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ミリオンクォータ  作者: 緑ネギ
1章
107/321

第107話 神の刺客

 コーネイン商会の工房へ入る。休憩スペースにはミランダとフローラが座っていた。フリッツと俺はそれぞれの向かいに腰かける。


「音漏れ防止結界は施してある、夕方の鐘が鳴るまでは持つぞ」

「分かりました、商会長」

「シンクルニウムの共鳴は慣れたか」

「はい」


 おっと、シンクライトのことは言っていいのかな。


「フローラにはシンクライトのことも伝えてあるぞ」

「あ、そうでしたか」


 俺の表情から読み取って直ぐ応えた。なら大丈夫だね。


「さて、リオン、フローラは講師となる。祝福の儀で鑑定を覚えるためのな」

「改めてよろしく、リオン」

「はい、こちらこそよろしくお願いします、フローラさん」


 うわーい、鑑定を習えるぞ!


「とは言っても、鑑定を人に教えたことは無い。うまくいくかは分からないよ」

「構わん、とにかく何でも試してくれ」


 クラリーサの隠密と同じ状況か。


「あ、1本共鳴をやりますね」


 テーブルから剣を取る。ほう、子供用か。


 キイキュイギュイイイィィィーーーン


「ふー」

「おやま! 随分と早くなったんだね」

「かなり慣れましたから」


 フローラが見たのは確か2本目だからね、そう、商会からもらったミランデルだった。あの時は強化と変化の共鳴を100%超えても同時にやってたな。今は慣れたからそこまで負担は無いだろうけど、あの段階でよくやったもんだ。


「ひとまず今日と明日午前中は同席するが、それ以降はフローラの畑の状況や天候で変わって来る。今後のリオンの工房に入る時間は前日の夕方に決めることとし、それをフローラは把握し、なるべく合わせてもらう」

「私が夕方、商会に聞きに来るよ」

「俺も商会で聞けばいいかな」

「リオンは毎日この時間は必ず工房にいるよう調整する」

「あ、なるほど」


 訓練討伐のある日もこの時間は空いてるからね。そっか、翌日の予定を夕方に決める。その方が俺もありがたい。


「工房での付き添いだがフローラがいない時間帯は基本的にフリッツが担当しろ、次点でカスペルかランドルフだ。クラウスとソフィーナは極力避けてくれ」

「ワシが合わすから問題ない」

「いや、お前もそろそろ家令の準備をせねばならん、明日は8時にメルキース男爵家のリカルド、9時頃にはアーレンツ子爵家のナタリアが商会に来る。2階の1室で必要なことを教わるんだ、午後からはリオンに付いてくれ」

「……そうか、分かった。何を準備すればいい」

「何も要らん、身一つで来るといい」


 おお、フリッツも動き出すのね。あ、ここでそれを話すということはフローラもそこまで知ってるんだ。


「それで明日のリオンの具体的な予定だが、9時から11時30分と13時から17時30分まで工房で仕事を頼む。午前はフローラ、午後はフリッツが付け、午前の西区との往復はクラリーサに付かせる」

「分かったよ」

「うむ」

「はい」

「この様に毎日今の時間に翌日の予定をここで決めるからな。私がなるべく来るようにするが、無理なら代わりの者に伝えておく」


 ほうほう、なるほど。ミランダと話したい事があったらこの時間を利用すればいいね。それにしても明日は1日拘束されるのか。まあ大して予定もないし、いいけど。


「あ、2本目行きます」


 次も剣にしよう。


 キイキュイギュイイイィィィーーーン


「ふー」

「おやま、そんな短い間隔でできるのかい」

「慣れましたから」

「さて、トランサイトの現状を伝えよう」


 ほう、現状とな。ミランダは折りたたんだ小さな紙を広げて読み上げる。


「昨日までに生産したトランサイトは剣13本、槍7本、弓17本、杖10本の計47本だ」

「うわ、そんなにあったのですね」

「なんとまあ」

「最初にジェラールから譲り受けた1本と、リオンが所有しているミランデルは含んでいない。12日午前に職人となって以降の生産実績だ」


 ちゃんと管理してるんだ。そりゃそうだよね。


「そのうち各武器種の1本は試験素材だ、剣、槍、弓は現在ウィルム侯爵の手元にある。杖は明日送る」


 そっか、試験素材も含んでたのね。杖は今日クラウディアが使ってたからな、明日送るのか。


「合金の剣、槍、弓、杖の1本ずつは既に王都とウィルム侯爵へ送っている。ゼイルディク伯爵の手元にも4種あるな」


 4種を3個所に献上と言うことか。


「それからセドリックが剣、カミラが杖、ガウェインが槍、ベロニカが弓、をそれぞれ試験運用している」


 討伐部隊の面々だね。カミラはセドリックの妻だったか、一緒に北部討伐部隊にいるんだよね。ガウェインとベロニカの武器はロンベルク商会のを加工したんだよな。ある意味最初のお客さんになるか。


