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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
108/321

第108話 フローラ

 朝だ。隣りのソフィーナはいない。クラウスも姿が無いな。

 起き上がり居間に行くと2人がいた、挨拶を交わす。


「よく眠れたか」

「うん」


 昨日の不審者の件を寝る前に思い出して怖くなったけど、訓練討伐で疲れていたのか普段通り眠れた。騎士が夜通し見張っているのも安心材料だったね。


 それにしても神め、遂に人を使って仕留めに来たか。いやまだ確定では無いけど、神の命令と言って俺の後ろから刃物を持って近づいてきた神職者ギルド会員な時点で状況証拠は明らかだ。これは組織を挙げて来るのか、それとも単独か。


「まあ当面は警備を強化するだろうし、西区の中なら安全さ」

「そうだね」

「中央区へ行く時はリーサと必ず一緒にね」

「そのつもりだよ」


 昨日はフリッツがいたけど気づいたのはクラリーサだった。まあ後ろから来られたら彼女でも無理か。でも取り押さえる技術は流石だったな、やはり対人のプロが近くにいるのは心強い。


 朝の訓練に家を出ると騎士が近くにいた。


「あの、警備、ありがとうございます」

「任務だからな、異常は無かったぞ」


 30代前半の男性騎士は少しほほ笑んで返してくれた。この人は監視所で夜警の予定だったところを急遽ここへ来たのだろうか。


 朝の訓練メニューをこなす。先程の騎士はクラウスに何か話しかけてる様子。


「ふー、終わり」

「キミが訓練討伐に来ている村の子だな」

「あ、はい。リオンと言います、5班です」


 監視所にいるなら俺のことを聞いてるだろうね。


「そうか、良い動きだったぞ」

「ありがとうございます」


 ゴーーーーーン


 朝の鐘だ。食堂へ向かう。


「朝、外に出たら家の前に騎士がいたからビックリしたぜ」

「俺もだ、普段いない人がいると戸惑うな」

「まあ、夜通し見張っててくれたんだ、そう言うなよ」

「にしても昨日のあれは何だったんだ?」

「さあな、世の中色んな奴がいるから」

「まあ子供を狙った通り魔ってとこだろ、町ではたまに聞いたな」

「やれやれ、ここは平和だと思ったのによ」

「魔物が毎日来るのに平和か」

「あー、そうだった、はっはっは」


 住人も騎士がいることに違和感がある様子。保安部隊と違って防衛部隊は普段のイメージとしては取っつきにくいからね。そして通り魔か、なるほど、俺個人ではなく無差別に狙ったと住人は認識している模様。


「よう、リオン、気分はどうだ」

「メルおっちゃん、いつも通りだよ」

「そうか、まあアレだ、変な奴もいるから気をつけろよ」

「あ、うん」


 昨日の事件のことだな。住人から俺に被害はないと聞いただろうから、そっとしてくれたっぽい。ランメルトなりに気を使ってるんだ。


「じーちゃんは?」

「見張り台だ、次は俺が上がる」

「あー、そっか」


 ウチの次はブラード家。いつも言われて思い出す。自分が上がらないからそこまで意識しないんだよね。


「リーナたちも気をつけろよ」

「おう、クラウス。可愛いからって攫われないようにしないとな」


 そうだよ、変な趣味の男がいるかもしれない。異世界でも子供は無力、大人が守らないとね。


 家に帰ると玄関前にクラリーサがいた。


「準備が出来たら出ておいで」

「はい!」


 隠密訓練だ。またウロウロするだけになるのか。

 家に入って居間に座る。


「今日は9時から昼の鐘まで、13時から夕方の鐘まで商会だよ」

「工房にいるなら安全だな」

「誰と一緒にいるの?」

「午前中はフローラさん、午後は先生だよ」

「おお、鑑定を教わるのか」

「うん」

「リオンならきっと出来るわよ」


 だといいんだけど。


 カンカンカン! カンカンカン! カンカンカン!


