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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
112/323

第112話 鑑定スキル

 朝だ。部屋の中でも聞こえるくらいしっかり雨が降っている。居間へ行くとクラウスとソフィーナが、朝の挨拶を交わす。


「今日は朝の訓練できないな」

「じゃあここで共鳴の練習をするよ」


 シンクルニウムのミランデルを構えて魔力共鳴を施す。


 キュイイイィィィーーーン


「ふー」

「それは100%だな、今度は一気に上げる訓練か」

「ハァハァ、そうだね」


 ソファに身を沈める。短時間で高い共鳴率まで引き上げると魔力効率が悪い。だが敢えて取り組むことによって慣れさせる。そうすれば次第に効率が良くなって負担が抑えられるはずだ。


 お、そうだ、昨日、寝る前に思い付いた治癒スキルからの鑑定スキル解放。まずは治癒スキルの発動にも慣れておく必要があるな。それでスキルが発揮される根源を突き止めて応用するんだ。でも共鳴訓練と平行するのは無理だから朝食の後でいいか。今日の天気なら隠密訓練も出来ないだろう。


 それから共鳴訓練を繰り返した。


「まだ早いがメシに行くか」

「うん」


 雨の日は畑に出られないため料理人たちは朝食を早めに用意してくれる。食堂に着くと既に多くの住人が席に座っていた。メシはまだかと、無言の圧力を感じる。


「準備出来たよ!」

「お、待ってました」


 料理人の声が上がると一斉に受け取りカウンターへ集まる。まあそうガッつくなって、朝食は逃げたりしない。ある程度行き渡るのを待ってから俺たちは朝食を受け取った。


「9時に商会だったよね」

「ああ、そうだ」

「俺も9時だから一緒に行けるね」


 クラウスとソフィーナ、そしてランメルトとイザベラも商会へ行く。カルカリア伯爵の家令と話があるそうだ。


 ただイザベラの実家の様子が分かっても、それら全員を屋敷へ呼び寄せるのだろうか。それにしたってまだ屋敷は出来ていない。3日後にはクラウスの叙爵が周知されるのだ、屋敷完成まで身の安全はどうするのだろう。


 ゴーーーーーン


 朝の鐘だ。でも多くの住人は食べ終わった模様。普段は畑や魔物対応で忙しいけど、雨が降ると途端にやることなくなるよね。みんな今日は何して過ごすんだろう。


 家に帰ると玄関前にクラリーサがいた。おや、あれは浄水士か、見た顔の男性と話をしている。ああ、ララの彼氏だね。俺たちを見つけると話を終えたようだ。


「やあ、おはよう。今日は訓練できないね」

「おはよう、リーサ、中に入ってくれ」


 クラウスの言葉に一緒に家に入る。俺たちが居間に座るとクラリーサは何も言わず音漏れ防止結界を施した。彼女もソファに腰を下ろす。え、一緒にいるのか。治癒スキルの訓練できないな。じゃあ共鳴やるか。


 キュイイイィィィーーーン


「ふー」

「それは訓練討伐で使っている武器かい」

「はい、シンクルニウムです」

「トランサイトは優秀過ぎるからね、とは言え、その武器でも物足りないだろう」

「弱くても相手は魔物ですから、戦えば得るものはあります」

「まあね」


 実戦が共鳴に慣れるのに一番いいのさ。あれは多分、身体強化して動いているからだろうな。それから共鳴した剣で魔物を切ることも何かしらの効果があるみたい。剣が共鳴魔力に馴染む感じかな。まるで切るほどに強くなる武器のよう。


