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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
123/321

第123話 魔素飛剣と精度補正

 アーレンツ勲章授与式が終わりメルキースの大通りを北西へ進む。ほどなく広い環状交差点に差し掛かり右折した。


「さあ着いたぞ」


 ミランダの声に馬車から降りる。目の前にはコーネイン商会本店だ。


「店内で見ていろ、私は工房へ行き視察の旨を伝えてくる」


 そう告げて奥へと消えた。事前に言ってなかったのか、さっき馬車の中で思い付いたのね。まあ丁度通り道だし、特に店側の準備も不要だろう。


 俺は店内の武器を片っ端から鑑定する。


 店内に客はまあまあいるな、多分休日だから普段より多いのだろう。こういう商売は皆が休みの日こそ稼ぎ時だ。そういや定休日とかどうなっているのかな。村の商会は閉まっているところは見たことない。ここは本店だし、年中無休だろうか。


 それにしても鑑定を覚えたとはいえ、そこから全く進展がないな。それなりに色々と鑑定しまくっているが、最低限の情報しかまだ分からないや。そりゃ、剣技に比べたら訓練はやりやすいし、そう簡単にレベルも上がりはしないか。


 んー、でももし多くの種類を見ることが上達に繋がるなら、一般的な武器に使われる鉱物はほぼ終わったかも。ただ店頭在庫は剣と弓が多いから、槍と杖はまだ知らない鉱物が沢山あるな。


『カルンウェナン合金』


 と思ったら、剣でも初めて見る鉱物があったや、これは他にもありそう。帰ったらララに貰った一覧表で確認するか。


「おい、リオン、これを見て見ろ」

「何、父さん」


 クラウスに呼ばれて壁に貼ってある紙を見る。そこにはコーネイン商会の特別契約者一覧が掲示されていた。


「へー、あ! 一番上に父さんの名前があるね、俺はその下かー」


 俺の下には騎士の名前が並んでいる。


  クラウス・ノルデン

  35歳 剣士 Cランク冒険者

  リオン・ノルデン

   8歳 剣士 訓練生

 〇メリオダス・ドナート

  32歳 剣士 防衛部隊 副部隊長

 〇アメリア・ブルーキンク

  30歳 弓士 討伐部隊

 〇ナタリオ・ホフラント

  27歳 槍士 防衛部隊

 〇ローザ・グラッツェル

  26歳 剣士 防衛部隊

  ガレス・エクブラド

  19歳 剣士 討伐部隊

  ラウニィ・フルネンデイク

  18歳 剣士 防衛部隊


 うん、集いにいた人たちだね。メリオダス以下は年の順っぽいな。このラウニィまでの8人が特別待遇契約者で、武器費用を商会が全額負担してくれるんだ。

 おや、名前の横の〇は何だろう。


「父さんこの印は何?」

「騎士団勲章授与者だ、ほら横に書いてあるだろ」

「ほんとだ」


 騎士団でも勲章があるのか。ミランダによるとメルキース勲章も過去に何度か授与式があった。ゼイルディクにも極偉勲章があるらしいし、勲章にも色々あるのね。


 どんな功績かな、過去にAランク討伐を成し遂げたのだろうか。でも集いで聞いた過去に手こずった魔物は、オルトロスやキマイラだったぞ、あれってBランクのはずだ。まあ必ずしもAランク討伐が条件じゃないか。


 ここに俺とクラウスはアーレンツ勲章が加わるのか。ローザとラウニィもガルグイユを倒したから対象だってミランダは言ってたな。となるとガレスだけ勲章無しになってしまう、ちょっと目立ってやだなぁ。


 しかしラウニィって18歳なのか。そんな若さでAランク魔物ガルグイユの首を落としたとなると、かなり注目を集めるだろうな。ま、若さで言えば、俺の8歳がかなり浮いているワケだが。


 にしても俺は訓練生か。冒険者登録したはずだが、あれはやっぱりお子様専用の別枠なんだろう。まー、訓練討伐ばかりでは普通の冒険者とは言えないよね。


 なんてことを考えながら鑑定だけは無意識に進める。もうほとんど店内の武器は見終わった。本店だけにそれなりに数があったや。


「おい、リオンじゃないか!」

「え、あー、クレマン!」


 彼は村の西区出身、セシリアの兄で12歳だ。ディアナと同じラウリーン中等学校で冒険者コースを選んでいる。騎士を目指してて、来年からは士官学校へ入学出来そうと言っていたな。武器を見るのが好きで、休日には商会巡りをしている。