 魔物の鐘だ、飛行系だな。


「リオンはリーサとここでいろ!」


 クラウスとソフィーナは出て行き、直ぐにクラリーサが入って来る。


「やれやれ、朝から大変だねぇ」

「ところでリーサは昨日、怪我しなかったの?」

「何ともないよ。相手は何の訓練も受けていないド素人だったからね」

「ふーん、すぐ分かるんだ、流石だね」

「ただ気持ち悪かった、意味不明の事を言ってたからさ」


 神の命令は意味分からんよね。


「まあ、おかしい行動を取る時点でその思考は理解出来ないよ」

「あの人はどうなるの?」

「暴行罪、いや殺意があったな、殺人未遂になるだろう、あの様子じゃ動機も正当化されない。再犯の可能性も極めて高いと判断されれば、直ぐにアルカトラへ行くんじゃないか」

「アルカトラ?」

「罪人の町さ、ウィルムのずっと東にある」


 ふーん、大きな刑務所がある町なのかな。


「あそこへ行ったらもうゼイルディクには戻って来られないだろうね」

「それはどうして」

「前科持ちは誰も雇わないのさ、だからアルカトラで働くしかない」

「そこは大丈夫なの?」

「町の住人はほとんどが前科持ちだよ、雇い主含めてね」

「あー、だから罪人の町なんだ」


 何だか特殊な環境だね。


「もうその町で一生過ごすことになるの?」

「そうだよ、若ければ同じ境遇の相手と結婚する、その子供が大きくなって町を出ることはあるだろうけどね」

「あ、でもアルカトラ出身だと仕事無いのでは」

「前科の有無で判断する雇い主ならいけると思うよ」


 親が犯罪者でも差別はしないのか。にしても人物鑑定で犯罪歴が分かってしまうのは、社会復帰を目指す人にとっては厳しいね。だからそういう人を受け入れる専用の地域があるのだろうけど。


「親は子供が悪いことをしないように、アルカトラへ連れていかれるぞ、なんて躾けているのを聞くよ。怖い町だと印象付けておいてね」

「ふーん」


 罪人が集まっているなら怖いかも。殺伐とした日常なんて嫌だ。


 ドドン! ドドドン! ドン! ドドン!


 勝利の太鼓だ!


「終わったみたいだね」


 しばらくしてクラウスとソフィーナが帰って来た。


「いやー、数が多かったよ」

「鳥系だよね」

「ああ、20体くらいいたんじゃないか」

「うわ、多い。でも静かだったよ」

「ほとんど南側で戦闘してたからな」


 ふーん、そんな偏ることあるんだ。


「さて、隠密訓練やるかい」

「はい、お願いします!」


 クラリーサと城壁前へ行く。


「じゃあ今日も足音消去の訓練だよ、ついて来な」


 横に並んでひたすら歩く。クラリーサの足音は全くしないが俺はしっかり聞こえる。何が違うのか分からない。それでも歩く。足に魔力を送ってみるが変わらない。それでもひたすら歩き続けた。


