第101話 戦闘の対価
コーネイン商会で職人の仕事を続ける。あと杖を3本やれば昼の鐘かな。杖は試験素材が遅かっただけに意識して多めにやらないと。これも弓と同じ速度増加だからな、後衛武器として需要はあるはず。
それが理由か机の上には杖が多めにある。この際、全部やってやるぜ。
ギュイイイイィィィィィーーーーーン
「ふー」
連続して同じ武器種をやれば慣れが早い気もするしね。
「リオン、クラウスとソフィーナの様子はどうだった」
「クラウスは子爵に積極的に質問してたよ、現領主だからね。引継ぎを円滑に済ませたいのだろう。あとは男爵家で俺を客人に紹介して回ったりもしてたな。ソフィーナは両邸宅共に庭園へ繰り出して大満足だった模様。おお、ミランダやクラウディアと一緒に風呂に入ったらしいぞ、もはや女性陣も家族の一員のごとき扱いだ」
「あの2人はお前より考えることが多い。何せ男爵と男爵夫人となるからな」
「そうだね」
俺の代わりに7年頑張ってくれるんだ。それもミランダみたいに結婚して貴族家に入るんじゃなくて、新規に貴族となるから相当の負担がかかる。今頼れるのは男爵家と子爵家しかない。俺も出来るだけ協力しないとな。
「ただミランダたちの指示に従い過ぎる懸念もある。お前以上にな」
「それは仕方ないよ、何も知らないところから貴族になるんだ、現役しか頼るところはない。向こうも利害関係が一致してるうちは、あの2人への待遇は変わらないだろう」
「その環境で長期間過ごせば、お前やディアナを子ではなく、貴族の駒として見るようになるかもしれんぞ」
「えー? それは大丈夫だと思うけどなー」
なんだよ、フリッツ。今日は一体どうした。
「……何か貴族とあったのか? さっきから変だぞ」
「いや、何もない。ワシは気づいたことを言っているだけだ」
「そうか」
にしては少々キツい意見にも聞こえる。んー、気づいたこと? いや、ワザと言っているようにも感じるな。何となく本心からとは思えない。
そうか! 分かったぞ!
フリッツは、貴族家でも、俺の身内でもない、第3者から見た視点で言ってくれてるんだ。商会との連絡役や、クラウスの家令になる話はあっても、その繋がりが無ければ同じ西区の住人なだけ。元は訓練討伐に同伴する付き合いに過ぎないんだ。
だからこそ、敢えて考え得る懸念を俺の心に留めようとしているんだな。そうすれば思い出し、立ち止まって考えることができる。フリッツはこう言っていたな、と。
「まあ真意は知らんが、引き続き何でも言ってくれ。覚えておくよ」
「フッ、任せろ。ただ言ったことに責任は持たんぞ」
「それでいい、じゃないと思ったことが言えないからね」
「お前も何でも話せ」
「元よりそのつもりさ」
近い他人で利害関係のない信頼できる人物。そんな感じだな、何と都合の良い。いや、俺の封印を解くのが老い先短い自分の楽しみだとかは言っていたか。ふふ、頑張って見せてやるぜ。
では杖を続けていくか。
ギュイイイイィィィィィーーーーーン
「ふひー」
「やや疲労が見えるな」
「ハァ……今日5本目だからね、でも杖の感じは掴めてきたよ」
さて何を話すか。まあ黙っててもいいんだけど、せっかく結界があるからね。
「リオンは口座確認はしているか」
「え、あー、しばらくやってないかも」
「なら昼からでもしておけ、サラマンダー討伐の報酬も入っているはずだ」
「俺に? 立ってただけなのに」
「武器を持って戦場にいたなら対象だ」
ほー、そういや勲章の副賞でも子爵が同じこと言ってたな。
「あ! そういや素材の扱いはどうなるの? もう売り捌かれたみたいだけど」
「魔物対応で発生した素材は全て騎士団所有となる」
「えー! なんかずるい」
「そういう決まりだ。先日の訓練討伐に行く途中で戦った件もそうだぞ」
「あ、そういや、そんなことあったね」
ふーん、町中や街道での戦いは素材を貰えないのか。
「騎士団管轄での魔物対応は、あくまで戦闘協力しただけという扱いだ」
「え、じゃあほっといてもいいの」
「無論だ。元々騎士の仕事だからな」