「なあに、知り合い?」

「いつも話してる村の子だよ、ほら、特別契約者の一覧、上から2番目のリオン」

「え! よっぽど体が大きいと思ってたら普通の子供じゃない!」


 クレマンの連れらしき女の子が驚く。


「そういやその武器、やっぱりここの展示品だったものだね」

「うん」

「いいなー、ミランデル。ところで今日はアーレンツ勲章授与式じゃなかったのか」

「よく知ってるね、今はその帰りだよ」

「いやしかし、その年で勲章とは大したものだ」

「ねぇクレマン、私を紹介してくれる?」

「これは失礼、リオン、彼女はユリアナ、一緒に士官学校を目指してるんだよ」

「初めまして、ユリアナ・ウーレンベックよ」

「リオン・ノルデンです」


 可愛らしい子じゃないか、クレマンもなかなかやるな。ただデートが商会巡りとは。まあこの世界ならではの風景なのか。


「そろそろいいかリオン」

「あ、はい、商会長」

「こっ、これは副部隊長!」


 ミランダの登場にクレマンとユリアナは胸に手を当て騎士の敬礼をする。2人の顔を見てミランダは頷いた。


「ん、契約者の一覧か。そうだったな、直ぐに更新させるよう指示する」


 更新って、ただ〇を書くだけじゃないか。あいや、それは騎士団勲章か、じゃあ◎かな。


「さあ工房へ行くぞ」

「はい、商会長。クレマン、またねー!」

「お、おう!」


 ミランダについて店の奥へ。かなり長い距離の廊下を歩く。


「ここだ」


 扉を開けると大きな広間。ざっと20人くらい作業している人が見える。ここが本店の工房か。


「エーベルヴァイン!」

「はっ!」

「先程伝えた特別契約者とその家族だ、案内してやれ。私はフリンツァーと話がある、終わったら知らせろ」


 そう告げてミランダは工房を出る。


「ワシについて来て下され」

「はい」


 エーベルヴァイン、どっかで聞いた名だぞ。あ、そうだ!


「あの、この武器の銘はあなたですか?」

「いかにも、ワシはアルフォンス・エーベルヴァイン、剣部門の責任者だ」


 おー、やっぱりそうか!


「とても素晴らしい武器です」

「そうだろう、だが武器が優れていても使い手が引き出さなければ意味がない。それはトランサス81%だ、高い共鳴率でこそ力が発揮されるぞ」

「は、はい」


 ありゃ、俺の魔力操作やトランサイトのことは知らないのか。


「商会長からは職人の仕事ぶりを見せてやれとのことだ。皆が作業している後ろを歩くが、気になったところがあれば聞けばいい」

「分かりました」


 そういう話になってるのね。でも見るのは職人の手元じゃなくて素材だ。


 それから工房を一通り回った。ここは剣部門の工房らしく他の武器種は全く見当たらない、魔物装備もないな。俺は魔石や魔物素材を中心に鑑定を訓練した。精霊石も沢山有ったので、鑑定は出来ないけど見るだけ見た。


「これで一回りした、商会長に伝えてくるから待て」

「はい」


 いやー、村の工房は補修専門だけど、ここは製造部門、やっぱりいくらか雰囲気が違うね。これはこれでいい経験になった。


 ほどなくミランダと合流して工房を出る。店内含めて約1時間は本店にいたか。


 馬車に乗り込み出発。


「どうだ、数は稼げたか」

「それはもう、ありがとうございました」

「見える情報に変化は?」

「変わりません」

「そうか、流石に時間が掛かるようだ」


 どうもここの部分は、英雄の力が作用して短期間で上達とはいかないっぽい。あくまで上限が高いだけなのかな。うーん、だとしたら人物鑑定を覚えるまで人並みに時間が掛かるかもしれない。