「ふー、休もうか」

「はい」


 地面に腰を下ろす。これもきっと剣技と同じように感じるんだ。魂の奥底にある封じられた隠密の力を。


 それから再び歩き続けた。訓練を始めて30分が過ぎる。


「ふー、今日は終わりにするか」

「はい、ありがとうございます」


 クラリーサもお疲れの様だ。ずっとスキルを行使してるからね。


「9時に商会なので送ってくれますか」

「ああ、構わないよ。私はここでいるから準備が出来たら声を掛けてくれ」


 一度家に帰る。準備と言っても何も無いけどね。


「そろそろ行くのよね、雲行きが怪しいから外套を持っていってね」

「うん、母さん」


 クラウスは畑のようだ。外套を持ち家を出る。

 クラリーサと西区を出て中央区へ。商会に到着。


「結界もお願いします」

「ああ、いいよ」


 工房に入って職人たちに挨拶をする。休憩スペースにはフローラが座っていた。クラリーサは音漏れ防止結界を施す。


「あんた最近来た保安部隊だね、結界ができるのかい」

「あんたは畑でたまに見かけるね、農家がここで何するのさ」

「リオンに鑑定の指導だよ」

「おや、じゃあ祝福を目指すってのかい」

「そうだよ」


 この2人、雰囲気が似てる。いや、フローラがやや知的で、クラリーサがややぶっきらぼうな感じか。年齢はフローラが一回りくらい上だね。


「私はクラリーサ、リオンを商会まで送り迎えするよ、結界もね」

「私はフローラ、今日は午前中だけさ」

「そうかい、昼の鐘が鳴る頃にまた来るよ」


 クラリーサは去った。


「まずは1本やるのかい」

「はい」


 あ、短剣がある。まあ、まずは合金武器を先にサクッとやるか。


 杖を握る。


 ギュイイイイィィィィィーーーーーン


「ふー」

「流石だね、杖でも難なくこなすとは」

「慣れましたから」


 フローラは杖を見る。


「トランサイト合金だ、まずは1本だね」


 そっか、途中からちゃんと確認してなかったけど本来するべきだよね。何も言ってこないから問題なく出来てるのだろうけど。


「さーて、じゃあ鑑定の訓練だけど、どうしたもんかね」

「魔力を武器に送っているんですよね」

「そうだよ、照明を点けたり精霊石から水を出す時も送るだろ、あんな感じさ」

「そしたら本当に少しの魔力なんですね」

「ああそうさ、送るのは目からだよ、と言っても見るだけなんだけど、何とも形容しがたいね」


 見るだけで無意識に送ってるんだろうな。でも目から魔力を出すってうまくできるのかな、ひとまずやってみるか。


「……」

「まあ、そんな感じだよ」

「あ、出てましたか」

「多分ね」


 えー、そんなあ。


「私がやるのを見てごらん」

「……」

「今鑑定したよ」

「……ただ見てるだけですね」

「だからそうなんだよ、やれやれ意識したこと無いから分からないよ」


 魔力が飛んでいるなんて全く感じなかった。


「あの、どんな風に見えてるんですか」

「こうだよ」


 フローラはポケットから折りたたんだ紙を出して広げる。そこには鑑定時に読み上げてくれる武器の詳細と、それを囲った枠が書いてあった。


「この枠も見えるんですか」

「そうだよ」


 うおおっ! ステータスウィンドウっぽい!


「空中に浮いてるんですか」

「そうだよ」

「どの辺ですか……この辺?」

「ああいや、もうちょっと手前だね」

「この辺?」

「そうだね」


 おお! ここか! ここに浮かび上がっているのか!


「こうするとどうなりますか」


 ウィンドウに被る様に手を出してみる。


「見えないね」

「え、それは一部分ですか」

「いや全部、私の目と鑑定対象の間に障害物があると無理なのさ」

「へー」


 なるほど、なるほど、一度鑑定したら鑑定情報だけ独立するんじゃなくて、情報を出している間も対象にアクセスし続けているんだね。


「あの、枠や文字の色は?」

「文字は白だね、枠内側全体が黒っぽくてそこに文字が載ってる感じさ」

「ちゃんと見えやすいようになってるんですね、あ、他の色の時もあるんですか」

「さーね、私は白字と黒枠しか見たことないよ」

「黒い枠内背景の向こうは見えないのですか」

「見えるよ、半透明になっているからね」

「おお! 透明度はどのくらいですか」

「今は50%か、慣れたら任意に調整できるよ」

「凄い!」


 コンフィグできるんだ!


「文字の大きさはどのくらいですか」

「……そうさね、このくらいか」


 フローラは人差し指と親指で丸を作る。直径3cmくらいか。


「出てくる情報量が多いと文字は勝手に小さくなる。見えづらかったら大きくできるけどね」

「おー、拡大ですか! そんなこともできるんですね」

「はは、あんたは面白いね、そんなことに興味があるなんて」

「鑑定情報を消すときはどうするんですか」

「消えろと念じれば消えるよ、多分、目からの魔力が止まるんだろうね」

「なるほどー」


 あ、仕事しないと!


