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最弱の魔王が最強の勇者を倒すまで  作者: NEO
着いたらそこは魔王城
9/23

魔王代理だって?

「魔王の代理ですか」

「はい。魔王候補の候補までは出ているんですが、まだ最終候補は決まっていないんです」


 ジンは続ける。

「しかし、魔王がいなければ魔王国軍は体裁をなしません。魔王というのは必要不可欠な絶対存在なのです」


 和樹は熟慮した様子もなく、はいとうなずいた。


「分かりました。俺が魔王の代理をしましょう」


 彼は自信満々で、さも当然かのように当たり前だというように言い切った。


 その数瞬後、彼は自信なさげにこう言った。


「で……魔王って何をすれば?」


 頭を掻いて、恥ずかしそうに笑った。


「はい、本来の魔王の仕事は、国内の特別式典(セレモニー)に出席すること、毎日書類に承認印を押すこと、軍隊の司令に承認を出すこと、などです。それに加えて、勇者を倒す、や、国内の各地域を訪れる、というものもありますが必須ではありません」

「思ったより少ないんですね」

「はい、魔王とは国の象徴のようなものですから」


 魔王は、現代日本で言えば『天皇』の立場らしい。


「ただ、必須ではないとは言いましたが、代々勇者を倒すのは魔王の務めなのだという伝統ができています。一人で勇者パーティを全滅させるなんて無茶ですから、もちろん仲間と、ということになりますけどね」

「戦うのかあ。大変そうだ」

「安心してください。貴方のお仲間さんは全員、幹部並み、いやそれ以上の素質(ちから)持っています(秘めています)から」


 和樹は『仲間』である恵也、雄太、清治、歌那、裕香、そして――海里を見た。彼は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そう……ですね。彼らなら、安心です」


 目をつむった。なにか未来のことを考えでもしたのだろう。笑みは絶えず、彼は終始幸せそうだった。


「俺は胸を張って魔王をやれます」


   ◇  ◇


 恵也が駆け寄り、体当たりをする。あ、あくまでじゃれ合いとしてのね。

 和樹がよろけると、恵也はからかうように言う。


「おいおーい、大丈夫か魔王代理〜」

「あんたほんと遠慮ねえな。今の、隕石衝突クラスの衝撃だったぞ。地平線までぶっ飛ばされるところを俺の抵抗でなんとか持ちこたえたんだぜ? 褒めてほしいくらいだ」

「地平線て……オレもお前も何者なんだよ。あー、すごいすごい」


 棒読みだあ、おもしろーい。

 まあそれはともかく。


 笑みを(たた)えて、代理の依頼を快諾したはいいものの、今頃になって緊張と不安がこみ上げてきた。和樹はジンが仕事に戻ったあとに、足ががくがく震えているのに気づいたのだ。


 さっきのやり取りからは、その重責による不安感を打ち消してやろうという、恵也の思いやりがうかがえる。恵也、おまえいいやつだな。


「俺は魔王代理になったわけだけどさあ。お前も話聞いてたろ? 俺と一緒に勇者倒さなきゃなんねえんだから、精進しろよ」

「わーかってるって。当たりまえだよ。オレは魔剣士として勇者パーティをボコればいいんだろ? よゆーよゆー」


 傲慢と取れないこともない態度に、和樹は『けっ』というように皮肉った。


「調子に乗って返り討ちにあわないといいけどな。サッカーで体力測ったときも、何にもできてなかったようだし」

「あ、あれは仕方ねえだろ! だよな、清治!」


 恵也がそう呼びかける。が、清治はダニィルを治療した精霊術師と魔法だとか精霊術だとかの話で盛り上がっている。恵也は悲痛な面持ちになった。


「清治、おーい、おい、聞いてるか?」


 彼は必死に尋ねるが……


『そうなのか。へー、精霊術は呪文が違っても効果は変わらないと』

『うぅん、というよりは、呪文も重要ではあるけど、それで効果が全部決まるわけではないって言うかぁ……』

『ははぁ、難しいんだな、精霊術。教わるのが楽しみになってきた』


 ……清治たちの会話は止む様子がない。


 恵也は汗を垂らし、紅潮している。口をぱくぱくとさせている。


「ふぅー、ふぅー。落ち着け、オレ。話に熱中しているんだ、そうだ、邪魔しちゃいけない。雄太に聞いてもいいじゃないか。それでもいい、うん、そうしよう」


 彼の口調は段々とクールダウンしていき、無事落ち着いた。


 「よし!」と決意を改め頬を叩く。

 ぱちぃん、と音高く響く。


「雄太、オレが何もできなかったんじゃなくて、お前らが、オレの活躍チャンスを作ってくれなかったんだよな。オレは悪くないよな、オレいつもだったら大活躍だよな……って…………」



「寝てんのかぁいッ」



 雄太は、寝息を立てるダニィルに寄りかかるようにして眠っていた。


 傍らでは歌那が、なんとも言えない表情をして座っている。微妙な表情だ。

 何ていうんだ? 軽薄な笑み?

 いまにもハッハッハーと声を上げそうな顔だ。


「まあまあ、雄太は疲れてるのにゃ、許してあげにゃよ。誰かと違って走り回ったんだからにゃあ……」

「歌那、お前もか。裏切り者め」


 口調こそ冗談めいたものだが、恵也は恨みがましい視線を放っている。


「にゃははは。にゃは、にゃはは――げほっげほげほ…………にゃ、にゃはは。裏切り者って言ったかにゃ? 知ってるかにゃー、裏切り者っていうのは仲間(にゃかま)を裏切った者につけられる名にゃんだよにゃあ」

 むせちゃった。……あ、いやなんでもない。


「? いや、まあそれはそうだろ。だから裏切り者だって」

「え……? いつ仲間(にゃかま)ににゃったのにゃ……?」

「ひどい! 付き合い結構長いのに、仲間じゃないって言った!」


 彼は可哀想に、たいへん慌てた。心なしか目元が濡れているような……なんだ?

