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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
116/321

第116話 剣技スキル

 訓練討伐。5班は前回と同じ監視所東の進路。その往路の途中、クラウディアが負傷したため訓練を中止し引き返していた。そこで遭遇したヘルラビットに放った一撃が、これまでとは大きく違う。


「どうした」

「先生、重要な案件があります」

「!?」


 近くでヘルラビットを倒したフリッツが、俺の雄叫びを聞いて問い掛けてきた。重要な案件。それだけで意味が分かったはずだ。この言い回しは俺の力について大きな進展があったことを意味する。


「部隊長!」


 フリッツがエリオットを呼び近くに来る。


「リオン、話してみろ」

「部隊長、先生、俺は剣技を覚えました」

「なんだと!? 封印を解いたのか!」

「はい、間違いありません」


 ここまで言い切っていいものか、しかしあの一撃の根源はその他に思い付かない。鑑定を発動したと同時に、魂の奥底から別のスキルが発動する感覚が確かにあったのだ。


「ひとまず監視所へ帰るぞ」


 素材を回収し5班は街道沿いの草原へ出る。そのまま真っすぐ監視所へ向かった。


「クラウディアは治療班へ預ける。お前たちは食堂で待機しろ、午後の予定は追って伝える」

「リオン、助けてくれてありがとう」

「あ、うん。仲間だからね、当然だよ」


 クラウディアとエリオットは施設の奥へ消えた。あの場合、彼女の意向に反して援護をするべきだったか。もし腕ではなく顔をやられていたら、そうだ、喉を切られていたらポーションを飲むことも出来ない。


 そうなったら俺が治療するしかないが、治せる確証はない。正しい選択とは何を基準に行えばいいのか。魔物はそんなに考える猶予をくれない。


 5班の面々が食堂へ入った後にフリッツが言葉をかけてくる。


「リオン、気に病むことは無い。聞けばクラウディアが制止した結果ではないか。パーティリーダーの判断に従っただけだ」

「はい、先生」


 そうか、クラウディアはリーダー。その指示と考えれば最初に行かなかったのは正しい選択だったのか。


「そしてよくあれを使わなかった、皆の知らないスキルの行使は控えて正解だ」

「……はい。部隊長がポーションを持っているのは知りませんでしたが、まず知らせることが優先と判断しました」

「まあこの訓練討伐なら情報の制御はできる。だが冒険者のパーティなら次から当てにされるぞ」

「あ、そっか」


 なるほど。治癒持ちが知れると怪我をしたら任される。いやむしろ怪我をしても治してくれるから多少の無理が出来る。ポーションのような消耗品ではない、無料で何度でも治せるんだから。パーティメンバーに治癒スキルがあることは、かなり影響が大きいな。


 食堂へ入り席に着く。まだまだ昼の鐘までは時間がある。


「午後からどうなるかな。3人でも行けそうな気がするけど。リオンは何人分もの力があるし」

「部隊長に任せるよ」

「それにしても最後のヘルラビットを倒した一撃は凄かったな、遠目でもよく分かったぞ。お前は本当にこの進路で合ってるのか?」

「え、うーん、部隊長に任せるよ」


 全部エリオット判断にして逃げる。


 でもカルロスの言う通り、剣技を覚えた以上、この進路ではあまりにも過剰戦力だ。ただでさえシンクルニウム60%での一撃なのに、剣技が加わればかなりのオーバーキルとなる。そもそも剣技習得のための進路だ。その目的が達成されたのだから今後どうするんだろう。


 ただ剣技を磨くのも実戦だ。実際、あの一撃だけでは、まだ剣技を使いこなしているとは言えないし。ならば班や進路を変えて引き続き訓練か。あ、そうだ、槍や弓に持ち替える選択肢もあるな。それがシンクルニウムなら共鳴にも慣れることができる。