 杖を握る。


 ギュイイイイィィィィィーーーーーン


「ふー」

「杖もいい間隔でできるんだね」

「慣れましたから」


 さて、鑑定だが、どうすればいいか。やはり魔力を送る訓練を続けるしかないのか。


「あ、距離はどうなんです? どのくらいまで離れてできるのか」

「私は2mってとこだね。集中すれば3mくらいいけるけど、近づいた方が早いね」

「人によって違うのですか」

「多少はね。大体2m~3m、鑑定時間も10秒~20秒ってとこだね」


 ほうほう、2mか。あ! と言うことは、その辺歩いている人の背負ってる武器も鑑定できてしまうじゃないか! まずい、トランサイトだということがバレているかもしれない。いや、まてよ、鞘があるな。あれに納まっていると無理なんじゃないか。


「鞘に入った剣身は鑑定できますか」

「無理だね」


 ほっ、よかった。あでも、杖や弓は鑑定されてしまうぞ。


「もしかして、杖や弓は見放題なのですか」

「そうなるね」


 うわ、やっぱり。


「だが鑑定士ギルドの規則では、所持者の同意を得ない鑑定は禁止されている。商会に展示されている武器もダメだ。でもみんな黙ってやってるよ、言わないだけでね」

「それは周りから分かりませんからね」

「まあしばらく武器を見つめて止まってる時点で怪しいけどね、それでも鑑定してないと言い張ればそれで通る。確かめようがないんだ」

「確かに」


 これはトランサイトを鞘から抜いた時に少し周りを意識しないといけないな。今のところは訓練討伐だけだから大丈夫だけど。


「さて、鑑定の訓練だけど、ひとまず武器を見続けるしかないね」

「あー、やっぱりそうですか」

「武器ばっかりでは飽きるから、たまに精霊石でも見るといいよ」

「あ! そうですね!」


 そうだそうだ、俺は精霊石を鑑定するのが目標でもあるんだ。レア度4以上を鑑定してみたい!


「フローラさんは精霊石を鑑定できないの?」

「私が鑑定できるのは土の精霊石から抽出した鉱物粉、製作途中の鉱物液、鉱物土、そして完成品だけだよ。鉱物粉とかは分かるかい?」

「はい、フリッツ先生に習いました」

「そうかい」


 鉄製品の製作工程授業やっててよかった! 精霊石から抽出した粉の状態を鉱物粉、加熱した液状態を鉱物液、冷却した粘土状態を鉱物土だったよね、精霊石から鉱物粉を出す人を鉱物士って言うんだっけ。


「もしかしてフローラさんは鉱物士でもあるんですか」

「そうだよ」

「凄い!」

「そうでもないさ、武器職人は鉱物士、錬成士、鑑定士を持っているのが普通だよ」

「……俺は1つもありません」

「あんたは誰にもできない共鳴があるじゃないか」


 そうだけど、それで職人と言えるのだろうか。


「さあ、そろそろ次の共鳴いけるかい」

「あ、そうでした!」


 次も杖にしよう。


 ギュイイイイィィィィィーーーーーン


「ふー」

「話し込んでいると忘れちゃうね、杖は何分でいけるんだい」

「そうですね、15分あれば確実です」

「後の武器種は?」

「剣は5分、他は10分~15分ですね、その時の疲労度によります」

「剣は全然違うんだね」

「訓練討伐でも使ってますから」


 やっぱり実戦が一番身に付く。逆に実戦で使わないと剣くらいに効率化できないんだよな。


「今日はシンクルニウムを試すかい?」

「うーん、15本の目標がありますからね、午前中はあと2本作ったら鐘が鳴るまでシンクルニウムをやってみましょうか」

「私としてはシンクライトとやらを見て見たいからね」

「元職人として興味ありますか」

「そりゃそうさ! トランサイトを超える鉱物なんだから」


 ではシンクルニウムの1.5倍の性能とは知ってるんだね。


「あでも試験素材を作っても鑑定は出来ませんよ、何せ……」


 あ、レア度4も言っていいのかな。


「構わないさ、自分で鑑定して鑑定不能と出るのを見たいんだよ」

「はは、なるほど」


 なんとも、職人らしいと言うか。出来ない状態を確認したいって面白いな。


「でもまだシンクルニウムの共鳴には不安な部分もあるので少しずつ慣らしますね」

「ああ、そうしてくれ」

「やってるな」

「あ、商会長!」


 ミランダが工房に入って来た。手には(くわ)を持っている。あ、これってもしや!


