ん?今なんでもするって
「はい。今日はここまで」
先生が締めの言葉を告げるとほぼ同時にチャイムの音が鳴り、辺りは一転お昼休みモードに入った。
私はそそくさと教材を片付けると、鞄を持って教室を後にした。
友達とお昼ご飯を食べる約束?
そんなの私にあると思います?ないって分かりますよね。そーです、もちろんボッチ飯です。
向こう先はいつもの特等席。
学校の庭先の少しはずれた所にあるベンチ。そこがいつも私のお昼ご飯スポットなのだ。
「日差しもポカポカだし、人は来ないし最高♪」
ボッチ飯は寂しいんじゃないかと思われがちだけど、実はそれほど気にならなかったりする。
元から大人数で行動するの苦手だし、一人だと気を使わなくてもいいしね。
黙々と食べ続け、15分ほどでお弁当は空になった。
「ご馳走でした。さてと」
私はお弁当箱を片付けて、鞄からP〇Pを取り出しイヤホンを装着。ちなみにカセットは今話題の金髪っ娘しか出ないギャルゲーだ。
「今日はエルちゃんと、、、くふふ!」
気色の悪い言葉を呟きながら携帯ゲーム機を眺める美少女。
傍から見るとすごく不気味な光景だか、人が全く通らない場所だからあまり気にしていないのだろう。
「ねーみゃーちゃんそのゲーム面白いの?」
だからこそ気づかなかった。
いつの間にか背後に忍び寄るクラスメイトの姿に。
「くぁくぁw背drftgyふじこlp;@:」
「だ、だいじょーぶー!?何語!?」
あまりの驚きに意味不明な言語を話してしまった。
いやいや!そんな事はどうでもいい。それよりも、
「あの、、三家さん」
「ほいほい」
「・・・見ました?」
「なにを?」
あれ?どんなゲームしてたかはバレてない?
学校でギャルゲーなんてやってるのがバレたら揶揄われるのが目に見える。揶揄われるだけで済んだなら御の字だけど、それがきっかけでいじめられなんかしたら、、あばばばば。
悲惨な未来を想像して心がスっと冷えるのを感じる。
ここは適当に誤魔化して乗り切るしかない。
「いえ!なんでもありません。気にしないでください」
「そう?ならいいけど」
よし!誤魔化せたみたい!
内心安堵しつつゲーム機の電源を落とす。
「ところでみゃーちゃんって女の子が好きなの?」
かと思いきやいきなりの危険球。
わざと!?わざとなの!?
安心させてから落として楽しんでるんでしょ!
心からの叫びが喉元まで来たが、なんとか押しとどめてポーカーフェイスに努める。
まだ慌てるような時間じゃない。
ここで慌てて自ら暴露するのはギャグ漫画の中だけだ。ここはクールに流してやりますよ。キリッ。
「そ、ソンナワケナイジャナイデスカ」
「めちゃくちゃカタコトだけど」
悲報:サラッと流せるほどの会話スキルは持っていなかった模様。
「気のせいですよ。あはは、、、」
「でも 、さっきの所謂ギャルゲーって奴でしょ?女の子を攻略するやつ」
しっかり見えとったんかい!
いやいや、関西弁で突っ込んでる場合じゃない。
選択肢:なんとか懐柔してごまかす
選択肢:もちろん抵抗するよ?拳で!
選択肢:強烈な刺激を脳へ
まともな選択肢が思い浮かばないぃ!!
てか、もやしっ子の私に2つ目と3つ目は無理!(そういう問題じゃない)
こうなったら、なんとか懐柔して黙っててもらうしかない。
「あの、、お願いがあるのですが、、」
「ん?どったの?」
「黙ってて貰えないでしょうか?私がこの手のゲームしていること」
無論ギャルゲーが恥ずかしい物だとは私は微塵も思わない。
だが、それでも世論は無常なんです。
ギャルゲー、乙女ゲーしてるだけでキモオタだの揶揄されちゃうんです。
それを受け流すだけのメンタルがあれば気にしないけど、私にそんな鋼の心は無いので、そんなこと言われたら泣くし、吐くし、漏らしちゃう。人間だもの。
「なんで?」
「だって女の子がギャルゲーやってるなんて、変な目で見られるに決まってます。唯でさえ孤立してるのに、、、」
「孤立なんてしてないと思うけどなー」
「そんな慰めはいりません。現に三家さんとこうしてお話するまで他の人と話すことなんてありませんでしたから」
高校に入学してはや2ヶ月経ってるのにボッチなんだから孤立と言わずなんと呼ぶ?
「それは、皆が変に遠慮して、、」
「そんな事はこの際いいです。それより黙っててくれますか。黙っててくれるならなんでもしますよ」
少し迂闊な発言だったけど、背に腹はかえられない。
女の子だし変なことにはならないでしょ。エロ同人みたいに。
「ん?今何でもって?」
「そのネタ知ってるんですか!?」
「フハハ!意外と私はネット民なのだ!なんでもとはいい事を聞いたね!ならみゃーちゃんには言う事を1つ聞いてもらおうかな」
「言う事、、、ごくり。いいでしょう。何をさせるんですか?」
パシリなら任せて。
肉体的に精神的に痛めつけられないなら何でもいいから、お慈悲を。
子犬のようにプルプル震えながら三家さんの言葉を待つ。気分はまるで断頭台の咎人だ。しかし、、
「私と友達になってよ!その硬っ苦しい敬語も辞めてさ。私達同い年でクラスメイトなんだよ?」
「・・・ふぇ?」
彼女のお願いの内容は私の予想とは遥かにかけ違った物だった。
「お友達!?」
「うん」
「無理ですよ!!」
「なんでさ?」
「私みたいな陰キャの日陰者とクラスの人気者のあなたでは釣り合いませんよ」
「自分を卑下するの止めなよ。それに釣り合うかどうかなんて気にしたこと無いよ」
それは貴方がそちら側だからですよ。
思わず口から飛び出しそうになった言葉を飲み込み、体に戻す。これを口にするのはあまりに惨めすぎる。
「・・・他にはないんですか?」
「ない。というかみゃーちゃんに拒否権なんて無いよ?だってこの事誰にも知られたくないんでしょ。だったら分かるよね?」
セリフが完全にいじめっ子のカツアゲやん!
なんなのこの子!もぉー逃げられないじゃん。
「・・・・・・・・・・・・分かりました。その条件飲みます」
「長い間だったねー。所で敬語抜けてないよ」
「う〜分かったよ。これで満足?」
「うん!あとは名前で呼んでね!」
名前?苗字しか知らんのだか?
「名前何?」
「がーん、、そこまで興味なかったの!?千夜だよ。ちーや」
「千夜さん」
「千夜」
「千夜!!」
「にへへ!よろしくね!みゃーちゃん!」
こうして私達の奇妙な友人関係がスタートしました。
はー人生むっずー。