07
今日はお父さんが暇なので色々なところに連れて行ってもらうことになった。
あ、別に千空先輩が来なかったとかそういうことはなく、きちんと昨日までは対応したけどね。
「かなた、どこ行きたい?」
「峠」
「は? ま、またマニアックなところだな……まあいいけど」
峠、と言うよりも高いところから街を見下ろしたい。
それで他の誰よりも上の存在になった気分に浸りたいのだ。
というのも、千空先輩の態度がよく分からなくてモヤモヤしてばかりだからスッキリしたい!
「着いたぞ」
「おぉ……結構高いね」
「だな」
横でスヤスヤと寝ていたお姉ちゃんも引っ張り出して景色を眺める。
やはり上から見られるって素晴らしい、普段小さい私よりも小さい街並みを見て癒やされた。
「寝不足なの?」
「そうですね……お勉強をしていて、気づいたら1時を越えていたという時もあります」
「集中力が凄いんだね」
私なんかモヤモヤと戦っている内に0時越えてしまう。
もう、本当にあの人は私にとって問題事ばかり起こしてくれる人だ。
さすがにずっと考えているわけではないが、その間にできたことだって多いはず。
だからさっさと解決したいんだけど……どうすればいいのか分からないで困っている。
だって、興味がないって言ったら自由に言われるし、興味があるって言ったら「僕はない」って言われるんだよ? どうしろって話だまったく。
「でも、それはあすみさんのおかげですよ」
「え? なんであすみの名前が出てくるの?」
「一緒にやってくれているのです、だから私も普段より集中してできていると思います。凄いのは付き合ってくれるあすみさんですよ」
おぉ、案外このままお互い大切な仲に、とかならないだろうか。
「かなたちゃん……あの、お礼ってなにをしてあげれば喜ぶでしょうか」
あれ、意外と悪くないかもしれない。
それにしてもあすみが喜ぶことか、一緒にいてあげればいいのでは?
「これからも一緒にいてあげればいいと思うよ」
「そうでしょうか、もしそうなら……嬉しいですね」
「良かったね、一緒にいてくれる人が増えて」
「はい、本当にそう思います」
気になっているのとかそういう話はするべきではない。
もしその気があるのなら自分からそうなるよう行動するべきだろうから。
「かなたちゃんはどうですか? 最近はよく千空さんといるようですけど」
「それがさ……あの人よく分からないんだよね」
興味を失くされるのが嫌なのかもしれないけど、巻き込まれるこちらの気持ちも考えてほしい。
しかもいまの私は変に距離を作ろうとしているわけではないのにあの態度だ。
なにが気に入らないんだろう、逆にどうすれば満足してくれるんだろう。
興味がないとあるの間を選択し続けてもこの結果なら、極端さが必要だということだろうか。
「そうですか? 千空さんは良くも悪くも分かりやすい方だと思いますけど」
「そうなの? 私にとっては分かりづらくてさ」
「それでも決して悪さをするためではないと思います。千空さんはそんな酷い方ではありませんから」
それは相手が姉であった場合の話であって、いまは私に確実に悪さをしてきているんだよ。
どこにテスト期間に後輩の頭を悩ませる先輩がいるのかという話。
どうせこれで赤点を取ったって知らんぷりなんだろうな、取らないけどさ。
「おーい、そろそろ次行くぞー」
「はーい。お姉ちゃん行こ!」
「はい、行きましょうか」
で、結局すぐに姉はスヤスヤを開始。
疲れているだろうから起こしはしないけど、よく付いてきてくれたなと思う。
「アイス食べたい」
「こんな寒いのにか? 別にいいけどよ」
敢えて冷たい食べ物を食すことでスッキリするかも。
美味しいごはんを食べても、温かいお風呂に入っても、たくさん寝ても解決しなかったからあまり意味はないかもしれないけど。
「でもまあ、これだよ」
「おお、寒くても美味いな」
「うん」
単純にその美味しさを味わえればいいと考えておいた。
「かなたちゃん一緒にお勉強しよ!」
「うん、しよっか」
最近は母が口うるさく言ってくることもなくなって遅くまで残ることが可能になった。
まあ残ると辺りが真っ黒に染まってしまうわけだけど、幸い家は近く、気にしなくていい。
「いつもごめんね、私が教えてもらうばかりで」