まああのサラマンダーだって言ってみれば偶発的な気まぐれ参加だもんね。結果的に素材の武器をクラウスとソフィーナは貰えるんだし、いいか。俺は無いけど。
そういや素材武器の完成予定日が延びたけど、魔物素材って5~10日くらいが加工できる猶予じゃなかったっけ。剣身だけ先に作るのかな。
「フリッツ、魔物素材って数日過ぎると硬化して加工できないんだよね」
「うむ、だから職人が延長する」
「え、そんなことできるの」
「例えば硬化までの猶予が5日としたら昇華する30日までの間で延ばすことが出来る。その期間は職人の力量次第だがな」
「なんだ、じゃあ例えばウィルムから買い付けに来た人が、町へ持って帰っても間に合うんだね」
「その延長を施した職人も連れて行かんとできんぞ、延長した時点でその後も触れるのはその職人のみになってしまうからな」
「あー、そういうことか」
その延長加工とやらが、一種の帰属扱いになるんだな。職人と紐づいてしまうワケか。じゃあ延長後は1人で作り上げないといけないのか。大変だー。
ゴーーーーーン
「あ、昼の鐘だ! 最後に1本やろうかな」
ギュイイイイィィィィィーーーーーン
「ふー、……ハァ、これで6本だ」
「昼からも来るのか」
「んー、多分そうなるよ、あ、じゃあまた同伴を頼めるかな」
「構わんぞ」
「いつも、すまないね」
俺とフリッツは工房を出た。
「午後も来ると思います」
「はい」
ララに告げて商会を出る。
西区交差点を曲がり搬入口へと続く道へ。
「ふあぁ~あ」
「今朝は早かったのか」
「いや、6時前に起きたかな、村でいる時よりちょっと遅いくらいだよ」
「……まあ、外から帰って仕事もしたのだ、午後は少し家で休んでからにしろ」
「そうするよ」
「では14時に行く。少し昼寝すればいい」
「うん!」
多分、馬車で移動したのが疲れたんだ。昨日から人と会って無意識に緊張したのもあるんだろう。たまには何もせずダラダラ過ごす時間もあっていいかな。
搬入口が近づくと施工中の花壇が目に入る。
「お、花壇と言えば、エリーゼおばさんは喜んでいるんじゃないの」
「無論だ。隣りが世話を放棄したから2軒分を使えると言っていたな」
「ミーナも楽しめるね」
「あれも花が好きだからな」
貴族家の庭園に連れて行ったら目を輝かすだろう。はは、お花の馬車に乗ってはしゃぐミーナが想像できる。クラウスの屋敷が出来たら、住人を招待してもいいね。ソフィーナやイザベラが気合い入れて庭園を設計するだろうし。
ふふ、こうやってどんな屋敷や庭園にするか想像してる時が一番楽しいかも。
食堂にはクラウスとソフィーナが待っていた。
「おう、来たな。フリッツも付き添いすまん」
「気にするな、また午後も付き合ってやる」
カウンターでトレーを受け取りいつもの席へ。
「豪華な食事が続いたからか、何だかここの食事が懐かしく思えたよ」
「おお、俺もそう思ったぞ、やっぱりこれが落ち着くな」
十分おいしいもんね。料理人のみんな、いつもありがとう。
この世界は家で料理をする習慣が無い、と言うより設備が個人では用意できないんだよね。スキルに依存するあまり調理器具もそれ前提らしいから。従って、前世で言うお袋の味みたいなものがない。強いて言えばこの食堂がそれに当たるか。
もしかして北区や東区は違う感じなのかな。それだったら西区の味ってなるね。まー、それも料理人次第か、どのくらいの期間で異動とかあるんだろう。あれも多分、料理人ギルドとやらが管理してるんだろうし。
そんなことを考えながら食事を終えた。トレーを下げる。
家に帰って居間に座った。
「俺ちょっと昼寝するから。14時に先生が迎えに来るよ」
「そうか、じゃあその頃に帰って来て起こしてやるよ」
「いいわよ父さん、私が14時まで家で一緒にいるわ」
「そうか、じゃあ頼んだ」
クラウスは畑へ出ていき、ソフィーナは奥の部屋で家の用事をしている。俺はソファで横になって目を閉じた。
へへ、お昼寝だー。
カンカンカンカン! カンカンカンカン! カンカンカンカン!
