ヒーロー、死す?
なんとなく仕事中に頭に浮かんだので書き起こしました。よければ読んでください。
「くらえっ! トドメの必殺――パワーキック!」
「グエエエエエッ!!」
俺の十八番であるパワーキックが目の前の怪人に炸裂し、後方に吹き飛ばす。
「貴様さえ……いなければ……!」
「正義は――勝つッ!」
ズドォォォン! という凄まじい爆音が一帯で鳴り響く。その怪人が爆発したと同時に俺は決めポーズをビシッと決め、いつものセリフを口にする。
「ありがとう! 『ペルソナライダー』!」
「流石正義のヒーロー……かっこよかったぞ!」
安全なところに避難していた一般市民から感謝の言葉がおくられる。軽く手を上げて応えてやり、俺は相棒である[ブラックライグ]に跨りその場を颯爽と去る。
「今日の怪人は中々強かったな……そろそろ博士に[ペルソナスーツ]の改良を頼む時期か?」
俺は自販機で買ったコーヒーを一口飲み、そんな独り言が漏れる。
俺の名前は田中剣。姓はありきたりだけど、名は中々個性的だろ? ――え? そうでもない?
まぁそれは置いておこう。
こんな俺だが、実はみんなに明かせない秘密がある。 え? もう知ってる?
……なら話は早い! 俺の使命は、世に現れる怪人と呼ばれる、人々に仇なす者たちを倒すことだ!
というのも、ある日俺は就職に失敗してしまい途方に暮れていたところを博士に拾われ――――。
とまあ色々あったわけで、今はヒーローとして世のため人の為、この身を捧げて生きている。
「もう冬か……俺が[ペルソナライダー]になって一年、か」
ハァ……と吐息を出し、白くなった息を見ながら怒涛の一年を振り返った。
[ペルソナスーツ]を着るために体を改造し、初の怪人との戦いで辛い勝利を収めた。その後も博士のサポートで戦いが楽になり、徐々に俺も慣れていったな。
……そういえば、俺に後輩が出来るとか博士が言っていたな。さしずめ、『ペルソナライダー2号』とかだろうか? これで更に怪人による被害が抑えられるんなら、大歓迎だ。
「よし。そろそろ家に帰るか」
俺は缶コーヒーを一気に飲み干し、キチンとゴミ箱に投入してから相棒に跨り、家に向けて駆る。
俺の相棒……[ブラックライグ]は通常時は普通の黒いバイクだ。俺が『変身』すると同時にその姿を変える、俺専用のバイクだ。
だから今みたいに普通の車道を走っていても俺が『ペルソナライダー』とはバレない。もちろん、俺の[ペルソナスーツ]も変身しない限りは装着されない。だから俺の見た目は至って普通のバイカーの格好だ。厚めのジャンパーにヘルメット。うん、普通だろう。
「ん……雪か」
相棒を走らせてる中、視界に白い雪が映る。これから更に寒くなるだろう。バイカーとしては雪は危険だが、俺は『ペルソナライダー』だ。そんなもの知ったことではない。いつでもどこでも怪人が現れれば駆けつけなければならない。
まあ、流石に今日はもう現れないと思う。怪人どもの勢いも最近は無くなっており、博士の見解だと「奴らも本腰に入った」ということらしい。一層気を引き締めなければ。
……そのためにも俺は家に帰って英気を養う。風呂入りたい。夕飯を食べたい。
俺はそんなことを考えながらアクセルを更に回し、スピードを上げた。
――その時だった。
「ッ!?」
ヘルメット越しに俺の視界に唐突なフラッシュ。
眩しさに目を細めた。
「……トラック!?」
気づけば目の前に迫ってきていた大型のトラック。
距離にして数メートル。避けるのは間に合わないだろう。
なぜ? どうして? ――思考がそんな考えに支配される前に、俺は手首につけている[ペルソナデバイス]に指を走らせ、慣れた手つきで変身コマンドを即座に入力。
軽やかな機械音が指を走らせるたびに鳴り――
『Metamorphose』
「変身ッ!!!」
その機械音声の後に、俺は叫ぶ。
――ここで一つ伝えておくべきことがある。俺が変身する為のプロセスは三つある、ということだ。
一つめ。[ペルソナデバイス]に変身コマンドを打ち込む。一つでも入力を間違えると変身は出来ない。
慣れるのに大変だった。
二つめ。その変身コマンドを認証した際、[ペルソナデバイス]から機械音声が流れる。そのあとに『変身』と俺の声で言わなければならない。 これが割と大きな声で言わないとダメなため、最初の頃は恥ずかしかったのは内緒だ。
そして、三つめ。これは至って簡単。「変身」という言葉に合わせてポーズを取るだけだ。……博士の趣味だ。俺がそうしたいわけじゃない。
とまあ、この三つのプロセスが大事なのだ。どれか一つが欠けてしまっては『ペルソナライダー』に成ることは出来ないのだ。
「変身ッ!!!――うびゃ」
変身ポーズが間に合わなかった俺はそのままトラックに轢かれた。