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最弱の魔王が最強の勇者を倒すまで  作者: NEO
着いたらそこは魔王城
14/23

王都ブルカン

 ぶわーん、という奇妙な音と共に、和樹、ダニィルなど六人と二頭の竜、それに(竜用の)馬車が宙に放り出された。(エイヴィは瞬間的に人の姿に戻っている)


「ぶへっ」


 和樹が顔から地面にぶつかる。空から放られるとは言っても精々二十センチ程度であったため、幸いというべきか怪我は無かった。本人は泣きそうな表情だが。涙目じゃん。大丈夫?


 他のものは、軽々としたふうに降り立った。

 凛々しい、という言葉が似合う。


「いってー」

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。ありがと」


 和樹は差し出された手を取り立ち上がる。


「えー、皆さん、ここが会談予定のシャンクペトル王国の王都ブルカン、その宮殿です」

『ほえーー』


 見上げるほどの巨大な宮殿。絢爛な外装で、目がチカチカしそうだ。

 単に金だとかの煌びやかな素材が使われているというだけではなく、細部の装飾も見事で、匠の技が光っている。正面から見て、その宮殿は完全な左右対称(シンメトリー)であり、精密さにおいてはミリ単位で決定されているとまで思わされる。


 配置された幾多の英雄の彫刻にも慎重な配慮が見られ、細密な技巧はもちろん、黄金比なども多くの場所で使われ、見るものを夢心地に引きずり込む、悪魔のような魅力を醸し出す。


 雑多なものは一つとしてなく、全ての部品(パーツ)の凹凸ががっちりと組み合わさってできた総合芸術。美術の統合。

 それが王都ブルカンの宝玉宮殿である。


 彼らが宮殿に見惚れ呆けていると

「そこの者ども、王都では【瞬転(ワープ)】は禁じられている! 詰め所までご同行願おうか」

 と、声を掛けられた。


 そこにいたのは、プレートアーマーに身を包み、背丈ほどの槍を持った、顔を見えるように兜のみを外している衛兵らしき人物。

 その鎧は白銀であり、太陽光をキラキラと反射していることから、毎日懇切丁寧に磨かれているとわかる。兵士の誇りだろう。彼の顔には自信が満ちている。


「は、はい。ですが【瞬転(ワープ)】を使ったのには重大な事情があるのです……」


 兵士は、警戒はしているが怯えてはいない、という態度で高く声を上げた。


「詰め所で聞く。……おい、アルベルト! お前も付いてこい」

「承知いたしました」


 声を上げた兵士が和樹らの前、アルベルトと呼ばれた青年の兵士が後ろに付くことで、和樹たちは連行されていった。


 なんとも間抜けな絵面である。


   ◇  ◇


 詰め所は、その字面からは想像もできないような、清潔なところだった。

 それにかなり大きな建物であり、ともすれば、病院にも見えた。


 ここまで連れてきた二人の兵士は、着いたとたん持ち場に戻っていった。


 現在取調べ中。

 容疑者(?)は六名。

 彼らが連れていた二頭の竜は、詰め所にある竜舎で保護された。竜の馬車も同様だ。竜に目立つ傷はないため、連れて行った兵士達は『虐待はなさそうだ』みたいな話をしていた。虐待って……とは思うが、この世界は日本ほど治安が良くない。その日本ですらある虐待という社会問題。この世界に無い訳が無かった。


 六名は、高機能多面判別魔結晶、通称魔石で、異世界転移/転生モノで定番の【鑑定】をされた。


 魔族四人。竜人一人。人間一人。


 ()()集団(パーティー)である。

 いくら魔王国と親交のある国であれど、それはあくまで平和のため、商業のため。精々、十人規模の商隊に一人魔族がいるかどうかという程度だ。


 だから、彼らは警戒される。

 

「で、あなた達はどんな団体なんですか?」

「ですから、私達は魔王国ラージの魔王とその側近で、国交継続の会談に来たんですよ」

「またまた、ご冗談を」

「いえ、冗談ではありませんよ。どこに疑う要素があるんですか」


 詰め寄る兵士の口調こそ穏やかだが、目は笑っていない。真顔だ。


「疑ってなどいませんよ。疑問を持っただけです」


 兵士は、言い回しだけ変えた同意の文を口にした。


「疑問点は沢山ありますよ。

 この王都に【瞬転(ワープ)】してきたこと。しかも魔族のほうが多いなか魔王を名乗る子供とは、信じろというほうが難しい」

「ぐぬぬ」


 悔しいが兵士の言うことは至極もっともである。しかも前魔王は死んだ直後。情報が回っていないのも無理はない。仕方がないことではあるのだ。



 バタン! と扉が開け放たれた。


「おい、てめぇ! また報告サボってやがんのかオラァ!」

「ちょ、待ってください。誤解です」

「俺知ってんぞ。てめぇがこの不審者共を報告せず済ませようって魂胆なのはな」


 飛び出したスキンヘッドの大男は、尋問をしていた下っ端と見られる兵士を担ぎ上げた。


「別にいいじゃないすか! 一日に何回こういう事案があると!? いちいち報告してたら身が持ちませんよ!」

「あって一日に二、三回だろ。ったく。おまえは面倒くさがりで困る」

「でも、よくいる迷惑野郎どもなんですから、いいじゃないですかー。あっという間に処理する予定だったんですよ!」

「はいはい。よっこいせっと」


 スキンヘッドは、開いたままの入口へ兵士を投げた。

 兵士は地面にぶつかり、ぐしゃっと潰れた。酒屋で潰れたかのように気を失った彼は、呆れ顔の、他の兵士に引きずられていった。


 ダニィルは、驚異は去ったとばかりに胸をなでおろしたが……


「すみませんね。()()()()