「さて、リーサに伝えることがある」

「ほう、なんだい」

「あのリオンを襲った神職者関連だ。ミランダの話では再び神職者ギルドの者がリオンを襲う可能性があると」

「……それはどうしてだい? ギルドに恨まれるようなことでも」

「いや、そんなことは無い。向こうのよく分からん主義主張だ」

「まあそうだね、神の命令とやらならまたあるかもしれない、分かった、特に神職者には注意をしておくよ」


 そっか、俺が神に狙われていることは知らないからね。


「今日は8時30分頃にここを出る。俺たち3人と隣りの身内も一緒だ、行先は同じコーネイン商会」

「分かったよ」

「クラリーサ、あんたは俺より強い、もしもの時は頼りにしてる」

「はは、そんなワケあるかい、あんな魔物に動じないあんたたちの方がずっと強いよ。じゃあ、私は外でいるからね」


 クラリーサは去った。


「昨日商会長と一緒に工房を出て行ったけど、話の席にはいなかったんだね」

「ああ、商会長室で音漏れ防止結界をしたら出て行ったよ。多分、店内でいたんじゃないか」

「リーサには神の封印は伝えないんだね」

「うむ、ミランダも言っていただろう、かなりの情報だからな」


 まあ知らなくても護衛は出来るね。特に気を付ける相手も分かってるし。


「そうだ、俺、ちょっと気づいたんだけど、治癒スキルを訓練したら鑑定や剣技を覚えられるかもしれないんだ」

「は!? 治癒スキルを? 鑑定や剣技と関係ないと思うが」

「いや関係あるよ、まずスキルを行使する源を見極めるんだよ、そしてそれを鑑定や剣技に応用するんだ。そしたらきっと解放できる」

「……何を言っているのか分からんがリオンがそう思うならやればいいさ」


 あれ? 伝わらないか。ソフィーナも首をかしげてるし。


「それで、俺が手伝えることはあるか、何なら腕でも切るか」

「いやいや、そんなことしなくていいよ。えっと、じゃあ手を置くから治癒が上手くできてるか教えてね」

「おう、いいぞ」


 クラウスの腕に手を置き治癒スキルを発動する。


「おお! 出来てるぞ! 間違いなく治癒スキルだ」

「リオン、私聞いたんだけど、今やってるのは治癒スキルではなくて派生の治療スキルみたいよ」

「え、そうなの、母さん」

「でもあくまでスキルの分類上そうなってるだけで、人を治すことを治癒スキルと呼んでもいいみたい」

「ふーん」


 派生の治療スキルだったのか。確かに治癒は治ること、治療は治すことだもんね。俺が他人に治療行為を施してるワケか。そんでこの世界の治療とは対象の自然治癒力を高めて、施術者の魔力でそれをより促し補填する感じかな。


「ふー」

「はは、休みながらでいい」

「何か気づいたかしら?」

「うーん、分かんない」

「そうよね、私も何かを意識してスキルを使ってないもの」


 無意識か、確かにそうだった。今から治癒スキルを発動する、そう思ったらできたんだもん。何か準備が必要なワケではなく思うだけで出来た。多分、思いがトリガーとなり色々スイッチが自動的に入るんだろう。


 そうか、スイッチか。普段はオフで使う時にオンになる、そして使い終わるとオフに戻る。では封印されている力はオフのまま。オンにするにはどうしたらいいんだろう。


 多分オンにするための信号が遮断されてるんだ。そうか、封印というより妨害電波みたいなものか。むー、それを突破して辿り着くのは難しいぞ。いやでも治癒は突破できたんだ。そして一度繋がればそれ以降も問題ない。


「もう1回やるよ」

「ああ」


 腕に手を置く、そして……発動!


「お、いいぞ、できてる」


 むー、分からん。やろうと思ったら出来るんだもん。でもこれ、一度発動すると魔力が続く限りずっとできるから、それでは知りたい事の情報は得られないな。


「止めるね」

「おう」


 発動の瞬間の感覚だ、それだけに集中するんだ。


「いくよ」


 発動! うーん、だめだ。


「もう一回」


 どうか! むー、分からん。


 それから治癒スキル発動をして直ぐ止めるを繰り返した。


「ハァハァ、休むね」

「そうだな」


 だめだー、何にも掴めない。そりゃそうか、この世界の(ことわり)みたいなものだ。人間がスキルを使える根源を見ようとしてるんだからね。そんなの簡単に分かるはずがない。


 いい発想だと思ったんだけどなー。ハァ、残念。


「もうあと10分くらいしたら隣りの2人が来るだろう、それまで休んでおけ」


 ソファに寝そべる。まあ感覚が掴めないことが分かっただけでも進歩と捉えるか。


 しかし封印が妨害電波か、もしそんな感じなら元を絶たないと突破するのは無理じゃん。その元は神だぜ? 神を倒さないと封印が解けないとでも。でも治癒スキルはできたんだよなー、神は健在なのに。


 いや待てよ。神は封印の維持にも力を使っているのか。だとしたら、治癒スキルを覚えた時って……そうだ、サラマンダーを仕向けてたぞ。あれに力を使って封印を維持する力が落ちていたとしたら。


