第九話 【不運に進むやつはいない、奴は勝手にやって来るのだ】
この新クラス、機体の確認のために二週間ほどダンジョンに籠っていたのだが、
そろそろ【研究者】さんが恋しい・・・
「何言ってんのこいつ」
【空響の旋律】の心無い言葉が胸に刺さるが、なにも響かない、ああ乾きが。
「キモイ」
響かないもん、涙なんて出ないもん。
「おっさんの涙とかいらねえから」とかいう言論兵器、誰か黙らして。この子のお口にチャックして。
この子最近さらに容赦ないの。最初の初々しさを返して!
まあまあと今回の試験用パーティ、他のサポートメンバーがホントの事言っちゃだめよとか、フォローに入る。
それフォローじゃねえから!
そういうわけで予定通り帰宅中、来る時はゴブリン、オークを蹴散らして下ってきたから、階層上がるのは結構気が抜ける。すでに通過した道だ。こればかりはしょうがないね。
「オークの群れに機体ひっくり返されたくせに」
そんなの記憶にございませんったらありません。
「言っとくけど、あたしの能力で配信してるからな」とか宣いやがるガラの悪い子
オンドゥルラギッタンディスか?!
しばらく泣きながら移動。
しくしく、また騒がれる。
きっと「世界初オークに天地返しされた機体」とか、
「クッコロ機体」とか言われちゃう、えぐえぐ。
SOS信号が機体に入る、アラーム音が響く。緊張させるノイズが、嫌がおうにも精神を戦闘態勢に移行させる。
皆にも伝達。
「SOSを受信、救出に向かう。」
機体に直接SOSを発信できるのは機体だけだ。
通常戦力の数倍を1機で持ち得る機体がSOS必要な状況とか非常にまずい。
皆も状況を瞬時に判断、すぐ様おふざけモードをやめ、装備確認を行っている。
「了解」「われわれは脱出優先に」「救出は可能なら行うように。」サポートリーダーの言う事は合っている、まっこと世の中は非情である。
「でわ」と皆に短く挨拶、返って来るサムズアップ
魂動に火がともる。皆の思いが機体に乗る。瞬時に最大加速、現場へ急行、間に合って見せる。
森の中を疾走、途中のモンスターは無視して突き進む。
居た、俺の感知範囲内に捉えた。
【クラス】を得たおかげなのか、機体のおかげなのか、今や半径5kmが感知内だ。
あと少しだが、信号主がかなりまずい。善戦、歴戦の働き、だがじり貧。パーティメンバーを逃がすためにかなり無茶してる。嫌いじゃない、持ちこたえろよ。
「あと少しで到着する、こらえろ。返信はいい」少しでもあがけるよう、希望になるように通信を先に入れる。
心が焦れる、もっと速く、疾く早く動けよ!応えてくれ相棒
ゴブリンと、オークと、オーガ等と様々なモンスターと戦った。
この2週間無かった心の焦燥が漏れる。
レベルが上がらない、当たり前だ、何もかもが足りなかったと今更ながら思い知らされる。
憧憬、意思、経験、修練何もない癖にレベルがどうこう言えないだろ、くそがっ!
木々の隙間を、根を避ける時間すら惜しい。
脚は手以上に動く、器用【G】だが問題ない。
根を回避し飛び上がる、右前脚を木に打ち込む、最大速度で脚を回転、はじけ飛ぶように前方に打ち出される。
目はついていけないが、俺には空間察知能力がある、どうなっているかが観える。
左前脚を木に打ち付け回転さらに勢いを増す。
もう下は走らない、木を駆ける、空を駆ける、観えている道を駆ける、最短ルートを、間に合う道を・・・
「いえええええええがあっべ」舌を噛んでHPが減った