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我儘王子に婚約破棄された男装令嬢は優雅に微笑む  作者: 木崎優
二章

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「少し時間が稼げればそれでいいんだ」

 四週間あった長期休暇もすでに三週が過ぎ、四週目に突入している。


 学園は王都から馬車で半日のところにあり、向かう日が近づくにつれ皆学園に戻る準備で忙しくなる。半日とはいえ道中での護衛は必須のため、それの手配。そして学園で恙なく生活するための道具や衣服など。

 生徒自身が用意するものはほとんどないが、そこで働く使用人は漏れがないか入念に確認したりと慌ただしくなる。


 そしてアルミラの家も例に漏れず、準備に追われる使用人の姿がそこかしこで見受けられた。


 当の本人はというと、自室で指を折り残りの日数を数えている。学園にいる間は自由な外出もままならなくなり、数ヶ月近く身動きが取れなくなる。

 そのため、長期休暇中に仕掛けなければいけない。


(準備はある程度済んでいるが……)


 小さく息を吐き、凭れ掛かっていた窓の外に目を向ける。


 窓の向こうには色とりどりの花が咲く庭園が見え、そこをアルミラの兄が日傘をさす侍女と共に歩いていた。

 白く透き通るような肌、さらりと肩を流れる髪は艶やかで、花を愛でる姿はどこぞのご令嬢かと見紛うほどだ。

 もしもアルミラと二人で並んだ場合、十人中九人はアルミラを兄だと思うことだろう。


(兄様が女性だったら、ミハイル殿下のお眼鏡にかなったかもしれないな)


 好かれるようなことをした覚えはまったくなく、出た結論は容姿が好みだったのだろうというものだった。

 兄とアルミラは目と髪の色はほぼ一緒で、顔の作りもそう変わらない。むしろ線の細さや儚げな印象を与える分、兄のほうが女性らしいともいえる。


 だが残念ながら兄は男で、フェティスマ家の跡取りだ。どう転ぼうと、ミハイルに嫁ぐことはない。


 控え目に微笑む兄が侍女と話しているのを見下ろしながら、そんな詮ないことを考えていたら扉が叩かれた。


「お客様がお見えです」


 許可を得て入ってきた侍女がそう告げる。アルミラはそれに「通してくれ」と簡潔に答えた。


 そして興味が失せたかのようになんの感慨もなく窓から離れると、ソファに腰かけ客人を待った。



 訪ねてきたのは、レイシアだ。二度目とはいえ公爵家にお邪魔するのが畏れ多いのだろう。目が忙しなく動き、あちこちに視線を向けている。そして不安の表れなのか、胸元で強く手を握りしめていた。


「アルミラ様、本日はお招きいただきありがとうございます」


 レイシアに家に来るようにと手紙を送ったのは二日ほど前。公爵夫妻の留守を狙うために、日時も指定した。

 そして遅すぎも早すぎもせず現れたレイシアは、小さな体をよりいっそう縮こませながら、緊張でおぼつかないなりに必死に淑女の礼をとっている。


「私しかいないんだから、そう緊張しないで」


 緊張を和らげようと安心させるような笑みを向け、ソファに案内した。


「あの……本日はどうされたのでしょうか」


 そうして誘導されるままにソファに腰かけたレイシアだが、落ち着かないのかそわそわとしている。


「王城に忍び込むから、君に手伝いを頼みたくてね」


 アルミラとレイシアしか部屋の中にいないとはいえ、さらりと紡がれた言葉にレイシアの目がこれでもかと見開かれる。


「あ、ああの、それって」

「安心して。城内には入らないから。用があるのは別の場所」

「いえ、でも、城壁の中に入るってことですよね? それって、ばれたらまずいのでは?」

「入るのは私だけだから、心配いらないよ」

「心配ですよ!?」


 思わず声を荒げたレイシアだったが、すぐに両手で口をふさいだ。もしも外に漏れたら大問題になると思ったからだろう。

 ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返し、全身で驚きと困惑を表現している姿にアルミラはくすりと笑う。


「城壁を越えないことには話にならないからね」

「……アルミラ様、どうしてレオン様のためにそこまでするんですか? その、レオン様はアルミラ様を冷遇していましたのに……。戦争を起こしたくないというのはわかりますが、もっと危険の少ない方法もあるのではないでしょうか」