 目から汗でも流れたのか? 漫画なんかだと目から汗が出ているのだ、と言う人間をよく見るが。実際にそんなヒトがいるのか。寡聞にして知らなかった。


「和樹、お前も知ってるよな。オレが歌那と中学校から、六年間の付き合いだって、知ってるだろ!?」


 最初は和樹からのからかいから逃げてきた恵也だったが、今はその和樹に縋っているという無様な有様であった。


「さぁー?」

「……」


 今度は言葉すら発さずに、ただただじっとりと()めつける。殺意だけで人が死にそうな勢いだ。それに、また目から汗が流れて。


「う、わ。あんたもしや泣いてんのか⁉ や、ごめんごめん、そこまで傷つけるつもりは……」

「泣いてない! 目から汗が出ただけだ」

「目から汗って……ちょっと待て、それガチめに大丈夫なのかよ。身体機能に異常があるぞ」


 和樹は本当に心配そうな顔をして、本当に真面目な顔をして忠告した。まったくだ。目から汗が出たというのは晴天の中台風が暴れるくらい意外なことだろう。

 異常というのか、非日常というのか。とにかくあからさまに変な自体である。


 というか。

 ウソじゃないんだな。ほんとにあるんだな。目から汗が出るって。ビビるぜ。


「なんで信じてんだよ…………」

 恵也がボソッと言った。ん? 今なんて?


「もういいや。オレは気にしねえ」

「サッカーで活躍どころか何もできなかった恵也くんが通るぞー」

「だからなんだ」

「ちっ。学習しやがった。煽りには開き直るという必勝法を」


 かなり成長の度合いが大きい恵也は、この程度の些事に惑わされることはないのである……


「でもなあ、何もできなかったのに変わりないんだよなあ。ファンの一つもできないのは本人に問題があると思うんだ、うん」

「てめえ、そろそろ怒るぞ」

「もう怒ってんじゃん、て。おい、よせ。そのハンマーは戦闘用じゃない。本来の使い方を……ちょ、ま……ひいいい」


 恵也は無言の圧力で詰め寄る。暴言を吐くより、怒鳴るより、怖いことはある。


 和樹は腰を抜かしかけ、へっぴり腰で逃げ惑う。そのあとを、無表情で追いかける恵也。


 かなり成長の度合いが大きい恵也は、この程度の些事に惑わされることはないのである……

 と。信じたい。そうであってくれ……。


 ついでに一つ。

 裕香と海里は、ほどよく離れたところでおしゃべりしている。そう、例えば目の前で起こっている恵也と和樹の茶番についてとか。そういったことをネタにした楽しい談笑だ。


   ◇  ◇


 そんな感じで。

 時間はあっと驚く速さで過ぎ去った。


 いつの間にやら、城の周りは暗く。とっぷりと日が暮れ、美しき月が浮かんでいた。地球の月と違うところはなく、しいて挙げるとしても、月の模様くらいのものだ。月は柔らかな光で地を照らし、それが至らぬ場所はない。どこまでも見通す澄んだ光だ。

 城の周り、森林や平原、それに……古代文明の遺跡までもが仄かに明るく、ぼんやりと存在を知らせている。


 和樹は、自室の窓辺で、美しい月を見上げていた。嘆息し、今後の展望について考える。魔王代理という仕事。六人の頼もしい仲間。

 自分は何をすれば良いのか、どうすれば良いのか。仲間に何をしてもらえば良いのか。


 勇者パーティに、魔王とダニィルを圧倒する謎の三人の冒険者。彼らだってどこからか異世界に来た(たぐい)の人間だろう。

 魔王と戦うのは本意なのか、何もわかることがない。もし万が一本意でなく、平和な世を築くつもりがあるのなら――歩み寄りは可能だ。



 がちゃ、と。

 自室の扉が開けられた。和樹は月から目を逸らし、扉の方を見る。


 恵也が戸惑った顔でそこにいた。


「恵也、どうしたんだ?」

「えーと。ここってオレの部屋じゃなかったか?」


 恵也はトントンと足で音を出し、自分を指さした。


「いや? 俺の部屋で合ってるぜ」

「そか。オレの部屋は隣だったよな」

「ああ、そうだったはずだぞ」

「じゃあ戻るわ。にしても、なんだ、考え事か?」


 じゃれ合ったときの軽い口調ではなく、しっかりと相談に乗ろうという気持ちが見え隠れするようなものだった。人の良さが滲み出ている。


「ちょっと、な」

「なにか困ったら、すぐ言えよ。解決できるかはわからんが話し相手位にはなれる」

「おう。ありがと。また今度、そうさせてもらおうかな」

「じゃ、おやすみ。ゆっくり身体を休めろよ」

「おやすみ。そっちこそ身体は大事にな」


 入ってきたときと同じように、がちゃと戸を閉めた。そのあと隣の部屋の扉が開けられる音がする。


『うお、ここオレの部屋じゃなかったっけ』


 困惑した声が聞こえてくる。


「あ、恵也の部屋は隣の隣だった……」

「………………」

「……まあいっか。寝よう」


 彼は身体をベッドに身体を横たえ、布団を掛ける。異世界のものではあるが、元の世界のものと比べても遜色ない、滑らかな肌触りである。


 彼がベッドに入ってから、寝入るまでに時間はかからなかった。



 明日からは激務だ。忙しくなるぞ。

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