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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
118/321

第118話 クラウスの実家

 監視所を出ると商会の馬車が目に入った。


「シーラたちはもう乗っている」

「お待たせしました」


 フリッツと足早に馬車に乗り込む。ベルンハルトが護衛に声を掛け、馬車は出発した。


「リオンは調子どう?」

「え、うん、順調だよ、シーラは?」

「私も順調よ、今日もグリーンラクーンを一撃で倒せたし」

「もうヘルラビットもやれそうじゃない」

「うーん、まだ2発は必要ね」


 それでもシーラなら近いうちに達成できそうだ、本物の天才なんだから。


「あの地図は良かったか」

「うん、先生。監視所周辺の環境がよく分かりました。中継所って沢山あるんですね」

「そうだな、小さい施設も含めれば北西部だけで100以上あるだろう」

「へー、そんなに!」

「何だ、中継所か。はは、懐かしいのう」

「ベルンハルトさんも昔は森に入ってたんですよね」

「無論だ。東区が出来て移り住むまではな」


 おー、では戦う農民として、この村の最古参なのか。


「ワシは今の監視所を拠点に活動しておったの」

「あれ、騎士団の施設なのに? ベルンハルトさんは騎士だったの?」

「いやいや冒険者だ。24年前、監視所は駐留所だったのだよ。だから多くの冒険者がそこを足がかりに奥地へと向かっていた」

「そっかー、まだフェスク駐留所が出来てなかったんですね」

「お前さんはよく知っておるの、ああそうだ、あそこはまだ小さい中継地点だったな」


 なるほど、いきなり奥地に大きな施設は作れないからね。少しずつ広げて行って、同時に町へ近い拠点から大きくしていったんだ。


「先生も入ってたの? あ、その頃は騎士でしたっけ」

「いや、東区が出来た頃なら教官だな」

「フリッツも冒険者を続けていれば最奥地へ行けたのに、何しろBランクだからな。ワシなぞはその1つ手前だ」

「あ、ランクによって行ける所に差があったんですね」

「そうだぞ。前日の夕方にな、ギルドで翌日利用する中継所の予約をするんだ。それで町から近い拠点から埋まっていくんだが、Bランクしか行けない中継所はいつまでも空いていたぞ」

「へー」


 そういうシステムなんだ。魔物の討伐依頼を貼り出しているんじゃなくて、利用する拠点を先着で予約するのか。


「Bランクしか行けない最奥地は、やっぱり強い魔物ばかり出るんですね」

「いや、実際そうでもなく、E~Fランクしか出ない日もあるぞ。もちろんCランクの大型も出る時もある、つまり何が出るか分からない」

「あー、まだ調査が不十分だと」

「うむ、だから何でも対応できるBランクに行かせるだけの話だ」


 なるほどね。でも遠い最奥地まで行ってヘルラビットばっかりだったら嫌だなぁ。あ、だから予約が埋まらないんだ。


「もしかしてあんまり行きたくなかったとか」

「それでもBランクは月に何度か最奥地へ行かなくてはならない。リオンよ、運よく大型の、そうだな、マッドマンティスが出て倒せたとしても、その素材を運ぶのだけでも一苦労だったぞ」

