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ヒーロー、人助けをする!

俺は森の中を疾走している。先程の悲鳴が発せられたと思われる場所に向けて、ひたすら走る。


改造された俺の体は頑丈さだけではなく、人としての基本スペックを全て向上させられており、俺の走力はプロのマラソン選手も裸足で逃げ出すレベルだ。


乱立している木々を掻い潜り、出来るだけ速度を落とさず走り抜ける。


すまない相棒(ブラックライグ)。人の悲鳴が聞こえたんだ。俺が行かねばならないんだ。それが、ヒーローなんだ。


「あとで必ず迎えに行くから、待っててくれ」


まだ相棒と出会って一年だが、それでも密度の濃い時間を一緒に過ごしてきた。もう掛け替えのない俺の一部だ。絶対に取り戻す。



「だれか助けてぇぇぇ!」


「声が近いっ……」


1分も走らなかったが、どうやら間に合ったようだ。


強化された俺の視力は、鬱蒼とする木々の奥に広がっているひらけた場所を見つける。その場には一人の怯えている少女と、その少女を囲むように立っている3人の男たちが目に映る。それぞれ剣のような武器を手に持ち、座り込んでいる少女に威嚇しているように見えた。


「だぁれもこねぇよ。今からお前は俺たちに……くひひ」

「お頭ぁ! 俺からいいっすかぁ?」

「はい! はい! 俺、俺!」


「ひっ……誰か……助けて……」


……少し考えれば、どのようなことが行われてしまうのか想像できる。俺の強化された聴力は、下衆どもの声も拾う。俺はヒーローだ。だが、救うべき人は選んでいるつもりだ。


涙を流し、そのか細い声で少女から紡がれた言葉はしっかりと聞こえている。


「まぁずはこの邪魔なもんからよぉ」


「ひっ……いやっ!」


男たちの手が少女の衣服に触れようとした瞬間――男の手は空を掴んだ。


「!?……なんだテメェは?」


「……通りすがりのヒーローさ」


少女を腕に抱きながら、俺はそう答えた。



「あなたは……」


「もう大丈夫だ。君を助けに来た」


「!……ぐすっ」


俺のその言葉に少女は目を潤ませ、俺の胸に顔を埋めて小さく泣き始めた。……こんな子供に襲いかかるとは、な。


「……君は下がってて」


俺はポンと軽く少女の頭を叩き、立たせてから背後に庇う。


「さて。……今からアンタたちが取るべき選択肢は二つだ。大人しく帰るか、俺にのされるか、だ」


「急に出てきやがったと思えばふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ、あぁ!?」

「頭ぁ! 俺がコイツをぶっ殺してもいいっすかぁ!?」

「はい! 俺が殺す!殺す!」


怒気を発しながら男たちはそれぞれの武器を手にこちらににじり寄ってくる。……頭と呼ばれているハゲた中年は青龍刀のようなものを肩に担ぎ、他の二人はナイフらしきものを構えていた。


「平和な日本でよくもまぁそんな物騒なものを持ち歩いてるな。手加減出来るかわからないぞ」


「ああ? わけわっかんねぇこと言いやがって……オイ! お前らからいけ! アイツを抑えろ! 俺はトドメを刺す」

「ヘイ!」

「シャァ!」


どうやら選択肢は決まったようだ。俺は自然な動作で拳を構え、迎え撃つべく敵を見据える。


ナイフを振り上げながら突っ込んできたのは、やけにチンピラっぽい口調の男だ。逆手に持ったナイフを一切の躊躇をせず俺に向けた振り下ろしてくる。


“慣れている” 。俺が最初に思ったのはそんな事だった。

俺は冷静に迫り来る凶刃を手の甲で払いのけ、反撃に肘鉄を顔面にお見舞いする。


「ぐぇっ」


俺の肘が顔にめり込み、潰れたカエルのような声を出しながらその男は後方に吹き飛んだ。……そういえば俺も轢かれるときはこんな声をあげてたな。


「いや、どうでもいいな」


「シャァァァァ!」


次いで突進してくるのは太った巨漢の男だ。腰にナイフを構えながら突進してくるということは、刺すためだと推測。俺はその相撲取り並みの巨漢の突進を受け止める。



「へへへ……なっ!?」


「刺さったと思ったか? 残念だなッ!」


体を受け止めながら俺はナイフを構えられた腕を脇と自身の腕でロックし、次の瞬間へし折る。


「ギャァァァア……うげぇ」


へし折った瞬間痛みで叫び出す巨漢の頭を蹴り抜く。巨漢は数メートル横に滑っていき、沈黙した。


「で、アンタはこないのか? それとも、仲間がやられてビビったのか?」


最後に残ったのは頭と呼ばれていた禿げた中年だ。

その中年はさっきから仲間がやられているというのに一歩も動かずこちらを睨んでいるだけだった。

逃げる算段でもつけはじめたか?


