第104話 Fランクの魔物
街道沿いの草原で5班の子供たちは集まる。作戦会議だ。
「今日はペアで連携します。私とリオン、カルロスとパメラが組んでね」
「はい!」
「分かりました!」
俺はクラウディアとか。
「戦い方は、魔物を前衛が森の中から進路へ連れてきて、そのまま後衛に向かって走るの。後衛の射程近くまで連れてきたら減速して進路を離脱してね、魔物が前衛を追って森へ入ろうとする時、後衛が撃つわ」
2班でやってた時と同じ感じだな。
「進路を離脱する前に後衛に合図がいるね、顔を見て頷けばいいかな」
「そうね、カルロスもそれでお願い」
「分かりました!」
「前衛だけで対応できそうなら倒してもいいわよ、でもあまり無理しないでね。では出発します!」
「おーっ!」
ワザとらしく1人で掛け声を上げてみる。それが意外だったのか3人は驚きの表情。
「2人共、一緒に掛け声出して」
「お、おう!」
「うん」
「ではクラウディアもう一度」
「ええ……では、5班出発!」
「おおーっ!」
3人で声を上げた後、お互いの顔を見て少し笑った。カルロスとパメラはクラウディアと一緒でちょっと緊張してたみたいだから、形だけでも一体感を作って距離を縮めてもらおう。
まず進路に前衛の2人が入る。少し距離を空けて後衛が続いた。
「魔物を見つけたらカルロスが指示してくれるかな、俺より慣れてると思うから」
「おう、任せろ!」
「俺は2班でDランクとも戦ってたんだ、何でも任せて」
「ほーう、言うね、じゃあ遠慮なく」
どう思われるかは知らんが事実は伝えておかないとね。
この進路は見通しがいい。よく見ると森の中まで草が枯れている。除草士が中まで入ってるんだな。木も程よい間隔で生えていて地面もなだらか。切り株も所々あるということは、それなりに人の手が入って訓練討伐用に整備しているんだな。
森に入って100mほど進むと左へ進路がカーブする。90度くらい曲がったぞ。ここの進路はほぼ真っすぐじゃないのね。
曲がってからしばらくしてカルロスが声を上げる。
「エルグリンクス、2体だ、俺は右側、リオンは正面のを行け!」
「分かった!」
直ぐに身体強化して、走りながら共鳴する。
魔物まであと30m。エルグリンクスは体長1mのオオヤマネコだ。
こいつはジェラールやリュークが1撃で仕留めてた、かなり弱い。
シャーッ!
魔物も気づいてこっちに向かって来る。
多分1人でもやれるが、作戦の通り引き返して後衛に連れて行こう。
「あれ?」
カルロスがこっちに向かってきてる、そっか、今、身体強化と共鳴が終わったんだな。しかしこれでは彼が森に入る前に、後ろから付いて来てる魔物と鉢合わせる。
やるか!
ズザッ!
止まって魔物を待ち構える。ここで避けてもクラウディアまで30m、多分魔法は届かない。ならばもう仕留めるぜ。
シャーッ!
魔物は前脚で引っ掻いてきた、それを避ける。するとまた引っ掻きと、連続して繰り出してきた。ちゃんと動きを見れば余裕で回避できる。でもまだスキが微妙だ、跳び掛かりを待つか。
キイイイィィィン
共鳴強化を上乗せしてその時を待つ。35%くらいか、シンクルニウムはトランサイトより共鳴しやすい。40%から極端に難しくなるけど。
む、止まって後ろ足を屈めた、来るぞ!
シャーッ!
跳び掛かりをギリギリで避け、すぐさま着地のスキに切り込む。完全に捉えた!
スパン!