「うわ、大変そう」

「未踏の地形ばかりで、どこが歩けるのかすら分からんからな」


 ある意味、進路を開拓する最前線まで担っていたのか。ふふ、ミランダも冒険者の頃はそんなことやってたんだ。


「じゃあ労力の割に稼ぎはそうでもなかったんですね」

「いや、精霊石はそこら中に落ちていたからな。だからと言って下ばかり見て歩くわけにもいかんが」


 そっか、そこは最奥地ならではの特権だよね。


「さあ、昔話はここまでだ、村へ着くぞ」


 ギルド前で馬車は止まる。御者と馬に礼を言って受付へ向かった。


「おかえり! どうだった?」

「順調に進めましたよ」


 クラウディアが怪我をして離脱したけど、貴族令嬢がそんなことになったのは言わない方がいいだろう。誰が聞いてるか分からない。


「次は26日です」

「そう、じゃあ前日に確認しに来てね」


 グロリアへの報告が終わりシーラとベルンハルトは奥の掲示スペースへ行く。


「リオン、またね!」

「うん、ばいばい、シーラ」


 俺は毎回用事があると言うのでシーラはもう誘ってこなくなった。


 商会へ向かう。


「いらっしゃいませ! あ、お帰りなさいませ」

「商会長を呼んでくれ」

「畏まりました」


 フリッツの頼みを聞いてララは奥へと消える。お帰りなさいって、村へ帰って来たからだろうけど、まるで商会に住んでいるみたいじゃないか。まあ、村でいたら大半ここで過ごしてるのは間違いないが。


「帰ったか、そのまま工房へ来ればいいのに」

「重要な案件がある」

「!? ブレターニッツ、商会長室へ共に来い」

「はい!」


 ミランダは一瞬、大きく目を見開く。


 2階の商会長室へ入る。ブレターニッツは音漏れ防止結界を施し去った。


「さて、聞かせてもらおうか」


 フリッツは俺が剣技を覚えたことを説明する。レベル11相当であること、武器庫で共鳴試験をしたことなども伝えた。


「はは、流石だなリオンは」

「商会長、クラウディアが怪我をしました」

「何! 詳しく話せ」


 エルグリンクスに腕を引っ掻かれたこと、エリオットがポーションで治療したこと、そして治療士に預けて問題なかったことを伝える。


「……ふむ、よく分かった」

「パーティリーダーの指示とは言え、あの場面は俺が判断して動くべきでした」


 うん、明らかにキツそうだったからね。


「すみません、側にいながら」

「勘違いするな、お前はクラウディアのお守りではない」

「え……」

「あれもそのくらい覚悟をして森に入っている。エリオットも見ていたのだ、それでその結果なら仕方あるまい。クラウディアには状況判断についてよく指導しておく、まあいい経験になったろう」

「……はあ」


 うーん、俺のせいじゃないと言ってくれてるのだろうか。まあ、あまり気にかけていたらクラウディアもやり辛いだろうし、リーダーという立場もある。


 でも本当に危なかったら俺は行くぞ。うん、次こそ自分で判断して仲間の危険を回避するんだ。俺にはそれだけの力がある。今回がいい経験とは俺にも当てはまるな、出血を見てドキドキしたもん、魔物はランク関係なく怖い。


「さあ、工房へ行くぞ。今日はシンクライトを生産してもらう」

「あ、はい!」


 そうだったね、フローラも心待ちにしてるはずだ。


 にしても怪我をしたと聞いたら流石に心配そうだった。厳しく躾けててもそこは母親か。思い出せば駆け寄って来るエリオットも凄い形相だった、愛する娘だもんな。子供に強くなって欲しいけど、その加減は難しいものだね。


 まあこの世界にはポーションも治癒スキルもある。だから子供でも魔物と実際に戦って訓練できるんだ。それが無かったらあんな傷、何針も縫って全治2週間以上、そして傷跡も残るもんな。


「お、来たね」

「こんにちは、フローラさん、工房の皆さん」


 休憩スペースに座る。


「音漏れ防止結界は出来てるよ、それで剣からいくかい」

「はい」


 はは、そわそわしてるね、遅くなってごめんよ。


 机の上の剣を鑑定する。


『シンクルニウム』


 うん、合金じゃない。100%の試験素材だ。


 構えて魔力を少し流す。訓練討伐で使っているから随分と扱いに慣れた。きっともうトランサイトに近い感じで共鳴変化できるはず。そして剣技もあるんだ、負担もかなり抑えられるぞ。まずは100%まで上げて、変化共鳴だ。試験素材なら110%で変わるはず。


 いくぞ、剣技発動!