「従って店舗在庫は、剣8、槍2、弓12、杖5、となる」

「弓が多いですね」

「適性が高いのもあるが、やはり特殊の速度増加が大きい。高性能な後衛武器はかなりの需要があるからな、杖も増産することになるだろう」


 やっぱり遠距離武器がいいよね。近づくのはリスクでしかない。


「1日の実績では19日が13本と最も多く、次いで16日が11本だ。武器種によって多少差があったが、それも日を追うごとに縮まってきている。それらを考慮し、今後は日ごとの生産目標を定める」


 え、ノルマか。仕事らしくなってきたな。


「かと言って追い込むようなことはしない。早速明日だが午前中の2時間30分、午後の4時間30分、合わせて7時間で15本だ」

「では約30分で1本ですか、かなり余裕ありますね」

「シンクルニウムの共鳴訓練を適宜行ってもらうためだ。鑑定訓練にも少しは魔力を使うからな」

「あ、なるほど」

「どれを優先するかはリオンが決めろ。流れによってはトランサイト生産が目標に届かなくても構わない」


 へー、そんな自由でいいんだ。あ、そろそろやらないと。


 剣を握る。


 キイキュイギュイイイィィィーーーン


「ふー」

「連続でその間隔でいけるのかい」

「剣ならね」

「武器種はこれまで通り、テーブルの上から選ぶといい」

「あでも、弓や杖が需要あったのでは」

「そこは気にするな、お前がやりやすい順番で構わんぞ。ただそれとは別に特殊な形態を取り組むことがある、それは優先してもらうがな」


 え、特殊な?


「ひとまず明日、短剣と(くわ)の試験素材を用意する」

「あ! 短剣ですか、それから鍬?」

「フローラの提案だ、彼女の予測では耕起の範囲拡大が見込めるとのこと」

「ああ、間違いないよ」


 フローラは自信あり気だ。なるほど、農具か。


「恐らく槍と同じ感覚で共鳴できるはずだ」

「ああ、確かに。形状は似てますね」


 ゴーーーーーン


 夕方の鐘だ。


「さて、今日はここまでだな。明日9時に頼んだぞ、2人共」

「分かりました!」


 工房を出る。今日は説明だけか、鑑定の訓練は明日からだな。


 商会を出て通りを歩く。中央区の城壁西口でフローラが止まった。


「私の家はここから4軒先さ、じゃあまた明日ね」

「はい! 明日お願いします」


 フローラと別れて西区へ続く道へ。


「1日15本か、多いな」

「んー、まあ大丈夫だよ。それに到達できなくてもいいみたい」

「いや、何に使うのかと思ってな」

「え、売るんじゃないの?」

「それはそうだが……どこか大口の見込みでもあるのか」

「あー、そっか。まとめて売れれば手間は省けるよね」


 でも相当の金額になるぞ、いくら大金持ちでも厳しいんじゃ。


「恐らくどこかの騎士団だろう」

「なるほど! だったら領主がまとめて買う感じかな」


 ふーん、ミランダはそっちの線でも動いているということか。


「ところで1日商会も疲れるだろう、半日休んでもいいのだぞ」

「んー、今のところは大丈夫だけど」

「西区で子供らと遊ぶ時間も必要だろう」

「そういやここのところ遊んでないな」


 西区で自由な時間がほとんどないからね。


「ミーナも寂しそうだぞ」

「なんだ、結局それか」


 いやでも子供らしい日常もたまには必要だな。明後日くらい時間を取るか。


「やあ、帰って来たね」

「あ、リーサ!」


 搬入口前でクラリーサが待っていてくれた。


「さっきソフィーナが食べ終わって見張り台に行ったよ、そのうちクラウスが降りてくるだろう」

「そっか、今日は当番だったね」

「下がれ!」

「え?」


 クラリーサはそう発すると同時に物凄い速さで俺たちの横を駆けて行った。


 バタッ!


