第五話【初ダンジョンの思いでは一生残りますか?】
ここからペースダウン
「さあさあ、あれを言いましょうあれを」ノリノリのちみっこ講師がダンジョンに入ったばかりの俺に催促をしてくる。かくいう俺も一度ぐらい見ておきたかったので、渋々とした感じで言ってみる。
「めっちゃ頬動いてますよニマニマ」うっさいだまれちみっこ。
「ステータスオープン」おー目の前にあるかのようにステータスが見える、まあ予想通り全部【G】だな。
「どうでした?」と聞いて来るので、まあデータの収集は出張所講師の義務かーと思い、「全部【G】」と伝える。
「本当ですかッ無職なのに?」、やめて心の傷をえぐらないで、俺のHPはもう0よ。
「霊能力者さんなんですかー?」と聞いて来るので、ここでやっと思い出した。
「あっ知性か」
「知性のかけらも感じないお返事ですね。」あきれ顔のちみっこ。
「言い間違っただけだし、あと霊能者じゃない」おのれこちとら客やぞぐぬぬとなる。ふーやれやれだぜなちみっこ。
「パーティ申請を行いますので、承認をお願いします。」キックしてやろうかオオン。畳みかけてくるちみっこ。
「申請拒否は受講拒否と受け取りますからね」
おのれおのれおのれおのれぇ元社会人を舐めるなよ。許可を押して「これでよろしいでしょうか」と営業スマイル。無視してステータス画面を記録するちみっこ、てめえ現役社会人だろがぁ、ゆとりかゆとり世代か!
ちみっこがようやく顔をこっちに向け「ステータスの確認を行いました。ほんとに【G】です。なんか特技ありますか、そういえば私に剣を届かせましたよね?」と聞いてきたので、隠すわけでもないし、なんとなく誰が何処にいてどういう動きをするのか体育館一コート分ならわかると答えておく。今思ってもまったく社会人には役に立たない能力だよな。
ダンジョンなんて不思議なものが出来て初めて、社会認知される能力とは、子供のころに知りたかった。
今とは違う人生を歩めたのだろうか・・・ねえな結局思考に体がついてこないのは変わらなかっただろう。
「うーん、もうすぐ盗賊系統の子が来ると思うんですが。」もうちょっと待っていてくださいねーとこっちに言うちみっこ。引率者増えるの?と聞くと「ダンジョンは結構罠ありますからー」と返ってきた。
「ソロをお考えでしたら、止めといた方がいいですよ」と言ってくる。こいつが霊能者じゃね?心読んできやがった。「受講生さんが分かりやすいだけですー」と会話をしてると通路の奥から人がやってきた・・・僕帰るうう
「ちょ受講生さん待って、ステイ」と言って俺の腕を引っ張り押し留めようとする。まるで動かねえこれがステータスの違いか、さっきの消えたような移動といい、ベテランというのは納得できる。あとちんまい。
「こ、こう見えても凄腕の盗賊系統ですからっ」必死に腕に抱き着いて言ってくる。あざと可愛い。チラッと他称盗賊系統の方を見る。
「チェンジで」
他称盗賊がちょっと苦笑しながら言ってきた。「【クラス】差別はいけないよ」
ここがビーチだったら納得だが、そんな恰好をする奴にダンジョンで言われたくない。しかし帰る様子がないので仕方なく尋ねる。
「ちなみに【クラス】をお聞きしても?」
にっこりと10人中10人くらいの女の子がキャーといいそうなルックスでそいつは答えた。
「【ビキニ怪盗】です。」・・・パンツを引っ張りながらのたまいやがった、帰りてえ。
ピチンとういうダンジョンに響く音に腹が立つ。
「おっと、一旦ストップ、罠があるよ、解除するまで待ってて」
さわやかに台詞をのたまい、俺には全く認識できない罠の所に駆け寄っていく怪盗・・・10階層までずっとあのケツ見るのかよ、なんでTバックなんだよ。「帰りも一緒ですからねー」人の心を読んで絶望を伝えるんじゃありません、ちみっこめ。
なーどこに解除道具仕舞ってるんだと聞くと顔を真っ赤にして「エッチ」とか言うちみっこ、最高かよ。
こんなちみっこ講師も道中の活躍は凄いものだった。簡単なオーダーで言うのならば、「サーチアンドデストロイ」これに尽きる。モンスターを見かけた瞬間、凄まじい速度で駆け寄って殲滅している。【クラス】なんなんだろうな、バール戦士かな?聞きそびれちまった。俺も実践訓練として2階層で何回か戦闘を行ったが、全く追いつける気がしない。【クラス】に期待だな。・・・裸系以外にしてくださいインテリジェントデザイン様
「むふーここが職業安定所のある10階層ですよー」両手を挙げて全身から喜びを表現するちみっこ・・・毎回やってるのこれ?
「これからのこと考えるとドキドキでしょ?」おっさんのケツを撫でまわしながら言うんじゃないHENTAIめ、物理的実行力じゃまるで歯が立たないのが悔しい。腕を振るってパーソナルスペースを確保、俺のパーソナルスペースは半径3mじゃあ寄るな。
ちみっこは既に職業安定所の石板近くに行っているので、速足で追いかける。真後ろに付いてくるんじゃねえHENTAI!
「えっ気配完全に消してるのにわかるの」と驚くHENTAI、ちみっこが言わなくて言い事をHENTAIに伝える。
「講習者さんはたぶん空間察知系のギフテッドです。」
そうなのかー、俺も知らなかったよさっきまで。びっくり顔のHENTAIを振り切ってやっと職業安定所にたどり着く。無職よさようなら俺の戦いはこれからだ!
ハイハイこの石板に触って下さいね、終わりましたね帰りましょう。・・・待って、ウェイト、ステイ、えっこれだけ、光ったりファンファーレとか鳴ったり、システムメッセージが世界に響くとか、異世界転移とかないの?
「講習者さん、良い病院紹介しますから」
ええい、泣いたふりしてひどいこと言うな、俺の知力は【G】やぞ。
「言ってみたかっただけだよ、「ダンジョンに行こう」のデータ通りなのな、味気ない」
「まっ皆が通る道だね、あっけなさ過ぎて信ぴょう性がなさすぎるからね。何なら僕の花火を目の前で上げて…」HENTAIの言葉を最後まで聞かずにダッシュ「さー帰るぞー」・・・
家に着きソファーに深く体を投げ出し溜息をつく。これだけか、こんなものか、何らかの【クラス】を得たとしても、結局俺の心は数十年積み上げてきた惰性を逸れる事は出来ないのか、自分の感情を見つめると反吐が出る、乾いた心が反吐すら吐かないというのに吐いた気になっている。
かつての万能感、世界でただ一人の超人だと思いあがっていた、ただの凡人だったというのに。凡人以下に成り下がったあの日から心が乾いたままだ。可愛いと思う、奇麗だなとも思う、カッコいいなとすら感じる、目を離すその時までは。その輝きが見えなくなった瞬間、もうどうでもいいのだ、唯のモノになってしまう。心の渇きが感情をすぐ風化させてしまう。それが嫌だと思うのが普通だと思って、ただの【クラス】に救いを求めるとか、それにすがる心さえ乾くやつが、ああ・・・やっぱり能力の証明がされようが、【クラス】を得ようが・・・渇きがおさまらない