 不安で瞳を揺らしながらも真っ直ぐに見つめられ、アルミラはさてどうしたものかと頭を捻る。

 レオンを振らせる際に「レオンを助けると思って」と説得したので、ここでレオンのためではないと言っても信じてはもらえないだろう。


「私とコゼット様は旧知の仲だと言っただろう? 友人の息子を助けたいと思うのはおかしなことかな?」


 ほんの一瞬の沈黙の後、ゆるく首を傾げて逆に問いかける。


「私はコゼット様に助けられたことがあるからね。その恩を返したいんだ」


 そして返事を待たず言い切ると、レイシアの長い睫毛が伏せられた。皺になるのも気にせずぎゅっとスカートを掴み、ふるふると震えている。


「君には手伝ってもらうことになるけど、責が及ばないようにはするから安心してほしい」

「……私は、レオン様に助けられました」


 恩義というものは、時折利害を無視する。どう考えても割に合っていなくても、義に厚い人なのだと思われるだけだ。

 しかも恩義の内容を詮索するほど無粋な者はそういない。


 とくにレイシアは「レオンのためだから」という理由で、公衆の面前で振るという大役を引き受けた。下手するとレオンの怒りを買うのにだ。

 利益よりも情を重んじる、そういうタイプなのだということは間違いない。


 極めつけに安全を約束すれば、渋々だろうとなんだろうと頷くと思っていたのだが、レイシアの口から出たのは予想外の返答だった。


「……あいつに?」

「はい。窓から落ちたところを……ですので、私もレオン様に返さないといけない恩があります。それに、レオン様が捕まったのは、私のせいなので」


 段々と声が小さくなっていくのは、人質に取られたことを気にしているのだろう。

 もしもレイシアが人質に取られなければレオンは逃げられたかもしれないと、そう思っているのかもしれない。


(逃げたところで、あいつが一人で生活できるとも思えないが)


 どこかでのたれ死ぬか、食料を強奪する姿しか想像できずアルミラは気づかれないよう乾いた笑いを漏らした。


「アルミラ様一人に、危ない橋を渡らせるつもりはありません」


 意を決したような力強い声に、アルミラはぱちくりと目を瞬かせてから微笑みを作る。


「そう言ってもらえると心強いよ。ありがとう」



 やることはいたって簡単。アルミラが城壁を越え、レオンが囚われているところに単身乗り込むだけ。

 フェイ以外の騎士ならばアルミラの敵ではないが、王城近くに居を構えている貴族の私兵が援軍に駆け付けたら、さすがに多勢に無勢だ。


「さすがに一人で相手するには骨が折れるからね」

「……それだと、勝てるみたいですが」

「フェイ様以外に後れを取るつもりはないよ」


 きっぱりと言い切ると、レイシアの頬が引きつった。


「レイシア嬢。君の王都での取り巻き……親衛隊もどきの中には王城近くに住む者もいるから、君は彼らに頼んで兵の派遣を遅らせてほしい」

「でも、采配するのは当主で、息子に権限はないと思います」


 レイシアが社交場でそれなりに親しくなった相手はあくまでも息子であり、兵を動かす権限を持つ当主ではない。

 たとえ頼んで聞いてくれたとしても、ほんの少し遅らせることができれば御の字だ。

 

「少し時間が稼げればそれでいいんだ」


 侵入し見つかり交戦したとして、救援を要請するのは敵わないと判断してからだろう。

 そこから各家に伝令が走り、兵を整え城に赴かせる。それだけでもそこそこの時間がかかる。

 

 その前に異変に気づき兵を寄越してくる家もあるかもしれないが、大挙として押し寄せないのならば気にするほどのことでもない。


「どう彼らを説得するかは君に任せるよ」


 レイシアは腹芸が得意なタイプではないが、男性を籠絡するのは上手だ。もはやなにかの才能なのではと思うほどに。

 だからアルミラは、その才能を見込むことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] レオンを助けるんですね! 大人しく助けられるといいけど、意地っ張りだから、お前の手など借りない!とか、言われそう(^^; レイシアを巻き込んだことも、怒られポイントかも…(^^; 男を籠絡す…
[一言] レイシアもいい様に使われるのですね(笑)
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