 でもそれに取り組むのは次回以降だな、槍や弓は持ってきてないし。そもそもいきなり実戦で使えるはずがない。特に槍なんかはどうやって立ち回るのかさっぱり分からんぞ。


 あ、エリオットが来た。


「皆、待たせたな。クラウディアは治療士が対応し全く問題ない。ただ完治までは時間を要するため今日のパーティから外れる」


 それは仕方ないね。治療は仮の状態だから自分の魔力で定着させないと。


「そして5班の予定だが、3人で午後もあの進路を行くことにするがどうか」

「俺は行けると思います、リオンが強いので」

「私も問題ありません」

「2人がそう考えるなら合わせます」


 やっぱり行くのね。正直、俺は1人でもいけるだろう。だからカルロスとパメラの意向に合わせればいい。2人にとっても貴重な訓練討伐の機会だからね。


「よし、ではリーダーはカルロスとする。昼食後12時30分に監視所前に集合しろ」

「はい!」


 エリオットは去った。何だかこういうの前にもあったな、クラウディアが熱を出した時だ。


「まだ昼の鐘には1時間ほどあるな、カルロス、身体強化の訓練でもしたらどうだ」

「うん、そうだね、パメラやリオンも行く?」

「行く」

「あー、じゃあ俺も」


 トビアスの提案に5班の3人は乗ることにした。


 監視所の城壁前に出る。カルロスは身体強化と共鳴をして立ち回り、パメラは弓を構えてイメージトレーニングをしている模様。じゃあ俺も立ち回りやるかな。


「先生、見てて」


 さっきのヘルラビットへの一撃を思い出す。いや、まずはそこまでの流れからだ、魔物の突進を避け、追いかけて方向転換に切り込むところまで。


 シュタッ、タッタッタ、ブンッ!


 お、なるほどそういうことか。ヘルラビットがそこにいるイメージで剣を握ると、体が勝手に動く感じがした。そして切り込むと意識したら最適な太刀筋が見える。いや、間合いを詰めている時から準備している感じか。


「いいぞ、それが剣技だ」

「先生、これはつまり、身体強化した自分の体、共鳴強化した武器、魔物との距離、地形、魔物の状態、威力の出る角度、それに必要な筋肉、そういったあらゆる要素から、最適な流れを瞬時に導き出して実行する、それが剣技なんですね」

「その通り」


 どれが剣技じゃなくて全部剣技なんだ。それら全てが少しずつ合わさって完成する。そしてそれを考えず自然とできる。スキルとはこういうことなのか。


 もう一度やるぞ。


 シュタッ、タッタッタ、ブンッ!


 それを俺は何回か繰り返す。


「ふー」

「次はエルグリンクスでやってみろ」

「はい」


 エルグリンクス、体長1mのオオヤマネコだな。


 跳び掛かりからの引っ掻き、それを避ける、3度目の引っ掻きに大きなスキができた。切り込んで首をはねたぞ。


「どうですか」

「ダメだ」

「え、どの辺が」

「全部だ、剣技は使えているがまだまだ甘い」


 むむ、そうなのか。エルグリンクスがいるのを想像して立ち回れたはずなのに。あの魔物は何度も見た。大体の動きは分かっているんだけどな。


「午後からエルグリンクスに遭遇したら剣技を使ってみろ、それで分かる」

「あ、もしかして、あの魔物に剣技を使った経験が無いからですか」

「その通り。だから想像でいくらやってもスキルは効果的に使えない」


 なるほど、実際に対峙してその過程全てを肌身で感じないといけないのか。剣技とは実戦で身につく、そういうことね。


「そして例えばそのエルグリンクスと1回戦うより2回、2回より3回、回数を重ねるほどに様々な状況下での経験が身につく」

「あ、剣技は実戦で鍛えられる」

「うむ」


 そうか、そうか。色んなパターンで剣技を発動するうちに、その魔物に対しての最適な動きが突き詰められていくんだ。


「少し早いが昼食の準備が出来たぞ」


 エリオットが伝えに来てくれた。5班は食堂へ向かう。

 カウンターで食事をトレーに載せ席に座る。少しずつ騎士の姿が増えてきた。


 あ、これは、鑑定を訓練するチャンスではないか。いやまあ、人が持っている武器だとどうにも抵抗があったのだが、それは村での見知った住人の話。ここの騎士なら名前も顔もほとんど知らない。


 それにこの食堂の椅子には背もたれの後ろに武器を据える個所があるので、通路を歩けば両側に背中を向けた騎士と、座る椅子の後ろに武器が並んでいる景色となる。つまり顔を見ずに武器だけ見ることが出来る環境なのだ。


 尤も、剣や槍は鞘に納めているから鑑定できるのは弓と杖だけになるけどね。それでもかなりの数だ、食事が終わったらウロウロしよう。


「午後の戦い方を決めよう」

「うん」

「そうだね、カルロス」

「魔物が現れたらリオンは突っ込む、あとは臨機応変だ」

「え、そんなんでいいの」

「色々決めても結局はそうなる」

「まあね」

「分かったわ」


 作戦とは言い難いが相手がいることだしね。臨機応変って便利な言葉だな。


 食事が終わって皆トレーを下げる。


「俺、ちょっと用事があるから、先生も来て」

「なんだ」

「一緒に歩いて下さい」

「……うむ」


 それから食堂を一通り周った。1人で歩いていると何かあるといけないからね。騎士団施設なら心配ないけど念のため。


「ふー、満足満足」

「そうか、訓練か」

「あ、分かった?」


(ミランダから聞いた。鑑定だろ)