 鑑定を覚えた時は凄く嬉しかったけど、よく考えたらまだスタート地点みたいなもんだ。一般的な鑑定レベルの上昇期間を把握した方がいいな。フローラに聞くか。


「さて、トランサイトの取り扱い商会が明日議会で審議されるのだが、中々に興味深い展開になりそうだ」

「ほう、確か今進んでいるのはラウリーンとブラームスを除くゼイルディクの商会8つだったな」

「うむ、昨日まではそうだったが今日動きがあった。どうもルーベンスは外れるらしい」

「え、そうなのか、あそこは大手だから入ると思ったが、いやそれより、経営が(かんば)しくない噂があるんだろ? トランサイト頼みの業績回復じゃなかったのか」


 うわ、ルーベンス商会、何かやらかしたのか。


「ああそうだ、トランサイトの莫大な利益で、悪化した経営状態を一気に立て直す目算だった。故に、手広く声を掛けたが、そのやり方が遂に伯爵の許容を超えたのだ」

「値引き合戦とか言ってたな」

「うむ、他の商会が既に売買契約まで至っていようが、お構いなしに価格交渉を持ち出し、それをサンデベール中のほとんどの買い手に繰り広げたのだ」

「それは……商魂たくましいと言えば聞こえはいいが」


 えー、独占する勢いだな。でもそんなに沢山約束しても、割り振られるトランサイトの数には限りがあるのに。それで結局待たせてしまって、多少高くても直ぐ用意できる他の商会で買うんじゃないのか。


「それも自らの足で開拓をせず、他商会の外回りを買収して情報を聞き出していたのだ」

「いくら払ったか分からんが時間の節約にはなるな。コーネインの被害はなかったか」

「愚かにもはした金で情報を売り、数件の客を取られた。100億を超えていた売買契約をも反故(ほご)にしよって」

「ありゃ、それは痛いな」


 おいおい、情報管理を徹底してるんじゃないのか。


「挙句、それだけ売買契約があるからトランサイトも多く回せと言い出した。流石に伯爵も我慢の限界に達したようだな」

「あー、それは通らない」

「知っていると思うが、伯爵第3夫人の長女が3年前にフローテン子爵次男と結婚した。それからと言うもの、多少のいざこざは伯爵も目を(つむ)ってきたのだ」

「それが甘やかす結果となり、今回調子に乗り過ぎたと」

「まあ、そんなところだ」


 フローテン子爵がルーベンス商会長だよな。もちろんその商会長が強気で指示したとしても、子や側近にはどうなるか見通せる者はいなかったのか。大手なら管理職に優秀な人材もいそうだが、それもイエスマンばかりなのか。


「カルニン次期領主の話もこれで更に厳しくなった」

「おお、そういやその伯爵令嬢と結婚した次男が候補だったな」

「明日はお前の叙爵とコルホル領主の件が、ウィルム侯爵の決定事項として議会で報告される。もちろんカルニンとサガルトの次期領主の話も毎回出てはいたが、一向に進んでいなかった。そこへコルホルが先に決まるとなれば焦りも出てくる。どうなるか見物だな」

「あー、分かったぞ! こんな急に俺を叙爵させるのは、そういう算段だったか」

「ふふ、そういうことだ。侯爵も丁度いい材料と判断されたのだろう」


 なんと、クラウスの叙爵はカンフル剤みたいな効果を狙ってのことか。ぐだぐだやってると追い越されると。


「それにしてもルーベンスはこれで終わったな、立て直しどころか、信用を大きく落としてしまう」

「いや、むしろ取り扱い商会からの除外は伯爵の恩情だろう」

「そうなのか? トランサイトを売れないのに」

「大量の契約を捌けない方が、もっと取り返しのつかない事態になっていた。伯爵の意向で売れないなら、まだ言い訳が効く」

「……ふむ、そこは娘の顔を立てたワケか。しかしそれに気づくかフローテン子爵は」

「さあな、外すなと伯爵へしつこく抗議しているらしいぞ」


 あー、だめだ。


「しかしよくそんな状勢が分かるな。男爵の情報網には恐れ入る」

「フン、ルーベンス商会から伝え漏れているのだ。もはや見限ってよそへ行く準備をしている者たちからな」

「なんと、内部からも見放されてるのか」

「あの商会は遅かれ早かれだ。トランサイトに端を発して崩れていくだろう。ルーベンス商会の魅力は大手、だがそれだけだ。規模を縮小すれば誰からも見向きされない」

「……確かに、俺が利用していた理由もそれだったからな」


 シェアに胡坐(あぐら)をかいて何も積み上げてこなかった報いか。


 そんなことを話していたらメルキースの城壁が近づいてくる。馬車は検問所で一時停止した。御者が騎士とやり取りをして直ぐに出発。本店に寄ったから予定より1時間遅れ、村へは15時過ぎに到着かな。