「気にしないで、教えるとより覚えられるからさ」
しずねともだいぶ仲良くなれた。
この事実だけで千空先輩のよく分からなさとは十分戦える。
「そんなところで見ていないで入ってきてください」
「うん……」
しずねに謝罪をして先輩も強制的に参加させた。
こうしないとすぐ拗ねて後に面倒くさくなるからだ。
それでもお喋りが目的ではないからしっかりと勉強をしていく。
しずねが聞いてきたら教えて、一応本番で失敗しないようしっかりと。
「かなた……」
「なんですかー」
「僕の相手もしてよ……」
よく分からないと言うよりも、すっかり甘えん坊さんになってしまっていた。
最近はよくしずねといたわけだが、そうしていると必ずこうしてくるのが常。
「ごめんなさい、いまはお勉強中ですから」
「……ばか」
「あくまでしずねが優先ですからね、先輩なんですから順番を守ってください」
これだけあからさまな態度を取っていてもその気があるとは考えない。
先輩の言葉や仕草なんかを真に受けたら痛い目に遭う。
チョロインの自分はもういないし、告白して振られて傷つたい自分は当然いない。
だから一切気にせず、しずねとの勉強会に集中した。
寧ろ逆に集中できたと思う、意地でも反応しないと決められたから。
「ふぅ、そろそろ帰ろうか」
「そうだね……って、私は相変わらず頼りっぱなしだったけど」
「気にしないで。明後日がテストだけど、明日もやろうよ」
あすみは姉に取られちゃったからこちらは大切にしたい。
あくまで友達としてだけど、しっかり固く太く確実に。
「うん! それじゃあ片付けて帰ろ!」
「うん――と、言いたいところだけど、私も守らないと」
横で不貞腐れて突っ伏した彼女を見つめる。
早くに帰ればいいのにわざわざ遅くまで付き合って偉いというかアホというか。
まあこんなんでもきっかけをくれた人でもあるから馬鹿にはできない。
「あ……そっか、じゃあ先に帰るね、お疲れ様でした」
「うん、お疲れ様でした。気をつけて帰ってね」
さて、この人をどうしてくれようか――って、いちいち考えるまでもないか。
「千空先輩起きてください」
やることは起こすこと、これしかない。
そもそも座りながら寝るのは良くないことだ、おまけに冬だから風邪を引く。
風邪は舐めていると上から下からヤバくなり手がつかなくなるから気をつけた方がいい。
「……ん……終わった?」
「はい、もう帰りましょう」
「やだ……かなたといたい」
またしてもワガママを言い始めた。
……確かに他を優先して少し素っ気なくなってしまったのも事実。
「もう……じゃあ泊まってあげますよ」
「ほんと!? は、早く行こ!」
泊まると言っただけでこの変わりよう、……うだうだ言われるよりかはまだいいか。
今日は一旦家に帰って必要な物を持ってから小暮家に向かう。
やたらと楽しそうな千空先輩、悪い気はしないけど騙されもしない。
1度入らせてもらったことがあるから大して緊張もしていなかった。
お風呂も先輩に洗面所にいてもらいながら入らせてもらった、もちろん逆の立場にもならされたけど。
「かなたっ、ほらベッドに座って!」
「はい、お邪魔します」
ああ、気の持ちようとは正にこのことだな。
あの時は私はなにをそんなに恐れていたんだろうって笑えてくる。
「髪梳いてあげるね」
「お願いします」
――姉ほどではないけど優しく丁寧なやり方。
心地のいい揺れがなんとも眠気を誘うけれど、なんとか耐えた。
やはり先輩といるのは好きだ、ポカポカと心地のいい時間を過ごせるから。
私達はあくまで友達同士、これ以上はいらない、いまだけでも十分。
「かなた……あんまりしずねと仲良くしないで……」
でも、先輩にとっては違うのかもしれない。
そんな縋るような言い方をされたら言うことを聞いてあげたくなってしまう。
「どうすればいいんですか?」
「僕を優先して」
「あなたを優先って、どうすれば優先しているという感じになるんですか?」
「話しかけたら必ず僕――」
「はあ……どうしちゃったんですか、あなたもチョロインだったんですか?」
こっちは彼女のおかげで強くなれてるから悪くも言えない。
だからやりたいことを聞いてあげるしかできない、それで可能そうだったら叶えるくらい。