 キュイイイイィィィーーーン


 いいぞ、一気に100%、そして全然辛くない。


 ギュイイイイィィィーーーン


 110%、変わった!


 シュウウゥゥーーン


「ふー、終わりました」

「鑑定するよ」

「はい」


 フローラは剣身を見つめ笑みがこぼれる。


「……鑑定不能だよ、ああ、レア度4の製品を見ることが出来るなんて」


 俺も鑑定してみる。


『鑑定不能』


 ほんとだ、俺も早くレア度4を鑑定してみたい!


「成功したようだな、疲れはどうか」

「少し息切れがします。10分下さい」

「ああ、いいぞ、では2本目も可能か」

「はい、商会長。ただ剣よりは大きく疲労するので次が今日は最後です」

「構わん、以前は剣のみで動けなくなったのだからな、短期間で素晴らしい進歩だ」


 ソファに座る。ほんとだよ、あの魔力が吸われる感覚が今回は無かった。もう完全にシンクルニウムを制御出来たぞ。問題は剣じゃない武器種でどうかだ。


 しかし、剣技は凄いな。共鳴は強化だけじゃなくて変化にも効果があるみたい。あ、そうか、推奨レベルだ! シンクルニウムの剣技推奨レベルは8、俺の剣技は11らしいから、やっと正しい使い手と武器の組み合わせになったんだ。


 まあ不一致による負担は元々感じなかったけど。それでも何かしら影響はあったはずだ。それも異常な魔力操作でねじ伏せてたのが、これでちゃんとした適性になったんだ。つまり武器性能を正しく引き出す本来の環境が整ったと。


 それでトランサイトもあんな軽々と生産できたんだな。


 凄いなスキルは。これは他の槍技や弓技も覚えれば、劇的に生産効率が上がるぞ。どうしよう、次の訓練討伐は。剣をこのまま使って剣技を伸ばすのも選択肢ではあるんだがな。まあ、明日アーレンツ勲章授与式があるから、行く時に馬車の中でミランダに聞こう。


「そろそろ出来るか」

「はい」

「では弓を頼む」


 弓か、剣は魔素飛剣だったけど弓はなんだろう。ここでは見えないんだけどね。


 構える。


『シンクルニウム』


 うむ、100%の試験素材だ。さあ、どうか。シンクルニウムには慣れたが弓技が無い。うーん、ちょっと怖いな。でもやってみないと分からない。


 いくぞ!


 キュイイイイィィィーーーン


 くっ、一気にけるのは80%くらいまでか、でも40%は余裕で突破した。


 キュイイイイィィィーーーン


 90%、100%、よし、できた。ひー、きついなー。


「無理はするな」

「……」


 いや、無理ではない。辛いけど出来る!


 ギュイイイイィィィーーーン


 103%、106%……もう少し。


 ギュイイイイィィィーーーン


 110%! よし、変わった!


 シュウウゥゥーーン


「ふー、はー」


 ソファに沈む。うひー、辛い。でも思ったほどじゃないぞ。


「フローラ」

「……鑑定不能です」

「うむ、よくやった。史実にもない弓が今ここに誕生したぞ!」


 ああ、そうか、剣は英雄ブラスが使った可能性があるもんね。弓は史上初か、はは。


「あんたって子はとんでもないね」

「へへ……」


 一応、俺も鑑定をば。


『鑑定不能』


 くー、早く見て見たいなー。


「2本とも直ぐに伯爵へ届ける。明日には詳細が分かるだろう」

「商会長、明日は何時に来ればいいですか」

「予定通りアーレンツ勲章授与式がある。少し早いが8時にここを出発するため、朝食後に直ぐ中央区へ来て服を着替えろ、クラウスとソフィーナには伝えてある」

「分かりました」

「授与式自体は1時間もかからん。昼食はアーレンツで済ます。ここへ帰って来るのは14時くらいだろう」


 確かディアナに叙爵を説明するんだよね、アーレンツ子爵自らが。あと、ビクトリアも来てくれるんだったよね。


「ここでの仕事はそれからだ、……無事に帰って来られればな」

「はい」


 無事に。そうだ、サラマンダー襲撃から明日で10日。ミランダの予測が正しければ神の仕向けたAランクの魔物が襲ってくる。もちろんそれを見越して戦力を整えてくれるが、はたしてうまく迎撃できるだろうか。


