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最弱の魔王が最強の勇者を倒すまで  作者: NEO
着いたらそこは魔王城
16/23

王都観光

 一階に下りると、皆はもう揃っていた。

 各々ワクワクとした様子で、城の外を伺っている。外は朝早くにもかかわらず、賑やかで楽しげだ。多くの人が笑みを浮かべ、行き交っている。


「さあ、和樹殿が来たぞ。全員集まったから行こう!」


 皆の顔がこちらへ向く。


「お、和樹様、おはようございます。よく眠れましたか」

「お陰様でぐっすり寝れたよ。今日はどうするの?」

「ええ、我々は予定より早くついてしまったので、時間が空いているのです。それで、観光がてら街を巡ろうと思いまして」


 本来ならば、一週間ほど後につくはずの行程である。観光でもせねば手持ち無沙汰になってしまうのだ。


「ああそういうことね。じゃあ全員で行くの? 人数が多い気がするんだけど」

「はい、ですので、分かれて行動することにいたしました。こちらで勝手に組ませていただいた分け方ですがよろしいですか?」

「もちろん」


 と、ダニィルは三組のペアを発表した。

 まず、ダニィルと戦斧使い。

 次に、エイヴィと鉄球使い。

 最後に、和樹と大剣使いだ。


 和樹は大剣使いに近寄り、顔を窺った。


「じゃあ、俺は……えーと、なにさんだっけ」

「おっとすみません、自己紹介がまだだった。僕は主に炎刃(フランベルジュ−)両手剣(ツヴァイヘンダー)を使う、護衛のファイリです」

「ファイリさんか。一日よろしく」

「ええ、こちらこそ、和樹様」


 和樹は、まだ慣れない様付けがむず痒い。孫の手が欲しい、だろう。きっと。


「うーん、今日はただの観光だから、その様ってのどうにかなりませんかね」

「様を外していいのですか?」


 大剣使いことファイリが食い気味に返事をした。身を乗り出すような格好だ。


「は、はい、いいんですけど、どうかしましたか?」

「あ、すみません、和樹さ……和樹くんと仲良くなりたいと思っていて」

「そうなんですか、なんか嬉しいです」

「良かった……同年代の友人が欲しかったんです。他の護衛の人たちも、良い方々ではあるのですけれど、年代が離れているからか、距離があるんですよ」

「あれ? 同年代なんですか?」


 和樹は素っ頓狂な声をあげる。

 

 それもそのはず、ファイリの外見はもっと年上に見えるのである。顔こそ若いけれど、その丁寧な態度に柔らかな物腰は、老成している、といえば言い過ぎだが、それに似た雰囲気を感じる。

 簡単に言ってしまうと、大人びている。いや大人ではあるのだが。


「はい」

「えーと……おいくつで?」

「二十歳だよ。君は十七、八だろ?」

「まあそうです。へぇ、二十歳か。大人びているんですね」


 ファイリは不思議そうな顔で首を傾げる。目の中に疑問符が浮かんでいそうだ。


「ん? 大人びている? むしろ僕は、君が幼いと思ったんだけど。十五歳くらいに見えるよ」

「十五歳くらいなんだ。うーん、そんなに幼い方ではなかったんだけどな」

「まあいいや。取り敢えず市場に行きましょう!」


 ファイリが和樹の腕を掴み、市場まで連れて走った。



 人混みを走り抜ける。町並みが後ろへと流れている。

 人にぶつかったりしつつも、彼らは市場に到着した。


 地球の感覚で言うなら、週一回開催される地域の市場。それが毎日のように開かれ、シャンクペトルの王都住民で賑わっている。王都では男女差別は無いらしく、老若男女問わず、幸せそうに売り買いしている。


「じゃあ、まずここを見よう」


 と、ファイリが最初に目をつけたのはフルーツを売る青果店。地球では見られない様々な果物が並ぶ。


 一体何なのか、籠に入った、トカゲの形をしたフルーツらしきもの(籠の中で元気よく動き回っている)や、真っ赤なヤシの実のようなものだとか、(くすぶ)ったような灰色の花(これも果物なのだろうか)だとか、そういったもの。

 とかく、元の世界には存在しない、奇天烈な植物が乱雑に配置されていた。うん、これ、正確な表現を探すならば、ぶちまけられていると言ったほうが良いだろう。議論の余地なく。


「ほら、このトカゲを見て。これは僕らの住む地域では珍しい。これらは豊かな森の中にしか生息しないんだ。それに、ある程度以上の脅威度を持つ生物が生息する地域にも住まない。証拠に、これだけ他のものより値段が高いだろう?」

「ほ、ホントだ」


 確かに、それらは他の商品に比べて高価なものであるようだ。通貨単位は分からないけれど、数字は翻訳能力を介せば読める。比較くらいはできるということだ。


 トカゲがつぶらな瞳で和樹を見上げる。可愛らしい。まるでペットのようだ。


「魔力を持つ動物としての生態と、植物としての生態、それら二つを同時に有する生物だから、この種の生物のことを混合生物と呼ぶそうだよ。ただ……」


 と苦笑して続ける。


「和樹くんはもう分かっていると思うけど、これには食物として重要な欠陥があって」

「欠陥なんてあるの? こんなに可愛い食べ物なんだからさ」

「それだよそれ。果物として売られているのに、動物のように動き回るし、その上ちっちゃいから愛着もわきやすい。他の動物が食べ物になるときと違って、生きたまま販売するから、買った()()愛玩動物(ペット)として飼い始めたりするってことが起きる」

「食べるという本来の用途から外れてしまうわけですね!」

「その通り。そういうわけで、僕はこれをペットショップで売るべきだと思うんだけど、どうやらここシャンクペトルでは、あくまで食物として販売されているらしい。聞いたところによると、動物として扱い、ペットショップで販売する地域もあるらしい。そういう地域差ってのはやっぱり面白いよね」

「確かにおもしろい」


 それで、とファイリは言う。

 結局何を買う?