 そうかなるほど。その封印、つまり妨害電波が弱まった時に治癒スキルが発動するチャンネルに結びついた。それで再び妨害電波が強まっても既に専用線みたいのが引かれていて、それに関与することが出来ない。


 ふむふむ、また一つの仮説が出来た。これが事実なら次に神の魔物が来る時がチャンスだ。封印が弱まった時に何か引き出してやる。24日のアーレンツ勲章授与式、本当に来るのかな。


「おじゃまするぜ」

「おお、来たか」


 ランメルトだ、俺たちはクラリーサと共に商会へ向かった。


「いらっしゃいませ」


 ララに案内されクラウス、ソフィーナ、ランメルト、イザベラ、そしてクラリーサが2階へ上がる。俺はブレターニッツと工房へ向かった。


 休憩スペースにはフローラがいた。ブレターニッツは結界を施し工房を出る。


「じゃあまず1本頼むよ」

「はい」


 フローラは俺の仕事のペースを管理でもしてるのだろうか。まあミランダならそれくらい仕込んでそうだ。言われなくてもやりますよっと。


 弓を持つ。


 ギュイイイイィィィーーーン


「ふー」

「さて、また武器を見る所からやるかい」

「そうですね」


 弓を見つめる。


 ……。


 うーむ、弓しか見えない。これ、祝福を目指すならこんなことを6年間、毎日やり続けるのか。死んだ目になるぞ。


「フローラさんは鑑定をする時に何か特別な合図とかありますか」

「そうだね『鑑定』と思って見るのが合図とは言えるか」

「その時に意識するようなことはありますか」

「……いや、ないね」

「分かりました」


 やっぱりそうだよね。うーむ。


 弓を見る。鑑定、と念じる。何も起きない。


 んん! 今ちょっと何かが違った。何か、何かが昨日とは違う。何だ、今の感覚は、思い出せ、何が違った。


 ……。


 分からん! くそう、糸口に繋がるかもしれないのに。


「どうしたんだい」

「いや、ほんのちょっとだけいける気がしたんです」

「は? はははははっ、そうかい、それは良かった」


 む、どうせ出来ないと思ってるな。


「あのね、リオン。祝福での習得を目指してるんだよ、悪いが今は出来ない。私は仕事だから6年でも付き合うけどね、尤もそれまでに死んでるだろうけど」

「え、そんなことないですよ、フローラさんお元気ですし」

「魔力が落ち始めたら早いよ、2~3年で動けなくなる、そしたら寿命さ。私はね、もう思い残すことは無いんだ、トランサイトが全てだったからね」


 そんなこと言うなよ。


「シンクライトがありますよ」

「ああ、そうだね、鑑定不能なんて見えたらその場で昇天するかも」

「それは困ります」


 やれやれ、年寄りは直ぐお迎えの話をする。


「そろそろ2本目いけるかい」

「はい」


 弓を持つ。


 ギュイイイイィィィーーーン


「ふー」

「鑑定訓練の魔力消費は影響ないかい」

「はい。あ、いや、魔力を送っている気がしません」

「そうだろうね」


 見てるだけだもんなー。


 むー、しかし、昨夜寝る前はいけると思ったんだけどな。確かに見えたんだよ、鑑定を成功させている未来が。


 治癒スキルか。


 ぼんやりと弓を見る。


 あ、しまった、弓に治癒スキル発動しちゃった。何やってんだ俺は。


『トランサイト合金』


 え。


 あれ?


 あれれれれ?


「あ、あの……フローラさん、枠の色は青っぽいこともあるんですか」

「人によってはね」

「俺のは青の様です」

「そうかい……は?」

「鑑定できました、今そこに、トランサイト合金と白い文字が見えてます!」

「何だって!?」


 やった! やったぞ! 鑑定を習得した、神の封印を解いたぞ!