「魔物の鐘だ!」
「リオンはここにいてね!」
ソフィーナは武器を持って出て行った。
むー、昼寝しようと思ったらこれだよ。しかし大型か、やっぱり最近多いな。
この間は新種も出たんだよな、確かカーマインウルフ。クラウスが珍しく怪我してたんだ。また変なのが来なければいいけど。
「失礼するよ」
「あ、リーサ」
「ソフィーナから言われてね、一緒にいる様にってさ」
クラリーサがソファに座る。俺と2人にさせると言うことはソフィーナも信頼を置いているんだね。まあ結界でお世話になってるし、隠密も教わるんだ。そもそもミランダが俺専用で立てた護衛なんだし。
さて、どうしよう。外はそんなに騒がしくない。寝るか。何かあったらクラリーサが起こしてくれるだろう。今の眠気ならいける。
「実は昼寝をしようと思ってて」
「そうかい、じゃあここでいるから、お休み」
「では寝ます」
俺は横になった。魔物が城壁の向こうに来てるのによく寝れるもんだ。慣れって怖い。
ふー、また仕事だし、しっかり回復もしないと……。
◇ ◇ ◇
「リオン」
「……あ、はい」
フリッツか、じゃあ14時なんだね。
「しっかり目覚めるまで待とう」
「魔物は無事終わりましたか」
「何も問題ない」
そっか、良かった。居間にはフリッツだけ、クラウスとソフィーナは畑かな。
「では行きましょう」
「ギルドで口座確認をするといい」
「あ、そうだった!」
2階から冒険者証と通帳代わりの紙を持ってきて丸めた。これ、書類を運ぶ用のファイルケースみたいのが欲しいな。丸まってクセがついたら書き込みづらいし。雑貨屋にあるかな。
「クラウスには伝えてあるからな、では行こう」
家を出るとクラリーサが話しかけてきた。
「私も行くよ、結界がいるんだろ」
「お願いします」
3人で中央区へ向かう。
「先に雑貨屋へ行きたいです、紙を丸めずに保管する入れ物が欲しいので」
「そんなものが欲しいのかい」
「あるかは分からんぞ」
あれ、そうなの。確かにこの世界の人たちは紙の扱いがやや雑だ。それだけ羊皮紙が丈夫なのもあるけど。確かに折り畳んだり丸めてクセがついても、読む分にはそんなに気にならない。でも書く時には困るのだ、俺はちゃんと保管したい。
そう思うのは俺自身に几帳面さがあったのか、それとも元日本人だからか。
中央区の雑貨屋へ。
「いらっしゃいませ」
「紙を保管する入れ物はありますか、出来れば持ち運びに便利な形がいいです」
「……そうですね、これはいかがでしょう、登録士が使う書類入れです」
「おー、いいですね!」
前世でいう証書ホルダーみたいなもの、4隅に羊皮紙の角を通せば動かない。試しに今持ってる紙を合わせるとピッタリだった。A4サイズくらいだけど、これが基準で作られているのね。
「いくらですか」
「1万ディルです」
「分かりました、後で買いに来ます」
雑貨屋を出る。
「冒険者ギルドで口座確認と少しお金を出してきます」
何か買う時はクラウスに相談する話だったけど、そこまで高い物じゃないからいいよね。
ギルドへ到着。
「では行ってきます」
「うむ」
フリッツとクラリーサに告げて口座管理所へ。空いている窓口を探し入る。
「ご用件は?」
「まず出金します、金額は1万ディルです」
「では冒険者証の確認、それから手を板へ置いてください」
言われた通りにする。
「少々お待ちください」
職員は奥へ。しばらくして帰って来た。
「こちらが1万ディルです、ご確認ください」
「……はい、確かに。では取引履歴をお願いします、自分で書きます」
「え? ……少々お待ちください」
職人は一瞬、眉間にしわを寄せて戸惑いの表情だった。なんで?