 和樹は悩んだ末、赤いヤシの実を選んだ。

 最も害がなさそうで、また周りに美味しそうに食べているものが数人いたからである。誰だって、動く果物を食べたいとは思わない。ましてペットにしたいなどとは、少なくとも、買う前には思うまい。


   ◇  ◇


 その後も、多くの屋台をまわった。例えば木製の玩具を売る店や、簡素な民族料理を振る舞う店など、その種類は多岐にわたった。


 玩具屋の人形は、マリオネットの様に糸で操作できるものだ。

 店長の操る技術が卓越していて、人形の動く様子は、本当に生きているのではないか、と錯覚させられるほどのものだった。和樹とファイリの満場一致(二人中の二人が賛成した)で購入することになったくらい素晴らしいパフォーマンスである。

 

 さっきの青果店でもそうだが、支払いは、予め預かっていた金から払った。ダニィルから、シャンクペトルの硬貨を朝に貰っていたのだ。


 合わせて銅貨三十枚、日本円にして二千円程度の支出だ。


 不便な通貨だな、と和樹は思った。

 こんな小金で三十枚も出さなければならないのだ。その労力はばかにならない。


 聞くと、銅貨の上位硬貨である銀貨とのレートは、銀貨一枚に対して百五十枚だという。滅茶苦茶に思える。このくらいの文化レベルなら仕方がないかもしれない、なんて思いながらも、和樹は不便さを嘆かずにはいられなかった。


 日本の通貨は便利だったんだなあ、と、しみじみと呟く。一円玉を十倍すれば十円玉と等価であり、さらに十倍すれば百円玉と等価であり……と最小硬貨から十倍ごとに貨幣が存在しているのだから。


 まあそんなわけで、二人は大いに買い物を楽しんだ。二人の持つ買い物袋も、この地域の伝統工芸品の織物である。


 赤や黄、黒などの色が組み合わさった模様で、見ていると目の錯覚を起こしそうなぐるぐるマークが織り込まれている。


 案の定、和樹なんかは気分を悪くしてしまったらしい。……病弱過ぎないか?


 ファイリは和樹に顔を近づけると

「はー、大丈夫? 和樹くん」

 と心配そうに言った。


「う、うん、なんとか。ちょっと休んだら大分調子が良くなった」

「そりゃあ良かった。買い物には疲れたし、なにか劇でも見に行く?」


 和樹は、ファイリと自分の持った買い物袋を見て、一瞬思案すると、結論を出した。


「そうだな。もう十分買い物はしたから、見に行きたい。どこで見られるの?」

「あーっと実は……」


 ファイリが苦笑いを浮かべる。


「僕もどこで見れるのかは知らないんだよね」


   ◇  ◇


 数人の王都民に場所を聞いたところ、見世物は、主に街の外で行われているそうだ。なぜそんなところで、とは思うが、多くの護衛が付いているらしいし、なにか理由があるのだろう。


 兵士の許可を得て、門から出ても、そこにはただ平原が広がるだけ……ではない。少し歩いたところに、サーカスの巨大なテントの様なものがあった。


 陽気な民族音楽が聞こえてくる。笛の()や、弦の朗々と歌うような音が。


 大きなテントの近くにはいくつかの店が集まっている。いずれも小規模なものであり、組み立ても容易だろう。

 和樹はいくらか考え、屋台の集まりの外れを見た。沢山の馬車の荷台が並んでいる。やはり、あのテントは移動サーカスのごとく折りたたみ、持ち運びができるのだろう。フットワークが軽そうだ。


 大きなテントへ歩く。ところ狭しと配置された小屋やなんかをすり抜けながら。

 王都と変わらぬ賑やかさがそこにはあった。


 受付らしき女性が、眠そうな表情で立っている。微睡(まどろ)んでいるといったほうがわかりやすいかもしれない。


「すみませーん、劇を観たいんですけど、次のはいつ始まりますか?」

「はい? ああ、次は……えっと、もうすぐ始まります。今なら間に合いますが」

「あ、じゃあお願いします」

「んー。銅貨が、二十枚と二十枚でぇ…………?」


 頭がうまく働かないのか、とろんとした目で空を見つめている。大丈夫かこいつ。足滑らせて怪我しそうなくらい危うい。

 見かねた和樹が、小声で耳打ちする。


「四十枚です」


 女性は、目をぱちくりとさせ

「あぁ! そうです、四十枚です。ありがとうございます」


 そしてファイリが差し出した銅貨を受け取り、破顔した。まあなんとも可愛らしい。


「では、あちらの入り口からお入り下さい」


 女性はそこまで言うと、また睡魔に襲われたようで、(まぶた)の重みで閉じようとするのに身を任せ、現実と夢の狭間に誘われていった。


 二人はそれを呆れたように見たあと、そそくさと巨大なテントに入った。

 キョロキョロと見まわし、比較的劇を見やすそうな位置に陣取った。



 中は、外から想像した以上に広々としていた。(あか)りは少なく、薄暗い。


 扇情的に揺らめく蝋燭が、今か今かと劇を待つ観客達の興奮を呼び起こす。


 ボルテージが上がりきった。

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