「……テメェ、随分つえぇなぁ? 素手で俺の手下をやっちまうとは……噂の神信国の兵……か?いや、まぁいいかぁ……。ふん、ビビってたわけねぇだろ? 俺ぁ練ってたんだよ。――テメェを殺すための“魔力”をよぉッ!!」


「ッ!? はや――ぐっ!」


前半はわけがわからないことを言っていたが、気づけば中年の武器が俺の頭に肉薄していた。俺の改造された恩恵で得た反射神経が反応し、硬い金属で覆われている手の甲でその刃を受け止めた。


「おいおい、今のは死んどくとこだろ?」


「……」


受け止めた衝撃で吹き飛ばされたが、俺はすぐさま受け身をとって中年に最大の警戒を込めた視線を向ける。中年はニヤニヤと余裕の笑みを浮かべていたが、俺は内心焦っていた。


……強い。さっきの男二人とは比べ物にならない。寧ろ、俺の身体能力を超えている可能性が出てきている。まさか、極めて人に化ける能力が高い怪人、か?


……いや、怪人だとしてもその行動原理は人を殺めることだ。さっき少女に行おうとしといた下衆な行為は怪人の行動原理に当てはまらない……。


それに“魔力”って言っていたか? ……この異常な身体能力と関係があるのか……?


頭が様々な思考に染まるが、目の前の敵である中年は関係ないとばかりに襲いかかってくる。


「そっちがこねぇならこっちから……行くからよぉッ!」


「ッ!!」


……速いッ!


俺は斜めに襲いくる斬撃をスウェイの要領で避け、続いてくる連撃をバックステップで回避する。

その空いた空間を中年は一瞬で詰めてき、俺にヤクザキックを繰り出してくる。


「くっ!」


「オラァ!」


腕で防御してるのに、コレか……!

腹に腕をクロスしてガードを行うが、伝わってくる衝撃は予想以上のものだ。なんとか足を踏ん張り、体投げ出されるのだけは防ぐ。


数メートルほど吹き飛ばされ、俺はすぐさま追撃を警戒して構える。


「はぁぁぁ……しぶてぇやろうだ。小綺麗なガキがこんな森の中に入ってきたときはいい獲物だと思ってたんだが、テメェみたいなヘンテコな格好した野郎もいやがる。めんどくせぇめんどくせぇ」


大きなため息を吐いたかと思うと中年はそう言いながらこちらに悠々と歩いてくる。ただそれだけなのに、俺には強いプレッシャーを感じる。


……切り替えないと、勝てない。

アイツは、人じゃない―――――怪人だ。


「……本当に手加減できない。だから先に謝っておく。すまない」

「はぁ? ビビりすぎて頭がパーになったのか?」


中年は馬鹿にしたような声で俺を煽ってくるが、それを無視する。()()()()()()()()()()()


いつもとは違うリズムで指を走らせ、デバイスを叩く。


すると、俺の腕と脚に光が集まり“ソレ”は即座に形成され――装着される。


[ペルソナスーツ]の一部を俺は装着し、覚悟を決める。


俺の手脚に装着された[ペルソナスーツ]の一部を見て中年は顔色を変え舌打ちをし、歩みを突進に変えて接近してくる。


「……チッ、魔具か! 使われる前にィ!」

「“部分瞬着”。行くぞ――!」


前傾姿勢で突っ込んでくる男の斬撃を見切り、その太い剣を拳で打ち砕く。


「なっ!?」


「シッ!」


鋭い呼吸を吐きながら剣を砕いた逆の拳で男の腹にパンチを繰り出し、前のめりになった体を打ち上げるように顎に膝蹴り。 その一撃で脱力したのか、体が隙だらけになる男。


「うおおおおおッ!」


「……!!」


返す拳で俺は男の顔面を殴り――抜けた。


声にならない悲鳴をあげながら男は吹き飛び、後方の木の幹に激突し、体を投げ出した。

数秒ほど様子を見ていたが……どうやら起き上がる様子はなかった。


「ふぅ……っいててて……!」


腕と脚に激痛が走る。

……やっぱり“部分瞬着”は体の負担がデカイな。

『変身』する余裕がなかったから仕方なく使用したとはいえ、辛いものは辛い。……脚と腕が超痛い。

怪人の必殺技を食らった以来だな、この痛さは。


「だ、だいじょうぶですか!?」

「ああ、ほっといたら治るからだいじょうぶだ。君こそ体に怪我は?」


今にも泣き出しそうな顔で俺に声をかけてくるのは助けた少女だ。俺はその少女に手で大丈夫とジェスチャーしながら逆に問い返した。


「はいっ! 私は、あなたに助けてもらえたので……ぐすっ……うええええん!」


また泣き出す少女に俺は困った顔で苦笑しながら、ゆっくりと頭を撫でて落ち着かせる。これもまた、ヒーローのやるべき事だ。


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