「お待たせしました、先に言ってくれればお金と一緒に持って来たんですよ」
ニッコリと告げる。なんだ、二度手間だから不機嫌になったのか。そう思っても顔に出してはいけないぞ。これはギルドに報告してやろう、教育がなっとらん、ぷんすか。……フッ、なんてね。
「5月14日以降を読み上げてください、自分で書きます、あ! 羽根ペンを忘れました」
「無料でお貸ししますよ」
「すみません」
なんだ、だったら次からも持って来なくていいか。
「では読み上げます」
「はい、ゆっくりお願いします」
「……以上です」
「ありがとうございました、要件は終わりです」
羽根ペンを返して窓口を出る。あの羽根ペン、ちょっと書き辛かったな。貸してくれるのはいいけど書き心地が違うのはやりにくい。やっぱり自分のを忘れず持ってくるか。
「お待たせしました、また雑貨屋へお願いします、その後に商会です」
雑貨屋で書類入れを買い、コーネイン商会へ。
工房で結界を施したクラリーサは西区へ帰る。
ギュイイイイィィィィィーーーーーン
「ふー」
杖を1本加工しソファに座り、口座情報を眺めた。
「5月15日
入 183,798 残 10,270,495
アーレンツ支部、騎士団より魔物対応として。
5月17日
入 7,175 残 10,277,670
騎士団より魔物対応として。
5月17日
入 62,550 残 10,340,220
騎士団より討伐報酬として。
5月17日
入 105,950 残 10,446,170
メルキース支部、騎士団持ち込みの素材売渡。
5月17日
出 10,595 残 10,435,575
メルキース支部へ運搬手数料の支払い。
5月18日
入 500,000 残 10,935,575
アーレンツ支部、アーレンツ子爵より勲章副賞として。
5月19日
出 10,000 残 10,925,575
本人が現金で受取」
「この15日の魔物対応がサラマンダー、17日がコルホル街道だね」
「そうだな」
「サラマンダーの報酬はこんなもの? あんな強敵だったのに」
「戦いへの参加人数で割られているからな、ボスフェルトで戦った者も含まれているのだろう」
「あ、そっか」
先に西部のボスフェルトへ降り立ってかなり暴れまわったらしいからね。
「止めを刺していれば多く貰える、つまりクラウスだな」
「へー、後でいくらか聞いてみよう」
「そのコルホル街道での魔物だったら4分の1のはずだ」
「ん? どういうこと?」
「おまえはアサルトカイトを倒したと報告していたな、あれの討伐報酬は8000ディルだから、その4分の1、2000ディルがお前に、後の6000ディルを参加者で割るんだよ」
「へー」
では7175ディルのうち2000が止め、5175が魔物の合計から止め分を引いて、人数で割った金額なんだ。サラマンダーは1体だから、まずクラウスの止め分を引いて、参加者で割った金額か、そう考えると18万は高いな、ボスフェルトで参加した人は多いだろうし。
「どのくらいの人が戦ったんだろう」
「150人くらいではないか」
「では18万×150で2700万、うは! 凄い」
「おお、いいところだな。討伐報酬が3000万なら10%の300万が止めの報酬となったのだろう」
「あれ? 4分の1じゃないの」
「魔物ランクによって違う。つまり小型のアサルトカイトを倒すのにかかる人数や手間と、サラマンダーでは全然違うだろう」
「確かに」
なるほどね、止めはあくまで最後の一撃であって、そこに至るまで多くの人が絡んでいる。強大な魔物ほどその割合が多くなるのは当然だ。俺の200%の伸剣は残りの2700万に含まれているってことか。
あれだって俺一人では放てなかった。ミランダが指示して、騎士たちが走ってくれたからだ。その後のクラウスの止めも、ソフィーナが注意を惹いてくれたことで実現できた。
「副賞も貰ったのだな」
「うん、こっちの方が多いね、勲章はまた授与式があるみたい」
にしても17日の訓練討伐の報酬は多い、倒したのがEランク上位とDランクだったからね。クラウスたちが行ってる申請討伐と変わらないくらいだ。まあそれもトランサイト武器のお陰だけど。
明日はシンクルニウムで戦うのか。どんな魔物がでる進路だろう、そしてメンバーは。




