がいい。ただ商売と考えると生産者は少ない方が大きく稼げる。んー、でも公開しちゃっても構わないと思うなー、そんなに出来る人いないでしょ。


 そもそも取り扱い商会がトランサス合金を城へ持っていく時点で、職人ならある程度は予測がつくだろう。そう、フローラは実際、共鳴に辿り着いたんだ。多分、今頃、そっちの線で試してる商会は多いと思う。


 時間の問題な気もするけどね。


「ねぇ、リオン。こうなったら士官学校へ行くよね、それだけ強いんだし。アーレンツは初等部もあるんでしょ」

「いやいやシーラ、バイエンスの貴族学園だろう」

「……俺は西区にいるよ」

「あら、そうなの? リオンなら将来、絶対騎士団長なのに」

「おいおい、シーラ、滅多なことを言うんじゃない、メールディンク子爵に聞かれたらどうするんだ」

「子爵が? どうして?」

「ゼイルディク騎士団長の任は、代々エールリヒ家が引き継いでいる。それ故、伯爵家とも繋がりが強いんだ。そこへ割って入れば色々と面倒なことになるぞ」


 へー、世襲で騎士団長なのか。それはまた騎士貴族中の騎士貴族だな。エールリヒ家に生まれたらかなり大変そう。


「そんな習わし、ぶっ壊せばいい」

「え!?」

「おいおい、フリッツ」

「実力のあるものが総指揮官であることが自然だろう。お飾りの騎士団長なぞ不要だ。リオン、シーラの言う通りお前は十分に素質があるぞ」

「えー、でも、学校はちょっと」

「まあそうだな」


 フリッツはたまに騎士団に苦言を呈すことがあるが、騎士団長にも何か思うところがあるらしい。でもそんな役目を俺に期待されるのは勘弁だ。


「それにしてもリオンは貴族家令嬢から注目されるな、ウィルム侯爵家やプルメルエント公爵家、いいや、王家からも声がかかるやもしれん……いやー、シーラと仲良くなったから将来はとも考えたのだがなー」

「おじいちゃん?」

「お前たちの子ならとんでもない使い手に育つと思ったが、流石に身分の差があればな」


 ベルンハルトはそんなこと考えてたのか。まあ、逆の立場なら分からんでもないが。


 しかし侯爵家や公爵家、果ては王家か。面倒な来訪者が増えるだろうな。


 いやでも実際、ウィルム侯爵はどう考えているのだろう。俺の能力を知っている貴族で最も爵位が高いんだぞ。他の貴族より先に囲い込むことも可能だろうに。確かにゼイルディクは魔物対応で多くの資源をウィルムに提供している、故に伯爵は物言える立場だと聞いた。


 それもウィルム騎士団へトランサイトが多く渡れば、自力で西の森を深く切り開いて、ゼイルディクに依存しない資源確保の場を手に入れることが出来る。そうなれば伯爵もそんなに強く出れないだろう。


 その時を待っているのか、或いは別の狙いがあるのか。ちょっとウィルム侯爵の動きが不気味だな。あまりに早くクラウスの叙爵を承認しているし。そう、その周知も予定よりずっと早い。そうなると何か急いでいる気もする。


 ちょっとミランダに探りを入れてもらうことは出来るかな。あの人、そういうの喜んでやってくれそうだけど。そうだよ、俺を手放さないためなら手段を選ばないはずだ。


 なんてことを考えてたらシーラが降りる地点へ到着。お、ここは4番進路だな。


「いってらっしゃい!」

「じゃあリオン、夕方ねー」


 さあ、訓練討伐。俺も頑張ろう。

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