 もちろん来ない可能性もある。その方がいいのだが。


 ゴーーーーーン


 夕方の鐘だ。


「おじゃまするよ」


 クラリーサが工房へ入って来た。


「では解散だ」


 ミランダはシンクライトの剣と弓の試験素材を持って工房を後にした。直ぐに伯爵の城へ行くんだね。ほんと忙しいなこの人は。


「行くぞ」


 フリッツの声に立ち上がる。クラリーサと共に西区へ向かった。


「お、来たな」


 クラウスが搬入口前で待ってる。


「あ、花壇ができてる」

「おお、そうだ、母さんがベラやエリーゼたちとニコニコしながら苗を植えていたぞ」

「ミーナも楽しみにしていたからな」


 良かったね、楽しみが増えて。こういう施設はそこまで多くの費用はかからないだろう。それでもあるとないとでは好きな人にとって全然違う。もしかしたら生き甲斐にもなるかもしれない。きっかけはソフィーナだけど、直ぐ動いてくれた子爵に感謝だね、明日、改めてお礼を言おう。


 夕食を終え、風呂も済ます。例によってクラリーサが3時間の音漏れ防止結界を施してくれている。


「ふー、いい湯だった。それでブラード家が風呂から上がったらカスペルとイザベラがウチに来る。昼間にウィルム侯爵の使いから聞いた俺の実家関連について伝えるからな」

「じゃあそれまで俺が話をするね」

「今日の訓練討伐かしら」

「それもだけど、父さん、母さん、重要な案件があるんだ」

「お!」

「まあ!」


 その言葉で直ぐに分かったらしい。俺は剣技を習得したこと、それによる共鳴の負担激減を伝えた。


「……なんてこと、リオン、あなた、本当に素晴らしいわ」

「いやはや、神の封印ってそんな簡単に解放できるもんなのか」

「鑑定に続いて剣技もだからね、隠密は時間が掛かってるみたいだけど、そこまでではない気がするよ」

「一体どうしたんだ?」

「何と言うか、コツを掴んだかな」

「そうか、凄いんだな、お前は」


 魂から呼び出すって、前に言った時あんまり伝わらなかったもんね。こんなの具体的に表現できない。多分、この感じは俺にしか分からないだろう。


「こんばんは」

「おじゃましまーす!」


 カスペルとイザベラだ。

 クラウスが手招きすると2人はソファに座った。


「すまないな来てもらって」

「なあに、大事なことだ」

「そうよー」

「さあでは俺の実家関連の現状を話そう。かなり多いから1回では覚えられないぞ、ベラの実家の3倍くらいあるからな」

「えー、それは無理だわ」

「だからあまり薄いところは参考程度に聞いてくれ、恐らく屋敷にも呼ばないだろう」


 そうだね、広げてもキリがないし。


「それで説明するのはソフィーナだ」

「ほう」


 ソフィーナはA4ほどの羊皮紙を机に置いた。沢山文字が書いてある。


「覚えきれないからと控えた紙をくれたんだ。大体は読めるが、もし間違って伝えたらいけないので頼むことにするよ」

「ふふ、任せて」


 ああ、そういうことね。


「それで説明のために父さんをクラウスと呼ぶことにするわ、その方が分かりやすいから」

「ああ、好きに呼んでくれ」

「じゃあ始めるわね。クラウスの実家はウィルムの東の方、ヴァステロース子爵領のクノックって地域にあるわ。宿泊業を営んでいて、部屋数は10、うち4人部屋が6、2人部屋が4よ。主な宿泊客は冒険者、近くに未開拓で維持してる山があって、そこへ魔物討伐に向かう冒険者によく利用されてるそうよ」