「さて、シンクライトの件だが、昨日リオンに作ってもらった剣と弓の試験素材、伯爵から鑑定結果が届いていたぞ」

「おお、確か剣は魔素飛剣だったよな」

「うむ、まず数値面だが、トランサイトがトランサスの1.5倍だったように、シンクライトもシンクルニウムのあらゆる数値が1.5倍だった」

「こりゃまた、シンクルニウムが元々いい鉱物なだけに凄いことになるな」

「当然だ。全ての数値でトランサイトを超えている。何せレア度4だからな」


 うわー、トランサイトだけでも大騒ぎなのに、それ以上か。


「細かい数値は後でまとめて見せてやる。それで剣の特殊能力は魔素飛剣だが、具体的な計算式が分かったぞ。斬撃波を放つ条件も含めてな」

「振れば飛ぶんじゃないのか」

「それで合っているが、共鳴率21%以上が必要だ。10日前に最初の合金が伯爵の手に渡っているからな、バイエンス男爵が中心となって様々な検証をしてくれたのだ」

「それはありがたい」


 ほう、21%以上か。では20%までは普通の剣なんだな。


「確かトランサイトも11%以上で剣身が伸びていたな。シンクライトで特殊が発動するにはちょっと高めなのか」

「うむ、それで飛んでいく斬撃波、ああ鑑定結果では飛剣だったのでそう呼ぶぞ。その飛剣の計算式が、共鳴率×5となる」

「やはり共鳴率が関係するのか、それで飛剣が飛ぶ最低条件の21%なら0.21×5で1.05か、この単位は何になる?」

「メートルだ、つまり105cmだな。これに剣身の長さが加わった値が、最終的な飛剣の長さとなる。剣身50cmなら155cm、80cmなら185cmだ」


 おおー、そういう仕組か。21%なら使用者の身長に近い感じだな。そう考えるとけっこう大きいぞ。


「では25%で125cm、30%で150cm、40%で200cmか」

「その通り。それに剣身の長さが加わるのだ」

「む、では大人用の80cmで共鳴50%なら330cmか、かなり大きいな。お、それで形はどうなるんだ」

「三日月形だ」

「ふむふむ……ん? 横に薙ぎ払うのはいいとして、縦に振り下ろしたらどうなるんだ? 3mなんて身長を大きく超えるぞ」


 ほんとだ。地面に引っかかるじゃん。


「クラウスはいいところに気づくな、その場合は恐らく2mほどとなる。飛剣が生成するのは振り切ってからだ。その時に使用者の目線の高さから飛剣の中心が作られ、その延長上に地面などの障害物があればそこで飛剣は途切れるのだ」

「ほー、では、きれいな三日月形では無い飛剣もあるのだな」

「そういうことだ、魔物素材なら牙の様な形だな」


 へー、面白い。剣を振りながらじゃなくて、振ってから出来るのね。それで剣を振った角度に応じて中心から作り出されると。


「飛剣の特性はトランサイトの伸剣と同じ無色透明の魔素集合体だ。共鳴強化した剣身と同じ切断と斬撃を持つ。もちろん剣技の斬撃も乗るし、属性も付与できるぞ」

「……見えない刃が飛ぶのか、それも3mとか、とんでもないな」

「ああ、恐ろしい性能だ」


 うわ、魔物もたまったモンじゃないな。遠くで素振りしたのが見えたら自分の体が真っ二つなんだもん。これ、対人で使ったらかなり危険な兵器になるぞ。


「もちろん属性を付与すればいくらか視認できるが、高い共鳴率で放たれれば避けることは難しいだろう」

「ほう、そんなに速いのか」

「飛剣の速度も共鳴率に関係するのだ。基本となるのは切っ先の速度だがな。クラウス、お前が身体強化をして剣を振り抜けば、その切っ先の速度はどのくらいか分かるか」

「はあ? そんなの意識したこと無いぞ」

「はは、だろうな。お前なら恐らく時速200kmくらいだ、騎士や冒険者もそれ辺りが平均値となるだろう。もちろん剣身の長さや、基本となる筋力、そして魔力によってもいくらか変わる」