「しょうがないじゃん……なんか嫌なんだもん……自分より他の子を優先しているのが」
「決して無視はしていないと思いますが、終わった後は必ず一緒にいるわけですし――いえ、やっぱりいいです、あなたがそれを望むのならできる限り応えますよ」
できる限りならきちんと守れている。
先輩と違って適当言って相手をたぶらかしているわけではない。
「ちゃんと守ってよ?」
「はい。できる限りで、ですけどね」
してもらうだけの人間というわけでもないから、望むことをしていくつもりだ。
ただまあ、落ち着けば千空先輩はなにをしていたんだろうと後悔するだろうけど。
私が他の子と仲良くしていて嫌だとかそんなわけない、錯覚だそんなもの。
「ふぁぁ……もう寝ていいですか?」
明日も勉強会をするのだから寝不足でいるわけにもいかない。
そんなことをしたらしずねに申し訳ないし、そんな夜ふかしする理由がそもそもないから。
「え、ごはんは? 僕、お腹空いてるんだけど」
「千空先輩は食べてくればいいですよ、私は寝ているので」
「いやいや、ちょっとそこのコンビニに買いに行こうよ」
「えぇ? お風呂から出たばかりなのに嫌ですよ、なんでわざわざ冷えに行かなければならないんですか」
なぜそこで下に食べに行ってくるという思考にならないのか。
それともあれか? 一応気を使ってくれているということだろうか。
お客さんの立場である私が気まずいだろうからってこと?
もしそうだったらありがたいが、彼女だけという話なら変な遠慮をしなくて済むと思うが。
「できる限りでしてくれるんだよね?」
「あーはいはい……行きますよ」
ここに来てあげた時点で最低限は果たしているはずなんだけどなあ。
――仕方なくやって来たコンビニ。
外と違って暖かくて凄くいいし、おでんのいい匂いがしていてなんとも心を揺さぶる。
ここでアツアツのだしがしみた大根を食べたり、卵を食べたりしたら……やばいね、多分だけど帰られなくなるくらいの威力があるからやめた方がいいかもしれない。
「焼きそばパン買お」
が、彼女のチョイスはノーマルーといった感じだった。
冬とか関係なくただ食べたい物を優先するその様はいっそのこと潔い。
私は元々夜はあまり食べない派なのでおにぎりをひとつ購入、先に会計を済まし外に出る。
この空間にいたら駄目だ、なぜなら簡単に手が届いてしまうから。
たった100円であの美味しい大根がぁ!? ――食べられてしまうからだ。
「ばか、先に行かないでよ」
「はぁ……寒いですね」
「話逸らすな……」
「手が冷えるので繋いで帰りましょうか」
「え……」
今更遠慮するような仲でもないため気にせず握って歩きだす。
彼女の手は先程まで店内にいたからかとても温かった。
ただ、恐らくこちらの手がキンキンに冷えているから意味はない気がする。
「私、他の人の家に泊まるなんて初めてです」
「……どうせ高校に入ってからは、とかってことでしょ?」
「違います、これまで生きてきて初めてです」
親戚の家にすら泊まったことがない。
なんというか酷く不気味な場所で車の中で寝たくらいだ。
「ま、前回は未遂に終わってしまったわけですけど、結局あなたが初めてということですから」
「かなたの初めて……」
「変な言い方しないでくださ――引っ張らないでくださいよ」
って、これは単純に彼女が足を止めただけか。
「かなたの初めてもっとちょうだい」
あとしたことない私の初めてと言えば……良くないことしか考えつかない。
そういう不健全さは求めていないため、残念ながら叶えてあげることはできないかな。
「帰りましょう」
「あ、うん」
うーん、頭の中がえっちなのは自分の方か。
初めてか、先輩を呼び捨てにしたの千空先輩が初めてだし、敬語をやめたら初めてになる。
「千空、その足寒くないの?」
「え? うん、結構寒さに強いから」
「へえ、羨ましいな。私、寒いのはちょっと苦手だから」
「かなたは夏も苦手とか言いそう」
「夏の方が楽だよ、汗かくのだって好きだし」
気づいてないのかな? それとも気づかなかったフリをしているだけ?
まあ別に驚かれたりすると面倒くさいしいいんだけど。
「ねえかなた」
「なに?」
「なんで敬語やめたの?」
やはり後者だったようだ。
面倒くさいからたまたまだと答えて家まで歩いた。