 へー、家族経営の割にはまあまあ客室あるな。いやでも定員32名だったら前世のリゾート地にあるペンションくらいか。


 それで未開拓の山ね。多分、素材や精霊石を確保するためなんだろう。その近くなら立地はいいと言える。


「経営状態は問題ないわ、まあ良くも悪くも無いってことね。15年前に建て替えたからあと15年は持つそうよ。その時いくらか借金したけど10年前に完済してるわ」


 釘の定着期間絡みだよね、それで30年持つんだ。借金は念のためかな、一気にお金が無くなると不安だもんね。まあ5年で返せてるならそれほど大きな金額じゃなかったのだろう。


「経営者ゴードン・ノルデン65歳、その妻はミリアム60歳、子供は2人で、長男マティアス37歳と次男クラウス35歳よ。マティアスの妻はエリサ35歳、子供は2人で、長男ディック15歳と次男カレル14歳よ」

「おお、ゴードン、確かそんな名だったの」

「じーちゃん、会ったことないの」

「村でおったら出られんからの、向こうも自営業で休めんだろ」


 ふーん、お互い動けないから仕方ないのか。でも息子、娘が結婚するのに親が顔も合わさないなんて、それがこの世界では通るんだ。いやでもどちらかの実家近くに住むのが当たり前なんだよな。そういうところは家族の繋がりが強いのに、変なの。


 まあ単純に忙しくて遠い、それだけなんだろうな。


「宿泊した冒険者の評判はいいわ、特に料理がおいしいって。私も食べてみたいわね」

「呼び寄せたら食べれるじゃない」

「そうだがな、ベラ、本人たちが拒否したら俺は何も言えん。そっちの実家と同じように最長1年は領主が護衛をつけるそうだがな」


 ヴァステロース子爵が手配するのか。またまた地元の貴族に世話をかけてしまうな。


「えーでも男爵の実家よ? 両親と兄夫婦なんだから流石に身分を考えてくれると思うけど」

「まあな、俺も側にいてくれた方が安心だ。それに屋敷に来たって宿屋と同じような仕事はある。何せ、エスメラルダと同等の客室をいくつも抱えないといけないからな」

「あー、そっか、貴族とか泊まりにくるんでしょ」

「そういうもてなしを客人は評価するんだとよ、それで帰ってからあちこちに言いふらすそうだ」

「いやー、怖いわ」


 ひいい、それはちゃんとしなきゃね。あ、そっか、だから段々と豪華になって、終いには高級宿と同等になったのか、それなら不満は出ないだろうと。うーん、でも実家の人、冒険者相手が貴族相手に変わるのは大丈夫かなー。


「じゃあ続けるわよ」

「ああ、すまん」

「クラウスの父親ゴードンには弟がいるわ、モロドフ64歳ね。でも彼の消息は不明なの、30年くらい前にウィルムにいた記録が最後らしいわ。冒険者をしてたから違う町へ行ってしまった可能性が高いそうよ」

「ウィルムにいる頃には何度か父さんの宿へ泊まりに来たらしい。俺も会っているそうだが、全然覚えてないんだよな」

「もう、そこまでなれば他人に等しいぞ。恐らく出ても来ないだろうて」

「ああ、俺もそう思う」


 30年前ってクラウスは5歳か、それは覚えてないな。まあもし出てくるならその時に考えればいいだろう。


「ゴードンの妻ミリアムには兄と妹がいるわ。実家が同じクノック地域にあって、少し馬車で走れば行ける距離よ。実家の家名はイーデンスタム、ミリアムの兄ユリウス62歳が継いでいるわ、ユリウスは魔物素材の鑑定士、近くのギルドで今も働いているそうよ。ユリウスの妻はバルバラ58歳、夫と同じ冒険者ギルドの口座管理所で働いてるわ」