 時速200km! 前世でプロ野球選手が振るバットスイングは時速140km辺り、ゴルフクラブのヘッドスピードはプロで速い人でも時速180kmだった。それより速いのか、異世界の人間は体の作りはどうなってやがんだ。


 あ、俺もか。んー、確かに意識したこと無いけど、バット振るよりはかなり速い気がするな。それも身体強化が作用しているからか。しかしよく制御できるもんだ。


「その切っ先の速度が飛剣の基本速度となるが、共鳴率によって更に加算されるのだ。計算式は共鳴率×2、例えば共鳴50%なら100%となる。それが加算されると言うことは、つまり2倍だな」

「では時速400kmか」

「その通り」

「まあ、私が放つ矢よりも速いのね!」


 ソフィーナの矢は平均して時速300km、それでも目で追えないほど速いのだが、それ以上か。3mの見えない刃が時速400kmで飛んで来る。うわ……酷い兵器だぞこれ。


「そして最後に射程の計算式だ」

「まだあるのか」

「うむ、飛剣、速度、射程、この3つが鑑定結果では表示されたらしい。ああもちろん魔力共鳴もあるぞ、効率は150%だ。トランサイトが120%だからそれ以上だ」


 うは、そんな細かい計算式の元に飛剣が作り出されてたのか。


「射程は単純だ。共鳴率×100で単位はメートル。つまり50%なら50m飛ぶというワケだ」

「ほう、では51m以降はどうなるんだ?」

「飛剣は消える。ただし、50mまでは速度等、一切の減衰が無いぞ」

「なるほどね、お、途中で障害物があったらどうなるんだ?」

「それはモノによるが、飛剣が十分切り裂けるなら貫通するぞ」

「そこに減衰はあるのか」

「いくらかはある。だが、バイエンス男爵の検証では、レッドベアを真っ二つにして、後ろのガルウルフ2体も倒していたそうだ」

「そのくらいなら連続で通るんだな」


 おおー、凄い! じゃあDランク以下は楽々貫通できそうだね。


「更に興味深い検証も聞いたぞ、最初に縦に振り抜いたら、飛剣が途中までしか生成されないと言っただろ」

「ああ、三日月型が途中から切れるんだったな」

「それは地面から生えているようにも見える。もちろんそれでも進んでいくのだが、最早、飛剣ではなく走る剣になるな」

「はは、確かに」

「ただ空中とは違い地面には起伏がある。しかしある程度は柔軟に接地面を維持して進むそうだ」

「おー、では、直進では無く、上下に動くのか」

「その通り」


 うへ、なんだそれ。地面を()って迫る見えない刃、怖いんだけど。


「極めつけは階段だ、何と、上っていくそうだ」

「はあ!?」

「ある程度の段差は飛び越える、階段くらいの高さが限界らしいがな」


 飛剣、万能すぎるぞ。


「……それにしても男爵は色々と検証したんだな」

「うむ、お陰で城の訓練場がいたるところ損傷したとのこと。それで昨日から弓を検証したそうだが、これもまた、とんでもない性能だったぞ」

「何だろう、トランサイトは速度増加だったよな、もっと速くなるのか」

「いや、速度は変わらん。特殊能力は精度補正だ」

「あら? 弓技の派生スキルに軌道補正があるけど、近いのかしら」


 ほほう、スキルに似たようなのがあるのね。その強化版かな。


「ソフィーナ、軌道補正とは別物だ。あれは矢を放った後に、その飛んで行く軌道を少し変更するスキルだからな」

「ええそうよ、魔物が動くことがあるから、それに合わせて角度を変えるの」

「実際は矢も速い、そこまで大きくは変えられないだろう」

「ほんの少し動かすだけでも、到達点は5cm、10cm変わるわ、それで当たる軌道へ変えられるのよ。元々狙って撃ってるし、そんなに大きく変える必要もないのよ」


 確かにそうだよね、ちょっとでも、小数点以下でも角度を変えられれば、その先の軌道は遠いほど大きく変わる。しかしよくそんなの関与できるな、一瞬だぜ? かなり集中しないと難しそう。