首を落としたぜ! シンクルニウム合金の初討伐だ。
手応えはトランサイトと同じ、物凄い切れ味だ。
さて、カルロスは魔物を引っ張っているところか。
後衛の射線に入らない角度で進路を戻ろう。
カルロスが減速すると魔物が襲い掛かったが、彼は寸前で進路脇へ回避、そこへパメラの矢が突き刺さった。お、少し凍ったっぽいぞ、彼女は水の弓士か。
動きの止まったエルグリンクスにカルロスが切り込んだ。致命傷だがまだ倒してない、すぐさま彼はもう一太刀浴びせた。止めになったね、魔物の血肉が消え始めた。
「集合!」
進路に集まり腰を下ろす。
「ふー、はー、疲れたー!」
「カルロスお見事」
「よく言うよ、ハァ……お前、早過ぎるぞ」
「身体強化や共鳴は直ぐできるよ、だから1体は完全に任せて」
「おう、分かった」
でもこれではクラウディアの訓練にならない。
「引き連れてきた方がいいかな」
「いいえ、リオンが前で倒せるならそうして」
「分かった」
やりづらい相手だったら連れて行こう。
「では再開します!」
クラウディアの声に立ち上がり進路を進む。
「前衛、木の枝、注意!」
「え!?」
パメラの声に目線を上げる。何だ。む、進路に突き出た木の枝に動くものが。
「デスカロテス、あっちにもいるわ」
魔物か。クラウディアはもう1体発見したらしい。
木の枝につかまって頭をこちらに向けたトカゲが見える。体長1m、尻尾を含めると全長2mか。足には長い爪が生えている。前世で言うイグアナみたいな外見で、ちょっとスマートにした感じ。にしても色が特徴的だ、頭が赤くて体が緑、尻尾は青っぽい。
クラウディアとパメラが魔力集中を始めた。ここは任せていいかな。
「初めて見る魔物だ」
「そうなのかリオン、デスカロテスはな、ああやって木の上で待ち構えて、下を歩くと飛び降りてくるんだ」
「えー、怖い」
「でも地上では動きが遅いから余裕で倒せるぞ」
「ふーん」
カルロスはそう言うと身体強化を始める。
そうだ、魔法の発動をよく見せてもらおう。クラウディアに目をやると、彼女が構える杖の前、空間が少し揺らめいていた。あれが魔素集合体だな。ある程度の密度になるまで精霊石から魔素を抽出する、あの色は風の精霊石か。
「はっ!」
彼女が声を発すると、杖の前から強い空気の流れが周囲に拡散した。何だろう、凄く短い突風のようだ、クラウディアの髪やスカートが大きくなびいた。
ドサッ
地面に何か落ちる音、お、倒したのかな。
もう1体もパメラが仕留めた様子。
うは、クラウディアが倒した魔物、側頭部から首筋が消し飛んでいる。彼女のおしとやかな雰囲気とは真逆の倒し方だ。片側には穴が開いているぞ、ここは眼球のあった個所か。なるほど、目から魔法を通して、内部から大きな衝撃を与え、反対側を広範囲に破壊したんだな。
しかしよく狙えるな、10mはあったと思うが。まあ止まっている的だから出来たのだろう。
「集合!」
しかし魔法が飛んでいく様子は全く分からなかった。彼女の風魔法が不可視なのか、飛行速度が速すぎるのか。あ、そうか、トランサイトの杖だもん、それにクラウディアは弓士もできる、きっと魔法射撃も覚えているんだ。杖とスキルの両方で放ったんだな。
息が整うまで少し待つ。
「魔法が飛んでいくのが見えなかったよ」
「私の風の矢はほとんど色がついてないの」
「それでか、同じ風でもマルガレータの斬撃波はよく見えたんだけどね」
「個人差があるみたい」
ふーん。まあ放つ人が分かれば見えなくても問題ないか。
ブーーーン
む、聞いたことある羽音。
「キラースィケーダ、あっちからも来てるわ!」
「リオン森の中のを頼む!」
「分かった、カルロス!」
木の間を縫ってこっちへ飛んで来る蝉の化け物。体長80cmか。
高度は2mくらいだから、跳びながら切れば届くはず。
キイイィィン
タッタッタッ、少しでも掠れば体勢を崩す、そこに追撃すれば。
と思ったら俺目掛けて高度を落としてきた、チャンス!
スパン!