「うははははっ! わーい!」


 立ち上がって両手を挙げて叫ぶ。


「これは驚いた……専門スキルを無しから覚えるなんて聞いたことないよ。リオン、この素材は何か分かるかい」

「え、はい」


 フローラはテーブルに白っぽい尖った物を置く。


『ガルウルフの牙』


「ガルウルフの牙ですね」

「おやまあ! 本物だね、あんた! これはどうだい?」


 黒っぽい精霊石、これは魔石か。


『キラーホーク』


「キラーホークです」

「その通り! いやあ間違いないよ。あ、もしや、これはどうかい?」


 次に置いたのは精霊石だ。


 むー、見えない。


「無理ですね」

「そうかい、分かった。でもあんたなら訓練すれば精霊石でも直ぐに見えるさ」


 そっか、難しいんだったね、精霊石は。そうだよ、俺の目指してるのは人物鑑定だ。精霊石よりも難易度は高いらしいから頑張らないと。喜んでばかりはいられない、これはスタートなんだ。……でも嬉しい。


「鑑定の派生スキルについて教えてあげるよ、その前に共鳴を」

「あ、はい!」


 弓を持つ。


 ギュイイイイィィィーーーン


「ふー」

「まず基礎スキルは専門スキルの1つである鑑定スキル、その派生スキルはいくつかあるが、覚えるには鑑定スキルの最低レベルってのがあるんだ」

「はい」

「レベル6以上で魔物素材や魔石、レベル11以上で武器などの製品、レベル16以上で精霊石、レベル21以上で人物だよ」

「へー」


 なるほど、まずは基礎スキルを上げないと人物まで辿り着けないんだ。


「あんたは武器が見えて精霊石は見えない、つまり鑑定レベルは11~15の可能性が高い。ただ16以上でも必ず精霊石が鑑定できるとは限らないけどね、あくまで最低条件だ」

「分かりました」


 あれ? ではフローラの鑑定レベルは15以下なのかな。


「フローラさんは16に届いてないのですか」

「私は17だよ、でも精霊石は鑑定できない。それにレベル6以上で見えるはずの魔物素材や魔石は見えないんだよ」

「はー、そうなんですか」

「基礎レベルはあくまで最低条件なだけで、人によって違いがあるのさ」


 ほー、そういうことか。


「私はもう年だが、あんたはまだまだ若い、いくらでも伸ばせるよ、何せ鑑定スキル自体を覚えたんだから!」

「はい!」

「ところで、次はこれを鑑定してみな」


 フローラが魔物素材らしき物をテーブルに置く。さっきのガルウルフの牙よりやや細いな。


『ガルウルフの爪』


「ガルウルフの爪です」

「鑑定情報が出るまで何秒かかった?」

「……えっと、1秒、いや直ぐ出ました」

「……そうかい」


 む、何かおかしいか。あ、そういや10秒~20秒かかるって言ってたような。


「私でさえ10秒はかかる、あんたとんでもないね」

「は、はぁ」


 これが英雄の力か!


「さあ、次の共鳴頼むよ」

「はい!」


 弓を握る。あ、そうだ!


『トランサス合金』


 むふふ、見える、見えるぞ!


 ギュイイイイィィィーーーン


『トランサイト合金』


 仕事完了!


「ふー」

「やってるな」

「あ、商会長」


 ミランダが工房へやってきた。職人たちは手を止め挨拶をする。

 彼女がソファに座ったところで俺は告げた。


「実は重要な案件があります」

「!? もしや!」

「鑑定を覚えました」

「なんだと!……ふふ、ふふふ、ふはははっ! あーはっはっは!」


 出た、高笑い。


「流石だなリオン! そしてフローラ!」

「私は何もやってないよ、凄いのはこの子だ」

「それで何が見える」

「魔物素材、魔石、武器です。詳細は見えません」

「そうか、まあ今からいくらでも伸びる。それでフローラ、このことは内密にな、鑑定士ギルドにも報告はしない」

「はい」


 ギルドに登録しないといけないんだっけか。でももちろんナイショ。


「フローラには引き続き鑑定の指導を任せる」

「はい」

「リオンも共鳴の合間に鑑定を伸ばすとよい」

「分かりました」

「ところでシンクルニウムの方はどうだ」

「随分慣れました、でももう1日くらい慣れてからの方がありがたいです」

「分かった、お前のいい時で構わんぞ」


 ほんとは出来ると思うけどね。もっと余裕が欲しいのだ。


 それにしても鑑定を覚えたのにはびっくりしたな、まさか治癒スキルがトリガーだったとは。いや、実際は治癒を武器に施したのではないだろう、見ただけだし。多分、治癒を行使する何かを起動して、同時に鑑定スキルを引っ張り出した。もう何がどうなっているのか分からんが、成功したんだからいいや。


 勝ったぞ! 神め!

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