(そう、フローラが数をこなせばいいって)


「ならここはいい環境だな」

「でしょ」

「部隊長に事情を話せば武器庫も見せてくれるだろう」

「おお、それはいい」


 言われてみれば、ここならそういう部屋もあるよね。まあ今日のところは時間も無いし、次回からで。


 監視所前に到着。集合時間まで10分くらいあるな。

 あ! 監視所を囲む城壁! これも魔素由来だろうか。


「ちょっと行ってくる、直ぐ戻るよ」


 城壁を鑑定。


『石』


 やっぱりだ。うひょー! 監視所って鑑定訓練にいい環境だな。

 それからひたすら城壁の石を鑑定する。


「何やってんだ、リオン」

「あ、部隊長! これは鑑定の訓練です」

「鑑定? おお、そうか! ミランダから聞いたぞ。それで何が見える」

「石です」

「……まあ城壁は石だな」


 いやまあそうなんだけど、多分、レベルが上がれば定着期間も見えるようになるんじゃないかな。


 5班に合流。


「リオン、城壁見上げて何してたんだ」

「いやー、高くて立派だなーって」

「村にもあるって聞いたぞ」

「カルロス、ここの城壁はちょっと違うんだよ、積み方といい、石の質感といい」

「……変なこと好きなんだなお前」


 城壁マニアと思われるのはむしろ好都合だ。張り付いてても全く不自然ではない。


「では、行くぞ」


 エリオットの言葉に街道沿いの草原を歩き出す。ほどなく進路の入り口に到着。午後の訓練開始だ。


「よーし、5班出発!」

「おーっ!」


 進路を進む。しばらくすると左カーブ、そろそろだな。


「ヘルラビット3体! リオンは右と真ん中を頼む」

「うん」


 まずは右の少し森に入った個体に向け走る。


 シャーッ


 気づいてこちらへ突進する。剣技発動! よし、見えた!

 すれ違いざまに少し体に切り込み、魔物は体勢を崩す。そこへ一気に近づき首をはねた。


 スパアアァン!


 よーし、次! 進路へ出て2体目へ向かう。


 シャーッ


 こちらに気づいた魔物は突進を開始。進路は起伏がほぼ無いから速度が出る。

 剣技! よし、今度はこれだ!


 すれ違いざまに左後ろ足を落として魔物が転ぶ。そこへ切り込んで終わりだ。


 スパアアァン!


「ふー」


 3体目は後衛15m手間でカルロスが切り込んでいた。彼が間合いを離すとパメラの矢が突き刺さる。お、倒したっぽいな。


「集合!」


 おお、今までと全然違うぞ。倒すまでの時間が早くなったな。突進を避けて方向転換するスキに切り込むんじゃなくて、すれ違いざまに一太刀浴びせて、体勢を崩して止めな感じ。なるほど、これなら最初の一撃で動きを封じることができる。


 もちろん、すれ違いながら切るのはリスクがある。でも剣技を発動すると最適な流れが見えるんだ。それにはギリギリでも絶対に当たらない軌道があり、そこに沿って体と剣が自然と動く。


 その斬撃にはこちらが走っている勢いに加えて、相手の突進速度も上乗せされる。言わばカウンターみたいな状態だ。もちろん、そんな大きな力が加わった剣を振り抜くのは、体に負担が生じる。でも武器を共鳴させ高めた切断力、そして身体強化された筋力を瞬時に計算して、実現可能な攻撃となるんだ。


「出発!」


 進路を進むとほどなく魔物が現れる。


「エルグリンクス3体! リオンは右の2体を」

「うん」


 少し森に入ったところに2体いる。近づくと両方とも気づいた。


 左の個体が距離が近い、む、跳び掛かりか。俺は姿勢を低くして斜め前に出て跳び掛かりを避ける。そしてまだ空中に体がある魔物へ大きく切り上げた。


 スパアアァン!


 体が真っ二つ。その体が左右に落ちる頃に次の個体が正面に来る。そして直ぐ引っ掻いてきた。


 スパン!