 驚異は去ったどころか、さらなる巨大な(スキンヘッド)が迫っていたのである。


「それで、なんで王城前に現れたんですかい?」


 ドスのきいた声だ。こわっ。和樹もちびり……(違うな。なんかスキンヘッドを睨み返している。ふむ……。まあいいや。こういうことにしておこう)


 そう。和樹はちびりそうに恐怖した表情で、ぶるぶる震えていた。まるで小動物のように。


 その和樹が、一本芯の通った声で、状況を少しばかり脚色して伝える。


「俺たちは確かに怪しい行動をしました。王都の中にいきなりワープするのは訝しまれても致し方ありません。しかしそれには、明確な理由があります」

「そうか、続けてくれ」


 反応を伺う和樹に、スキンヘッドは続きを促した。咎めなかったのは、それだけ、和樹の台詞に説得力があったからだ。


「俺は魔王になったばかりですが、しっかりと己の務めを果たすべく、確実に会談に間に合いたかった。でも、ワープでもしなければどうにもならない事件が起こったのです」


 場を緊張が支配する。

 和樹は空気を操るのが上手くなったな。


「途中、グリフィンをも捻り潰す強力な冒険者(てき)が現れました。それのみなら問題なかったのですが……彼奴は禁忌の魔術を使ったのです」

「なんだと!?」


 スキンヘッドは、完璧に和樹の話を信じたようだ。前のめりになって真剣に耳を傾けている。


「禁忌だと……本当か!」


 実際のところ、冒険者が禁忌の魔術を使ったことは確かなのだが、和樹がそのことを知っているはずもない。つまりは知ったかぶりである。もっと言えば嘘。


 真実の情報であるにしろ、本人としては知ったかぶりな上に、この位の嘘は、禁忌魔術を知っている者なら作り出せる。

 普通なら、バレるのが常というものだが、上手く騙せたらしい。


「もちろん本当ですとも。その情報を貴国に伝えようと、急いでワープしてきたのです」

「むむぅ。そうなってくると、いろいろと報告も変わってくる。ちょいと待っててくれ」


 スキンヘッドは困惑した様子で奥へ引っ込んだ。

 



 しばらくして、恰幅(かっぷく)のいい紳士が現れた。上等な赤スーツを着こなしている。赤とは言っても、『大人の色』という感じのものだ。そういった落ち着いた雰囲気を保ちつつも、光沢があり、見るものを魅入る魔力を有している。

 また、黒いラインの入った赤いシルクハットを(かぶ)っている。


「お初にお目にかかる、外交官を務めております、ローレンツ・ドラグと申す者でございます。

 お? ダニィル様ではありませんか。お久しぶりです」

「おおぉ! ローレンツ様! お久しぶりでございます。一年ぶりくらいでしょうか。お母様はその後お元気ですか?」

「ええ、お陰様で嘘みたいにピンピンしてますよ。その節はどうもありがとうございました」

「礼には及びません。当然のことをしたまでですから」


 ローレンツと名乗った紳士とダニィルは知り合いのようで、親しげに会話を交わしている。


 ダニィルは、その存在を思い出したかのように、和樹達に向き直った。


「あ、皆さん、ご紹介します。この方は、ここシャンクペトルの外交官のローレンツ様です。前回の会談で、非常に良くしてくださったのです」

「こんにちは、ローレンツさ……さま? 黒岩和樹です。――あっ。えっと、黒岩が苗字で和樹が名前です」


 様付け呼びに慣れていない和樹は、相手の名前の部分詰まってしまった。これはかなりの失礼だ。怒られてしまっても仕方がないレベルだぞ。


 と、そう思ったが、紳士(ローレンツ)の器は大きかった。


「『様』ではなく『さん』で構いませんよ、黒岩様。ファミリーネームが先にくるのですね。珍しいお名前です」


 でっけえ男だぜ。


「それにしても、何故(なにゆえ)ローレンツ様が?」

「それは……うーん、そうですね、ダニィル様なら大丈夫でしょう。実は、あなた方の情報が正しいのかを、確定的に判断できる人員が、この国には数人しか居ないもので、その一人が私なのです」

「他の者は判断できないと言うことですか?」

「というより、私が、真実判断の魔法を使える人間だということです」

「なるほど」


 ローレンツはそんなことを言って


「信用はしていますが、念の為、その情報が真実か確認させて頂いてもよろしいですかな?」


 発言していない者も含めて、魔法を掛け始めた。


「これで最後です」


 ローレンツは最後に、和樹に魔法を掛けた。

 和樹は真実を言ったが、もともとは、本人からすれば知ったかである。本来なら嘘だと判断される。


 しかし。


「はい、真の情報ですね。分かってはいましたが、確認ができて良かった」


 結果は、嘘偽りの欠片すらも悟られることはなかったのである。

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