「ぐぁ!」


 振り返るとそこには腕を背中に回して地面に顔をつけている男性の姿があった。その上にはクラリーサが乗っている。


「きゃああああっ!」

「なんだ、どうした!」


 通路を歩いていた住人が足を止め、その光景を見て声を上げた。


「フリッツ! リオンを城壁へ! 誰か騎士を呼んでくれ!」

「うむ、行くぞ!」


 いつの間にか剣を抜いていたフリッツと共に搬入口を入る。騒ぎに気づいて出てきた住人とすれ違う、その中に物凄い速さで駆け抜ける保安部隊のアルバーニの姿も見えた。


「先生、何が起きたの」

「不審者だ、クラリーサの押さえ込んだ男の近くにナイフが落ちていたぞ」

「え!?」


 ちょ、ちょっと怖いんだけど。ナイフと聞いて心臓の音が大きくなる。


「ん、何かあったか」

「父さん!」


 見張り台から降りてきたクラウスだ。


「不審者だ」

「何!?」

「西区へ向かうワシらの後ろからナイフを持った男が近づいて来ていた。それをクラリーサが取り押さえたんだ」

「……それは、危ないところだったな」

「全く気づかなかった、すまん」

「ああ、いや、そんなの誰でも無理さ、フリッツは悪くない。リーサに礼を言わないとな」


 ザワザワ……。

 食堂に住人が続々と集まる。


「みんな聞いてくれ!」


 西区保安部隊のフェデリコだ。


「先程、搬入口前で刃物を持った不審者を1人取り押さえた。身柄は防衛部隊に引き渡して取り調べ中だ。他に怪しいやつは見ていないが、念のため今夜は監視所の騎士が数人西区に入り夜警を行う。騎士は19時頃に来る予定だ。それまで搬入口は開けておくが、我々が警備しているから安心して風呂に入ってくれ。以上だ」


 ザワザワ……。

 夜も見張ってくれるのか、それはありがたい。


「さあ、食事を持ってこよう」

「あ、うん」


 受け取りカウンターでトレーに載せて席に着く。

 食事を口にしたら何故か気分が落ち着いた。


「西区でこんなことがあるなんてビックリだよ」

「ああ、今まで無かったのにな」

「中央区では窃盗被害がたまにある」

「そうなのか、フリッツ」

「商会を狙った事件が多いな」


 へー、村でもそんなことが起こってたんだ。


「ただ今回の様な不審者は初めてだ、あれは窃盗犯の行動ではない」

「先生、俺を狙ったの?」

「分からん。しかし通路でナイフを持っているのは明らかに不審だ。あの顔も初めて見た、村の住人では無いだろう」


 確かに変だよな、ナイフを持って歩いているなんて。いや待てよ、みんな武器を背負っているけどあれはいいのか。まあ、冒険者だから当然なんだけど。その辺の線引きってどうしてるんだろう。


 あ、クラリーサが帰って来た。


「やあ、ビックリしたね」

「すまん、後ろからとは言え気づかなかった」

「あんなの高レベルの感知スキルでもない限り分からないよ、気にしなさんな」


 確かに後ろに目でもない限り分からない。しかし感知スキルだって? それがあれば気づけるのか。


「それであの男の目的は?」

「さぁね、神の命令が何だの言ってたけど」

「神?」

「たまにいるんだよ、おかしなヤツがね。まあ単独犯っぽいからもう心配はないよ」


 神の命令……ハッ! も、もしかして、人間を使って俺を仕留めに来た? うわ、きついなそれ。魔物に加えて人まで仕向けるのか。


 食事を終えて家に帰る。クラリーサは居間に結界を施してくれた。


「それじゃ夜警の騎士が来るまで私は搬入口にいるよ」

「ありがとうございました」

「それが仕事さ。ああそうだ、明日朝食の後に隠密の訓練するんだろ」

「あ、はい、お願いします」


 クラリーサは去った。いやー、しかし保安部隊か。危険を察知してからの迅速な行動、凄かったな。おばさんだから正直ちょっと大丈夫かなとも思ってたけど、あの動きは間違いなく訓練されている。一瞬で男を無力化したからな。