ドサッ
姿勢を低くしながら体に大きく切り込んだ。
魔物は落ち、血肉が消え始める。倒したぞ。
進路に戻るともう1体も終わっていた。再び休憩。
大人たちは素材を集めて荷車に入れる。あれ? 荷車、ついて来てたのか。そっか、ここの進路はかなり整備されていて凹凸もほとんどない。荷車も通れるのね。
「ネイビースキンクよ! リオンお願い」
「え、どこ?」
クラウディアが指さした方にトカゲっぽい魔物がいる。
「任せて!」
身体強化して走る。
胴体は筒状で手足は短い、全長2mくらいか。濃紺で黄色いラインが頭から尻尾まで通っているトカゲの魔物だ。動きはそんなに速くない。
スパン
体を真っ二つにしてみた。倒したぜ。
これ、弱すぎる。いやでも油断はできない。角で突かれたり鋭い牙で噛みつかれると大怪我だ。どんな魔物でも全力で対応するぞ。
班に戻ると皆、休憩が終わったようだ。
「リオン、座って」
「いや平気だよクラウディア、このまま行こう」
進路を進む。しばらく行くと右へカーブ、曲がった先は開けていた。
「あれ、街道に出ちゃった」
でもおかしいな、コルホル街道から南向きに入って東へ曲がった、そして再び南へ進んだのになんで街道に出るんだ。
「ここは西の森へ続く道だ」
「え、そうなんですか」
エリオットが告げる。あ、なるほど、メルキース側から西へ街道を進むと、左側に別れた道があった。なんでも冒険者の馬車が通る道らしい。コルホル街道の南側の森の向こうに、その道が伸びてて、そこへ出たんだね。
この時間はほとんど馬車は通っていない。夕方になったら森の方から沢山帰って来るんだろうな。
「部隊長! 異常ありません!」
「うむ」
道沿いをこちらに向かってきた騎士たちの1人がエリオットに声を掛けた。見回りしてるのね、ご苦労さん。
「では引き返す!」
5班は再び森の進路へ入った。しばらくするとさっき曲がったカーブ、今度は左曲がりだ。
「ヘルラビット! 正面を俺が、右奥をリオン行ってくれ」
「分かった!」
身体強化して駆け出す。
Fランク最上位のヘルラビット、この森では一番強い魔物になるね。
シャーッ!
来やがった、全力の突進だな。でもこのまま引っ張って進路に戻るとカルロスと鉢合わせる。ちょっと森の中で粘るか。
お、そうだ、ちょっと試してみよう。
突進を避けて太めの木に向かって走る。ヘルラビットは真っすぐ突っ込んできた。ぬふふ、お前のその角をこの木に突き立てるがいい。
よし、今だ、回避! 大木の直前で減速し横っ飛び、どうか。
ドスン
ヘルラビットは木にぶつかって少しよろめいている。今だ!
スパン
直ぐに間合いを詰めて首を落とした。
むー、思い描いていた絵と違ったがまあいいか。木って相当堅いんだね。
クラウスはレッドベアの爪を木に突き立てる戦法を話していたが、ベアの腕力ならそれが可能なのだろう。ヘルラビットでは大木に角を刺すことはできないようだ。まあ、必ずしも角度が垂直ではないしね。
進路へ戻るともう1体も終わっていた。
集合して皆の息が落ち着くのを待つ。
カルロスはかなり疲れている様子。激闘だったらしい。
「ふー、3回切り込んだらヘトヘトだよ」
「私も、2回撃ったから疲れたー」
「クラウディアも撃ったの?」
「ええ、1発だけど。リオンが1人で対応すると思ったから戦ったわ」
「それでいいよ」
ほう、では合計6発の剣と矢と魔法か。ヘルラビットも耐久力あるな。流石Fランク最上位。
「リオンは1発よね」
「うん、まあ」
シンクルニウムは強いな。レア度3だしね。それを35%くらい共鳴してるんだから。やっぱりここの魔物も相手にはならない。こんなんで剣技を覚えることが出来るのだろうか。
まあでも、トランサイトの伸剣とは全然違う、あっちはリーチがあるからね。それは圧倒的なアドバンテージだ。シンクルニウムはいくら強くても剣身50cm、ちゃんと踏み込まないと当たらない。
だから立ち回りの訓練にはなっている。魔物の動きも遅いのが多いし、かなり余裕を持って見切れるね。ならば何か付加価値のある動きを考えて試してみるか。ただ振り下ろすだけでは単調だ。
そういやキラースィケーダをやった時の体勢は新鮮だったな。上空を過ぎる対象に剣を通したから。ああいう感じを色々試してみるか。
「では出発します」
5班は動き出す。
「ダークローカスト! 3体!」
「俺が行く!」
カルロスの指示を待たずに走り出す。ちょっと距離が近いから早く対応しないと。
魔物は正面、真っ黒なバッタ? 体長70cmか。気持ち悪いなぁ。
バタタタッ
ぬお!? 飛んだ!
それを避けると、奥の1体が跳躍してくる、くっ!
そしてまた1体が跳躍、おのれ、妙な連携を見せおって。
落ち着け、こいつらの動きは直線的、3体の位置関係を把握しながら1体ずつ確実に仕留めるんだ。スキは跳躍からの着地直後、跳んだら追いかけて切り裂く、これだ。
3体が視界に入る様に間合いを調節する。1体跳んできた。
ギリギリで避けて、いや、いける!