 伸びた右前足を切り飛ばす、それを支えにするつもりが失ったため、魔物は前のめりに転んだ。


 スパアアァン!


 地面についた頭をそのまま切り落とす。

 進路へ出ると、カルロスたちも止めを刺したようだ。


「集合!」


 うむ、いいぞ、なんと効率の良い動きか。2体目の到達するタイミングを逆算して1体目を倒す位置を決める。1体目は跳び掛かって来るのを利用して、最もスキがある空中の体を狙った。もちろん一瞬しかチャンスは無いが、届く位置に予め位置取りすることで十分狙えた。


 2体目は1回目の引っ掻きの軌道を予測して、前足が地面につく瞬間に切り落とす。そしてその後の魔物の体勢も予測し、立ち位置を調整、魔物が転ぶと同時に首を落としたんだ。


 凄いな剣技は。全く無駄がない。これを俺が考えてやっているのではなく、体が勝手に動いているのだから、スキルとはとんでもない能力だ。


 よく今まで剣技無しで戦えてたな。いや、剣技を知らなかったからこそか。今後、剣技無しで戦えと言われたらちょっと自信が無いかも。それくらいあるとないとでは大違いだ。


 それに気づいたのだが魔力消費も減っている。多分、目的の攻撃に必要な最小の魔力で止めているんだな。こういう無駄を抑えられるのも剣技の成せることか。


「リオン凄いな、どんどん動きが良くなってるよ」

「うん、慣れたからね」

「やっぱり数をこなさいとなー」


 カルロスは剣技を使えてはいるけど魔力効率が良くないんだよな。


「ねえ、カルロス、気合いもいいけど、もうちょっと落ち着いて魔物の動きを見るといいよ」

「え」

「あー、いや、ちょっと思っただけなんだ、気にしないで」


 しまった、いらんことは言わないでおこう。


「……そっか、動きをね、分かった!」

「あ、カルロスのやり方でいいと思うよ、自分に合ってるんだし」

「いや、リオンは俺より強いんだ、そのリオンが言うんだから試してみるよ。そうか、分かったぞ、前に俺の動きを見ていたのは、助言をするためだったんだな」

「えー、まあ……そうかもね」

「ありがとう!」


 なんと、俺は8歳でカルロスは10歳だぞ。年下の子供にそんなことを言われて素直に聞くのか。まあ俺の実力を見たからだろうけど。でもそういう姿勢は大事だよ、この子はきっと伸びるね。


 フッ、なんか途端に偉そうになった俺。これも剣技を覚えた自信からくるのか。いやでも、うまく倒せるようになると気持ちいいから。その感覚はカルロスにも味わってほしいんだよね。


「よーし、出発!」


 5班は進む。


 あ、今はシンクルニウムだけど、トランサイトで剣技ありで戦うと一体どんな立ち回りになるんだ。伸剣を含んだ流れだよな。かなり早く決着がつく気がする。


「グリーンラクーンだ、右奥のやつを頼む」

「分かった!」


 進路から少し森に入ったところで魔物はいる。お、そうだ! 隠密スキル、どうにかならないかな。剣技を発動すると同時に足音消去をすれば、もしかしたら解放できるかも。


 タッタッタッ、あ、走ってるのも効果あるのかな。クラリーサとの訓練では歩いてたけど。ま、いいか。


 気づいたぞ、こっちに来る。


 剣技! 足音消去!


 お、何か違った感覚があったぞ。


 スパアアァン!


 ふー、これはいいかも。続けていれば成果が出そうだ。剣技にも影響は無いみたいだし。


 もう1体は後衛に引っ張って、カルロスが止めをさしているところだ。


「集合」


 おや、カルロスがいい笑顔だ。


「リオンの言った通り、ちょっとだけ動きを見る時間を作ったら、前より少し楽になった。凄いなお前」

「凄いのはカルロスだよ、直ぐに実践して結果を出すなんて」

「いやぁ、楽になったのはちょっとだよ、ちょっと。でも続けてたらもっと良くなる気がする、ありがとな」


 多分、最適な動きを導き出す前に突っ込んでたんだ。それで状況に合わせて動きを変えて、そこに魔力を余分に使ってた。


 にしてもカルロスはセンスあるな。きっと直ぐ伸びるぞ。


「休憩終わり、出発ぅ!」


 はは、リーダーもサマになってきたね。彼は人当たりがいいからまとめ役もできそうだ。なるほど、そういう経験もこの訓練討伐では積み重ねることもできるんだな。

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