 魔物なら問答無用で倒せばいいけど、不審者だからっていきなり剣を刺すワケにもいかないからね。改めて対応が全然違うんだな。


「ただいま、騒がしかったけど何かあったの? 魔物の姿は見えなかったようだけど」

「あ、母さん、お帰り」


 ソフィーナに不審者事件を説明する。


「まあ! リオン、危なかったわね」

「リーサには感謝だよ」

「話の続きは風呂を上がってからだ」


 クラウスの言葉に準備をして風呂に向かう。


 城壁の階段の照明が全て点いている。朝まで消さないのだろう。

 食堂も明かりが点いており、まだ何人か座っているな。


 風呂を上がって居間に座る。ソフィーナも帰って来た。


「さて、さきほどの不審者だがクラリーサが気になる事を言っていたな」

「何かしら?」

「取り押さえた男は、神の命令、と口にしてたらしい」

「え、それって」

「恐らく神がリオンの命を狙って仕向けたのだろう」


 やはりクラウスもそう感じたか。


「夜分、失礼する!」


 む、誰か来たぞ、女性の声だ。直ぐクラウスが玄関に行って扉の向こうに問い掛ける。


「誰か!」

「ミランダだ」

「え!」


 クラウスが扉を開けるとそこには見知った顔が。


「すまんな遅くに。先程の事件について伝えることがある」

「そうか、さあ入ってくれ!」


 ミランダは居間に座った。うわ、この絵面(えづら)は新鮮だ、よく会っているのに家に来るのは初めてだもんな。しかし貴族が遅くに1人で来て大丈夫なのか。あ、外に騎士がいるよね。


「音漏れ防止結界はクラリーサによって施されている」

「そうか助かる、かなり重要なことだからな」

「さっきの不審者について何か分かったのか」

「うむ、あれは神職者ギルドの者だ、会員証を所持していた。この村の礼拝堂に用事があって、本日夕方、村へ来た記録がある」


 ほう、では到着して直ぐ犯行に及んだのか。


「神職者ギルドと言えば、神を、創造神クレアシオンを信仰してるんだよな」

「その通り、従ってあの男の目的は察しがつくだろう」

「ああ、今もそのことを話していた。神の命令があったと言っていたそうだな」

「うむ」


 ミランダもその線を考えたか。しかし神職者ギルドだと? だとしたら組織的に俺を狙うつもりなのか。


「あの男の素性を詳しく調べないと何とも言えんが、もし神が神職者を操ったとしたら、この1回で終わりではないだろう」

「そんなの防ぐの難しいぞ、神職者なんていくらでもいるんだ」

「ひとまず監視所から保安経験のある騎士を数人向かわせている、今夜は安心しろ。明日以降は人選含めて体制を整える。あの男や神職者ギルドの動きも調べて連絡するからな」

「すまんが、頼む」

「任せろ」


 ミランダは去った。


「はぁー、まいったなこりゃ」

「とにかくミランダを信じましょう」

「そうだな、母さん、俺らではどうしようもない」


 神は本気だ。使えるものは何でも使う。ならばこっちも相応の体制で迎え撃たないと。しかし、圧倒的に向こうが有利だよな。いつどこから何が来るか分からないんだもん。その精神的プレッシャーだけでもくたびれる。


 今回は人間だった。そう、俺たちと同じ人間を使ってきたんだ。魔物は人類の敵だから分かりやすい。しかし人間は敵ではないんだ。それが殺意を持って向かってくるのは魔物以上の恐怖を感じる。同じ目線で同じ生活をしている、そんな存在が敵になることがこんなに怖いなんて。


 もちろん想像はしていた。人買い組織の噂もある。身代金目的の誘拐犯も。でも実際に人が動いてきた様を目の当たりにして、俺の置かれた立場を再認識させられた。


「さあ、警備は騎士に任せて寝よう」


 奥の部屋に向かいベッドに入る。


 思い出すと震えが来た。怖い。


「リオン、心配しないで、私が守るから」

「うん」


 ソフィーナはぎゅっと俺を抱きしめた。ああ、母の抱擁とは何と安心できるものなんだ。直ぐに震えは止まり安らぎに包まれた。やはり俺は8歳の子供、大人に守られないと何もできない。


 しかしあの神職者だという男も悪気は無かったかもしれないな、ただ信じる神の命令に従っただけ。つまり真面目で純粋な信者だった。それを利用したとすれば最低だな神は。


 宇宙の声はそのうち神から接触してくると言っていた。でも全然その気配が無いのだが。来るのは魔物や刺客だけじゃん! もっと平和的に意思疎通しようよ。

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