「ソフィーナ、50m先の直径3cmの的に10本放って何本当たる?」

「10本ね」

「ほう、流石だな、では的が動いていたら?」

「そうねぇ……動きにもよるけど、軌道補正を使って7本くらいかしら」

「命中率70%か、50mなら十分だろう。では残りの30%を上げることが出来たらどうだ」

「それは……100%になるってこと?」

「うむ、それがシンクライトの精度補正だ」


 命中率を上げる効果なのか。


「ふむ、いまいち分からんな」

「まず計算式から教えよう、共鳴率×100÷距離だ。距離と言うのは目標までの距離、単位はメートルだ」

「じゃあ、共鳴率30%で50m先の目標なら0.6ってこと?」

「うむ、精度補正はその割合が加算される、つまり0.6なら60%増加だ。50m先の的に10本放って4本当たる腕前なら、シンクライトを握って共鳴30%を超えれば全て命中する」


 おー、そういうことね。


「でもおかしくないか? いくらなんでも100%命中するって、そんなことあり得ないだろう」

「あり得る、100%だ」

「じゃあワザと外す軌道でもか?」

「もちろんだ」

「はあ?」

「え!?」

「!」


 ど、どういうこと?


「いいかよく聞け、そのためには手順がある。まず弓を構えて共鳴させる、そして目標を目で捉えて、標的固定! と念じる。まあ実際に念じる言葉は何でも構わない、要は狙う標的が定まればいいのだ。次に矢を放つ、その瞬間の目標までの距離と共鳴率によって、精度補正が計算されるのだ」

「標的固定……よく分からないわ」

「城の弓士が色々と試した結果に導き出した。やってみれば直ぐできるそうだぞ」


 なんと、ロックオンするのか。


「ではその標的固定が出来ていれば、軌道を外れていても自動で補正してくれるワケか」

「その通り。それで信じられないかもしれないが、報告の通り伝えるぞ。正面、20m先の的に標的固定をして共鳴20%を施す、精度補正は100%だな。つまり絶対に外さない。まあ、その距離ならどんな弓でも外すことは無いだろうが」

「そうね、動いていなければ」

「それで後ろを向く、顔も体も全てだ。もちろん的は見えないし、それどころか矢は完全に逆を向いている」

「あ、ああ、そうだな」

「……まさか」


 え、もしかして。


「それで矢を放つと、標的固定した的に命中するのだ」

「はあ!? おいおい、いくらなんでもムチャクチャだ、真後ろだろ?」

「矢の軌道はどうなの?」

「矢は放った直後、弧を描いて後ろに飛んでいくそうだ」

「……なんだそれは、聞いたことが無いぞ」

「当然だ、この世界に存在しなかった弓の力だからな」


 何と言うぶっ飛んだ性能。最早、弓矢ではない。


「尚且つ、的を動かしても同じ結果だった。つまり、一度魔物に標的固定をすれば、共鳴率と距離によっては100%命中するのだ」

「速度はどうなんだ?」

「初速と目標到達時は同じだ。もちろん軌道を大きく変える場合はいくらか減速するが、目標に近づくと加速し初速へ戻る」

「は、はは、何だそれは」


 なんと、動いている的も狙えるのか、完全に自動追尾だな。ホーミングミサイル、いやアローか。これはしかし、対人兵器としてもかなりのものだぞ。


「更にもう1つ聞いた検証が興味深い。まず的を標的固定する、そして四方を板で囲むのだ、上は塞がない。距離は20m、もちろん精度補正100%になる共鳴を施す」

「もしかして、当たるのか」

「うむ、放たれた矢は一度板の周りを回って上昇、塞がれていない上空から真っすぐ的に突き刺さったそうだ」

「なんだ、それは、まるで矢が生き物のようだ」


 うわ! とんでもない暗殺兵器じゃないか。


「遮蔽物の検証は現在も行っている、また違った結果になるやもしれんが」

「商会長、これは売る相手もよく考えないといけないのでは」

「……それは伯爵が決める」

「おいミランダ、これを人に向けたら大変なことになるぞ」

「ああ、もちろんだ。従ってこの件は極秘中の極秘とする。魔素飛剣含めてな」

「分かった」

「ええ」

「はい」


 こりゃシンクライトはトランサイトと同じように量産しない方がよさそうか。いや、正しく使えばいいんだけど、ちょっと怖いな。視界外から矢が飛んで来る、しかも確実に当たる。そんな武器、悪用されればやっかい極まりない。

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