スパン
空中で剣が入った。落ちて動きが止まる、これは放っておいていいな。
次の1体も跳躍、軌道をよく見て、今だ!
スパン
おっし、首から背中まで深く入ったぞ。倒したな。
これ、軌道的に前世の野球でカーブを打ち返すイメージが丁度いい。
あと1体だ。
バタタタッ
ぬ、飛んだか、しかし跳躍よりは速度が遅い。
スパン
脚だか翅だかをまとめて切った、地面に落ちる。
スパッ!
止め! そして最初の1体だ。
スパン
ふー、終わった、やれやれ。
にしてもバッタのくせに短いけどしっかり角が生えてやがるぜ。
「集合」
集まって座るが、戦闘したのは俺だけだ。
「いい動きだったな、リオン!」
「へへ、まあね」
「跳んでいるところを狙うのは凄いわ」
「魔物は俺に跳んできているのだから、軌道を読めばいけるよ」
それなりに速度はあるけど、よく見れば大丈夫さ。あいつらも跳べば空中で制御は出来ない。言わば的になるんだ。クラウスが戦闘中にむやみに跳んではいけないと言っていたががよく分かるね。無駄なスキを生むだけだ。
ダークローカストか、バッタかイナゴか。こいつらは跳ぶのがメインの戦闘スタイルのようだから、対処方法は分かりやすい。同時に複数来られるとちょっと慌てるけど。
俺の休憩が終わって5班は動き出す。
しばらく歩くと右へカーブ、お、出口は近いね。
そして魔物に遭うことなくコルホル街道へ出た。
「みんなお疲れ様」
「ふー、やっぱヘルラビットは強かったぜ、疲れたよ」
「3回目も切り込むのは大したものよ」
「はい、クラウディア様、頑張りました」
「パメラの2発目の矢はいい狙いだったわ」
「はい、うまく頭に当たりました」
「リオンも慣れない魔物によく対応したわね」
「うん、まあ、やるしかないからね」
「さあ、監視所へ帰って昼食よ」
5班は街道沿いを西へ歩く。
皆に一声かけるクラウディア、リーダーっぽいね。
ほどなく騎士団監視所へ到着。食堂へ入る。
騎士たちはまばら。他の訓練討伐の班はどこも帰ってきていないようだ。
「もう食事は用意できている、各自受け取れ」
エリオットの言葉に受け取りカウンターへ向かう。トレーに食事を載せてそこから近いところに座った。
「にしてもリオンは凄いな! 流石、特別契約者、Dランクとも戦ってたワケだ」
「まあね」
「でも何で5班なんだ? お前の実力なら物足りないだろ」
「……ちょっとワケあってね」
「ふーん、まあ、いざという時に任せられるから強いのは頼りになるよ!」
「うん、遠慮なく押し付けてね」
カルロスはいいやつだな。年下の俺でも認めてくれてる。
マルガレータはチクチク言って来たな。ふふ、彼女もプライドがあったのだろう。
「おう、リオン、調子はどうだ!」
「ライニール様、はい、順調です」
「姉様は魔導士どうですか」
「ええ、十分戦えてるわ」
「流石です、リオンもしっかり姉様と連携するんだぞ」
「はい」
ライニールと取り巻きは去った。彼はクラウディア大好きなんだな。兄のアデルベルトもかなり慕っていた様子だし。
む、食堂の入り口から女性騎士に囲まれた男性騎士が入って来た。あれはナタリオだな。全く、騎士のくせにチャラチャラと。緊張感が足らんぞ。
「部隊長、ナタリオさんは人気ですね」
「まあな……何か気になるか」
「いやあの、騎士ってもっと誠実な感じがしたので」
「あれはあれで真面目だぞ。だから多くの者に慕われているのだ。それに考えても見ろ、あれだけ相手にするのは中々に大変だ、それが出来るのは女性たちの心を掌握している証拠と取れる。それは指揮官となった時に部下への気遣いと視野の広さにも繋がるぞ」
「へー、言われれみれば」
なるほどね。女心を掴むのはそれも才能ってことか。確かに、顔がいいだけでは人気は続かない。中身も伴ってこそだよな。
「彼は凄いぞ、女性たちの誕生日や好きな花を全部覚えているし、少し髪型を変えただけでも気づく、僅かな表情の変化もだ、よく観察しているよ」
「それを知っている部隊長も凄いですね」
「部下を理解するのも務めだ」
余程ナタリオを気に入っている様子。彼は未来の指揮官候補だろうな。