「鍬の試験素材が出来たぞ」

「流石、早いですね」

「ウチの武器職人の中には元農具職人もいてな、それにやらせたんだ」


 しかしミランダが鍬を持つ姿が違和感凄すぎる。騎士服だから尚更。


「鑑定してくれ」

「はい」


 フローラは手に持ち先端の金属部分を見つめる。


「トランサス

 成分:トランサス 100%

 耕起:50

 打撃:100

 特殊:魔力共鳴(80%)

 定着:30日4時間

 製作:コーネイン商会」


 おおおっ! なんだこの鑑定結果は、耕起50って適性なのか? それに打撃100って、鍬って打撃武器でもあるのか。


「共鳴強化すると打撃力が上がるんですか」

「そうだよ、固い土を耕すときには有効だね」


 打撃って砕く力かな、つまり打撃力が高いとサラサラな土になると。


「リオン、いけるか」

「あ、はい!」


 立ち上がって鍬を持つ。槍みたいな構えでいいのか。ひとまず身体強化して水平にする。


「違うよ、リオン、武器じゃないんだ」

「あ、そうだよね」


 じゃあ、普通に圃場で使う感じで持ってみるか。軽く足を開いて少し前後に、柄の中央に左手、少し離して右手。うん、これでいい。


「おお、様になってるじゃないか」

「へへ」


 これでも前世は農家だ。


「いきます!」


 そうは言っても感じは槍でやってみるか。穂身、でいいのか、金属部分に魔力を送る。


 キイイィィン


「できた!」

「おおっ!」

「流石だね」


 ここまでできればあとは簡単だ!


 キイイィィィーーン


 よーし、よし。


 キュイイイィィィーーーン


 100%、試験素材だから多分110%で変わるぞ。


 さあ、トランサスの鍬よ! 農具の新たな可能性を示してくれ!


 ギュイイイイィィィィィーーーーーン


 来た!


「変わったぞ!」

「成功ね!」


 シュウウゥゥーーン


「鑑定するよ!」


 いつの間にか工房の職人たちも集まってきた。はは、興味あるんだね。


「トランサイト

 成分:トランサイト 100%

 耕起:75

 打撃:150

 特殊:魔力共鳴(120%)、範囲拡大(共鳴率×10)

 定着:30日4時間

 製作:コーネイン商会」


「おおっ!」

「凄い、農具もトランサイトになってる!」

「大したもんだよ!」


 職人たちは驚きの声を上げた。


「ふふ、ふふふふ……」


 フローラは不気味な笑みを浮かべる。ど、どうした。


「やったわ、思った通りよ! これは大革新になる!」


 そして鍬を見つめて満足気な表情。


「どういうことですか」

「この範囲拡大という特殊能力だよ、これが凄いんだ。耕起の範囲が共鳴20%で2倍、30%で3倍になるのさ!」


 確か耕起スキルがあればそれだけで耕せる範囲が広かったよね、それが共鳴させるとさらに広がるっていうのか。確かにすごいな。


 しかしこの鍬、高価すぎるぞ。何十億の鍬って費用対効果としてどうなんだろう。


「午後からフローラの圃場で試すといい」

「え、いいんですか、商会長」

「構わん、ただし絶対にトランサイトと悟られるなよ」

「はい、少し試したら直ぐ商会へ持って来ます」


 あ! そうか、分かったぞ! これはフローラのご機嫌取りだ、彼女の願いを叶えることによって職人の話を持っていきやすくするんだ。トランサイトの鍬だもんな、ニッチ過ぎるのを敢えて取り組んだのはそういう狙いだろう。


 流石貴族は何でもやる。そしてそれに付き合わされる俺。まあ農具の歴史が変わったんだし、いいか。

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