 ほー、夫婦で冒険者ギルド職員なのね。


「2人共、勤務態度は良好。勤務外でも悪い噂は無いそうよ。それで子供は2人いて、長女マリベル40歳と長男キース38歳、キースは木工職人で結婚して近くで住んでいるわ、妻がミネルバ36歳、子供は3人ね」

「へー、木工職人」

「主に家具を作っているみたいね。ミネルバは今は雑貨商会で働いていて在庫管理などをしてるそうよ、子供は10~15歳でみんな学校に行ってるわ」


 親兄弟となると、その子や孫の年代も同じくらいになるね。


「それでキースの姉マリベルなんだけど、15年前に離婚してるわ、原因は夫の借金。返済が滞り借金奴隷となってアルカトラへ、12年前に奴隷契約が終えたけどウィルムには戻っていないそうよ」

「奴隷3年か、ならそこまで大金じゃなかったようだの」

「でもそんな人とは、もうよりは戻さないでしょうねー」


 借金奴隷! そんな制度がこの世界にはあるのか。どんなことさせられるんだろう、3年もだよね、肉体労働かな。そして罪人の町アルカトラか。奴隷経験は職を探す上でどう影響があるのだろう。もうそういう人たちが集まったアルカトラで生涯を全うするのかな。


「マリベルはクノックの隣りのハッセルト地域で服飾商会で働いてるわ、彼女には娘が2人いて、長女レナ20歳は浄水士としてノルデン家の宿屋で働いてるの」

「おお、そうなのかい」


 へー、身内を雇ってるのか。浄水士ね。トイレの水や風呂の湯を管理してるのかな。20歳って若いのに大したもんだね。きっと才能があったんだろう。


「次女のリーリア18歳は冒険者をしてるわ、クノックのギルド支部に登録してるから、たまにパーティでノルデンの宿屋にも来るそうよ」

「ほほー、その子も近くでいるのかい、そりゃ安心だの」


 元夫は問題ありだったけど、マリベル母子は普通そうだね。


「後はミリアムの妹と、クラウスの兄マティアスの妻エリサの実家、それから父さんの弟クヌートの説明だけど、今日は遅くなったから明日にするわね」

「そうだの、一遍に聞いても覚えられんしの」

「じゃあ義父さん今までの覚えてるの?」

「……ゴードンは覚えたぞい」


 俺もちゃんと覚えてない。少しずつ、血の濃いところからでいいや。


「でわの、明日も同じ時間にくればいいか」

「そうだな、ベラも頼んだぞ」

「分かったわ、おやすみー」


 カスペルとイザベラは去った。


 でも浄水士のレナって俺から見たら遠いよな。父親クラウスの母親ミリアムの兄ユリウスの娘マリベルの娘か。祖母の兄の孫だな。うーん、遠い。それでもクラウスの実家に勤めているから説明したんだろう。こっちに呼ぶなら候補になるからね。


 しかし浄水士ってギルドで職場を割り振るんじゃなくて、希望も通してくれるのか。それかフリーの浄水士みたいな制度もあるのかな。公務員っぽい印象だったけど、資格があればどこでも働けるのかもね。


「ミランダから明日のことは聞いたか」

「うん、8時に村を出発だよね」

「ああ、だから朝食が終わったら直ぐ中央区へ行くぞ」

「ディアナとも会えるのが楽しみだわ」

「そうだね、ねーちゃん、ビックリするだろうなぁ」

「……遅かれ早かれだ、受け入れてもらうしかない」


 貴族令嬢か。生まれた時からならまだしも、10歳で急にだもんな。クラウディアやビクトリアは物心ついた時から貴族としての教育を受けている。もしそうでなかったらどんな子に育っていたのだろう。


 ベッドに入りおやすみの挨拶を交わす。明日もこの時間に安心して休めるといいな。展開によっては治療施設のベッドかもしれないんだ。でも俺は剣技を覚えた、もし何か来ても前の様にはならないぞ。

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